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第28話 披露宴
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結納の日取りを決めた翌日、2人は防衛省共済組合へ150人規模での式場予約をした。
なぜ150人規模としたのか、それは自衛隊関係者で100~120人程度を自衛隊関係者として、残り30人程度を親族としたからである。
一般の友人知人はどうするのかというと、別途レストランを貸し切った参加費形式の立食披露宴を予定していたので、一般の友人知人はそっちに回すことにしたのである。
ではなぜ分けたのか、それは建前も関係している。さすがに自衛隊関係者をレストランでの披露宴に回すことはさすがにできない。それは第4師団司令兼福岡駐屯地司令である駒田陸将が「絶対に行くから呼べよ」と言ってきていたからである。世が世なら陸軍の将軍である。そんな人が一般の友人知人も交えた形での披露宴で楽しめるのかと言われれば、雲の上の人過ぎて楽しめないだろうと、2人の意見が一致したからであった。
そういうわけであるから、結納から披露宴までの間が狭くても何ら問題はなかったともいえる。
「ねえ、抑えるレストランってここだよね?」
「そうそう、そこだよ」
結婚式から帰ってきた新婚ほやほやの啓太と恵里菜はメッセンジャーアプリでゴーグルマップを使った案内状を作っている真っ最中である。
2人が抑えたレストランは、伊原三佐の友人が経営しているレストランで、立食パーティにも対応できるところであった。場所も最寄駅から徒歩10分圏内であることで2人は伊原三佐夫妻と一緒に貸し切りの予約を入れたのである。
啓太も恵里菜も一般の友人というと小中高の同級生や先輩後輩くらいであるため、100人には満たないわけで。なのでホテルではなくレストランでも十分であることもこの方法をとった理由でもあったし、参加費であればお祝儀のように諭吉さん何枚も飛んでいくというわけでもないし、遠方から来るという人にはビジネスホテルを予約することも検討していた。
「ねえ、啓太。これで良いか確認お願い」
「了解」
啓太は、寄り添ってソファに座っている恵里菜が作った案内状メッセージを自分のスマホに送って表示内容とかを確認した。
特に問題もないし、誤字脱字もない。
「OK、大丈夫!」
「よかった。じゃあこれ送るね」
「よろしく」
「はーい、ぽちっとな――」
恵里菜はメッセージを呼びたい友人たちを入れたグループに一斉送信した。
すぐに何人かの既読が付いて、さらにすぐに出席返答を寄越した友人もいた。
「わ、早いよー」
とケラケラ笑いながらメッセンジャーアプリでチャットを楽しむ恵里菜。
そんな恵里菜を見ながら啓太も呼びたい友人にメッセージを送った。
そして1人、すぐに既読が付いてその人物から出席返答があって、すぐに電話がかかってきた。
それは、小学校からの友人である笹川礼二であった。
「はい、鳴無です」
『よう、啓太か。結婚おめでとう』
久しぶりに聞く親友の声だった。
高校の時付き合っていた女子生徒を妊娠させてしまったことから学校を辞めて皆より一足先に社会人となったのだが、両家の親の説得もあって、今は大検を取って大学4回生だという。
そして礼二の声の後ろに子供の元気に遊ぶ声が聞こえてくる。
「礼奈ちゃんの声かい?」
『ああ、もうすぐ6歳になるよ』
「そっか。可愛いだろ?」
『可愛くないわけないだろ』
と2人して笑いあう。
「礼二が元気でいてくれたことが嬉しいよ」
と啓太が言うと、
『何の告白だよ』
と礼二が笑って、
『俺の方が、啓太がちゃんと結婚することができるまでになってよかったと思ってる。俺が学校辞めてからのこと色々聞いていたしな。それについて俺がどうこう言える資格はなかったしな。ホントすまなかった』
「礼二に謝罪されるようなことは一つもないけど? あれは俺が自分で出した答えだったんだよ。それにさ、恵里菜と出会ってそこから歯車がまた回りだした、それだけのことだよ」
