大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

毒蛇と捕獲2

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降り抜いた金剣は、バジリスクの表面を綺麗に滑り抜けるが、目的はこの戦技アーツを止めさせない事。続く第二撃の銀剣は正面から毒蛇の前足に刺さった。
恐ろしく硬い鱗を紙屑のように吹き散らし、鋼よりも強靭な筋肉を裂き、今まで斬って来た物の中でも指折りの硬さを誇るに到達する。
「オォッ!!」
『──!?』
おそらく奴が今までで一度も感じたことでないあろう感覚。それに戸惑ったのだろうか。一瞬、動きが止まった。
「ッッッ!!」
そして次の瞬間、宙を舞ういくつかの白い何か。
「生憎、爪だけ切り飛ばすなんて余裕は無かったんでな」
ぼとぼとっ、と地面に落ちたそれはバジリスクの指先。
「根こそぎ、持っていかせてもらった」
『………?、………。?……!?』
爬虫類のキョトンとした顔を、俺は人生で初めて見た。
理解が出来ないという風な動作で、自分の右の前足を顔の前に持って来、眺め、根元だけが開閉するように動いた後、ようやく理解したように叫び声を上げた。
「やかましいッ!」
バジリスクが手を眺めている隙に股の下を潜り、後脚の方へ。
この魔獣の基本的なつくりとして、後脚の方の爪には毒は含まれていない。では何故こちらの方に来たのか。
単純だ、目の前にいたら邪眼をモロに受けてしまう。それだけは絶対に受けてはならない。
振り返り、奴が俺に邪眼を叩き込む瞬間を少しでも伸ばす。ずらす。大切な事は、一瞬でも動きを止めないことと、動きを読まれないこと、そしてすぐにでも目を潰すことだ。
以前、学校の図書室で読んだ本に、「バジリスクの邪眼は魔力を使用し、眼を発射点として放たれる魔法と言い換えても差し支えない」と書かれていた。
つまり、見られたから石化するのでは無く、見られ、その後放たれる邪眼光線とでも言うような魔法が対象に当たる事で発動しているらしい。
加えて、バジリスクの邪眼は両目で対象を捕捉していないと発動できないとも書かれていた。なので背後に回り、振り返った瞬間、バジリスクの両目がこちらを捉える前に俺が奴の片目を引き裂く。これが恐らく最も安全な方法だ。
「来いよクソヘビトカゲ!!」
『シャハアアアアアアア!!』
人の警戒心に爪を立てるような、強烈な威嚇。思わず身体が竦んだ途端、シャルが警告の言葉を飛ばしてきた。
しかし反応は間に合わない。背後から強烈な一撃を受け、吹き飛ばされた先で横殴りの一撃をさらに受けて真横に飛ばされた。
「《緋眼騎士》、大丈夫かの?」
「死ぬかと思っ、た」
『大丈夫なのか…?折れたりは?』
大丈夫。死ぬほどいてぇけど多分それだけだ。
バジリスクは未だに興奮しているようで、周りをめちゃくちゃに破壊しているが、こちらに来る様子はない。おそらく俺も偶然巻き込まれた形なのだろう。
「髪で薄くとも身体を覆ってて助かった。なかったら死んでたな」
けふっ、とむせた口からは赤い塊。もうちょい吐けそうだな。
「その様子じゃとかなり苦しいじゃろ。薬じゃ。楽になる」
「助かる」
試験管に入った青紫の毒々しいそれを躊躇なく飲み干し、空いた容器を突き返しながらこう続ける。
「が、それよりお前の手助けを欲しいんだが」
そう言うと、《臨界点》は口元に手をやって考えた後、
「少しだけじゃぞ」
と言って懐から黄色い蓋のされた細長い試験管を取り出した。
中には透明な液体、何か不純物があるようでもなく、ただそれだけ。ラベルも何も無いし、魔力も全く感じられない。変わっているというか、少しでも特徴を挙げるとすれば、試験管の周りにやたらと水滴が集まっていることぐらいか。
「退け。邪魔じゃ」
「おっ、と」
俺を強引に押しのけ、直後。
《臨界点》が試験管の蓋を開けもせずにバジリスクに投げた。
が。
「当たんねぇのかよ」
怒り狂い、暴れ回るバジリスクの少し手前の地面に試験管が落ち、パリンと砕けて中身をぶちまけた。
しかし。
「当たり前じゃ。当たってたまるか」
「?」
《臨界点》がそう言った直後、唐突に地面が凍った。
「なんっ!?」
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