大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

壁と魔法

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起きて走り、訓練所までの記録は五秒ちょっと。
マキナの基礎性能が上がったためだろうか。思ったより早く到着した。
訓練所に飛び込んで最初に見えたのは、大きな半透明のドーム型のフィールド。幸いにもまだ鍵戦争は終わっていないらしい。
視線の集まっているフィールドの中は人だかりでまるで見えないが、激しい炎や光は見える。
俺は勢いそのまま思い切り跳躍した。
空中で右拳を後ろに引き絞り、弓なりに仰け反る。
それだけでマキナは意図を察し、拳に集まった髪を上からカバー。
右腕と顔、あとは胸周り以外の装甲をほぼ全てそこへ集中力させる。
『ぶち抜いてやるよ』
振り下ろした拳の先端には鋭い突起。
それはフィールドに突き刺さり、一瞬で食い破る。
しかし、フィールドも新しいものになって防御性能が上がっていたらしい。
下には二層目のフィールドが。
いや、その下にさらにまだフィールドがある。二層どころではない。
『合計四層の障壁か。さらにその下にフィールドだな』
一目見ただけでシャルがさらりとそう言う。
だが──
『知ったこっちゃねぇ』
容易く一層目を食い破った拳は、さらに第二層へ突き刺さり、僅かに抵抗されるも突破。
そして第三層で大きく勢いを減衰させられ──第三層よりも圧倒的に硬い手応えを感じさせる第四層で止められる。
いや。
第四層で止められたのではない。
第四層で止めたのだ。
理由は簡単、確認のためだ。
『行けるな?マキナ』
『はい』
軽く右腕を持ち上げ、障壁と拳の先端に十センチほどの隙間を作る。
『やれ』
次の瞬間、突起が急に第四層の障壁に突き刺さった。
理由は大して難しいものではない。
ただただ単純に、俺の超肥大した右腕が急激に重くなっただけだ。
そして先端が一センチでも入れば──こちらのものだ。
直後、爆音が空気を撃った。
原因は俺の右腕。
『第一武装・一撃必殺・杭打機パイルバンカーの作動を確認しました』
無機質な声がそう言った。
『上等!よくやった!』
杭打機は第四層とフィールドを丸々ぶち抜き、俺を重力の引き寄せる力そのままに地面へと引っ張る。
そこを身体を捻りノーダメージで着地。
『よぉユーリア、さっきぶり。中々いい睡眠導入ではあったな』
「…レィア、知っているか?鍵戦争にはルールがあってな、一度気絶すると敗北なんだ」
もちろん知ってる。
『なんと、そりゃ知らんかったなぁ』
すたすたとそのまま歩いてアーネの元へ。
『大丈夫か?』
「…大丈夫でしたわ」
ムスッとした顔でアーネがそう言う。
「貴方が手を出さなくても、大丈夫でしたわ!」
『まぁまぁ、そうカッカすんなよ。俺だってお前が負けるとは思ってなかったさ』
「おいおいレィア、それはいくらなんでも大目に見すぎだろう。私は耳長種エルフなんだぞ?魔法使いが私に勝てるわけが」
そう言うユーリアに、俺は鼻で笑って返す。
耳長種エルフだからって調子乗ってるから負けるんだよお前は。アーネが張ってた魔法陣にまだ気づいてないのか?』
「あぁ、炎弾の着弾点で魔法陣を書いてたヤツか?あれがどうした」
ぴっ、とユーリアが指さした先は焦げた地面。
よく見ると、その黒く焦げた箇所のいくらかが焦げずに白い。
魔力を見れば尚よく分かるが、その白い部分が魔法陣になっているのだ。
「あれならキッチリ私が潰しているぞ」
しかしその魔法陣に、同じく白で斜めに線が入っている。
魔法陣は魔法をこの世界に生み出すための設計図。これが乱れれば意図していた魔法と全く違うものが出たり、そもそも発動しなかったりする。そのため、今回のようにして、魔法陣に適当な線を一本でも引いておけばその魔法を使うのはまず無理になる。
『馬鹿、俺のパートナーを甘くみんなっての。あのぐらいの妨害だったらカチ無視して魔法を撃てるぞ、アーネは』
だが、設計図と言っても、小さな炎を出すだけの魔法であれば多少魔法陣を乱されたところで大きな差はない。せいぜいが消費魔力が大きくなる程度だろう。
そしてアーネのスキルは《圧縮》。大した威力が出ない魔法でも、彼女の手に掛かれば一撃必殺の致命になりかねない。
「な、なるほど?しかし私は魔法を切れるが──」
『アーネ、お前あの仕込み、幾つしてある?』
「百七十三ですわ」
「──は?」
ユーリアがポカンと口を半開きにする。
「まて、私との戦闘ではそんなに魔法を撃ってないだろう。ハッタリか?」
『こんなハッタリをカマして何になるんだよ。お前との戦闘じゃなくて、お前までの戦闘で仕込んだんだよ』
俺達は迎え撃つ側、チャレンジャーがこちら側のフィールドへとやってくる。
ユーリアが挑んでくるまでにくぐり抜けてきた戦闘で撃ち、下準備をしていたのだ。
『お前が耳長種エルフだからってアーネと魔法って土俵で戦ったのが悪かったな。とっとと間合いを詰めて切ってりゃ良かったのに』
これみよがしにやれやれと溜息をついてやると、ユーリアが軽く天を仰いだ。
「そうか。次は気をつけるとしよう。…で?勝ちがほぼ確定していたにも関わらず、わざわざフィールドを壊してまで乱入してきた理由は?」
『決まってんだろ、師匠が弟子に負けてちゃ格好がつかねぇじゃねぇか』
そう言って、足元に転がっていた銀剣を二振り拾い直す。
『正真正銘、最後の鍵戦争をしようぜ。ユーリア』
「………。」
『どうした?』
「いや、何。レィアも人のこと言えないな、と思ってな」
ニヤニヤと笑いながらそう言うユーリア。
『馬鹿言え、俺は負けるのが嫌いなだけだよ。何よりもな』
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