『お前もだいぶ丸くなったな』
「それはお互い様だ」
と電話を通して笑いあう親友2人。
『おっと、礼奈が呼んでるから。お前と再会できる日楽しみにしてるよ。あと、その日はぜひ自衛隊の制服で来いよな。みんなお前がどんな自衛官になったのかって楽しみにしてんだからさ』
「わかったよ。じゃあ披露宴でな」
と電話を切る啓太。
そのほっとしたような表情を見て、恵里菜は啓太の方に頭を預けた。
「どした? つかれた?」
「ううん。啓太が優しい表情してるから」
「ん? 俺いつもおっかない表情してる?」
「ううん、そうじゃなくて――私の大好きな啓太の顔なんだ」
「んーそなの?」
「そなの!」
と恵里菜は「えいっ」と別に必要のない声を上げて啓太の腕に抱き着いた。
「エヘヘ、どっちの披露宴も楽しみだね」
「そうだな――。でも最初のはかなり緊張しそうだけどな」
と啓太苦笑すると、恵里菜もつられて苦笑して、
「なんせ司令が来るんだもんね」
「そこだよ。しかもなんか総監も来るとか言ってるらしいんだよ。なんでも駒田陸将と総監は防大の同期なんだってさ」
「へえ、そうなんだ――」
「らしいよ――。で部隊に連絡が来てたらしいから速攻で出欠案内状を出したよ」
「え? そうなの?」
「そ。で、これがその返信」
と啓太は出席する人達の返信から西部方面総監である工藤陸将の返信ハガキを取り出して恵里菜に渡す。
「マヂですか――?」
「マヂです――」
2人は同時に盛大なため息をついた。
披露宴当日――。
親族たちが集まった部屋に、啓太と恵里菜はそれぞれ挨拶に行った。
親族たちに快く祝福される2人。それだけで泣きそうになる恵里菜に啓太はそっとハンカチを渡す。
「みなさん、本日は私共の披露宴に来ていただきましてありがとうございます。至らぬ点もあると思いますが、恵里菜さんを大切にしていきますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」
と啓太が言い、2人一緒に一礼をした。
そんな新郎新婦に下川家親族は拍手を送った。
親族への挨拶から化粧や衣装を整えた二人は、会場スタッフの下で会場入室を待った。
緊張でガチガチであった新郎新婦の扉を開ける係の女性スタッフが変顔をして、それに噴き出してしまったことで新郎新婦の緊張も一気にほぐれた。
「いい笑顔ですよ、お2人共」
スタッフに言われて、啓太と恵里菜は顔を見合わせて微笑み合う。そして、
「さあ、行ってらっしゃいお2人さん」
扉を開けたスタッフに促されるままに会場に入室する2人。その2人にスポットライトが照らされる。
啓太は真っ白い爪入り礼服に礼帽、そして腰にサーベルを指している。
その啓太の左側に右手で啓太と腕を組んでいる恵里菜は純白のウェディングドレスを纏っていた。
2人は歓声が上がる中、ひな壇へと向かい、スタッフに誘導されるままに啓太は伊原三佐夫妻の左側に、恵里菜は下川夫妻の右側に立ち、啓太は挙手の敬礼をし、恵里菜はお辞儀をした。
会場の中には啓太の啓太と同じく白い礼装に腰にサーベルを指している前期後期、そして陸曹教育隊での同期達がいた。
部隊長や同期の祝辞を貰い、そして余興に入った。
余興ではまず啓太の同期がそろって同期の桜を歌い、2番からは啓太も中に入れられて一緒に歌わされた。
次に恵里菜の同期の婦人自衛官達が昭和な定番ソングでもある「テントウ虫のサンバ」を歌い、その他余興が終わると、恵里菜がお色直しに入るため、いったん二人は腕を組んで会場を後にして、恵里菜は緑色のドレスに着替えて再び入ってくると、そのままキャンドルサービスに入った。
キャンドルサービスが終わると、友人代表挨拶となった。
啓太の代表は健軍駐屯地勤務の山下三曹。
「鳴無啓太三等陸曹、そして下川恵里菜三等陸曹。本日は誠におめでとうございます」
というテンプレな出だしで始まると、陸曹教育隊での笑い話などを交えて啓太が如何に真面目で、でも真面目過ぎずユーモアを持っているのかを面白おかしく話し、さらに演習場整備後の壮行会でのことにも触れて会場を爆笑させた。
