大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

バケモンと鎧 終

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大剣は砕け散ったはず。なのに刃がいつの間にか出来ている。
よくよく見れば剣の根元からサラサラと砂のようなものが絶えずこぼれ落ちているのが目に付いた。
『まさかあの剣…魔力を魔力のまま物質化してんのか!?』
シャルが驚きの声を上げる。
理屈としては俺の黒剣とほぼ同じ。だがそこに込められた魔力は、先程も言っただろうが禍々しく見える程膨大。
「久々にちょい焦ったわ。マトモに受けたら俺でも死ぬてあんなん」
そう言いながら、何事もないように血塗れの左手も使って大剣を握る鎧魔族。
グズグズにひしゃげた手。滴る血。それをまるで無視して再び天高く剣を構える。
鎧には胸の辺りには大銀剣の煌覇のせいで大きな大きな穴が空き、中の魔族も場合によっては無傷とは行かないだろう。
だがそれでも魔族は止まらない。
否、それどころか。魔力がさらに増していく。
「お前、やっぱ危険やな。ここで死んどけ」
緋眼が潰れる事を危惧する程の膨大な魔力。掻き集めるだけで他の魔法使いは魔法を放てないような、人外の魔力。
だが。
そのチャージの間に、俺も万全の体勢を整えた。
「ふ────ゥ」
長く、ゆっくりと息を吐く。
いつの間にか腰元に銀の鞘がそれぞれあり、黒剣の柄にそっと手を置く。
あとは抜くだけ。
「最初で最後で唯一の忠告だ。全力の一撃持ってこい」
「ほぉ?忠告とは余裕やな。俺ン爆破に耐えれるんか?」
互いに次で決める。
魔族は未知故の危険を察して。
俺は余裕が無い故に切り札を切って。
だからこそだろうか。俺たちの間に不思議な余白が生まれた。
「余裕じゃないさ。ただの虚勢だ。そっちの爆破も多分次は無理だ。だから決める」
「ハッ!ほざけ。ちんちくりん」
魔力が溜まったのは向こうが先だったが、初動は俺の方が早かった。
故に技の発動はほぼ同瞬。
俺が腰を落とし、剣を抜く。そうしてから魔族が剣を振り下ろし始めた。
「「戦技アーツ──」」
互いの声が重なった。
黄金の大剣がさらに輝きを増し、限界に達したのか罅が生じる。
脈動するマグマの如く吹き上がる魔力、それが空気に触れるだけで爆ぜ、バチバチと夜を照らす。
「──《大爆剣・崩竜ほうりゅう》」
動きは先程と何ら変わらない。俺か、あるいは大地を斬るような豪快な一振り。
そこに込められた魔力量は尋常ではなく、爆発すれば俺は勿論、魔族も、そして聖学すら吹き飛びかねない。
しかし俺はその全てを絶つ。
俺の持ちうる全てをもって。
「──《終々》」
双剣を振り抜いた。
それと同時に俺は鎧魔族の背後にいた。
「!?」
魔族が気づくも戦技アーツはもう発動している。今更変更は出来ない。
それに、戦技アーツ撃った直後の俺は防御も出来ないし、間違いなくこの距離なら爆破に巻き込まれるだろう。
背後なので一切見えないが、それでも魔族の動きは手に取るように分かる。
半ば自動で動く身体に引っ張られ、魔族が大剣を振り下ろし、地面に触れた瞬間、握っていた大剣が砂へと崩れる。
「は?」
魔族が間の抜けた声を上げ、次の瞬間、鎧魔族が着込んでいた鎧が全て一センチ以下の鉄クズにバラされ、ガラガラと落ちる音が聞こえる。
「何が──」
さらに遅れて、魔族の腹から血が吹き出す音。
「…は?嘘やろ?」
「──浅かった…?」
振り返ることなく、魔族の声だけでそう判断する。
血界をほぼ総動員し、今までにないほど完璧にイメージを組み上げた。多少の緊張はあったが、およそこれ以上ないほどの戦技アーツだったというのに──殺し切れない。
第二血界は勿論、第六血界で高速化、緋眼で狙いを完璧にし、途中で刃が折れないよう、第三も黒剣に使った。
費やした血の量も相当量だった。
そうでなければ斬れなかった。
そこまでしても斬れなかった。
「なるほど、そうか。『斬る』っちゅう事に特化した剣…いや、戦技アーツか。お前さん、何百年鍛えた?」
「バカ抜かせ。そんなに生きられるか。十年ちょいだよ」
そう言った次の瞬間、雨で決壊した堰のように血が吹き上がる。
ただし、魔族の方ではなく俺の身体の方からだが。
「ッ!!」
身体に負担をかけすぎた。最早限界か。
いや、むしろここまでよく身体が持った。血界の連続使用に大技戦技アーツを二連続。煌覇の時点で…いや、その前の大剣の一撃を受けるだけで、身体が裂けて死んでもおかしくなかったのだ。
倒れる寸前、強い光が後ろから当てられた。何事かと思って振り返ると、人影がいくつか見える。
逆光で顔は分からないが、あれがきっと聖女サマの送った援軍だろう。
「まに、あった…」
俺の意識はそこで消えた。
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