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第一章 クエルカルーナでのはじめの一歩
第6話 雄太の決意
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「どこだここ?――」
俺が意識を取り戻したのは、見知らぬ天井の部屋だった。
頭はボーッとする――
何があったんだ?――
と寝たまま辺りを見渡していると、ちっこい版になったエアリアがふわふわ飛んで俺の目の前に止まった。
「雄太、大丈夫?」
と、心配そうな表情で俺を見てくるエアリア。
そのエアリアを見た瞬間、怒ったエアリアが出した風で、俺を攻撃してきた3人が霧散したシーンが頭の中に呼びかえってきた。
「あれ、お前の力だったんだよな――」
初めての対人戦でエアリアを怒らせた敵3人、そして悲鳴を上げながら霧散した敵3人――
ある意味平和な日本で生まれ育った俺にとってはショッキングな出来事だったし、俺自身も命の危険を感じた初めての出来事でもあった。
けれどもなぜか俺は冷静だった――なぜかはわからない。もしかしたらこれが異世界なんだと理解できたのかもしれないし、何とも言えない。
けれども、3人の命を奪ったことには間違いはないわけで――確かにあの状況だとどちらかが死ぬ状況であったことは間違いはなかったはずで、ぶっちゃければ、こうして生きていることに安堵していたりするのも事実であり、初めて他人の命を奪ってしまったという罪悪感もあって、今は色々とぐちゃぐちゃのままでもあった。
ただ、エアリアにあの力を使わせちゃいけないっていうことははっきりと理解できた。
あの力は驚異的でもあるし、下手すれば無関係の人の命すら奪いかねない諸刃の剣でもあると思った。
そのためには、俺がもっと強くならなければならないということを、俺は決意した。
「そういえば、雄太傷は痛む?」
俺の決意を感じたのか、エアリアは話題を変えてきた。
傷?――そういえば――と俺は寝たまま右腕を動かしたり左肩を動かしたりしたが、別段痛みを感じたり何かおかしいと思うこともなかったので、そのことをエアリアに言うと、エアリアはホッとしたような表情をした。
「そういえば、ここどこなんだ?」
疑問に感じた俺はエアリアにそう聞いてみたところ、ここは冒険者ギルドの医務室だという。
どうやら、俺が意識を手放してすぐ、俺たちの対人戦闘を見ていたパーティがいたようで、そのパーティが俺たちを助けてくれたそうだ。
「そうか、今度あったらお礼を言わないと――」
俺がそうつぶやくと、エアリアは「ちょっと待ってて」と言い残して開けっ放しになっている窓からふわふあというよりもスイーっという感じで飛んで出て行った。
どうしたのかわからず、とりあえず見送って目を瞑った。
どれくらいたったのだろうか、5分か10分か、たぶんそれくらいなんだろうと思うけど、部屋のドアが開いて誰かが入ってきたのが分かった。
「雄太、連れてきたよ」
とエアリアが俺の目の前にふわふわ浮かんで見下ろしながらにっこり笑っている。
「連れてきたって、誰を?――」
とエアリアに言いかけて、俺の左側に誰かが立っているのが分かった。
「やあ雄太君、大丈夫かい?」
と声をかけてきたのは、短髪のシルバーブロンドの前髪だけを上にあげている黒いマントを付けたこれまで見てきた冒険者の中ではすらっとしているように感じられる人間の男の人だった。年齢はたぶん俺とそんなに変わらないくらいなんじゃないかと思える人で、彼の他には若い女性2人。みんな黒いマントに黒い装備品で統一感を出しているように見えた。
「あなたは?――」
「僕は、ランス・シャドウ。黒衣の霧煙ってパーティのリーダーやってる」
「あ、どうも――」
「私はソフィア・ムーンシャドウといいます、ハーフエルフです。雄太くん、体の具合悪いところとかないですか?」
続いてそう声をかけてきたのは、左手に杖を持っている女性だった。持っている杖は所謂円筒形のものではなく、多角形の筒型をした黒い杖で、先端には水色っぽい石が付いていた。あれ、魔石なんだろうか?――
「はい、なんとか――」
「よかったです。ギルドまで連れてきたときはぐったりしていたから大丈夫か心配だったんですけど、無事で本当に良かったです――あ、私はエルフのリリス・ウィンドウォーカーといいます。」
と最後に声をかけてきたのは、エルフのように見える女の子だった。目を覚ました俺を見て目に涙さえ浮かべている。優しい子なんだな――
「僕達、グレイソン達がキミらに絡んでいっていた時の様子見てたんだけど、ぶっちゃけるとキミの契約した精霊の力には驚いた――」
グレイソン、それが大剣を持っていた男の名前らしい。
他にはエルフの男がレナード、獣人族の女がシャーロットといったんだそうな。シャーロットは狼人族という狼の獣人族の人だったらしい。
さらに、ランスさんが教えてくれたんだけどもクエルカリーナではここ十数年精霊と契約したという冒険者はいないのだそうだ。魔術を使う人間は多数いるけど、それは契約しているわけではなく自身が持つ魔力を使って術を行使しているのだそうだ。ただ王都には数年前まで精霊と契約していた人はいたのだという。ただ人間族ではなくエルフだったのだそうだ。エルフは精霊との相性がいいらしくて、だからこそ精霊との契約は基本的にエルフが多い。けれども精霊に選ばれるというだけで稀有な存在なのだと、エルフのリリスちゃんが教えてくれた。
もしかして俺が精霊と契約できたのって異世界人だからというオチはありそうな気がする――けど、まあそれはいいや。
☆☆☆ ☆☆☆
翌日――
体調の戻った俺は、ギルマスに呼ばれた。おそらくはグレイソンというかいう大剣使いの剣だろうと思う。昨日ああいう状況であったから今日、その話をするんだろうなという予想はあった。
なんであろうと3人の命を奪ったのだから何かしらの罰則とかあるんだろうな――冒険者ギルドからの追放とかじゃなければいいんだけどなあ……
とか考えながらギルドホールの階段を上がる俺。実は俺一人で呼ばれた。けどエアリアは俺の契約精霊だから、具現化してる時点でおかしいんだともリリスちゃんからもツッコミ食らったんだよね。なので、一応、エアリアはいないことになってる。で、もし旗色が悪くなったらその時にはエアリアに出ろとは言ってある。それまでは我慢しておくようにとも。もし破ったら「お母さんに言うぞ」という釘も指したうえで。まあ冒険者ができなくなったとしてもきっとこの世界を楽しくことはいくらでもあるだろうとも思うしね。
ということで、上階のギルマスの部屋のドアの前――
一度深呼吸をして、ノックをすると、中からギルマスの返事があってから部屋に入った。
「雄太クン、すまないがこれから一緒に来てもらう」
と入室した俺を見るとギルマス自身も席を立ち、そういって部屋奥のドアへ俺を誘う。
そのドアの先に何があるのだろうかと、ギルマスの後に続いてドアをくぐると、そこは階段になっていた。そしてその階段を降りると、何やら薄暗いホールっぽくなっていて、そこには1台の馬車が止まっていた。
ギルマスから「キミも一緒に乗ってほしい」と言われて馬車に乗る。その馬車はカーゴ式になっていて窓もあるけれども窓にはスモークのようなものが張られているのか、中からも外が、外からも中が見えないようになっているらしい。
移動の間、俺はどこに連れていかれるのか聞いてみた者の「それは到着後に話す」とだけ言われて、何も手掛かりを得ない状況。
しばらく無言のまま移動音だけが響く馬車の中、何度か左右に曲がったことはわかったのだが、それがいったいどこを曲がったのかについてはよくわからない。エアリアに聞けばすぐにわかるのだろうが、ギルマスがどういう意図で俺をどこに連れて行っているのかがわからない以上、下手な行動は控えるべきだとエアリアに届くように強く念じた。
そしてある橋のような場所を越えた後、馬車が停車して、ドアらしき何かが閉まるような音がした。
「到着だ、雄太クン。申し訳ないがココがどこなのかは、まだ教えられないんだ――」
とギルマスが困ったような顔をして言うので、俺も何も言えない。
馬車を降りた俺は、いかにも騎士というような鎧を着た屈強な男6人に囲まれた状態でギルマスの後に続いて歩く。そしてそのホールっぽい場所の奥にある扉が開いて、その扉をくぐると階段があり、その階段を下っていく。階段の両脇には魔法でつけられたのだろうか炎ではない光が階段を照らしている。下っていく先が地下であることは間違いはないようなのだが、よくわからないというのが正直な感想。けれども命の危険とかそういったものは感じないし、やばさも感じない。
――いったいどこへ向かっているんだ?――
そう思いながらも周囲に聞ける雰囲気ではないので、階段を下りた先の通路を歩いていく。この通路もまた階段と同じように光が周囲を照らしている。ただ、じめじめしているとかそんな気持ち悪さは感じない。
そして再び先ほど通った扉と同じ模様が描かれている扉。
その扉を抜けると、ホールのような場所にたどり着いた。
そのホールの中央には1人分の席があり、そして両脇に3~4人程度が座れる席が左右それぞれ向かい合うように設置されていて、目の前には10人くらいが座れるようなそんな席がある。さらにその一段上に玉座というかそんな感じの椅子が置かれてあった。
その部屋は玉座を除いて考えると、まるでニュースやドラマ等で見る裁判所のような、そんな部屋であった。その部屋の右側前方に中世欧州の宰相かと思われるような恰好をした片目眼鏡のいかにも「私偉いんです」というようなオーラを出している男性が立って俺をじっと見つめている。
俺はギルマスとともに左側の席に座るように言われた。
――何が行われるんだろうか?――
しばらくして、右側に何やら青い上着に白いスラックスのようなボトムを履いた男女3人が入ってきた。
そして「一同起立」とい声がかかり、ギルマスに倣って俺もその場に立つと、ホール前方には1人、すごい存在感のある、けれども屈強ではなくスマートなナイスミドルな男性が中世の貴族のような服装で、彼を中心に計8名の白いローブを纏った俺の父親と同年代かと思われる人や顎に真っ白く長い髭を蓄えたおじいちゃんのような人たちと入ってくると、貴族様なナイスミドルは玉座に座った。
それから1分くらいして、玉座のナイスミドルがホール右前方の「私偉いんです」な男性に一度頷くと「一同着席」の号令がかかり、号令をかけた「私偉いんです」な男性以外が着席をした。どうやら「私偉いんです」な男性は進行役のようだ。
――やっぱり何かの裁判なのか?――
進行役の男性が辺りを見渡したのち、何やら厚手の紙というのか革というのか巻かれた茶色いものを左手で上部を持ち、右手で開いた下方を持つ感じで広げた。もしかしたらよくファンタジーなものに出てくる「羊皮紙」というやつかもしれない。地球でも中世時代には使われていたとも聞いたことがある。
その「羊皮紙」っぽいものに目を落とした進行役が式進行を始めた。
そして、そこで俺が突然呼ばれたのだ。突然のことに俺は返事ができず、ギルマスに肘で腕を小突かれてようやく返事をした。
すると、俺は2人の騎士に両側をはさまれるような形で中央の席に移動させられた。
ん?? もしかして、これ裁判所っぽいんじゃなくてガチの裁判所なんじゃないの?
そんで、俺、もしかして被疑者っぽい感じ?――俺何かやらかした?――いや、やらかしたといえば1つ思い当たる節はあるんだけど、アレって正当防衛でしょ?――いや命奪ってるから過剰防衛になるのか?――
俺は一瞬でテンパった。
進行役の男性が何か言っているようだけど、よく聞き取れない――
俺がアワアワしていると、ギルマスが「ちょっとよろしいでしょうか」と声をあげてきて、それで周りが見えてきた感じになる俺――
進行役から許可が出たギルマスは俺に近づいてくる。
――いや、俺が被疑者ならギルマスは近づいてきて来たらギルマスまで影響しちゃうんじゃないの?――
その一瞬で俺の目の前でギルマスが磔の刑に処されるそんな光景が浮かんだ。
それはダメだそれはダメだそれはダメだ――
俺の横までやってきたギルマスに「離れて」と言いかけたその時、ギルマスから一枚に小さな紙を渡された。その紙を広げると「雄太クンは何も受けないから」と一言だけが書かれてあった。けどテンパってる俺にはその真意がよくわからない。
よくわからないまま式は進行していく。
そして、グレイソンという名前が式進行役から出てきて、「ほらやっぱり――」と、俺は過剰防衛の罪で裁かれるんだな――と諦めた。
――これはアレだな。俺がこの世界にやってきて地獄はごめんだからと帰りたくないと思った、あそこが俺の間違いの分岐点だったんだな――
と、一瞬にしてあの時の出来事が走馬灯のように目の前に浮かんでは消えていく。
その時だった――
『雄太は悪くないんだよ? 安心していいんだよ?』
というエアリアの声が聞こえた気がした。
もしかしてエアリアが俺との約束を破って出てきたのか?――と目だけでエアリアがいないか見てみてもいない。
『キャハハハ――これは思念だよ。雄太の世界でいうところのテレパシーと同じようなものだよ』
と再びエアリアの声。
と、エアリアの声が消えてから、式進行役の男性が俺に呼びかけていることに気づいた。
「岡崎雄太、キミはグレイソン一派に襲われ、それで精霊に力を借りた事で間違いはありませんな?」
進行役の声がクリアに聞こえてきて、「はい、そうです――」と一言だけ答えるのがやっとだった。
何が何なのかよくわからなかったものの、一応式は終わりを迎えそうな雰囲気を感じて「やっと終わる――」と思ったときに聞こえてきた式進行役の言葉に俺は
「え? ええぇぇぇええええ!?」
と大きな声をあげてしまったのであった。
俺が意識を取り戻したのは、見知らぬ天井の部屋だった。
頭はボーッとする――
何があったんだ?――
と寝たまま辺りを見渡していると、ちっこい版になったエアリアがふわふわ飛んで俺の目の前に止まった。
「雄太、大丈夫?」
と、心配そうな表情で俺を見てくるエアリア。
そのエアリアを見た瞬間、怒ったエアリアが出した風で、俺を攻撃してきた3人が霧散したシーンが頭の中に呼びかえってきた。
「あれ、お前の力だったんだよな――」
初めての対人戦でエアリアを怒らせた敵3人、そして悲鳴を上げながら霧散した敵3人――
ある意味平和な日本で生まれ育った俺にとってはショッキングな出来事だったし、俺自身も命の危険を感じた初めての出来事でもあった。
けれどもなぜか俺は冷静だった――なぜかはわからない。もしかしたらこれが異世界なんだと理解できたのかもしれないし、何とも言えない。
けれども、3人の命を奪ったことには間違いはないわけで――確かにあの状況だとどちらかが死ぬ状況であったことは間違いはなかったはずで、ぶっちゃければ、こうして生きていることに安堵していたりするのも事実であり、初めて他人の命を奪ってしまったという罪悪感もあって、今は色々とぐちゃぐちゃのままでもあった。
ただ、エアリアにあの力を使わせちゃいけないっていうことははっきりと理解できた。
あの力は驚異的でもあるし、下手すれば無関係の人の命すら奪いかねない諸刃の剣でもあると思った。
そのためには、俺がもっと強くならなければならないということを、俺は決意した。
「そういえば、雄太傷は痛む?」
俺の決意を感じたのか、エアリアは話題を変えてきた。
傷?――そういえば――と俺は寝たまま右腕を動かしたり左肩を動かしたりしたが、別段痛みを感じたり何かおかしいと思うこともなかったので、そのことをエアリアに言うと、エアリアはホッとしたような表情をした。
「そういえば、ここどこなんだ?」
疑問に感じた俺はエアリアにそう聞いてみたところ、ここは冒険者ギルドの医務室だという。
どうやら、俺が意識を手放してすぐ、俺たちの対人戦闘を見ていたパーティがいたようで、そのパーティが俺たちを助けてくれたそうだ。
「そうか、今度あったらお礼を言わないと――」
俺がそうつぶやくと、エアリアは「ちょっと待ってて」と言い残して開けっ放しになっている窓からふわふあというよりもスイーっという感じで飛んで出て行った。
どうしたのかわからず、とりあえず見送って目を瞑った。
どれくらいたったのだろうか、5分か10分か、たぶんそれくらいなんだろうと思うけど、部屋のドアが開いて誰かが入ってきたのが分かった。
「雄太、連れてきたよ」
とエアリアが俺の目の前にふわふわ浮かんで見下ろしながらにっこり笑っている。
「連れてきたって、誰を?――」
とエアリアに言いかけて、俺の左側に誰かが立っているのが分かった。
「やあ雄太君、大丈夫かい?」
と声をかけてきたのは、短髪のシルバーブロンドの前髪だけを上にあげている黒いマントを付けたこれまで見てきた冒険者の中ではすらっとしているように感じられる人間の男の人だった。年齢はたぶん俺とそんなに変わらないくらいなんじゃないかと思える人で、彼の他には若い女性2人。みんな黒いマントに黒い装備品で統一感を出しているように見えた。
「あなたは?――」
「僕は、ランス・シャドウ。黒衣の霧煙ってパーティのリーダーやってる」
「あ、どうも――」
「私はソフィア・ムーンシャドウといいます、ハーフエルフです。雄太くん、体の具合悪いところとかないですか?」
続いてそう声をかけてきたのは、左手に杖を持っている女性だった。持っている杖は所謂円筒形のものではなく、多角形の筒型をした黒い杖で、先端には水色っぽい石が付いていた。あれ、魔石なんだろうか?――
「はい、なんとか――」
「よかったです。ギルドまで連れてきたときはぐったりしていたから大丈夫か心配だったんですけど、無事で本当に良かったです――あ、私はエルフのリリス・ウィンドウォーカーといいます。」
と最後に声をかけてきたのは、エルフのように見える女の子だった。目を覚ました俺を見て目に涙さえ浮かべている。優しい子なんだな――
「僕達、グレイソン達がキミらに絡んでいっていた時の様子見てたんだけど、ぶっちゃけるとキミの契約した精霊の力には驚いた――」
グレイソン、それが大剣を持っていた男の名前らしい。
他にはエルフの男がレナード、獣人族の女がシャーロットといったんだそうな。シャーロットは狼人族という狼の獣人族の人だったらしい。
さらに、ランスさんが教えてくれたんだけどもクエルカリーナではここ十数年精霊と契約したという冒険者はいないのだそうだ。魔術を使う人間は多数いるけど、それは契約しているわけではなく自身が持つ魔力を使って術を行使しているのだそうだ。ただ王都には数年前まで精霊と契約していた人はいたのだという。ただ人間族ではなくエルフだったのだそうだ。エルフは精霊との相性がいいらしくて、だからこそ精霊との契約は基本的にエルフが多い。けれども精霊に選ばれるというだけで稀有な存在なのだと、エルフのリリスちゃんが教えてくれた。
もしかして俺が精霊と契約できたのって異世界人だからというオチはありそうな気がする――けど、まあそれはいいや。
☆☆☆ ☆☆☆
翌日――
体調の戻った俺は、ギルマスに呼ばれた。おそらくはグレイソンというかいう大剣使いの剣だろうと思う。昨日ああいう状況であったから今日、その話をするんだろうなという予想はあった。
なんであろうと3人の命を奪ったのだから何かしらの罰則とかあるんだろうな――冒険者ギルドからの追放とかじゃなければいいんだけどなあ……
とか考えながらギルドホールの階段を上がる俺。実は俺一人で呼ばれた。けどエアリアは俺の契約精霊だから、具現化してる時点でおかしいんだともリリスちゃんからもツッコミ食らったんだよね。なので、一応、エアリアはいないことになってる。で、もし旗色が悪くなったらその時にはエアリアに出ろとは言ってある。それまでは我慢しておくようにとも。もし破ったら「お母さんに言うぞ」という釘も指したうえで。まあ冒険者ができなくなったとしてもきっとこの世界を楽しくことはいくらでもあるだろうとも思うしね。
ということで、上階のギルマスの部屋のドアの前――
一度深呼吸をして、ノックをすると、中からギルマスの返事があってから部屋に入った。
「雄太クン、すまないがこれから一緒に来てもらう」
と入室した俺を見るとギルマス自身も席を立ち、そういって部屋奥のドアへ俺を誘う。
そのドアの先に何があるのだろうかと、ギルマスの後に続いてドアをくぐると、そこは階段になっていた。そしてその階段を降りると、何やら薄暗いホールっぽくなっていて、そこには1台の馬車が止まっていた。
ギルマスから「キミも一緒に乗ってほしい」と言われて馬車に乗る。その馬車はカーゴ式になっていて窓もあるけれども窓にはスモークのようなものが張られているのか、中からも外が、外からも中が見えないようになっているらしい。
移動の間、俺はどこに連れていかれるのか聞いてみた者の「それは到着後に話す」とだけ言われて、何も手掛かりを得ない状況。
しばらく無言のまま移動音だけが響く馬車の中、何度か左右に曲がったことはわかったのだが、それがいったいどこを曲がったのかについてはよくわからない。エアリアに聞けばすぐにわかるのだろうが、ギルマスがどういう意図で俺をどこに連れて行っているのかがわからない以上、下手な行動は控えるべきだとエアリアに届くように強く念じた。
そしてある橋のような場所を越えた後、馬車が停車して、ドアらしき何かが閉まるような音がした。
「到着だ、雄太クン。申し訳ないがココがどこなのかは、まだ教えられないんだ――」
とギルマスが困ったような顔をして言うので、俺も何も言えない。
馬車を降りた俺は、いかにも騎士というような鎧を着た屈強な男6人に囲まれた状態でギルマスの後に続いて歩く。そしてそのホールっぽい場所の奥にある扉が開いて、その扉をくぐると階段があり、その階段を下っていく。階段の両脇には魔法でつけられたのだろうか炎ではない光が階段を照らしている。下っていく先が地下であることは間違いはないようなのだが、よくわからないというのが正直な感想。けれども命の危険とかそういったものは感じないし、やばさも感じない。
――いったいどこへ向かっているんだ?――
そう思いながらも周囲に聞ける雰囲気ではないので、階段を下りた先の通路を歩いていく。この通路もまた階段と同じように光が周囲を照らしている。ただ、じめじめしているとかそんな気持ち悪さは感じない。
そして再び先ほど通った扉と同じ模様が描かれている扉。
その扉を抜けると、ホールのような場所にたどり着いた。
そのホールの中央には1人分の席があり、そして両脇に3~4人程度が座れる席が左右それぞれ向かい合うように設置されていて、目の前には10人くらいが座れるようなそんな席がある。さらにその一段上に玉座というかそんな感じの椅子が置かれてあった。
その部屋は玉座を除いて考えると、まるでニュースやドラマ等で見る裁判所のような、そんな部屋であった。その部屋の右側前方に中世欧州の宰相かと思われるような恰好をした片目眼鏡のいかにも「私偉いんです」というようなオーラを出している男性が立って俺をじっと見つめている。
俺はギルマスとともに左側の席に座るように言われた。
――何が行われるんだろうか?――
しばらくして、右側に何やら青い上着に白いスラックスのようなボトムを履いた男女3人が入ってきた。
