1,630 / 2,022
本編
雑談と戦技
しおりを挟む
「あー…なんだ?」
頬を掻きながらそう聞くと、ユーリアが口を開いた。
「いや何、レィアが壁をじっと見つめて何をするのかと思っていたら、まさかただの《大横薙》を撃つだけとは思ってなかったから少し驚いただけだ。それより体調、大丈夫なのか?」
「体調は大丈夫。なんで寝込んでたのかアーネも分からなかったレベルだしな。それよりユーリア、今のがただの《スラッシュ》の戦技に見えたのか?」
ちなみにどうでもいい小咄だが、《スラッシュ》と呼ばれる戦技は複数ある。
《大上段》、《大横薙》、《袈裟斬り》等。大体単発の単純な軌跡を描く斬撃系戦技の総称となっている。
「ん?どう見てもそうだっただろ。剣が二本だったが、それだけだ」
「…おい《貴刃》、貴様本当にそう思っているのか…?」
と言ったのは《雷光》。やっぱ分かってんなぁコイツ。
「《緋眼騎士》の今の戦技は、戦技の発動から終了の極々僅かな時間に十以上…いや、下手をすればその倍以上の斬撃を全く同じ箇所に叩き込んでいた。およそ生身で出来る芸当じゃないぞ」
「…本当か?レィア」
「まぁ大体あってる。けど、もっと単純で、だからこそ難しい戦技なんだけどな」
「「?」」
そう言うと、二人とも綺麗に揃って小首を傾げる。ユーリアはともかく、《雷光》がそういうリアクションをするのは珍しいな。
よっこいせ、と膝についていた手を離し、身体を起こす。呼吸が大分楽になってきたが、もう少し休みたい。身体を休めるついでに弟子も居ることだし、こんな戦技もあると話すか。別に隠すような話でもないし。
「そもそも、戦技ってのは何だ?」
「反復練習の結果、身体に馴染んだ技の事だろう。私の居合も、何百何千何万回と繰り返して鍛え抜かれた」
うん?俺はナナキから「膨大な反復練習の結果、世界側が記録した行動が云々」って聞いてたんだが…もしかしてこれって勇者の視点だから知られてた話?まぁいいか。
「そうだな。じゃあ《雷光》の…そうだな、確か《雷刀一閃》だっけか?アレってどんな戦技だ?」
「あの戦技は私のスキルで得物を雷速で横に振り抜いてるだけだな」
「んじゃ戦技の設定的に『刀を雷速で横に振り抜く』って動きが設定されてる訳だな」
「ん…まぁそういう事だな」
「じゃあ弟子」
「なんだ我が師」
「俺がお前に教えた戦技のちょいとした切り札、アレどんな戦技だっけ」
と言うと、ユーリアが少し嫌そうな顔をする。
「アレはまだ練習中ながらも私の切り札なんだが…今の試合でも彼女に隠した本当の切り札なんだが?」
「知られた程度で弱る切り札じゃねぇよありゃ。まぁ言っちまえば連戦技っつー技…いや技術だな。知らん《雷光》にも分かりやすく言うと、戦技と戦技を繋ぐ戦技を習得すれば、戦技を連続して出せるっつー話だ。しかも戦技のバフがかかってるからさらに強くなってな」
と自分で言いはしたものの、戦技という単語が少々多すぎて分かりにくい気がする。
が、《雷光》は一応分かったらしく、何度か頷いていた。
「くそぅ、言ったなレィア。人の切り札を勝手にバラして…」
「元々俺ンだ。それに《音狩り》も俺の切り札なんだ。種明かしするから多少は我慢しろ」
「………なるほど、かなり突飛な発想だが理解は出来た。私も出来るのか?」
「出来るだろうよ。ただまぁ、先に撃った戦技の終わりと後に撃つ戦技の始まりがそれなりに近い型じゃないと不可能だけどな」
そう言うと《雷光》は「じゃあ無理だな」と肩を竦めた。どうやら刀を抜いた状態で終わる戦技と刀を収めなくては発動できない戦技ばかりのようで、連戦技を入れるより先に戦技発動後の硬直が入って繋げないようだ。
