大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,463 / 2,022
本編

夜闇と人影

しおりを挟む
「うーん…」
都市長の家から帰りながら、俺は月の光を吸い込んで、手元で暗く輝く闇色の石を眺めていた。
とりあえず、あの後何があったか語らねばなるまい。
まず、都市長は特に何もしていないとのこと。
嘘つけしらばっくれるんじゃねぇと脅しをかけたり、かなり問い詰めてみたものの、都市長の答えは変わらなかった。
本当なら証拠を見せてみろと言ったりもしたが、逆に「何を見せれば証拠になるのか」と言われてこちらが答えに困ったりもした。
…まぁ、多分本当に何もしていないのだろう。ああいうのは立ち振る舞いに現れるもんだし。少なくとも今はそういう事にしておこう。
問題はこの次の方もだった。
詫びとしての意味も込めて石を渡そうとすると、都市長は全力で断ってきた。というのも、都市長がこの石を見て目を見開いたのは単純にこの石が内包する膨大な魔力に驚いて目を見開いただけらしい。
むしろ、こんな災厄の根源のような石は安全に処理して欲しいそうだ。
そんな訳で収穫はゼロ。なんとも時間を無駄にした訳だ。明日の昼頃に出るつもりなので、元都市長の話をどうにかするのは難しいだろう。
しかしこの石の魔力、一体どうしたものか。誰かに使い切ってもらうぐらいしか無いか。
でもこれ、どうやったら底が尽きるんだろうな。何に魔法を使えばこの魔力を全て消耗し切れるのか。
なんだっけな、前にちょいと聞いた話だと、魔力ってのは世界を騙す為の餌らしい。
世界に魔力という餌を用意し、それを呪文や魔法陣でより美味しく完璧にし、機嫌を良くした世界にお願いを聞いてもらう方法。
当然要求が難しくなると、餌の量や質も増えるし良いものを準備しなくてはならない。魔法陣や呪文も手間がかかるし、失敗も許されなくなる。
さて、石の持つ魔力の質は少しばかり濁ってはいるが、特に問題は無いだろう。量は恐らく魔族クラス。いや、下手すればそれ以上か。
そもそも、この量の魔力はどうやって集めたのか。ユーリアが前に言っていたが、魔力で物質を作る事は可能らしい。理屈の上では物質を魔力に変換出来るらしいが…さて、そうなった場合、一体どれだけの物が消えて魔力となったか。詳しく知らんから、そもそも物が魔力に変換されたらどれぐらい魔力出るか知らんが。
「『ん』」
はて、そう考えていたせいだろうか。
突然目の前に現れた人影に、直前まで気づけなかった。
人影は三つ。どれも黒い外套を身にまとっており、顔は逆光で見えない。
「よぉ、今宵はいい月だな。あんたらは散歩かなんかか?だがそれにしちゃその格好はあんまりにもったいない──」
俺の顔の横を、何かが高速で通り過ぎ、後ろで穴を穿った。
「ははぁん…そうかそうか、そっちから来てくれるたぁ楽でいいや」
「無駄口はいい。選ばせてやる。その石を置いて今すぐこの都市を出るか、死ぬかだ」
「あっそう。じゃあほらよ」
石を放り投げ、緩く弧を描いて相手の手に渡る──瞬間、俺は石に結んであった髪を引き、手元に引き戻す。
「なん──」
そして踏み込み、渾身の勢いで顔をぶん殴る。
「丁度いい。今度こそ当たりっぽいし、うん、これが楽だ」
剣を出し、鎧を纏う。ここに至って相手もようやく理解したらしい。
これが欲しけりゃ俺を倒してみな」
「ほざけっ…!」
そう言った瞬間、人の気配が急に増えた。
『…隠蔽系の魔法か。あの手の魔法は自身にかけるから魔法返しにも反応しない。そうやって近づいたか』
「はっはぁー!いくらでもかかってこいよ。雑魚がいくら群れても変わらんぞ!」
『…テンション大丈夫か?』
所謂深夜テンションって奴だ。心の中で答えるも、その声はシャルに届かない。
俺は剣を振りかぶり、そして薙いだ。
しおりを挟む

処理中です...