大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

帰還と報告

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「あの…先輩、もういいです」
「本当に大丈夫か?前みたいに無理してないか?」
骸骨百足を倒して、俺が真っ先に気にしたのは、セラの身体の事だった。魔獣からのダメージ?ンなものある訳が無い。
俺が心配したのは、以前のような義肢のパワーに身体が追いついて行けていない、と言ったことから起こる自傷ダメージだ。
「大丈夫ですって!ほら、早く行きましょう!」
「まぁ、そう言うんなら。後でチェックするからな」
「心配性ですね…」
「馬鹿抜かせ。身体への心配はしすぎても足りんぐらいだぞ。特にお前の義肢は申し訳程度の触覚だけで痛覚はない。気づかないヒビ割れから戦闘中の不慮の事故が起こるなんてことも有り得るからな。気をつけろよ」
「分かってますー」
べー、と子どもっぽく舌を突き出すセラ。こいつ幾つだっけ。
「とりあえず、お前って結界の境界部分見たことあったっけ?」
「はい?いえ、ないですね。出来るだけ近寄らないように言われてたんで」
「うん?ヤツキに?」
それ以外にいないのだが、思わずそう聞く。
「はい。行ってもいいが…死んでも知らんぞ?って言われました」
「そんな危険だっけな」
と思い返すが、よく考えりゃ結界抜けてきた魔獣とその場で運悪く遭遇すれば、逃げる事も身を隠すこともそう簡単には出来まい。そうなればヤツキも間に合わないだろう。
まぁ、とは言えそれは一人の時の話か。
「んじゃ、ちょっと行ってみるか」
特に深い意味は無い。強いて言うなら行く所がないので、その辺まで一度行ってみようかと思っただけだ。
そんな訳で結界の境界まで行って──
「…ん、いや待て、一回戻るか」
「え?家に戻るんですか?」
「あぁ。昼前だし、ヤツキもそろそろ起きてくる頃だ。一応骸骨百足を倒したって事を伝えといた方がいいだろう」
というか、厳密には骸骨百足が二手に分かれて行動していた事、だろうか。
「お前も胸張ってヤツキに勝利報告したいだろ?」
そう言うと、セラが恥ずかしそうに笑った。
そんな訳で一旦家に帰り、しばらく休憩していると、家の奥で戸が開け閉めされる音が聞こえた。
そして続いてひた、ひた、ひた、と続く足音。
「………。」
「おはようヤツキ。寝起きは相変わらずヒデェ顔だな」
眉間にこれでもかと寄ったシワ、本当に起きたばかりなのか、寝癖も所々散見される。
肩紐が外れかかった薄いタンクトップは寝汗のせいか肌に張り付き、下に履いている丈の短いパンツは半ばずり落ちている為、下着がやや見えていて非常にだらしがない。
俺にとってはそれなりに見慣れた光景だが、それ故に懐かしくもある。こういう所は変わらないんだな。
「………?…あぁ、あー、レィアか。悪い、誰か理解出来なくて殺そうかと思った」
「頼むからそれをセラにすんなよ?反応出来ないだろうし」
そのセラは今いない。義肢のチェックをするとかで一旦自室に戻った。多分しばらくは来ないだろう。
「報告がある」
「手短に頼む」
昨日持ってきた茶葉を見つけ、暫くじっと見つめるヤツキ。が、視線を外す。
『…淹れてやってくれ』
わからんのか。まぁ、確かに触れる機会は無いわな。
とりあえず湯を沸かす所からか。こういう時、魔法が使える奴が居りゃ楽なんだが…
「骸骨百足と遭遇した。もう対処済みだ」
「ん、そうか」
「ただ、少し気になる点があってな。奴ら、三匹居るうちの一匹を囮にして、残り二匹で森を出ようとした」
「ほう?」
「勿論骨一つ残らず破壊したが…もしかして最近、そう言う変わった行動をする魔獣出てるのか?」
茶を昨日と同じように淹れ、ヤツキの前に出す。
「そうさな、隠す必要もないから言うが、魔獣の動きが活発になってるのは間違いない」
「活発…?」
「明らかにヒトが多い所に向かってる。丁度…あぁそうだ、過去番号個体今までの私のデータから言って間違いない。ここ一年か二年で、魔獣の動きが変わって来てる」
「…何があったんだ?」
「さぁ、そこまでは。知識として知っている可能性を継ぎ接ぎした妄想なら無くはないが」
「それでいい」
間髪入れずにそう言うと、ヤツキはこつ、こつ、と二度、ゆっくりとテーブルを指先で叩き、妄想を口にした。
「魔獣を生み出し、操る大元の機械。機創人達が作り上げたあの装置を、何者かが発見し、使い始めた。それぐらいしか魔獣が一斉に動き始めた理由にはならんな」
そう言って、ヤツキは俺の淹れた茶に口をつけ、
「…お前、淹れるの下手クソだな」
と言って一息に飲み干した。
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