そして恵里菜の代表は先日退院して現在は週2回通院となった山中三曹だった。
出だしは山下三曹と同じだったが、恵里菜がトラウマを抱えてしまったこと、そして啓太と出会って少しずつ昔の恵里菜に戻っていき、今はもう過去のトラウマを克服した事を交えて、周囲を感動させた。
そして最後に――。
「鳴無三曹、恵里菜をお願いします。もし泣かせたりしたら、格闘徽章持ちの蹴りと突きが飛んでくることを覚悟しておいてください」
と、制服に着ける格闘徽章をポケットから出して啓太に突き出してそう言って、挨拶を終えた。
そして、サプライズとして、第4師団司令の駒田陸将と西部方面総監の工藤陸将の祝辞があって、恵里菜の両親への手紙の時間になったのだが、そこには姉成美も呼ばれた。
「お父さん、お母さん、私をここまで育ててくれてありがとう。そしてお姉ちゃん、私に自衛官という道を与えてくれてありがとう。お姉ちゃんのおかげで私は啓太と出会えました。啓太と出会えたから私はここまでこれたんだと思います。お父さん、お母さん、啓太との結婚を認めてくれてありがとう。私は啓太と幸せになります。だからこれからも守っていてください」
最後は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。そんな恵里菜にすっと寄り添ってポケットからハンカチを渡す啓太に、周囲も感動した。この二人ならきっと大丈夫だと、この会場にいる全員に思わせた瞬間でもあった。
2人の披露宴の式辞がすべて終わり、新郎新婦の退場となった時、啓太と同じく白い礼装の同期達がサーベルでアーチを作った。その瞬間、親族からは「これがサーベルアーチか」という声が、婦人自衛官からも「私も絶対これやってもらう!」という声が上がった。
そのサーベルアーチの中を啓太と恵里菜が腕を組んで退場していく。退場する間、会場からは拍手が絶得ることはなかった。
披露宴から一週間後、今度は一般の友人たちを対象とした立食披露宴が行われた。
啓太は礼二との約束通り、自衛隊の制服で参加した。そして恵里菜も、啓太と同様に自衛隊制服で参加をしたのである。
そこで啓太は礼二と礼二の妻であり啓太と同級生でもあった絵里と再会し、他にもかつて交際していた立花麻衣、旧姓、遠野麻衣とも再会した。
啓太と礼二は久々の再開に固く握手をした。
「啓太、元気そうで何よりだ。こちらが?」
「ああ、妻の恵里菜だよ。恵里菜、コレが親友の笹川礼二だよ」
「おまえ、コレってなんだ」
と啓太に突っ込んでから、恵里菜に挨拶をする。
「笹川です。この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。妻の恵里菜と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
礼二と挨拶をしていると、啓太の同級生たちが
「啓太、久しぶり!」
「鳴無君、自衛隊の制服カッコいい!」
「そして奥さんの制服姿もカッコいい!」
等々、啓太の友人たちから声が上がり、続いて恵里菜の友人たちに挨拶をした。
恵里菜は女子高出身のため、参加してる友人も当然女子ばかりで、ただ、恵里菜の制服姿を女性だけの歌劇団のような感じで惚れ惚れしたり、啓太とのなれそめを突撃レポーターよろしく聞いたり、啓太を値踏みしたり、2人の制服姿をキャーキャー言いながら写真に撮ったりしていた。
さすが女子――。
よく三人寄れば姦しいというが、それが十数人規模となると、もう手が付けられない状況に。
そこに啓太の独身でフリーな同級生が入ると、そこはもう、どこのコンパですか?、な状態になっていた。
また、写真のSNSへのアップは、ダメと言ってもアップする人はいるだろうからと、アップする条件として名前を隠してもらうようにお願いしていた。理由は二人とも顔出しでSNSに写真を上げているのだが、名前はニックネームで通していたからであった。