そして「一同起立」とい声がかかり、ギルマスに倣って俺もその場に立つと、ホール前方には1人、すごい存在感のある、けれども屈強ではなくスマートなナイスミドルな男性が中世の貴族のような服装で、彼を中心に計8名の白いローブを纏った俺の父親と同年代かと思われる人や顎に真っ白く長い髭を蓄えたおじいちゃんのような人たちと入ってくると、貴族様なナイスミドルは玉座に座った。
それから1分くらいして、玉座のナイスミドルがホール右前方の「私偉いんです」な男性に一度頷くと「一同着席」の号令がかかり、号令をかけた「私偉いんです」な男性以外が着席をした。どうやら「私偉いんです」な男性は進行役のようだ。
――やっぱり何かの裁判なのか?――
進行役の男性が辺りを見渡したのち、何やら厚手の紙というのか革というのか巻かれた茶色いものを左手で上部を持ち、右手で開いた下方を持つ感じで広げた。もしかしたらよくファンタジーなものに出てくる「羊皮紙」というやつかもしれない。地球でも中世時代には使われていたとも聞いたことがある。
その「羊皮紙」っぽいものに目を落とした進行役が式進行を始めた。
そして、そこで俺が突然呼ばれたのだ。突然のことに俺は返事ができず、ギルマスに肘で腕を小突かれてようやく返事をした。
すると、俺は2人の騎士に両側をはさまれるような形で中央の席に移動させられた。
ん?? もしかして、これ裁判所っぽいんじゃなくてガチの裁判所なんじゃないの?
そんで、俺、もしかして被疑者っぽい感じ?――俺何かやらかした?――いや、やらかしたといえば1つ思い当たる節はあるんだけど、アレって正当防衛でしょ?――いや命奪ってるから過剰防衛になるのか?――
俺は一瞬でテンパった。
進行役の男性が何か言っているようだけど、よく聞き取れない――
俺がアワアワしていると、ギルマスが「ちょっとよろしいでしょうか」と声をあげてきて、それで周りが見えてきた感じになる俺――
進行役から許可が出たギルマスは俺に近づいてくる。
――いや、俺が被疑者ならギルマスは近づいてきて来たらギルマスまで影響しちゃうんじゃないの?――
その一瞬で俺の目の前でギルマスが磔の刑に処されるそんな光景が浮かんだ。
それはダメだそれはダメだそれはダメだ――
俺の横までやってきたギルマスに「離れて」と言いかけたその時、ギルマスから一枚に小さな紙を渡された。その紙を広げると「雄太クンは何も受けないから」と一言だけが書かれてあった。けどテンパってる俺にはその真意がよくわからない。
よくわからないまま式は進行していく。
そして、グレイソンという名前が式進行役から出てきて、「ほらやっぱり――」と、俺は過剰防衛の罪で裁かれるんだな――と諦めた。
――これはアレだな。俺がこの世界にやってきて地獄はごめんだからと帰りたくないと思った、あそこが俺の間違いの分岐点だったんだな――
と、一瞬にしてあの時の出来事が走馬灯のように目の前に浮かんでは消えていく。
その時だった――
『雄太は悪くないんだよ? 安心していいんだよ?』
というエアリアの声が聞こえた気がした。
もしかしてエアリアが俺との約束を破って出てきたのか?――と目だけでエアリアがいないか見てみてもいない。
『キャハハハ――これは思念だよ。雄太の世界でいうところのテレパシーと同じようなものだよ』
と再びエアリアの声。
と、エアリアの声が消えてから、式進行役の男性が俺に呼びかけていることに気づいた。
「岡崎雄太、キミはグレイソン一派に襲われ、それで精霊に力を借りた事で間違いはありませんな?」
進行役の声がクリアに聞こえてきて、「はい、そうです――」と一言だけ答えるのがやっとだった。
何が何なのかよくわからなかったものの、一応式は終わりを迎えそうな雰囲気を感じて「やっと終わる――」と思ったときに聞こえてきた式進行役の言葉に俺は
「え? ええぇぇぇええええ!?」
と大きな声をあげてしまったのであった。
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