大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

雷光と救援

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俺が《雷光》ことシオン・シラヌイという人物について知っていることはそう多くない。
刀とかいう中々見ない片刃の剣を使い、身体を雷へと変化させる《雷体化》という強力なスキルを使用する。それぐらいか。
一度ずつ手合わせと協力をしたことはあるが、逆に言えばそれだけ。
それでも彼女がかなり強いという印象はしっかり残っている。
なんせ攻撃が早い。早すぎる。
以前戦ったのは確か俺が二つ名になりたての頃。一年ちょっと前だが、その時は彼女が撃つ居合…だったか?腰元から高速で刀を繰り出す斬撃が辛うじて見えるだけ。俺単体の力では、雷となった彼女を見切る事は結局一度も出来なかった。
雷速に至り、一瞬で敵を屠る。その二つ名である《雷光》は彼女自身を指すものでもあり、彼女が放つ斬撃の喩えでもあるという。
その《雷光》が。
「ハァ──ッ、ハァ──ッ、ハァ──ッ……」
刀を鞘にしまったまま地面に杖のように突き立て、荒々しい呼吸をしながら敵を睨むだけでピクリとも動いていない。
俺が現場を目視できるようになった時点での魔族の数は四名だったが、そこからさらに一人増えた。
辺りには既に複数の魔族の死体が転がっていて、どれも首を綺麗に絶たれている。死因を推察する必要性もない。
だがそれも限界か。彼女の身体からは膨大な汗が滴り落ち、肩で息をしている状況だ。
それでも魔族が攻めあぐねているのは、迂闊に彼女の間合いに入ると死ぬからだ。
だが、それでも覚悟を決めたのか、あるいは準備が終わったのか。
魔族が一斉に《雷光》へ向けて攻撃を始めた。
「くっそ!」
流石にこの距離は遠い!加速して間に合うか──?
いや、間に合わせる。
今しがた殺した魔族から血海で抜いた血を使用し、第六血界で距離を詰める。
クソ、だが遠すぎる。俺の間合いに入るより先に魔族が攻撃に移り追える。
それでも、高速で突っ込んでくる俺に魔族が反応した。
その瞬間だった。
「《雷円一閃》」
《雷光》の身体が一瞬光り、扇状に剣閃が走った次の瞬間、魔族の首が二つ落ちた。
やはり早い。否、はやい。
しかし、戦技アーツの発動直後は隙を晒す。如何に強い戦技アーツであろうと達人であろうと、それに例外はない。
二体の魔族を倒そうと、魔族はあと三体残っている。無防備になった《雷光》に対し、魔族が魔法を放つ──
「《血鎖》!!」
届くかどうか分からない。
当たるかどうか分からない。
間に合うかどうか分からない。
それでも俺は、無駄かもしれないと思いつつも、既に行動を起こしていた。
血瞬の速度で振り抜かれた五本の鎖は、辛うじて一本、魔族の腕に突き刺さった。
「あ、」
直後、魔族の腕が爆発と共に消し飛んだ。
『返された魔力が内側で爆発したか。おっかねぇ』
そんなことはどうでもいいのだ。腕が弾けたとはいえ、魔族はまだ生きている。
だが、今の爆風で周りの魔族も吹き飛ばされた。
まだっ!
「間に合うッ!!」
魔族達が体勢を立て直して再度攻撃を仕掛けるより先に、俺がなんとか間に合った。
《雷光》と魔族の間を割るように着地、そして停止。ゆっくりと立ち上がり、ぐるりと魔族を見る。
「そうか。報告に上がっていたお前が…相打ちになって死んだと聞いていたが」
腕を消し飛ばされた魔族が忌々しそうに俺を睨む。
「大層な通り名の割に悪運は強くてね。ちょいと寝たら治ったさ」
「バケモノめ…」
なんとでも言うがいいと、肩を竦めて答えとする。
「こいつが…例の?」
「あぁ、間違いない。あの奇妙な技は本物だ。こいつがあの《勇者》だ」
出来れば《勇者》だと勘づかれるより先に一体ぐらいは倒したかったのだが…
まぁ今はいい。ざわつく魔族達に背を向け、敢えて隙を晒すようにしつつ《雷光》を気遣う。
「大丈夫か?」
「…えぇ、大丈夫です。少し疲れがあるだけで」
『その付近に救護班が潜んでいます。戦闘が一段落すればすぐに《雷光》を休ませる手筈は整っています』
学校長からのメッセージ。つまり、どうしたって魔族が邪魔って事だな。
「そうか、じゃあ後ろで休んでろ」
「いえ!まだやれます。大丈夫です」
「…無理すんなよ」
焦点が若干合ってない。疲労のせいか危ういな。せめて水ぐらい持ってくりゃ良かった。後悔しても遅いが。
「──さて」
いつものようにいつの間にか腰に帰ってきている鞘に、ボロボロに折れきって柄だけになった黒剣を差す。
ゆっくりと振り返り、腰の剣に手をかけた。
「速攻で終わらせよう」
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