「んでまぁ、俺がこの連戦技を発見したちょいと後に気づいたんだよ」
「うん?何を?」
「別に戦技って動きの型は決まってねぇんだってな」
そう言うと、ユーリアが「いやいやいや…」と言い、《雷光》が「何言ってんだこいつ」と目で語りかける。
「あのなレィア、戦技ってのは何千とか何万と同じ行動をして、それと全く同じ動きをするんだぞ。子供でも知ってるし、大体君も何度かやられたりやった事あるだろう?発動中の戦技が強制的に向きを変えられたりしたせいで、戦技が失敗して身体が固まること」
「あるな。いや、だがそれは出発点が違うからそう思い込んでるだけだ」
「出発点?発想のか?」
「そうそう。例えば、普通の戦技なら『横薙ぎの一撃を放つ』と言うように動きが決まってる。一方連戦技は『戦技同士を繋ぐ』という戦技だが、それ自体の動きは決まってない。でも発動するし、二つ繋いだ戦技を三つ四つと繋げることも出来る。もちろん、それら全部がある程度終わりと始まりの型が近いなら繋げられる。この時、使ってる戦技は連戦技っつーたったひとつの戦技だ」
「ふむ。それは《スラッシュ》のように同名の別戦技という訳では無いのか?」
「違うね。お前ももっと安定して繋げられるようになれば分かる……で、俺も習得してから気づいたんだよ」
「それがさっきの『戦技は動きの型が決まっていない』という話に繋がる訳だな。しかし先程の戦技は完全に超高速で斬撃を繰り出す戦技のように見えたが」
「あながち間違いじゃない。ただし、《音狩り》は斬撃を出す戦技じゃない」
「じゃあなんだと言うんだ」
俺の言い回しにいい加減腹を立てたのか、若干イラつきながら《雷光》がそう言う。
「何、理屈そのものは簡単だよ。『斬る』というそれだけを追求した戦技が今の戦技、《音狩り》の正体だ」
頬を掻きながらそう聞くと、ユーリアが口を開いた。
「いや何、レィアが壁をじっと見つめて何をするのかと思っていたら、まさかただの《大横薙》を撃つだけとは思ってなかったから少し驚いただけだ。それより体調、大丈夫なのか?」
「体調は大丈夫。なんで寝込んでたのかアーネも分からなかったレベルだしな。それよりユーリア、今のがただの《スラッシュ》の戦技に見えたのか?」
ちなみにどうでもいい小咄だが、《スラッシュ》と呼ばれる戦技は複数ある。
《大上段》、《大横薙》、《袈裟斬り》等。大体単発の単純な軌跡を描く斬撃系戦技の総称となっている。
「ん?どう見てもそうだっただろ。剣が二本だったが、それだけだ」
「…おい《貴刃》、貴様本当にそう思っているのか…?」
と言ったのは《雷光》。やっぱ分かってんなぁコイツ。
「《緋眼騎士》の今の戦技は、戦技の発動から終了の極々僅かな時間に十以上…いや、下手をすればその倍以上の斬撃を全く同じ箇所に叩き込んでいた。およそ生身で出来る芸当じゃないぞ」
「…本当か?レィア」
「まぁ大体あってる。けど、もっと単純で、だからこそ難しい戦技なんだけどな」
「「?」」
そう言うと、二人とも綺麗に揃って小首を傾げる。ユーリアはともかく、《雷光》がそういうリアクションをするのは珍しいな。
よっこいせ、と膝についていた手を離し、身体を起こす。呼吸が大分楽になってきたが、もう少し休みたい。身体を休めるついでに弟子も居ることだし、こんな戦技もあると話すか。別に隠すような話でもないし。
「そもそも、戦技ってのは何だ?」
「反復練習の結果、身体に馴染んだ技の事だろう。私の居合も、何百何千何万回と繰り返して鍛え抜かれた」
うん?俺はナナキから「膨大な反復練習の結果、世界側が記録した行動が云々」って聞いてたんだが…もしかしてこれって勇者の視点だから知られてた話?まぁいいか。
