大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

夜中と体調

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結局、アーネが起きたのは夜中の二時。
俺が風呂入って上がった頃、ちょうどアーネも起きた。
「……あれ、私…」
「お、起きたかアーネ。具合はどうだ?」
いつもなら俺がベッドでアーネが体調を聞く側だったので、何となく新鮮味を感じながらひとまず椅子に腰掛ける。
「…頭が少し痛いですわね。後は…今何時ですの?」
「今は午前二時。安心しろ、何日も寝こけてた訳じゃねぇから。頭が痛いのはコケた時に頭打ったからか、寝すぎてたせいかどっちかじゃね?」
気絶した時、あまりに唐突に倒れたため、俺が反応する前にアーネの頭が地面と衝突したのだ。タンコブになってなきゃいいが。
「………お腹がすきましたわ」
「寝起きでそれが言えりゃ体調は充分よし、だな。ちょい待ってろ」
健啖家のアーネが昼も夜も食べていなかったのだから、起きたら腹を空かせているだろうと先に食堂のオバチャンに弁当を作ってもらっていたのだ。
用意してやると、アーネは夜の飯がどうのこうのと悩んでいたようだったが、結局抗えなかったらしく、大人しく食べ始めた。
「…何がありましたの?」
「何って…さぁ?むしろこっちが聞きたいぐらいだ」
欠伸を一つし、肘掛けに肘をついて頬杖をつく。
「国王との話が終わったらお前が急にぶっ倒れた。昨日夜更かしでもしたのか?」
そんな訳が無いと思いつつ言うと、当たり前のようにアーネに「違いますわ」と言われた。
「けど…そうですの、国王様にお会いしたんですのね…何か仰ってましたの?」
「ん?覚えてねぇの?」
「…えぇ、さっぱりと。何も覚えてませんわ」
「どこから?」
「そうですわね…貴方と一緒に来賓室の前で名前を言ったところまでは覚えているんですけれど…それより先は…曖昧ですわね」
「ふーん?」
しかし、部屋に入ってからアーネは自分で跪いたりしてたよな?でも思い返せば喋ってもなかったし…半分意識が無かった?
「ま、いいさ。国王が言ってたのも大したことじゃないし」
「…貴方の言い方が気になりますけれど…」
どうせ言わないんでしょう?という視線が俺の視線とぶつかる。それに俺は、口の端を少し上げるだけで答えた。
「ま、いいですわ。貴方が言わないのであれば、私は聞きませんの」
「ふぅん、意外だな。てっきり火球でも投げつけて教えろって言ってくるかと思ったけど」
「そんな事しませんわよ」
何を馬鹿なと言外に滲ませる。
「ただ、もしも助けが必要になった時、必ず私を頼ってくださいまし」
「あぁ分かったよ。頼らせてもらう」
空になった弁当箱を受け取り、欠伸をかみ殺しながら台所で軽く洗う。
「そう言えば」
「ん?どうした?」
今から風呂にでも入るのだろう、替えの服を持ったアーネがひょいとこちらに覗き込んでいた。
「どうして貴方、こんな夜遅くまで起きていたんですの?」
「んー?…鍛錬だよ、鍛錬」
それで納得したのだろう、アーネがひとつ頷き、脱衣所の方へと入っていくのが見えた。
実際は別にそんなことをしていた訳では無い。
今日一日、剣を握るでもなく、食堂で弁当を貰う以外はずっと部屋にいた。
やる事が無かった訳では無い。むしろ山積みだった。
けど、何故だかアーネを一人でこの部屋に放置したくなかった。
何故だと聞かれると答えは出ない。分からないと言うしかない。
けれど。
「………。」
いつも俺が起きた時、必ずアーネが傍にいてくれる理由が、少しわかった気がした。
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