大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

雑談と戦技

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「あー…なんだ?」
頬を掻きながらそう聞くと、ユーリアが口を開いた。
「いや何、レィアが壁をじっと見つめて何をするのかと思っていたら、まさかただの《大横薙スラッシュ》を撃つだけとは思ってなかったから少し驚いただけだ。それより体調、大丈夫なのか?」
「体調は大丈夫。なんで寝込んでたのかアーネも分からなかったレベルだしな。それよりユーリア、今のがただの《スラッシュ》の戦技アーツに見えたのか?」
ちなみにどうでもいい小咄だが、《スラッシュ》と呼ばれる戦技アーツは複数ある。
大上段スラッシュ》、《大横薙スラッシュ》、《袈裟斬りスラッシュ》等。大体単発の単純な軌跡を描く斬撃系戦技アーツの総称となっている。
「ん?どう見てもそうだっただろ。剣が二本だったが、それだけだ」
「…おい《貴刃》、貴様本当にそう思っているのか…?」
と言ったのは《雷光》。やっぱ分かってんなぁコイツ。
「《緋眼騎士》の今の戦技アーツは、戦技アーツの発動から終了の極々僅かな時間に十以上…いや、下手をすればその倍以上の斬撃を全く同じ箇所に叩き込んでいた。およそ生身で出来る芸当じゃないぞ」
「…本当か?レィア」
「まぁ大体あってる。けど、もっと単純で、だからこそ難しい戦技アーツなんだけどな」
「「?」」
そう言うと、二人とも綺麗に揃って小首を傾げる。ユーリアはともかく、《雷光》がそういうリアクションをするのは珍しいな。
よっこいせ、と膝についていた手を離し、身体を起こす。呼吸が大分楽になってきたが、もう少し休みたい。身体を休めるついでに弟子も居ることだし、こんな戦技アーツもあると話すか。別に隠すような話でもないし。
「そもそも、戦技アーツってのは何だ?」
「反復練習の結果、身体に馴染んだ技の事だろう。私の居合も、何百何千何万回と繰り返して鍛え抜かれた」
うん?俺はナナキから「膨大な反復練習の結果、世界側が記録した行動が云々」って聞いてたんだが…もしかしてこれって勇者の視点だから知られてた話?まぁいいか。
「そうだな。じゃあ《雷光》の…そうだな、確か《雷刀一閃》だっけか?アレってどんな戦技アーツだ?」
「あの戦技アーツは私のスキルで得物を雷速で横に振り抜いてるだけだな」
「んじゃ戦技アーツの設定的に『刀を雷速で横に振り抜く』って動きが設定されてる訳だな」
「ん…まぁそういう事だな」
「じゃあ弟子」
「なんだ我が師」
「俺がお前に教えた戦技アーツのちょいとした切り札、アレどんな戦技アーツだっけ」
と言うと、ユーリアが少し嫌そうな顔をする。
「アレはまだ練習中ながらも私の切り札なんだが…今の試合でも彼女に隠した本当の切り札なんだが?」
「知られた程度で弱る切り札じゃねぇよありゃ。まぁ言っちまえば連戦技アーツ・コネクトっつー技…いや技術だな。知らん《雷光》にも分かりやすく言うと、戦技アーツ戦技アーツを繋ぐ戦技アーツを習得すれば、戦技アーツを連続して出せるっつー話だ。しかも戦技アーツのバフがかかってるからさらに強くなってな」
と自分で言いはしたものの、戦技アーツという単語が少々多すぎて分かりにくい気がする。
が、《雷光》は一応分かったらしく、何度か頷いていた。
「くそぅ、言ったなレィア。人の切り札を勝手にバラして…」
「元々俺ンだ。それに《音狩り》も俺の切り札なんだ。種明かしするから多少は我慢しろ」
「………なるほど、かなり突飛な発想だが理解は出来た。私も出来るのか?」
「出来るだろうよ。ただまぁ、先に撃った戦技アーツの終わりと後に撃つ戦技アーツの始まりがそれなりに近い型じゃないと不可能だけどな」
そう言うと《雷光》は「じゃあ無理だな」と肩を竦めた。どうやら刀を抜いた状態で終わる戦技アーツと刀を収めなくては発動できない戦技アーツばかりのようで、連戦技アーツ・コネクトを入れるより先に戦技アーツ発動後の硬直が入って繋げないようだ。
「んでまぁ、俺がこの連戦技アーツ・コネクトを発見したちょいと後に気づいたんだよ」
「うん?何を?」
「別に戦技アーツって動きの型は決まってねぇんだってな」
そう言うと、ユーリアが「いやいやいや…」と言い、《雷光》が「何言ってんだこいつ」と目で語りかける。
「あのなレィア、戦技アーツってのは何千とか何万と同じ行動をして、それと全く同じ動きをするんだぞ。子供でも知ってるし、大体君も何度かやられたりやった事あるだろう?発動中の戦技アーツが強制的に向きを変えられたりしたせいで、戦技アーツが失敗して身体が固まること」
「あるな。いや、だがそれは出発点が違うからそう思い込んでるだけだ」
「出発点?発想のか?」
「そうそう。例えば、普通の戦技アーツなら『横薙ぎの一撃を放つ』と言うように動きが決まってる。一方連戦技アーツ・コネクトは『戦技アーツ同士を繋ぐ』という戦技アーツだが、それ自体の動きは決まってない。でも発動するし、二つ繋いだ戦技アーツを三つ四つと繋げることも出来る。もちろん、それら全部がある程度終わりと始まりの型が近いなら繋げられる。この時、使ってる戦技アーツ連戦技アーツ・コネクトっつーたったひとつの戦技アーツだ」
「ふむ。それは《スラッシュ》のように同名の別戦技アーツという訳では無いのか?」
「違うね。お前ももっと安定して繋げられるようになれば分かる……で、俺も習得してから気づいたんだよ」
「それがさっきの『戦技アーツは動きの型が決まっていない』という話に繋がる訳だな。しかし先程の戦技アーツは完全に超高速で斬撃を繰り出す戦技アーツのように見えたが」
「あながち間違いじゃない。ただし、《音狩り》は斬撃を出す戦技アーツじゃない」
「じゃあなんだと言うんだ」
俺の言い回しにいい加減腹を立てたのか、若干イラつきながら《雷光》がそう言う。
「何、理屈そのものは簡単だよ。『斬る』というそれだけを追求した戦技アーツが今の戦技アーツ、《音狩り》の正体だ」
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