大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

弱体と呪術

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神経を逆撫でするような耳障りな音が響く。これで…そろそろ十回目か。
ラウクムくん達に思いっきりあんな事言ったけど、正直、押されているのは俺の方。
単純に、右手が使えないというハンデが大きいな。
しかし…だからこそおかしい。
俺は右腕が使えず、左腕一本。さらに得意な双剣で戦えず、寝ていないので身体もボロボロ。いつもより…森でこの魔族と戦った時より弱っているはずだ。
正直、二回か三回も剣を打ち合えば、俺が負ける、そうなっていても全くおかしくなかった。
そして十一回目の衝撃。やはり、おかしい。
魔族お前…弱くなったか?」
「あァん?」
ピタリと止まり、俺の攻撃を大きく弾き、距離をとる魔族。
「嬢ちゃん、アンタがそれを言うのかい?」
そう言いながら、フードをとる魔族。
その下から出てきたのは、醜く膨れ上がった化物の面。
「『人を呪わば穴二つ』、って言葉知ってるか?」
面の唇が上下にカサカサと動き、言葉を発する。その時になって初めて気づいた。
所々がぐじゅぐじゅと音を立てて膿み、謎の吹き出物が顔だけでもあちこちに溢れる。
その顔は、前に森で見た顔とは全く違う…それでいて、その彼と間違えようのないものだった。
「俺がかけた呪術を、ものの見事に俺に返しやがったなァ…しかもご丁寧に、までしやがって…なるほど?確かにこれなら呪術がお前に返ッてくることは無い。考えたな?銀の嬢ちゃん」
呪術…?確か、魔族の魔法、その上位にあたる魔法、だよな?
俺は呪術どころか、魔法すら使えない。なのに魔族は呪術を俺が返し、さらに上乗せまでしたらしい。
「オイオイ、訳が分からねェッて顔だな?ふざけるなよ?あの紅い鎖。あん時だよ。忘れたとは言わせねェぞ…?」
紅い鎖。その内容は全く覚えていないが、アーネから聞いた。
あの時、何が起きた…?
「お嬢ちゃんがそんなカワイソーな俺に合わせて右手を使わないでいてくれたんだろう?だからあの紅い鎖も出さないで戦ってくれてるんだろう?」
正直、そんな余裕はないし、紅い鎖とやらは自力で出せないし、そもそも出した記憶が無い。
「お嬢ちゃんが呪術を返しておかげで、魔力が何かを拒んでるみたいに内側で小さく小さく爆発を繰り返してんだよ。お嬢ちゃん、アンタどんな呪術の返し方をしたんだ?」
知らないものは答えようがない。だから適当に返すのがいいだろう。
「そうだなぁ…俺に勝てたら教えてやろうか?俺が勝つから関係無ぇけどさ」
「ははッ!いいねェ!なら、アンタをくれよ!惚れちまッたァ!それに、ちょうど向こうでも…」
魔族のセリフの最中で、廊下の奥から爆音が響く。
「山場みてェだしな!」
そう魔族は吼えると、より一層強化したらしい身体能力で俺の方へ突っ込んできた。
「さっさと終わらせようか。ほら」
そう言って両手を広げてやる。
「受け止めて、抱きしめてやるよ」
男との…しかも化物ヅラのヤツとの包容なんてゾッとしねぇから、絶対にしないけどな。
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