大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

不満と服

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『今代の』
あん?なんだシャル?
若干…いや、結構イラつきながら部屋に向かって歩いている時にシャルに声をかけられた。
『お前、なんでそんなに不服そうなんだよ。聖女の護衛だろ?お前の夢みたいなもんなんだろ?』
ん?まぁな。確かに夢っちゃ夢なんだが…気に食わねぇ。
『何がだ?』
記憶を覗いたりだとか、勝手にテストしてやがった事とか。
『そりゃ仕方ないだろ。不測の事態にも反応出来なきゃ護衛は出来ないし、万が一があって裏切られたりしたら向こうもたまったもんじゃないしな』
「だとしても、だ!」
おっと、思わず声が出た。
周りに誰もいない…よな?一応見回したが、誰もいなかった。
だとしても、だ。記憶を覗くってのは、俺にしたら一番嫌なことだからな。
『ナナキの記憶か?別にいいじゃねぇか』
ん…俺が嫌なことってのは、ナナキの記憶ってか、厳密には違ぇんだよな…。
『ほう?言ってみ?』
ナナキの記憶も大事だけど、ナナキとの記憶の方が大事。十年以上あいつと過ごした、俺達しか知らない、森での何気ない日々。
アレが俺からしたらかけがえの無いもので、誰にも見せたくない物だから。
『……………ふぅん、そんなに?』
あぁ。そりゃもう。
あー…、あとはもう一個あるかも。
いや、大したことじゃねぇんだけどな?
『うん?』
前、聖女サマに「友達」って言ってもらえたんだけど、それらしくないって事ぐらい?
『…何があったか知らんが、それって必要に迫られて言っただけじゃね?』
まぁ、多分な。だから言ったじゃん。大したことないんだけど、って。
自分にあてがわれた部屋の扉を開け、中に入るとシエルが待ちくたびれていた。
「………いこ?」
「おう、ちょっと待っててくれ。着替えるから」
そう言って服を着替える。
…そういや、昨日怪我した時の服と今着てる服が別物なんだが…。
まさか、誰かに着替えさせられた?
だとしたら、背中の《勇者紋》も見られた?
背筋が冷える。
「………どうしたの?」
「ん?あぁ、ちょっとな」
背中の事を知っているのは、俺とアーネ、あとは一緒に風呂に入るシエルだけ。
シエルが俺の服を替えたとは──考えにくい。
「…シエル、昨日誰か俺の服替えたりした?」
ダメ元で聞いてみる。こういう時、シャルが起きてたら楽だったんだろうけどなー。
『お前とリンクしてる以上、お前が寝てたら俺も寝るんだよ。悪かったな』
「………アーネが」
するとシエルは小首を傾げながらそう言った。
あぁ、ならまぁいっか。
適当な服を取り出し、着替えながら聞き流す。
「………おふろにいれて、ふく、かえさせてた」
…………………。
前言撤回。
良くねぇわ。
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