大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

ナイフと戦闘

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こんな時でも平時の癖というものは偉大なもので、無意識に数本、フードの首元の穴から髪が伸びていたようだ。
もしこれに当たらなかったら、シャルの警告虚しく背中にザックリとナイフが突き刺さっていただろう。
音が鳴るのも気にせずにほぼ反射的に地面を転がる。
俺が地面に身を投げた豪快な音が辺りに散らされたと同時に、頭上を黒く塗られたナイフが音もなく俺の頭上を通り過ぎて行った。
『油断すんな!追撃二本!来るぞ!』
「マジかよ」
咄嗟に跳ね起き、さらにジャンプ。
バク転のようにして避け、後ろからの襲撃者を目視する。
俺と負けず劣らずの真っ黒な服装にフードを装着し、顔は見えない。体型から見るに男だろうか。少なくとも西の学校の制服ではないが、俺と同じように制服を外しているだけという可能性も充分にある。
っ、と!
三、四、五本と次々ナイフが投げられてくる。
よく見ると、サイズや形、速度や軌道がどれも違っている。
どうするか…。
『周りを見た感じ、この黒ずくめ以外にはあの二人組だけだな。もっとも、その二人組は既に走り出してるけどな』
げ。マジか。
そっちの方を見ようと首を捻…ろうとしたら一気にナイフの本数が増えた。
『おい、そんなのさっさと倒して、アイツら追わなくていいのかよ』
倒したいが、決定打が撃てねぇんだよ!
『んなモン、銀剣か金剣、銀椀でもいいから出してぶっ叩けば…あぁ、そうか』
わかった?夜中にあんな光るモン出しちまえば、しかもそんなのでナイフ弾いてデカイ音でも立てちまえば、少し離れてても周りの住民がこっちに様子を見に来るだろ!
『でもそりゃ、見られて困るのは相手もだろ』
だろうが、相手は完全に黒ずくめ、周りの人が見つけるのは光る俺の方が先だろ!するとどうなると思う?夜中に元指名手配犯が馬鹿デカイ剣をぶん回してました、って通報されてオシマイだろうよ!
『だがどうするよ?相手のナイフ、尽きる様子がないぞ?多分、スキルだな』
チッ、どうもそうらしい。
さっきから何本か掴もうとしているが、俺が掴もうとするたびに溶けて消える。
けど、どういう仕組みか知らんが掠ったら普通に裾が裂けたし。
『つまり何だ、これは俗に言うと《詰み》の状態に近いんじゃねぇのか?』
いや、まぁ。
そうなんだけど…。
『どうすんだよ』
いや、相手が。
『はぁ?』
「──────《貫通戦弾ストライク・ブレット》!!」
どこか遠くから、そんな声が聞こえる──。
より前に。
黒ずくめの身体が宙を舞った。
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