条件をクリアすれば写真のSNSアップをしても良いということで、日頃自衛官と触れ合うことのできない自衛隊ファンな友人達が、皆条件を守ってこぞってSNSにアップするのだった。
なぜ150人規模としたのか、それは自衛隊関係者で100~120人程度を自衛隊関係者として、残り30人程度を親族としたからである。
一般の友人知人はどうするのかというと、別途レストランを貸し切った参加費形式の立食披露宴を予定していたので、一般の友人知人はそっちに回すことにしたのである。
ではなぜ分けたのか、それは建前も関係している。さすがに自衛隊関係者をレストランでの披露宴に回すことはさすがにできない。それは第4師団司令兼福岡駐屯地司令である駒田陸将が「絶対に行くから呼べよ」と言ってきていたからである。世が世なら陸軍の将軍である。そんな人が一般の友人知人も交えた形での披露宴で楽しめるのかと言われれば、雲の上の人過ぎて楽しめないだろうと、2人の意見が一致したからであった。
そういうわけであるから、結納から披露宴までの間が狭くても何ら問題はなかったともいえる。
「ねえ、抑えるレストランってここだよね?」
「そうそう、そこだよ」
結婚式から帰ってきた新婚ほやほやの啓太と恵里菜はメッセンジャーアプリでゴーグルマップを使った案内状を作っている真っ最中である。
2人が抑えたレストランは、伊原三佐の友人が経営しているレストランで、立食パーティにも対応できるところであった。場所も最寄駅から徒歩10分圏内であることで2人は伊原三佐夫妻と一緒に貸し切りの予約を入れたのである。
啓太も恵里菜も一般の友人というと小中高の同級生や先輩後輩くらいであるため、100人には満たないわけで。なのでホテルではなくレストランでも十分であることもこの方法をとった理由でもあったし、参加費であればお祝儀のように諭吉さん何枚も飛んでいくというわけでもないし、遠方から来るという人にはビジネスホテルを予約することも検討していた。
「ねえ、啓太。これで良いか確認お願い」
「了解」
啓太は、寄り添ってソファに座っている恵里菜が作った案内状メッセージを自分のスマホに送って表示内容とかを確認した。
特に問題もないし、誤字脱字もない。
「OK、大丈夫!」
「よかった。じゃあこれ送るね」
「よろしく」
「はーい、ぽちっとな――」
恵里菜はメッセージを呼びたい友人たちを入れたグループに一斉送信した。
すぐに何人かの既読が付いて、さらにすぐに出席返答を寄越した友人もいた。
「わ、早いよー」
とケラケラ笑いながらメッセンジャーアプリでチャットを楽しむ恵里菜。
そんな恵里菜を見ながら啓太も呼びたい友人にメッセージを送った。
そして1人、すぐに既読が付いてその人物から出席返答があって、すぐに電話がかかってきた。
それは、小学校からの友人である笹川礼二であった。
「はい、鳴無です」
『よう、啓太か。結婚おめでとう』
久しぶりに聞く親友の声だった。
高校の時付き合っていた女子生徒を妊娠させてしまったことから学校を辞めて皆より一足先に社会人となったのだが、両家の親の説得もあって、今は大検を取って大学4回生だという。
そして礼二の声の後ろに子供の元気に遊ぶ声が聞こえてくる。
「礼奈ちゃんの声かい?」
『ああ、もうすぐ6歳になるよ』
「そっか。可愛いだろ?」
『可愛くないわけないだろ』
と2人して笑いあう。
「礼二が元気でいてくれたことが嬉しいよ」
と啓太が言うと、
『何の告白だよ』
と礼二が笑って、
『俺の方が、啓太がちゃんと結婚することができるまでになってよかったと思ってる。俺が学校辞めてからのこと色々聞いていたしな。それについて俺がどうこう言える資格はなかったしな。ホントすまなかった』
「礼二に謝罪されるようなことは一つもないけど? あれは俺が自分で出した答えだったんだよ。それにさ、恵里菜と出会ってそこから歯車がまた回りだした、それだけのことだよ」
『お前もだいぶ丸くなったな』
「それはお互い様だ」
と電話を通して笑いあう親友2人。
『おっと、礼奈が呼んでるから。お前と再会できる日楽しみにしてるよ。あと、その日はぜひ自衛隊の制服で来いよな。みんなお前がどんな自衛官になったのかって楽しみにしてんだからさ』
