大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

襲撃と反撃

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黒かった眼が一瞬で緋に染まり、左右を見る。
右と左の壁がほぼ同時に爆発し、立ち上る煙。
それが消える前に何かが飛び出してきた。
「ああん!?」
金剣を胸元から取り出し、右腕には銀腕もつけて即座に戦闘態勢をととのえる。
『仮面とフードをつけてて誰かがわからんな。武器は無さげだが、壁が爆発したから魔法を使う可能性は高いぞ』
ご丁寧にどうも!!
左右同時に飛び出した敵の数は二名で、片方は黒面、もう片方は白面。
黒面が即座に距離を詰める。
狙いは──。
『聖女か。って事は例の集団?』
じゃなきゃ誰も狙いやしねぇだろうよ!!
「ッ!《破だ──」
「生け捕りでお願いします!!」
戦技アーツを撃つ直前に、聖女サマがそんな無茶を言いやがりました。
「はあっ!?」
クッソ馬鹿女!ふざけんな!戦技アーツは急には止まれないってのは常識だろうが!!
「んにゃろ!」
既に戦技アーツの輝きを帯びていた金剣を握る指を無理矢理緩め、わざと金剣をその手からすっぽ抜けさせる。
風を裂いて飛んでいく金剣は、向かってきていた黒面の頬のあたりの仮面に亀裂を入れながらも逸れ、壁に突き刺さる。
既に髪で取り出しておいた銀剣を引っ掴み、既にかなり距離を縮めていた黒面の肩を蹴ることで後ろに跳び、上に高く跳ねつつ身体を捻りながら距離をとる。
どうやら黒面が無手だったのはその拳で殴るためだったらしく、俺が肩を蹴り、そのまま距離を取った直後、俺の耳元で空気が拳の一撃で爆ぜた音がした。
『あっぶな』
同意。流石に冷や汗が出た。
捻った勢いのまま周りを見ると──。
部屋いっぱいに火球が浮いていた。
一つひとつが人のこぶし大の大きさのそれが、一メートル感覚で満遍なく広がっていた。
「まずっ」
い、まで言えなかった。
視界の隅に映った白面が開いていた右手をゆっくりと閉じ始めると、火球が回転し始める。
血界は──使えない。
聖女サマに──《聖女》に《勇者》の血界を見せるのは不味い。
何故だかそんな直感があった。
広すぎる部屋のせいで、俺の髪の射程にはさっき投げた金剣は入らない。
なら。
「──《煌覇》!!」
俺と白面のにあった火球を全て叩き潰しながら、真っ赤な極光が部屋を焼く。
「──ッ!?」
白面が声にならない叫びを上げて壁際まで吹き飛び、そのまま崩れる。
部屋を埋め尽くしていた火球も掻き消えたので、おそらく意識を失ったのだろう。
…死んではないはずだ。多分。
そして、重力に引っ張られ、床に落ちていく俺を迎え撃つようにして構える黒面。
黒剣を一瞬構えたが──切ったら死ぬか。
そう思い直し、体勢を整える。
左足を俺の眼前にまで持ち上げてのばし、逆に右足は出来るだけ折りたたみ、下へ向ける。
黒面の振り抜かれた拳を髪でいなし、縛り、俺の技の間合いに入れる。
左足が相手の頭頂部に触れた瞬間、俺の下半身が輝く。
戦技アーツだ。
「──ふッ!!」
一瞬より短い刹那、刹那より短いその時間の合間を縫うようにして繰り出された右足の蹴りが完璧に相手の顎を捉える。
カッパァァァァン!!と言う音と手応えが身体を駆け巡り、確実にキマったという直感がした。
そして、蹴った拍子に仮面が吹き飛び、その顔が露わになる──。
「……ん?」
「…はい、合格です。お二人共、ご協力ありがとうございました」
顎に強烈な一撃を貰い、目を回していたのはエルストイだった。
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