大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

咆哮と暴力

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唸る猛獣のような声が絶えず響くトンネルを走ると、すぐにその場所に着いた。
不思議なことに、ちょうど動きやすい広間のようになっているが…誰かが意図的に作った?肉塊が作っただけのトンネルに?それとも肉塊がなにか理由があって自分で作った空間なのか?
あるいは──既にあったトンネルを肉塊が利用しただけ、とか。
いや、変な予想を今している訳では無い。
話を戻そう。
そこには明らかに身体が一回りほど大きくなったウィルがいた。明らかにスキルを使っている。
そしてそのウィルがスキルを維持したままという事は、その状態で対峙するべき敵がいるはずだ。
「っ!」
おっと危ない。慌てて急ブレーキをかけ、壁の僅かな窪み出っ張りに身を隠す。
緋眼でも辛うじて見える距離まで近づき、目を凝らしてよく見る。耳を澄ませる。
まず、声のようなものはほとんど聞こえない。強いて言うならウィルの叫び声だが、これは除外。他に聞こえるのはウィルが暴れる音だけ。次いで出っ張りから顔だけをひょこりと出し、何が起きているのか確認する。
狂化ウィルが暴れ、攻撃が外れ、地面が──というかトンネル全体が揺れる。
「………?」
おかしい。俺の目には少なくともこの空間にはウィルしか見えない。ウィルは一体何と戦ってるんだ?
さらにウィルが暴れ、トンネルが削れる。ここだけ少し広いのはそうやって拡がったからだろうか。
『んー…俺にも何も見えんな。ウィル一人だ』
となると、一番有り得そうなのがウィルが幻術か何かを食らっているという可能性。
さて、どうして止めてやろうかと少し考える。幻術はやや特殊な魔法なので、食らっている誰かをどうやって止めればいいか正直よく分からない。
『一番簡単なのは相手を気絶させることだな。そうすりゃ大抵の幻術は消せる』
ほう。でもあれの中をかいくぐって気絶させるのか。骨が折れるぞ。
『血呪ぐらいなら許可してやる。とっとと行ってこい』
やれやれ。人使いの荒い亡霊様で。
『はっ。時間があんまりないのはお前が一番よくわかってんじゃねぇか。あの身体を見たんだろ?』
まぁ。見たというより見えた。
狂化のせいなのだろう。限界を超えて肉体が強化され、野獣の如く荒々しく使われ続けた身体からは、何もしていないのに血が流れ始めていた。なるほど、前に言っていたスキルで身体が云々と言うのはこういう事だったか。
あの調子だと、遠からず体力の損耗と流れ出る血で倒れるのは馬鹿でもわかる。
流石にそうなる前にウィルを止めなくてはならない。
止めなくてはならないのだが…まぁいい、とりあえず止めよう。考えるのはそれからだ。
俺はマキナを纏い、その下の身体に黒い紋様を走らせる。これで恐らくウィルと対等。金剣を抜き、ふらりと物陰から出る。とりあえず声をかけてみて反応を確認しようか
「よぉウィル、どうしたそんな格好──でっ!」
恐ろしく早い盾の一撃シールドバッシュ。そこに言葉はない。そして今の行動のせいで、こっちに狙いが定まったらしい。
よし、とりあえず気絶させよう。じゃないとこっちが危ない。
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