「わかったよ。じゃあ披露宴でな」
と電話を切る啓太。
そのほっとしたような表情を見て、恵里菜は啓太の方に頭を預けた。
「どした? つかれた?」
「ううん。啓太が優しい表情してるから」
「ん? 俺いつもおっかない表情してる?」
「ううん、そうじゃなくて――私の大好きな啓太の顔なんだ」
「んーそなの?」
「そなの!」
と恵里菜は「えいっ」と別に必要のない声を上げて啓太の腕に抱き着いた。
「エヘヘ、どっちの披露宴も楽しみだね」
「そうだな――。でも最初のはかなり緊張しそうだけどな」
と啓太苦笑すると、恵里菜もつられて苦笑して、
「なんせ司令が来るんだもんね」
「そこだよ。しかもなんか総監も来るとか言ってるらしいんだよ。なんでも駒田陸将と総監は防大の同期なんだってさ」
「へえ、そうなんだ――」
「らしいよ――。で部隊に連絡が来てたらしいから速攻で出欠案内状を出したよ」
「え? そうなの?」
「そ。で、これがその返信」
と啓太は出席する人達の返信から西部方面総監である工藤陸将の返信ハガキを取り出して恵里菜に渡す。
「マヂですか――?」
「マヂです――」
2人は同時に盛大なため息をついた。
披露宴当日――。
親族たちが集まった部屋に、啓太と恵里菜はそれぞれ挨拶に行った。
親族たちに快く祝福される2人。それだけで泣きそうになる恵里菜に啓太はそっとハンカチを渡す。
「みなさん、本日は私共の披露宴に来ていただきましてありがとうございます。至らぬ点もあると思いますが、恵里菜さんを大切にしていきますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」
と啓太が言い、2人一緒に一礼をした。
そんな新郎新婦に下川家親族は拍手を送った。
親族への挨拶から化粧や衣装を整えた二人は、会場スタッフの下で会場入室を待った。
緊張でガチガチであった新郎新婦の扉を開ける係の女性スタッフが変顔をして、それに噴き出してしまったことで新郎新婦の緊張も一気にほぐれた。
「いい笑顔ですよ、お2人共」
スタッフに言われて、啓太と恵里菜は顔を見合わせて微笑み合う。そして、
「さあ、行ってらっしゃいお2人さん」
扉を開けたスタッフに促されるままに会場に入室する2人。その2人にスポットライトが照らされる。
啓太は真っ白い爪入り礼服に礼帽、そして腰にサーベルを指している。
その啓太の左側に右手で啓太と腕を組んでいる恵里菜は純白のウェディングドレスを纏っていた。
2人は歓声が上がる中、ひな壇へと向かい、スタッフに誘導されるままに啓太は伊原三佐夫妻の左側に、恵里菜は下川夫妻の右側に立ち、啓太は挙手の敬礼をし、恵里菜はお辞儀をした。
会場の中には啓太の啓太と同じく白い礼装に腰にサーベルを指している前期後期、そして陸曹教育隊での同期達がいた。
部隊長や同期の祝辞を貰い、そして余興に入った。
余興ではまず啓太の同期がそろって同期の桜を歌い、2番からは啓太も中に入れられて一緒に歌わされた。
次に恵里菜の同期の婦人自衛官達が昭和な定番ソングでもある「テントウ虫のサンバ」を歌い、その他余興が終わると、恵里菜がお色直しに入るため、いったん二人は腕を組んで会場を後にして、恵里菜は緑色のドレスに着替えて再び入ってくると、そのままキャンドルサービスに入った。
キャンドルサービスが終わると、友人代表挨拶となった。
啓太の代表は健軍駐屯地勤務の山下三曹。
「鳴無啓太三等陸曹、そして下川恵里菜三等陸曹。本日は誠におめでとうございます」
というテンプレな出だしで始まると、陸曹教育隊での笑い話などを交えて啓太が如何に真面目で、でも真面目過ぎずユーモアを持っているのかを面白おかしく話し、さらに演習場整備後の壮行会でのことにも触れて会場を爆笑させた。
そして恵里菜の代表は先日退院して現在は週2回通院となった山中三曹だった。
出だしは山下三曹と同じだったが、恵里菜がトラウマを抱えてしまったこと、そして啓太と出会って少しずつ昔の恵里菜に戻っていき、今はもう過去のトラウマを克服した事を交えて、周囲を感動させた。
