大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

条件と譲歩

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正直な本音を話すと、あの石は面倒なのであげても良いかと思っていた。
だってこっちも処理に困るし、俺以外が素手で触るだけでも事故が起きるらしいし、話聞いてると勝手に魔法も放つらしいし危険この上ない。
だが、ラピュセのこのお願いに即座に食いついた奴がいた。
『ダメだ』
馬鹿でも分かるほど直球で否定の言葉を口にしたのはシャル。
「んー…ちょっと待っててくれ」
「少しぐらいなら良いわよ。長居されると困るけれど」
そう答えたラピュセに対し、目を瞑って俯き、考え事をしているように腕を組んで下を向く。丁度長い髪がカーテンのように垂れ、パッと見では口元が動いているようには見えないだろう。
小さく小さく、俺ぐらいにしか聞こえないような囁き声で端的にシャルと言葉を交わす。
「理由」
『俺の時代にもあんな馬鹿らしいバランスブレイカーな石は無かった。俺が知る限り、もっと古い勇者達の記憶でもだ。出てきたタイミングからして、割と最近出来たはずだが、誰が作ったかもどうして出来たかも想像がつかない。だがそれを求めていた奴らは魔族だった』
「魔族絡み?」
『どの程度かは分からないが、関わってるのは確かだろうし、それが出来る種族が魔族ぐらいしか想像がつかん。それに、見つけた場所が場所だ』
「………。」
現《魔王》の卵、シエルがいた場所。
なぜあの場所に今になってあんな石があるのかが分からないが、彼女と関わりが浅いとも考えにくい。
『最悪の場合《魔王》が絡む。そうなれば魔族は死力を尽くしてあの石を取りに来る。そうでなくても探しているはずだ。お前が持っておくのが一番いい。それに』
「ん?」
『………研究者とか技術者とか、そう言う人種ってのはな、放っておくと未知から奇跡を引き摺り出す。加えてその手の奇跡ってのは大概良くないモンだ』
なるほど。先輩からの一言って奴かね。妙に実感の籠ったセリフだった。
しかし、俺としてもこんなものを素で持ち歩くのは嫌だし、うっかり誰かに触れさせたら大変な事になる。特に最近スキンシップが激しいアーネが何かの拍子に触ろうものならどうなる事やら。
だから俺は少し考え、折衷案を出した。
「────から、────は?」
『それぐらいなら…まぁ、必要ではあるか』
「──よし、じゃあそうするか」
目を開けてがばりと顔を上げると、既に明かりの見えなくなったラピュセと目が合った。
「返事を聞いてもいいかしら?」
「お前達にあの石を預ける。その間は好きに研究してもらって構わないし、あの石に何しても構わない。ただし条件がある。まずは期間。三日だけだ」
「随分と短いわね」
「それともうひとつ。その期間内にあの石を安全に保管できる封印でも何でも作ってくれ。ただし俺が目立たず持ち運べる形でだ」
「随分と無茶を言った上であなたにしか利がない話じゃないの?」
「嫌ならいいんだぜ。今すぐ返してもらう。あぁいや、面倒だ、勝手に自分で探すさ」
そう言って扉に手をかけると、ラピュセが鋭く制止をかける。
「待ちなさい、条件を呑まないとは言ってないわ。ただ、時間が短すぎる。魔導具にしろ術式にしろ、検証や安定化、小型化も考えてせめてひと月頂戴」
「ダメだ、長すぎる。もっと早く仕上げられるだろう」
「なら二週間。じゃないと他の研究が止まってしまうわ」
「大して変わってないだろ。じゃあ五日やる」
「全然伸びてないじゃない。せめて十日はないと」
「そんなに待ってらんねぇな。それじゃあ知り合いの槌人種ドワーフに頼らせてもらうよ」
そう言うと、ラピュセが溜息をつき、お手上げと両手を上げる。
「一週間。七日。百六十八時間。これ以上は無理よ。代わりに、この研究所が総力をあげてあの石を調べ尽くして、ついでに安全に管理できる魔導具なり術式なりを作るわ」
「じゃあそれで頼む。期待してるぜ、ラピュセ」
そう言って部屋を出、静かな廊下をコツコツと歩いてエレベーターの方へと歩いていく途中、《臨界点》のものであろう笑い声が遠くから聞こえた。
「よウ。終わったカ。送るゼ」
「頼む」
と、どこからともなく現れたピィに送られ、地上へと帰った。
あとはこの日はひたすら修練に費やした。
余談だが、夜更けに突然とある研究員からメッセージが入り、いつもの金切り声とは真逆の、地獄の底から響いてきたような低い声で「殺す」とだけ言われて切られた。
さて。頑張って諸々に備えますか。
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