大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

否定と人

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俺が一人で勝手に誓った事を聞くと、ニコラスは鼻から抜くような溜息をついた。
「…君が掲げるそれはね、護る者としては正しいだろう。けど、逆に言うならそれだけだ。それをするなら、君とアーネの二人に護衛を付けよう。護衛と仲が良くなって悲しまないよう、定期的に人を変えればもう終わりだ。君である必要はない」
落胆。端的に言ってしまえば、ニコラスから感じられた感情はそれだった。
そんな事も分からないのか。そう言いたげな視線を寄越しつつ、トントンとテーブルを二三度たたいて口を開く。
「生きた人を…一つの鉱石として見よう。君もアーネも、同じ見てくれでありながら、性質のまるで違うただの石。そこから、あらゆる加工がされて生まれ変わる。ある石は剣に。ある石は鍋に。ある石はネックレスに。ある石は…ただの石として、路上に転がるのかもしれないな」
人はこれと同じだよ。とニコラスが続ける。
「産まれたばかりの時は周りと変わらない。けど、様々な経験をして、剣士に、料理人に、商人に生まれ変わっていく。そこまで行き着く過程に、ある物は金床で叩かれ続け、ある物は他の物に混ぜられ揉まれ、ある物は身を切る。経験こそが成長であり、成長無くしては良い人は出来ず、いい人生も成らない。そこに悲しみと言ったマイナスの物も当然含まれる。本来在るべき行程経験を、一つだけ差し引いて出来上がる物は脆く、そして歪だよ」
「なら、ヒトを悲しませない為に救うのは悪なのか?」
「人を救ったという経験は救った側の徳という経験を。救われた側もそれに恩義を感じ、また新しい経験を積むだろう。何も悪いことじゃない。だがね、生きていく上で全ての邪魔を排除するというのは、そのどちらの経験すらする事が出来ないんだ。
先程のたとえなら物が出来て完成だがね、実際は人は死ぬまで成長するよ。死ぬまで経験して、死ぬまで悩んで、死ぬまで生きているんだ。そして呼吸を止め、この世界から去ったその後に初めて人として完成する。あるいは石から物へと完成する。君はアーネを護ったつもりで、その実はあの子を歪に歪ませてしまおうとしている」
必死で俺に告白してくれたアーネ、それに剣士が答えられる全て。全てをもってして出した答えのつもりだった。
だが。
「君のその誓いとやらは間違いなく失敗するよ。あの子が不幸になることは無いかもしれないけれど、それは不幸と気づかないだけの不幸だ。どんな人生を歩んだかは自身が決めるとしても、私はそれを決して認めない。何より、その誓いは君を道具として見ている。アーネ・ケイナズの隣に立つのはね、高性能な道具よりもただの人であって欲しいと思うのは当たり前だろう?」
それはきっと、あぁ。
ヒトだから出る俺との差か。
生まれ落ちた瞬間から決まった鋳型に流し込まれる俺達と、自由の塊であるヒトとの。
ならきっと、《勇者道具》がヒトの隣に立つのはやっぱりおかしいか。
「そうか、なら俺は身を引くよ。やっぱりアーネにダメだって言って、この家からも出ていく。聖学は…そうだな、学校長に取り合って、俺だけでも部屋から出た方がいいか」
「そうしてくれると一番後腐れはないだろうね。悪いけど、今の君があの子と付き合う事は親としては許せない」
「いや、いいさ。そっちの方が俺としても楽だ。別にそういう関係じゃなくてもきっと──」
俺はもうレィア・シィルとして死ねるから。
「…?、何か言ったかね?」
「いや、何も。むしろせいせいしたかもしれねぇな」
でも、なんだろうな。胸のどこかが軽くなったような、けど少し寂しくなったような感じは。
「シエルちゃんは預かっておこうか?それとも君が引き取るかい?」
「いや、悪いが頼めるなら頼みたい。スマンな」
そう言って席を立つ。荷物まとめてとっとと出るか。
そう思った直後、部屋の扉が乱暴に開け放たれる。
「なんっ!?」
驚いて振り返ると、そこに居たのはアーネだった。
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