大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

糸と虫

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「なんんんんんんだこれ」
「どうしたんで…うわ、気持ち悪…いえ、なんでも。これが例の糸の塊…ですかね?」
ヒトの大部分は細長くてニョロニョロと蠢くものに対して嫌悪感を抱く。ニケも同じだったようで、思わずと言ったふうに声を上げた。
蠢くそれは異様に細長く、髪の毛のように細長い。見た感じだと太さは一ミリあるかないか、長さは一メートルを超えるだろう。これがきっと中で絡まると例の糸玉に…
「…いや待て、これ糸じゃねぇぞ」
謎の体液まみれのこれを素手で触るのは流石に嫌だったので、髪を伸ばしてひょいと持ち上げる。
目線の高さまで上げ、先端をじっとよくよく観察してみれば…
「口がある…?」
「へ?糸にですか?」
「あぁ」
カチカチと音が聞こえそうな、まるで蜻蛉のように大きな顎がある。
と言っても身体に対して大きいという意味なので、実際は極々小さいのだが。
「ってか、これ糸じゃねぇな。多分虫だ。寄生虫の一種…?いやでも、魔獣に寄生するようなヤツなんているのか?」
さらによく見ると、目がある。足は無いようだが、そもそも必要ないのだろう。
もっと詳しく観察すれば生殖器なども見つかるかもしれないが、今は心底どうでもいい。
重要なのは、こいつが糸じゃなくて寄生虫だったと言うこと。
「おい、不味いぞ…ニケ、今すぐお前はプクナイムに戻って報告してこい。もしかしたら最悪の知らせかもしれん」
「え?あ、はい!…えっと、糸じゃなくて虫だったってことをですよね?それが何か問題なんですか?」
「問題も問題、大問題だ」
手元の寄生虫を引きちぎると、思った以上に硬かったのか、切れる際に俺の手を少し切って千切れた。
舌打ちをして軽く止血をした後、「まず、」と話を始める。
「まず、今都市の奴らはこいつが糸の塊のせいだと思っている。何者かが仕込んだ手品のタネ。そうだと思い込んでいる。しかし、実際は糸の塊ではなく生きた虫が中に入っていたとすると、ある存在の有無が大きく話を変えてくる」
「は…はぁ?」
あー、そうか、んーとだな…
「簡単に言うとだな、糸を使っている存在がいるのか、個別にその身体を乗っ取ってるのかっていう差が出る訳だ。さてニケ、前者ならどう処理するのが正しい?」
千切った尻側半分の虫を持ち上げながらそう聞く。
「へ?あ、そうですね…普通に考えるなら、敵の首魁を倒すべき…じゃないですか?」
「正解。特に傀儡系は主が死ねばすぐに元通りだ。糸引いてる奴が死ぬ訳だからそりゃ当然なんだが。じゃあ今回の場合だ」
千切った片割れ、頭の方を軽く持ち上げながら聞くと、ニケが眉を寄せた。
「え…えぇ…?ど…う、すればいいんでしょうね?」
「だろう?つまりはそういう事だ」
相手が明確な軍隊であるならまだ良かった。頭を潰せば身体はじきに死に絶える。
だが、相手は軍隊ではなく群体だった。
一体潰せば終わり──ではない。
全て殺さなくては終わらないのだ。
「今すぐだ、今すぐに行け。じゃないとこの戦いは本当に終わらないぞ」
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