トンネルを抜けたらそこは異世界でした~SEから冒険者にジョブチェンジ~

防人2曹

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第2章 はじめての仲間

第9話 謎の少女

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 セルクス5頭征伐を終えて一か月――
 俺はエルダーセルクスを討伐したことを受けて、ギルマスからCランクへの昇格を言い渡された。またエルダーセルクスの買い取り金額として金貨2枚と大銀貨55枚、日本円に換算して2億5500万円という大金をいただいたので、その日は休みにしてエアリアと街に買い食いの旅に出ていた。
 また、東の森が行商人たちが普通に通れるようになったことから街の物価、特に食料品が適正価格に下がり、街の活気がだいぶ上がった。そして俺がこの世界に来た当時、物価高いんだなと思っていたのが間違いだったと気づかされたのだった。
 またようやく街の人たちにも顔と名前を覚えてもらえた、んだけど――

「あ、セルクスハンターの雄太兄ちゃん!」

 と、なぜか「セルクスハンター」とかいうわけわからん二つ名がついていたのはちょっといただけない。

「え? セルクスハンターってかっこいいじゃん! ねえ?」
「うん! 俺、雄太兄ちゃんみたいな冒険者になりたい!」
「私も! 雄太お兄さんみたいな人と結婚したい!」

 エアリアが俺の二つ名にニコニコし、そして集まっていたちびっ子たちがそれに呼応する。
 つか、まだ10歳くらいの女の子から「結婚」とか言われてもなあ――あと10年してから言われたらなびくかもしれないけれども――

 まあそれは置いておいて――

「雄太がセルクスを倒した時なんてかっこよかったんだよー!」
「聞かせて聞かせてー!」
「我が名は雄太。お前たちに死というプレゼントを渡すものだ」

 と、何とも中二病的なことをいうエアリア――って

「おい、なぜ俺がそんなことを言ったことになってんだ?」
「ええ、かっこいいじゃん!」
「うん! 他の人が言ってもただダサいだけだけど、雄太お兄さん言ったらめっちゃかっこいいよ!」

 俺、中二病患ったことないはずなんだけどなあ――

 と、街中央にある噴水前のベンチに腰掛けながら子供たちとなぜか中二病を患ってしまったエアリアとの話に付き合っている俺だった――



 翌日、俺たちはまたというかなんというか、セルクス退治の依頼を受けて西の森に行っていた。
 今日、すでにこの方法で4頭倒している。そして今目の前にいるのは5頭目のセルクスになる。
 当初、下級魔法のエアカッターで何とかなると思っていたのだが、全く通用しなかった。というか、エアリアから「そんなので通用するならDランクの魔物なんかになっていないよ」と突っ込まれてしまい、何かないのかと運転しながらもちょいちょい俺のステータスを確認していたら、「エアスラスト」という魔法を覚えていることに気づいた。

「このエアスラストって何?」
「はあ? そんなんも知らないの?――」
「苦情は後で聞くから――」

 というと、エアリアは「しょうがないなー」といいつつもメーターコンソール上で足を組み替えるとエアスラストという魔法を教えてくれた。どうやらエアカッターの上位魔法で威力も強いことが分かったので使ってみることにして、最後のセルクスの真横に来るように追う。
 そして――

「雄太、左にいるよ!」
「了解!」

 俺は車を左にドリフトさせてセルクスの突進を躱すと、車をドリフトさせながら右手を前に突き出してその掌をセルクスに向けると、

「エアスラスト!」

 と魔法名を唱えた。
 すると俺の掌から出た風が目の前のセルクスに向かって複数の風が吹いていく。そしてその風がセルクスの周りで一気に加速した。その加速した風から複数のかまいたちが発生した。その瞬間、セルクスの首と胴体が分離された。首をなくした胴体は首から血しぶきをあげながらまっすぐ走っていき、木にぶつかって倒れ絶命した。
 これまでに攻撃魔法としてはエアカッターを、防御魔法としてエアシールド、エアウォールを覚えてはいた。けれどもさすがにDランクの魔物、初級魔法のエアカッターは全く通用せずで困っていたところに、中級魔法のエアスラスト覚えていたのが救いだった。

