大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

死体とメッセージ

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俺の着地同時に魔獣の身体が崩れ落ちた。
魔獣をほぼ真上から綺麗に叩き斬った黒い刃は既に消え、柄だけの剣が残る。
「ふぅ……」
金剣を仕舞いマキナを解除する。
大して大きな一撃をもらった訳では無いが、手札的な意味でギリギリの戦いだった。
あの時は思考が沸騰していたから切り札を簡単に切ってしまったが、今思い出すと避けられたり防がれたりしたらどうするつもりだったのだろうか。自分。
まぁ、何とかなったからいいか。
「アゼロス?アゼロース?おーい、どこ行ったー?」
ふらふらと先程の窪みの方へ行ってみると、黒い外套の内側にまだアゼロスがいた。
「なんだ、まだ居たのか。とっとと逃げりゃよかったのに」
「あれを…倒したんですか?」
信じられないと言わんばかりに目を見開いて言うアゼロス。
「倒してなきゃこんな悠長に話しかけないさ。立てるか?」
「は、はい」
手を出し、軽く引き上げる。身体が小さいから、そこまで力持ちという訳でもない俺でも割と簡単に引き上げれた。
「あんまり俺の後ろの方を見るなよ。結構スプラッタな光景が広がってるからな」
「わ、分かりました」
「聖学の方向はわかるか?」
「はい、大丈夫ですけど…レィアさんは?」
「俺はちょいと野暮用が出来たんでな。先行っててくれ」
そう言ってアゼロスを送り出し、予想通りの超速度で走っていくのを見届けてから、くるりと後ろを向く。
さて。
結局コイツは何だったのだろうか。
異様な切れ味で両断されたヤギの魔獣の死体をまずはこいつが本当にヤギの魔獣なのかどうかと言う所から調べなくてはならない。
キメラ型魔獣で生まれたタイプの魔獣の多くは、頭部になっている獣が元のベースになる。
今回ならヤギがベースになったということになるが、そうなら内臓や歯並び、生殖器等はヤギ準拠となる。
今回は結果的にだが、見事に真っ二つになったのでかなり見やすいだろう。
「さて」
解体するのに銀剣は向かないし、金剣は刃が無い。マキナを両腕に装備し、手先からメス状の刃が出るようにする。
これで準備は完了、と。
だが、調べようと思って近づこうとした時、ちょうどいいタイミングでマキナがアーネとメッセージが繋がったと報告して来た。
もう全部終わったんだけどなぁ…まぁとりあえず出るか。
『聞こえてますの!?』
「……よぉアーネ、起きたのか?元気いっぱいだな。俺は一睡もせずにたった今魔獣を一体開きにした所だ。疲労困憊で睡魔猛攻、ついでに空腹絶頂だから頼むから大声出すのやめてくんね?頭にガンガン響くんだわ」
『…ふざける余裕はあるみたいですわね。メッセージの定時連絡が無かったから慌てましたわ。自分で決めたのならちゃんと自分でやって下さいましね?』
「は?」
定時連絡がなかった?
「いやいやいやいや。俺はしようとしたけどお前が寝てたせいで出来なかったんだろ?俺のせいにすんなよ」
欠伸を噛み殺しながらそう言うと、今度はアーネが『はい?』と言ってきた。
『私はずっと起きてましたわよ?急にメッセージが来なくなったから慌てて飛ばしても返事をしなかったのはあなたですわよ?』
「………んん?俺、普通にメッセージ飛ばしたらお前に繋がらなかったんだけど」
『…だったら他の外的な問題だと思いますわ。たとえば遠くに行き過ぎたとか、地形的な理由でメッセージが届かなかったとか…』
位置はこことほとんど変わってないのでそれは無い。
『ぱっと思い当たるのは…後はそうですわね、何らかによるジャミングですわね』
ちょうどその時だった。
バヅン!と大きな音を立ててメッセージが唐突に途切れた。
「!」
直後、咄嗟に勘で真横に飛ぶ。
勘は的中し、俺の今さっきまで立っていた所に巨大な何かが落下してきた。
「なんだ!?」
もうもうと立ち上る土煙、それが晴れた時に向こう側にいたのは、断面から不気味に盛り上がった肉塊を生やしたような姿のヤギ魔獣だった。
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