大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,575 / 2,022
本編

出発と用事

しおりを挟む
その翌日の朝早く、俺とアーネ、そしてシエルはアーネの父親が出してくれた馬車に乗って聖学へ向かった。
「先日はあんな事を言ったが、私は君の事を嫌いに思っている訳では無い。今後何かあったら、ぜひ頼ってくれ」
とはそのニコラスの言葉。心の機微には疎いが、その言葉に嘘や偽りは無さそうだと思えたので、来年あたりはまたありがたく厄介になろうかと思う。
ガタガタと僅かに揺れる馬車、軽く頬を撫でる温い風、まだ早朝だからこそ弱い日差し。
「あ、あのぅ…」
「ん?」
しばらくして、御者台に座った男が俺に声を掛けた。
「その、レィア様はどうして馬車の中に入らないんで?」
「あー…気にすんな。ちょっとした気分だ」
「はぁ」
「安心しろ、急発進急停止しても落っこちたりとかしねぇから」
シエルと同じ空間にいると、どうも背中がざわつく。ふとした拍子に殺意を向けてしまいそうで怖いのだ。
あの子自身が嫌いな訳では決してないのだが…中に巣食うアレがどうしても本能的に受け入れられない。
あの日、その事もアーネに伝えたら彼女は「なら、私があの子の傍に寄り添いますわ」と言っていた。聞いた所、昨日はずっとシエルと一緒にいたらしい。
なんつーか、やっぱりアーネって強いよなぁ。
「あ、そうだ。なぁ御者さんよ」
「はい、なんでしょうか」
「王都っていつ頃着く?」
「王都ですか?混んでさえいなければ昼前には着きますが」
結構早いな。三時間程度で北の第一都市を抜けるか。
「王都からどのぐらいで抜ける?」
「そうですね…少し商会の用事もありますので、遠回りをしておよそ二時間…から三時間ぐらいでしょうか。昼食も王都で取る予定です」
二時間か。メッセージの射程的に考えてもそれぐらいなら問題は無い、か。
「了解。そうしたら悪いんだが、王都着いたら少し別行動していいか?」
ルプセルに金を返しに行かにゃならん。タイミング的に、俺が直接金を返せるのは年に一回ぐらいしかない。冬の長期休暇でユーリアに預けてもいいが、直接渡した方が心証がいいだろうし、ちょいとあの男に言いたいこともあるので直に会いたい。
「構いませんが…すぐに戻られますか?」
「ちょいと知り合いン所に行くだけだ。向こうの都合が合えば三十分で済むと思う」
「合わなければ…?」
「別に。普通に諦めてこっちに戻るさ」
肩を竦めてそう言う。ルプセルもまた忙しいだろう。いきなり俺が押しかけて会えるとも思えない。そこら辺はちょっとした運試し。
会えなかったら、適当な門兵か誰かにでも俺の名前と要件を伝えて金を渡して去るつもりだ。
「わかりました。では、レィア様の用事が終わり次第、私に連絡をください。すぐに向かいます」
「あー、いや。そっちが迎えに来んのはな…」
「…一体何をなさるのか聞い…いえ、失礼しました」
「まぁ、好奇心があることは悪い事じゃないが…他人が隠したがる事を聞くのは宜しくないぞ」
場所が大貴族ユーリアの家ってなったらちょいと驚くだろうし、俺としてもあまり借金の事は知られたくない。
「ではどうやって合流を?」
「そうだな…じゃ、俺の魔導具を使ってそっちの位置を把握しとく。終わったらそっち行くよ」
「わかりました。ではそのように」
んじゃ、しばらくはのんびり揺られますかね。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:666

処理中です...