「おー! 決まったねー雄太!」

 と、中央ダッシュボードの上に座って俺が放った魔法の効果を見ていたエアリアが拍手しながら称賛してはくれるのだが、俺はそのあまりのグロテスクな惨状に後付けしていたセンターコンソールのボックスからレジ袋を取りだして嘔吐した。

 魔法って、ハンパねえ――

「あれ? 雄太大丈夫?」

 俺の返事がないことを心配したのか知らんけれども、エアリアがレジ袋に空っぽの胃の中身を吐き出している俺の横に来てそう言ったのだが――

「ウエッ! さすがにこれはひどいニオイだね――」

 と、俺の嘔吐物を見ながら鼻をつまむエアリア。

「わりぃな――さすがにには慣れてなくてな――」
「まあそうだよね――今まで雄太のいた世界じゃこんなのそうそうなかっただろうし」
「だなー……」

 と俺がそう答えると、ディッシュを一枚を箱から抜き取って持って来てくれたエアリアから受け取ると口の周りをぬぐい、一旦外に出て大きく外の空気を吸いこむのだが、血の匂いがまとわりついている空気に少し餌付射ていると、ちっこい精霊から人化したエアリアがマジック収納庫から革でできた水袋を渡してくれる。

「はい雄太」
「ああ、ありがとうエアリア」

 水袋を受け取ると数回口の中をすすぐ。

「それにしても――やっぱ魔法ってスゲーんだな」
「まあ、今の雄太の魔法力はアタシの100分の1くらいだけどね」
「マジか!――」

 エアリアの言葉に驚きの声を上げると、「大マジ!」と得意気に胸を張りすぎてのけぞりながら鼻を高く見せようとするエアリア。

「スゲーな――」

 改めて精霊のすごさを実感してそう感嘆したのだが、

「いやいや、人間でありながらアタシの100分の1の魔法力を持っている雄太の方が異常なんだって」

 とエアリアが返してきたので、俺は鳩が豆鉄砲尾食らったような顔になる。

「いやあのね、そもそも人間の魔法力なんてアタシたち精霊の1万分の1程度あればいい方なんだよ。雄太にはその100倍の魔法力があるからアタシの100分の1ということになるわけ。わかる?」

 エアリアが右手の人差し指を立てながらこの世界の人間の魔法力と俺の魔法力をざっくり解説してくれた。

「マ、マジか――」
「そう、マジです。たぶん雄太が異世界人ってのもあるんだと思うけど、この世界に来るときにお母さんにあったというか、たぶんお母さんの加護も受けてると思うんだよ、きっと――」
「はい?」

 エアリアの母親の加護って、言うことは、俺は風の大精霊の加護を受けているというこのになる。慌ててステータスを確認するけれどもそんなステータスはどこにも書かれていない。

「あのね、そんなのステータスに書かれるわけないでしょ? むしろそんなの描いてあったら勇者とかいらないよ」

 というエアリア。
 確かにその通り――って、

「ん? 勇者っているの?」

 と聞くと、

「いるよ」

 とあっさり肯定された。

「いるんだ――あってみたいなあ――」
「けど今はどうなのかなあ――勇者って何かが起きる前兆がないと生まれないとか聞いたことあるし――」
「そうなの?」
「アタシはそう聞いてるよ」
「風の大精霊に?」
「まあ主にそうだね」
「ふーん――」

 できれば勇者ってやつに会ってみたいと思ってた俺は、少々がっかりしながら水袋から水を飲んだ。

「まあ、なにかそういう兆しがあればどこかで勇者が生まれた、とかいう情報にはありつけるんじゃないの?」
「ほんと?」
「たぶんね」

 会えるかもしれない、と思うとなんかワクワクしてくる俺――

「じゃあ、回収して帰ろっか」
「りょーかーい!」

 俺の声掛けにエアリアは右手で敬礼なんぞしながらセルクスの頭部と胴体をマジック収納庫に格納した。



   ☆☆☆  ☆☆☆



 アタシはエアリア。雄太と契約した風の精霊。
 アタシがいつ生まれたのかはわからない。けど、気が付いたら雄太の車の中にいた。
 たぶん雄太がこの世界に来た時に生まれたんだと思う。
 アタシが気が付くちょっと前に風の大精霊をやってるお母さんからの声が聞こえてきたんだ。