「そうだな。じゃあ《雷光》の…そうだな、確か《雷刀一閃》だっけか?アレってどんな戦技だ?」
「あの戦技は私のスキルで得物を雷速で横に振り抜いてるだけだな」
「んじゃ戦技の設定的に『刀を雷速で横に振り抜く』って動きが設定されてる訳だな」
「ん…まぁそういう事だな」
「じゃあ弟子」
「なんだ我が師」
「俺がお前に教えた戦技のちょいとした切り札、アレどんな戦技だっけ」
と言うと、ユーリアが少し嫌そうな顔をする。
「アレはまだ練習中ながらも私の切り札なんだが…今の試合でも彼女に隠した本当の切り札なんだが?」
「知られた程度で弱る切り札じゃねぇよありゃ。まぁ言っちまえば連戦技っつー技…いや技術だな。知らん《雷光》にも分かりやすく言うと、戦技と戦技を繋ぐ戦技を習得すれば、戦技を連続して出せるっつー話だ。しかも戦技のバフがかかってるからさらに強くなってな」
と自分で言いはしたものの、戦技という単語が少々多すぎて分かりにくい気がする。
が、《雷光》は一応分かったらしく、何度か頷いていた。
「くそぅ、言ったなレィア。人の切り札を勝手にバラして…」
「元々俺ンだ。それに《音狩り》も俺の切り札なんだ。種明かしするから多少は我慢しろ」
「………なるほど、かなり突飛な発想だが理解は出来た。私も出来るのか?」
「出来るだろうよ。ただまぁ、先に撃った戦技の終わりと後に撃つ戦技の始まりがそれなりに近い型じゃないと不可能だけどな」
そう言うと《雷光》は「じゃあ無理だな」と肩を竦めた。どうやら刀を抜いた状態で終わる戦技と刀を収めなくては発動できない戦技ばかりのようで、連戦技を入れるより先に戦技発動後の硬直が入って繋げないようだ。
「んでまぁ、俺がこの連戦技を発見したちょいと後に気づいたんだよ」
「うん?何を?」
「別に戦技って動きの型は決まってねぇんだってな」
そう言うと、ユーリアが「いやいやいや…」と言い、《雷光》が「何言ってんだこいつ」と目で語りかける。
「あのなレィア、戦技ってのは何千とか何万と同じ行動をして、それと全く同じ動きをするんだぞ。子供でも知ってるし、大体君も何度かやられたりやった事あるだろう?発動中の戦技が強制的に向きを変えられたりしたせいで、戦技が失敗して身体が固まること」
「あるな。いや、だがそれは出発点が違うからそう思い込んでるだけだ」
「出発点?発想のか?」
「そうそう。例えば、普通の戦技なら『横薙ぎの一撃を放つ』と言うように動きが決まってる。一方連戦技は『戦技同士を繋ぐ』という戦技だが、それ自体の動きは決まってない。でも発動するし、二つ繋いだ戦技を三つ四つと繋げることも出来る。もちろん、それら全部がある程度終わりと始まりの型が近いなら繋げられる。この時、使ってる戦技は連戦技っつーたったひとつの戦技だ」
「ふむ。それは《スラッシュ》のように同名の別戦技という訳では無いのか?」
「違うね。お前ももっと安定して繋げられるようになれば分かる……で、俺も習得してから気づいたんだよ」
「それがさっきの『戦技は動きの型が決まっていない』という話に繋がる訳だな。しかし先程の戦技は完全に超高速で斬撃を繰り出す戦技のように見えたが」
「あながち間違いじゃない。ただし、《音狩り》は斬撃を出す戦技じゃない」
「じゃあなんだと言うんだ」
俺の言い回しにいい加減腹を立てたのか、若干イラつきながら《雷光》がそう言う。
「何、理屈そのものは簡単だよ。『斬る』というそれだけを追求した戦技が今の戦技、《音狩り》の正体だ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
233
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる