大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

穴底と行方

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堂々と、自分が待ち伏せていた事を隠しもしないで《臨界点》がそう言う。俺がここに来たのは完全に気分なんだが、そこまで読まれていたのだろうか。
「で、今度は俺に何用で?っつーかお前はこの前の襲撃、大丈夫だったのか?」
「ほおぅ、気にかけるのか。我輩を。貴様は我輩を嫌っていると思っていたのだがのぅ」
「好きじゃねぇよ。面倒だとも思ってる。だが、嫌う程じゃねぇ」
「なんじゃ。まぁ無関心よりかは良いがな」
大体こいつが俺に持ちかけるのは面倒事か、あるいは嫌なニュースだ。正直あまり会いたくないのだが、どうしてかこいつがひょっこり現れる。
それに俺に必要な話も持ってくるので、全てを否定する訳にも行かない。
《臨界点》も二つ名持ちである以上、先の魔族の攻撃に対してある程度は迎撃したはず。当然、迎撃する生徒の中でも指折りで危険な場所に行った…と思う。
というのも、まず俺はこいつが戦った所をまともに見たことがない。しかもこの前の時も、他の二つ名持ちは何をしているという話を見たり聞いたりしたが、こいつの話はまるで聞かなかった。
「で、お前はあの時どこで戦ってた?」
すると案の定、《臨界点》は肩を竦めた。
「我輩はずっと校舎の中で匿われておったよ。じゃから今回の魔族とロクに顔を合わせもせんかった」
「相変わらずだな。俺があっちこっち縦横無尽に走り回ってたってのに、お前は中で隠れて悠々としてた訳だ」
「そうじゃのう。貴様は貴様で自由にやっとったようじゃが」
と言って、壁を触る。
「魔力が染み込んだこの壁…一体どれだけの魔力があったんじゃろうな」
「…何が言いたい?」
「別に、何にもじゃよ。興味はあるが…それだけじゃ」
手袋の先についた土塊を軽く払いつつ《臨界点》がこちらを見る。
「…なんだ?」
「いや何、あの女…学校長から話を聞いたと言う割には落ち着いておるし、やはりか」
「?」
「おい貴様、誰が死んで攫われたか聞いたか?」
「詳しくは聞いてねぇな。俺の知り合いで誰か死んだりしたのかぐらいは聞いたが」
その結果、リーザが肋を折り、今の班のメンバーの一人が死んだという事を聞いた。
「ならシエルのことについては知らぬのじゃな?」
「シエル?そういや見てねぇな…」
特に触れられなかったから大丈夫だと思っていたが。俺が意識を戻しても、最近色んなことがあったから来れないのだろうと思っていた。
「まさか死ん──」
「死んでおらん。そもそも彼奴は我輩と一緒に匿われておった。前線には出ておらぬよ」
「ならアイツに何があった?」
態々話を持ち出しておいて、「いや?特に何も無いが?」とはならないだろう。
《臨界点》は思った通りに口角を上げながらこう言った。
「彼奴は攫われたのよ。魔族にな…いや、それも正しくはないか。自分でこの聖学を出ていった、それが正しいか」
「…あ?」
シエルが出ていった?聖学から自分で?なんで?
だが、それらよりも先に聞かねばならないことがある。
「《臨界点》…お前、シエルのすぐ側に居たんだよな?なんで止めなかった?」
「我輩が止める義理も義務も無かろう。ましてや本人がそれを希望しておったんじゃ。遮る道理も無ければ本人が求めた訳でもない。ならば自由にさせるのが一番じゃろ」
「相手が魔族だってのにか?」
「彼奴も半分は魔族じゃろ?」
こいつはシエルの事を知って。
だったら尚更。
「だったら、ヒトのお前が引き止めてやらなきゃダメじゃねぇのかよ…」
「言うておろう。義理も義務も無いと。それに何より、我輩は他人の命より、我輩の命の方が惜しい」
「ッ」
こいつからしたら他人の事で、シエルに対してそこまでする必要が無い。確かにその通りだが。
「チッ、クソ…一週間か…」
もう何もかもが遅すぎる。
今から探しに行くにしても結界の外は広く、手がかりも何も無い中を出ていくのは正直無謀だ。今思えば、アーネの時は運が良かった。
諦められることでは無いが…どうしようもない。
「さて、今回はそれについて我輩が少し貴様に聞きたいことがあっての」
「あ?」
苛立ちの篭った視線を投げかけ、舌打ちをして改めて切り替える。
「で、なんだ」
「魔族が彼奴の事を《魔王》と呼んでおった。何か心当たりはあるかの?」
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