「これからはあなたがこの人間の手助けをしていきなさい。きっと面白い旅になるはずだから――」

 お母さんの声は透き通るようにやさしく、そして風のようにさわやかな声だったんだ。
 あ、風の大精霊だから風のようにってのはその通りだよね。
 雄太を最初に見たのは雄太今アタシたちがいるこの西の森のちょっと先の街道。そこで雄太は車の外で頭を抱えるように景色を見ているときだったんだ。
 雄太と話してみたいと思ったアタシは車の中に雄太を誘ったんだけど、でもこの車って雄太のなんだよね。そりゃ雄太が微妙な顔になるのは当然だよね。
 そんな感じで雄太と話して、雄太が気に入って、雄太と契約したアタシ。
 そのあとは楽しかった。けど雄太が危険なときもあった。雄太は気づいていたのかどうかはわからないけれども、雄太は一度寝込みを襲われそうになっていたんだ。それを撃退したのはアタシ。雄太の記憶の中からヒントをもらって、上から金属のたらいを落としたり、膝を木槌で叩いてみたり、1人女の人がいたから後ろからお尻を撫でたりしてね。
 そしたら今度は真昼間から雄太に襲い掛かってきたんだ。雄太はアタシを守ろうと必死に戦ってくれたけど、腕に矢を受けたり左肩を狼人族の女にやられたりとかして、それでアタシは雄太を守ろうと力を使った。その時は風の精霊の力でおびえさせるのが目的だったけど、雄太を傷つけたあの人間たちを許すことはできなくて、思わず超級魔法の「ストラクチャーデストラクション」を撃ってしまった。その結果、アタシはグレイソンとかいう男たち3人を風の力で消してしまったんだ。
 そのことが原因かどうかはわからないけど雄太は気を失った。アタシは精霊なのに誰かに助けを求めたんだ。あの時は雄太が死んでしまうかもしれないって思って気が動転してたからもしかしたら力の制御に失敗して雄太も消してしまうかもしれないと思ったから。
 雄太は無事に意識を取り戻して、クエルカリーナの領主に雄太がアタシと契約している人間だと認められてさらにランクアップまでしたし。まあ結果オーライ!
 そんな感じで今日の狩り――もとい任務も無事に終わったところで、雄太から「勇者」という言葉が出た。
 確かに勇者はこれまでにも何人も存在している。それはこの世界が混沌としたとき、世界に異変が起きたとき、天変地異が起きることが確実になった時、そういう時に勇者は誕生し、あるいは別の世界から転生してきたりしているとお母さんから聞いている。
 けど――

 雄太って、転生というよりも転移者なんだよね――けどお母さんと会ってるんだよね――
 でも転移者はいるにはいたらしい。それはお姉ちゃんからも聞いているしお母さんからもそう聞いてる。
 けど、転移者って大精霊と事前に会うなんてことあるんだっけ?

 一生懸命記憶を巻き戻してみるけど、そんな話はどこにもない――
 ということは、雄太ってもしかして「勇者」ってこと?

 お母さんが「面白い旅になる」って言ったのってこれだったの!?――

 って、今考えてもよくわかんないし、雄太が勇者なんだとしたら頼られ甲斐がありすぎて悶絶しそう!
 あ、でも雄太の前じゃ普通にしてなきゃ。というあ雄太が勇者って確定事項はどこにもないんだし。これまで通り雄太のサポートして雄太がこの世界を楽しんで生きていけるようにしてあげなきゃ!

