大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,529 / 2,022
本編

耳長種と双剣 終

しおりを挟む
マルセラが下がり、俺が攻める。
隙を無理矢理潰すようにマルセラが魔法を放ち、それを最小限の動きで避けつつさらに間合いを詰めて鍔迫り合いに持ち込む。
そしてまたマルセラが下がり、俺が追いかけて攻める。これを何度も繰り返した。
ははぁ、なるほどなぁ。
「やめた。面白くない」
「!?」
そう言って武装を解除。剣だけでは無く、マキナすら切り、ただの生身の俺が出てくる。
「お疲れ。んじゃ俺部屋戻って寝るから」
「待て、戦いはまだ終わってないぞ」
「あぁん?つってもお前なぁ…耳長種エルフの剣術云々つってるけど、お前自身がそこまで剣強くないしな。本職は魔法寄りだろ。ンなのとやり合ってもそこまでなぁ…」
最初は面白いと思った。
なるほど、剣と魔法を高水準で扱えると言うのは非常に厄介。
対応力も高く、杖代わりの剣に魔法を纏わせ、範囲を著しく拡張した斬撃という性質を持たせた上で精密操作が出来る魔法というのは実際強い。
だが。
「残念ながら俺の体質でね、魔法はほとんど効かねぇんだ」
「…そんな体質聞いたことも無いけど」
言えるわけあるまい、勇者の話など。マルセラの言葉を無視し、そのまま話を続ける。
「もしも詠唱に専念出来たお前が俺に魔法を直にぶち込んだら…そうなったら間違いなく有効打は与えられるだろうな」
逆に言うのなら、そうしないとそもそも俺にダメージは通らない。
剣の腕は明らかにユーリアより下。一般兵士以上だが、聖学の一般的な二年生と僅差で勝つかどうかと言った所か。
だが、咄嗟に放つ魔法の威力は控えめに言っても非常識。ありゃきちんと詠唱した魔法使いが撃つような威力であって、間違っても無詠唱で撃っていいような威力ではない。
普通の相手ならどちらも高水準であるだけでどうしようもないが、俺はそうはならない。
ただの魔法であれば受けても構わないし、この程度の剣であれば対処は容易だ。
「次やる時は是非『耳長種エルフ剣術のマルセラ』じゃなく、『魔法使いのマルセラ』として来てくれ。じゃあな」
弱いとは言わない。だが、俺とやるには分が悪すぎる。ヒラヒラと手を振って、そのままマルセラの脇を通り抜けようとしたその時だった。
全くの無動作から斬撃。
首を断つ軌道を描くその剣筋は、剣先が見えない
比喩表現で速いから見えないのではない。ただただ純粋に、存在していないかの如く透明で見えない。
「なるほど、それがマルセラの能力で切り札か」
パタタタッ、と。
血が滴り落ちた。
斬撃の軌道は明らかに俺の首を狙ったものだったが、実際に剣が俺の身体を狙ったのは胸。
蛇腹剣。スネークソードとも言われるそれは、小さな鉄片のような刃を複数繋ぎ合わせ、鞭のような使い方も出来る特殊な武器。
見えない蛇腹剣は首を外側から回るようにして一回転、心臓へ切っ先を突き立て、さらに背中から輪切りに出来る軌道だった。
が。
「持続時間は一秒か二秒か…もしかするともっと短いな?」
恐らく、マルセラの能力は武器を透明にするスキル。それの効果はどうも極短いようで、俺の胸に突立つ寸前に、防御が間に合った。
と言っても、防ぐものは何も無い。マキナですら感知出来なかったので、素手で叩き落とすしか出来なかったのだが。
「剣が遅い。スキル発動中に最低二回は斬れるようにならないと意味無いぞ、それ」
手の甲から僅かに溢れる血も、皮膚と血管の切れ目を適当に塞いでおけばすぐに治るだろう。
その手を振って、今度こそ俺は訓練所を後にした。
しおりを挟む

処理中です...