そして最後に――。
「鳴無三曹、恵里菜をお願いします。もし泣かせたりしたら、格闘徽章持ちの蹴りと突きが飛んでくることを覚悟しておいてください」
と、制服に着ける格闘徽章をポケットから出して啓太に突き出してそう言って、挨拶を終えた。
そして、サプライズとして、第4師団司令の駒田陸将と西部方面総監の工藤陸将の祝辞があって、恵里菜の両親への手紙の時間になったのだが、そこには姉成美も呼ばれた。
「お父さん、お母さん、私をここまで育ててくれてありがとう。そしてお姉ちゃん、私に自衛官という道を与えてくれてありがとう。お姉ちゃんのおかげで私は啓太と出会えました。啓太と出会えたから私はここまでこれたんだと思います。お父さん、お母さん、啓太との結婚を認めてくれてありがとう。私は啓太と幸せになります。だからこれからも守っていてください」
最後は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。そんな恵里菜にすっと寄り添ってポケットからハンカチを渡す啓太に、周囲も感動した。この二人ならきっと大丈夫だと、この会場にいる全員に思わせた瞬間でもあった。
2人の披露宴の式辞がすべて終わり、新郎新婦の退場となった時、啓太と同じく白い礼装の同期達がサーベルでアーチを作った。その瞬間、親族からは「これがサーベルアーチか」という声が、婦人自衛官からも「私も絶対これやってもらう!」という声が上がった。
そのサーベルアーチの中を啓太と恵里菜が腕を組んで退場していく。退場する間、会場からは拍手が絶得ることはなかった。
披露宴から一週間後、今度は一般の友人たちを対象とした立食披露宴が行われた。
啓太は礼二との約束通り、自衛隊の制服で参加した。そして恵里菜も、啓太と同様に自衛隊制服で参加をしたのである。
そこで啓太は礼二と礼二の妻であり啓太と同級生でもあった絵里と再会し、他にもかつて交際していた立花麻衣、旧姓、遠野麻衣とも再会した。
啓太と礼二は久々の再開に固く握手をした。
「啓太、元気そうで何よりだ。こちらが?」
「ああ、妻の恵里菜だよ。恵里菜、コレが親友の笹川礼二だよ」
「おまえ、コレってなんだ」
と啓太に突っ込んでから、恵里菜に挨拶をする。
「笹川です。この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。妻の恵里菜と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
礼二と挨拶をしていると、啓太の同級生たちが
「啓太、久しぶり!」
「鳴無君、自衛隊の制服カッコいい!」
「そして奥さんの制服姿もカッコいい!」
等々、啓太の友人たちから声が上がり、続いて恵里菜の友人たちに挨拶をした。
恵里菜は女子高出身のため、参加してる友人も当然女子ばかりで、ただ、恵里菜の制服姿を女性だけの歌劇団のような感じで惚れ惚れしたり、啓太とのなれそめを突撃レポーターよろしく聞いたり、啓太を値踏みしたり、2人の制服姿をキャーキャー言いながら写真に撮ったりしていた。
さすが女子――。
よく三人寄れば姦しいというが、それが十数人規模となると、もう手が付けられない状況に。
そこに啓太の独身でフリーな同級生が入ると、そこはもう、どこのコンパですか?、な状態になっていた。
また、写真のSNSへのアップは、ダメと言ってもアップする人はいるだろうからと、アップする条件として名前を隠してもらうようにお願いしていた。理由は二人とも顔出しでSNSに写真を上げているのだが、名前はニックネームで通していたからであった。
条件をクリアすれば写真のSNSアップをしても良いということで、日頃自衛官と触れ合うことのできない自衛隊ファンな友人達が、皆条件を守ってこぞってSNSにアップするのだった。
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