大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

説明と反応

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俺はルプセルにあの日、何があったかを説明した。もちろん勇者の件は伏せ、《巫女》は手練だったという事にしたが。
と言っても語る事などほとんどない。探して見つけて戦った。それだけだ。
「…俺からの話はこれで終わりだ」
「つまり、君は目標を発見し次第殺害に切り替えたと。確認するが、捕縛が望ましいとされていた事は知っていたね?」
「あぁ」
「《巫女》はそれほどまでの脅威だと?そういう理解でいいのか?」
俺は少し考え、首を横に振った。
「最終的な見方をするなら、巫女はこっちの味方だ。ヒトからすると敵じゃない。むしろ迎合すべき仲間だな」
「なら尚更分からないな。何故攻撃した」
「……理屈じゃなく殺さなきゃと思ったのが一番。悪いが間違いなく、俺はアイツを見た時、また同じ判断をする」
「ふむ…」
恐らくこの感覚は他の誰にもわかるまい。
自分とまるで同じ鏡がある。
自分とまるで同じ者がいる。
それならば問題はなかった。あるいは、それすらも他人からすれば、ある種異常だったのかもしれない。
だが、ここに来て問題だったのは「俺とまるで同じ存在でありながらまるで違う者だった」という事。
あれはきっと、細部まで俺と同じだ。当たり前だ、同じ《勇者》なのだから。
しかし、だからこその反応なのかもしれない。
あぁ──

まるで同じであるが故に不要。それ故に嫌悪。アイツと俺は分かり合えない。
「先程、最終的な見方をすれば、と言っていたが。どういう意味だね」
「そのまんまの意味さ。ただ方向性が違う。聖女サマは守り。《巫女》は攻め。魔族を殺すってんなら間違いなく《巫女》だ。あぁ、だが…そうなると一番邪魔なのは聖女サマかもな」
なるほど、そうやって騙されて担がれたか?いや、現代の知識も持ち合わせているはずだし、向こうには亡霊がいる。この結界がどうなっているかよく分かっているはずだ。
「それが《巫女》の狙いだったと?」
「今思い返せばって奴だ。あん時はそんな事微塵も考えてなかったよ」
しばらく無言の時間が生まれる。
「君は明らかに《巫女》のことをよく知っているようだが…」
「悪い。その事に関しちゃ何も言えねぇ。ただまぁ…そうだな、その通りだ。俺はアイツをよく知ってる」
直後、濃厚な死を感じた。
それは眼前のルプセルから放たれた殺気。
濃密過ぎるそれは、俺の死に様を何通りも幻視させるほどの質量を持った死。
だと言うのに、この男は執務机から立つどころか指先ひとつ動かしていない。
「レィア君、私は今迷っている。君が《巫女》や反聖女派の人間に与しているのではないかと危惧している。答えによっては君を殺す事になるだろう」
さらに一段殺気が濃くなる。空気が泥のように重くなり、息が詰まる程のこの空間において、俺はあえておどけるように口笛を吹いた。
「脅しか?けど残念。俺もこれを言っちゃおしまいってラインがあってね。アンタにゃ教えられねぇな」
直後、俺はほぼ反射的に銀剣を抜いた。
間違いなくここだ。ここであってくれ。
半ば自動で身体が動く。胸元に下がっている銀剣を揺らし、左の二の腕付近に置いて抜剣。そのまま防御。
次の瞬間、衝撃。
どうやら賭けには勝ったらしい。辺りには防御しようと、あるいはせめて多少は時間を稼ごうとしたのか、白銀の破片が舞い散っている。
この男は五メートルは離れている俺へ、マキナの半自動防御を全て貫き、一瞬で俺へと攻撃を仕掛けてきた。
何より驚くべきは握っている物だ。
「万年筆っ!?」
年季は入っているが、何の変哲もないただの文房具。見ただけだが、特に魔力も篭っていないし、材質も上質ではあるが、それだけのもの。
それで幾重にもかけられたマキナの防御を貫き、俺へと攻撃を仕掛けたのだ。
「…!」
だが、ルプセルの目も見開かれる。
それは攻撃を防がれた事ではなく。
俺の握っている武器に向いていた。
「そうか。君は聖女様に認められたのか」
しまった。いつもの癖で咄嗟に抜いたが、いちばん不味いことをしたかもしれん。そう思ったのだが…
「なら、この場はその聖女様の信頼を信じるとしよう。君の判断は間違っていないと」
「は、はぁ…」
そう言って、ルプセルは折れた万年筆をゴミ箱へ捨てる。よく分からんが、とりあえず許されたらしい。
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