「これからもがんばるぞー! オー!」

 とアタシがそう言いながら右の拳を突き上げてたら、

「おー、がんばろうなエアリア!」

 と雄太が笑って言ってくれた。
 雄太の笑った顔ってかわいい!
 精霊と人間の間に子供ってできるんだっけ?
 聞いたことない――けど試してみることは――
 けど雄太に嫌われたら元も子もないんだよね。

 これからもアタシは雄太のサポートに徹しよう!
 そう決めたのだった。



  ☆☆☆  ☆☆☆



 エアリアがセルクスの回収も終えて、一応血の混じったこの空気をエアリアに頼んできれいな空気にしてもらうと、もうきれいになったこの世界の空気を存分に味わうように大きく深呼吸をした。

 汚れた空気の日本と違って空気がおいしい!

「じゃあ帰ろう、雄太!」

 俺が深呼吸御を終えたのを見計らったかのように助手席のドアを開けようとしているエアリア。
 このまま車で帰るのもいいんだけど、今日ははじめて魔法で敵を倒したし、ちょっと気分もいいので、今日は車で帰らずに歩いて帰ることにした。そのことをエアリアに伝えたところ、

「えー! 車の中涼しくて快適なのにー」

 とふくれっ面になるエアリア。
 こいつ精霊なのにやたらと人間臭いのな。
 
 というか――

「エアリア、お前精霊のくせに俺のいた世界の技術で楽しようとか100万年早いんじゃねーの?」
「えー! こういう時は技術使うのが筋ってもんじゃないの?」
「そっかー。じゃあそうお前のに伝えてあげないとな――」

 そう俺が言うと、助手席を開けようとしていたエアリアは車から離れて俺のところに駆け寄ってきた。

「いやあ、初めて魔法でやっつけたね、雄太!」

 と明らかにごますりに来たエアリア。
 そのが広げた左手の掌をすり鉢に、握った右手をすり棒に見立てたように掌ですりすりと右手で「の」の字を書くような姿が目に浮かぶ、それくらいあからさまにごますりに来ているエアリア。

「じゃあ、街までレッツらゴー!」

 と号令をかけてごますりエアリアを横目に歩き出す俺。

「ええ! 無視しないでえ!」

 人化エアリアが走ってついてくる。

「お前さあ、ちっこくなって飛んで行きゃあいいんじゃねーの?」
「え? あ! その手があったね!」
「いやいや、それくらい――」
「じゃあ、アタシ疲れたから――」

 と、言ったエアリアがポンっと小さくなって俺の頭の上に着地する。いやが正しいか?

「お前、ほんとに精霊なの?」
「うん、精霊だよ」
「精霊ってさ、人間に力を貸す――」
「わけないじゃん!」
「って即答かよ!」
「だって、面倒臭いじゃない」
「マジか――」
「まあ、雄太の頼みだったら力貸してあげるよ?」
「じゃあ!――」
「エアリア様、わたくしめに力を貸してくださいって言ったらね!」

 なんつー精霊――俺こいつと契約して本当に良かったんだろうか――

「ふふーん、ねえどうする? どうする?」

 頭の上から聞こえてくるエアリアの声がすごく楽しそうだ――。

「ねえ、ねえ! 言わないの?」

 あ、あの手が!

「なあ、エアリア――」
「なに?」
「お前とのお前の会話な、全部お前の母ちゃんに筒抜けになってたとしたらどうする?」
「え゛?――」
「俺にはさあ、こいつがあるんだよね――」

 とポケットからスマホを取り出す俺。
 すると、ふわふわというか、よわよわといった方が良いかもしれない、そんな感じで俺の目の前に飛んでくるエアリア。

「ねえ、ほんと?――」
「どうだろうねえ――」

 ニヤリとする俺にエアリアの表情が青ざめていく。
 というか、エアリアのお母さんって知らないんだよね。あったことあるらしいけど俺知らんからあったことないのと同じだし――。

