大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

結界とメッセージ

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「…ん?」
ふと何か割れたような音がした気がする。次いで背中が少々ざわつき、ふとその方向…後ろを振り返る。
「おいバカ!レィア!」
呼ばれてそちらの方を向くと、眼前には俺の身長よりもずっと大きな犬の頭。
「よっ」
無意識に振り回していた銀刃を真上から叩きつけ、犬の鼻っ柱を縦に切断しながら反動で俺が上に跳ぶ。
『大丈夫か?なんかボーっとしてたが』
「大丈夫だ。問題ない」
確かに戦闘訓練中だってのに急に後ろを振り返るのは不用心が過ぎるか。
とはいえ、戦闘はもう終盤で、そのまま上から落下する頃にはアーネの魔法で魔獣は片付けられていた。
「急にどうした?何か変な事でもあったか?」
「いや、なんか割れるような音がした気がしてな」
パーティのメンバーに気遣われるが、そう言って適当に誤魔化す。早めに終わったので、先生に一言言って先に訓練所から出る。
依然背中のざわつきは収まらず、それどころかこの数分のうちに加速している節さえある。
「マキナ、俺が振り返った方向。何がある」
『何もありません』
「…何も無い?」
『はい。延々と荒野が続くだけです』
荒地が続くだけ?そんな馬鹿な。そう思いながら、とりあえず自室へと向かう最中。
──ふと見上げた空に、蜘蛛の巣のような亀裂が入っているのが見えた。
「───。」
『………。』
その亀裂はすぐに消え、いつも通りの青空へと帰っていった。まるで今見たものが幻だったかのように。
だが。
「見たか?」
『見た』『確認しました』
見間違いでは無いのは明らかだった。
加えて──
「なんですの、今の」
俺を追って来たのか、アーネも見えていたらしい。
「お前も見えたか、今のアレが」
「大きなヒビが空に広がって…なんでしたの?」
「分からん。だがこういう時に向かうべき場所はひとつ。学校長の所だ」
そう言って向かう先を変更、自室から学長室へと踵を返した瞬間、マキナが声を上げた。
『メッセージです』
「繋げ」
即座に受け取る。タイミングからして明らかによからぬ事。背中の震えが止まらない。
メッセージの相手は予想通り学校長──
──ではなく。
『レィアさん!!聞こえますか!?フライナです!』
「フラ…はぁ?なんでお前が近距離メッセージを?近くにいんのか?」
『いえ、王都から飛ばしていま──す。あの方のお力もお借りしてなんとか。魔力消費が激し──いので…五分と持ちません。手短に状況を説明しま…す』
結構音質が悪い。ギリギリなのは間違いないらしい。二、三秒ほど空けて、聖女サマが言葉を発した。
『結界が破ら──ました。現在、南からおよそ五十名──魔族が侵入したと──されています』
「五十っ…はぁ!?」
『そして一様にそちらに…聖学に向けて進──行しているとの事です』
「全員?一人の例外もなく?」
『はい。貴族の方達と連携し、すぐに援──軍を向かわせるつもりですが…』
確実に魔族の到着の方が早い。口に出して言うまでもない。
いや、むしろ。
魔を扱う者達にとっては既に射程圏内の可能性すら──
「学校長には!?あと、結界は!?」
『連ら──既に終えました。後はあなたしか連絡する方法がなか──のであな──に』
不味い、ノイズが酷くなっている。もう時間が無いか。
『結界の──は既に──いだので、増える──とは無い──』
ぶつっ。
通話時間はおよそ三分。五分も持たなかったその会話。
だが状況は理解した。最悪に近い。
「顔が青いですわ…何がありましたの?」
「っ…結界が破られた。五十体の魔族がここに目掛けて押し寄せてきてるらしい」
そういった直後、全校放送が流れた。
《緊急事態です。全生徒は戦闘準備を終え、その場の教員の指示に従ってください。二つ名持ちはすぐに学長室に来てください》
学校長の声だ。しかし気のせいか。僅かに焦りを含んだような。そんな気がした。
「マキナ、学校長へ繋げ。絶対だ」
『繋がりました』
早い。読んでいたか。
『どうかしましたか、《緋眼騎士》』
「一足先に状況を理解した。先に向かってるわ」
『…どういうことですか』
「先に俺が吶喊して食い止めとく。二つ名持ちにゃ適当に後を追わせてくれ」
そう言って一方的に切る。
さて、一足先に行きますか。
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