「ゆ、ゆうた――」
「なに?」
「お母さん、怒ってるの?――」

 と、もうブルブル震えてそういうエアリア。
 まあ、さすがに悪いことしたかな。ここらへんでやめておくか。

「いや、俺エアリアのお母さん知らないからな――」
「え!?」
「いやだから――」
「もしかして、ウソ?」
「ウソというか、デマカセ?」

 とスマホをひらひらさせながら言うと、エアリアの顔がだんだんと赤くなっていく。

「雄太のバカァ!!」
「エアリア?――」
「知らない!」
「いやだって――」
「ふん、だ!」

 エアリアがへそを曲げてしまった。
 まあ、さすがに俺もやりすぎたからなあ――。

「エアリア、ごめんな?」

 謝る俺に、エアリアは俺をちらちら見てきて、

「ア、アタシも――意地悪してゴメンナサイ――」
「じゃあ、コレで仲直りな?」
「うん!」
「よし、じゃあ帰ったらメシ食おうな!」
「じゃあアタシ、イノシシのステーキ食べたい!」
「いいぞ! 俺も食べようかな――」
「マネっ子さんだー!」

 ついさっきまで怒ってたカラスがもう笑った――いや、カラスはか――

 俺たちはこれまで食べた異世界飯で何がおいしかったか、とか日本の食事はどんなものがあったのかとかそんな会話で盛り上がりながら歩いていくと、あっという間に街近くの街道までやってきた。
 ちょうど街に続く川の橋を渡ろうとした時、橋を力なく歩く獣人族の女の子がいた。

「どうしたんだろ?」
「わかんないけど、ちょっとまずいかな――」

 俺は今にも倒れそうな獣人族の女の子に走り寄った。

「キミ、大丈夫?――」
「え?――」

 俺が声を掛けるとさすがに驚いたようで体をびくっとさせて、その場に崩れ落ちた。

「大丈夫?」

 ついさっきまで俺の頭の上に載っていたエアリアが人化して声をかけると、それまでいなかったはずの女性の姿をしたエアリアにも驚いて、体をビクッとさせる獣人の女の子。年の頃は15,6位かな――。けど獣人というか所謂亜人とされる人達の年齢はよくわからないから
あくまで見た目上だけども――。
 見ると弱弱しくなっているので、さすがにまずいだろと思い、エアリアにマジック収納庫から水袋を出してもらって女の子に水を飲ませる。
 すると、これがよく飲む。
 きっとこれまで結構な時間水分とってなかったんだろうなと思う。しかし今日は結構日差し強いから熱中症になってないといいんだけど、と思い回りを見てみると、橋を渡ってすぐのところに木があったので、そこの木陰まで行くことにしたのだが、さすがに歩けそうにないので、おんぶにするかどうするか迷ったが、たぶん遠慮するんだろうなと思ったので、獣人の彼女をお姫様抱っこで抱き上げた。

「え!? あの!――」
「恥ずかしいかもだけど少しだけ我慢してね」

 動揺する彼女にそう言って足早に端を木陰に連れて行き、木の幹に背中を預けて座れるように彼女を下ろす。
 座る彼女をよく見ると、服もお世辞にも小奇麗とは言いにくいくらいに薄汚れていている。たぶん相当な時間歩いてきたか、それとも先頭に巻き込まれて何とか逃げてきたのか――
 彼女の世話を一応見た目的に女性なエアリアが引き受けてくれているので、俺はエアリアに出してもらった保存食で軽くシチューっぽいものを作ることにした。街まではそんなに離れてはいないんだけど、さすがに少しは彼女に何か食べさせなきゃと思ったわけなのだ。
 まあ一緒に食べてもいいんだけど、それじゃあエアリアの希望が叶えられなくなるので、あくまでこれは一人分。
 なので分量もかなり少ないから当然料理にかかる時間もそれだけ短くもなるわけで。

「少しでも食べておいた方が良いからね」

 とできたシチューを木の深皿に入れてスプーンも添えた小さなお盆を彼女の足の上に乗せてやる。さすがに皿そのものだとやけどするかもしれないからね。

「食べていいんだよ?」

 とエアリアも彼女に食事を促す。
 彼女は俺とエアリアを交互に見ると、軽く頭を下げてスプーンでシチューを掬って口に運ぶ。
 一応エアリアからも好評なシチューだから問題はないと思われる。

「おいしい――」

 彼女がそう言って少し表情が緩くなった。
 見たところ、おそらく狼人族だと思うんだけど――どうして一人であそこにいたんだろうか――そしてかなりの時間、水も食料も取ってなかったっぽいけど、いったいどこから来たんだろうか?
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