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朝、起きると部屋の中に服がいっぱいあった。

「なに、これ?」
「全部ティナの服だ」
「私、神通販で買えるよ?」
「俺がティナのために用意したいんだ」

甘えるような声で言われては嫌とは言えない。シルに着替えさせてもらった。殆ど私と一緒にいるのにいつ選んだろか? 謎だ。

「ーーっ!?」

着替えさせてもらった服を見て言葉を失う。上は白いシャツに黒の刺繍が入ってた。それはいい、可愛いし問題ない。問題なのは下だ。虹色のしたソレはヒラヒラとした超ミニスカートになってる。黒のニーハイ&ブーツで見えてる足の部分は少ないが、前世含め膝上丈の物は履いたことがない。

「可愛いな」

確かに服は可愛いかもしれない。今世の私は美幼女だから似合うのかもしれない。だけど! 恥ずかしい!
よく見れば、どの服もミニスカートかショートパンツだった。貴族は女性が足を見せるのははしたないとされているが、平民にはそんな概念はなく。冒険者に至っては動きやすさから露出の高い服を来てる女性が多い。

「シルー……」
「気に入らないか?」
「そうじゃないよ。とても可愛い服だとは思うの。でもね……、恥ずかしいよ」

シュンとしてしまったシルに誤解がないように説明した。

「大丈夫だぞ。外に出る時はコレを羽織るからな。その格好は俺の前だけしか見せたらダメだからな?」

私のローブを着せさせられる。これなら見えない。けど中の服装を思うだけで頬が熱くなった。

「本当はローブも買ってやりたかったんだが、ここまでの機能のローブはなかなか売ってなくてな」

残念そうにシルは呟く。これだけの服を買ってくれれば十分だよ。

「私のローブの性能知ってるの?」
「ティナを鑑定した時についでにな。武器や防具は鑑定しても相手に露見しないから気になるのがあったらティナもしてみるといい」

そうなんだ。今度からやってみよう。スキルレベルも上げたいしね。

仕上げに髪を結ってもらった。リボンは虹色だった。

「これってシルの色?」
「そうだ。虹色の糸がなくて作らせた」

どれだけ番に対して執着が激しいの? まさか糸まで作らせるとは職人さんお疲れ様でした。

その日は依頼を受けずにマッタリと過ごした。ハルトさんたちが何か話し合っていた。シルは何度も私を見ては満足気にしている。



「ティナを俺の両親に紹介したいんだけどいいか?」

ベッドで微睡んでいるとシルが問いかけてきた。寝巻きも買ったようで私は白のワンピース型のパジャマを着てる。これもまたミニスカートで寝てる時に下着が見えないか不安だ。

「え?」
「番が出来たら紹介しろと言われてて、黙っていてもそのうち噂を聞きつけてやってくると思うから先にこちらから行こうと思う」

シルはSSSランクだし有名だから、情報が回るのも早いもんね。
いつかは、ご挨拶しないといけないし相手から来てもらうのは悪い。

「いいよ。お母様の好み教えて」
「食べ物は甘いもの。後はキラキラした物が好きだな」

手土産はケーキと宝石でいいかな。神通販で購入しておこう。

「シルのご両親だから古代竜?」
「父が人族で母が古代竜になる」

この世界ハーフというものは存在してなくて種族の違う夫婦の場合、子供は両親のどちらかの種族になる。

「じゃあ、私たちとは反対だね」
「そうだな。母は可愛いものも好きだから構わられると思うが我慢してくれ」

それってシルからみて私が可愛いってことだね。嬉しくて顔がニヤけた。

「シルはご兄弟いるの?」
「いたが、弟妹たちは人族だったため既に亡くなってる」
「そっか。ごめんね」

古代竜と人族だと人族の方が多く産まれるんだから、そういうこともあるよね。

「いいよ。ティナは?」
「お兄様が1人とお姉様が1人、それと弟が1人いたはず。あまり会ったことがないから良く分からないの」

兄弟とはそれぞれ別々に過ごしてきて年に1回会うかどうかだった。そのため顔すらうろ覚えになってる。



2日後、シルのご両親に会いに行く。街の外に出てシルが竜体になり、私は風魔法で飛んでシルの背に乗った。

空高くシルは飛び上がる。眼下に拡がる景色を眺めながら進んでいった。飛行速度は早くぐんぐんと進む。

半日かけてついたのは3つ隣の国ローレンス帝国の辺境リワノイワル領。少し離れたところで降りてシルは人化する。私は抱っこされた。いつものことなので慣れた。慣れたというよりは慣らされた感がある。

可愛らしいい外観の家に着くと、シルが玄関の扉を叩いた。中から出できたのはピンクの髪色した可愛らしい20代の女性で、フリフリのドレスを着ている。

「あら、シルヴェストル。どうしたの?」
「番が出来た」

女性の目が私を見る。緊張で体が固まった。

「まぁまぁ! 何て可愛らしい子なのかしら?」
「母さん、話は中でしてくれ」

この可愛らしい方がお母様!? どう見ても20代でシルみたいな子供がいるとは思えないんだけど!?  虹色の瞳してるし古代竜なのは間違いないと思うけど。

リビングに通されたが全体的に少女趣味って感じの部屋だった。とてもお母様に似合う部屋だ。リビングには精悍な顔の20代の男性もいて、その男性はお母様が近付くと横抱きにしてソファーに座る。そして私たちがいるのにも関わらず目の前で何度も口付けを交わしていた。

「父さんも聞いてくれ。番が出来た」
「それは良かったな」
「シルヴェストルったら、こんな可愛い子が番なんて羨ましいわ」
「ティナと申します。不束者ですがよろしくお願いします」

手土産のケーキと宝石を渡す。お父様が中を確認し、お母様の目が輝いた。

「まぁ! これは?」
「ケーキと宝石です」
「ケーキって何? 甘い匂いしてるわ」
「とても甘い食べ物です」
「こんなに可愛いのに食べ物なの!?」

この世界の甘いものは砂糖を固めたものしかない。それをお茶と共に飲むのが通常だ。

「カトラリー持ってくる」

お父様がお母様をソファーにおろし、キッチンの方に消えていく。お母様は宝石を手に取り、光に照らしながら眺めていた。

「綺麗だわ。私の宝物にするわね」

お母様は大事そうにしまった。

お父様が人数分のお茶とお皿を持ってくる。ケーキを取り分けた後、またお母様を横抱きにした。そしてお母様の口にケーキを運んでる。私たちがいるのにお構いなしだ。私もシルに食べさせられてる。こんなのを毎日見てたら、これが普通だと思うかも。シルの日常の世話焼きに納得した。

「今まで食べてきた中で1番おいしいわ」

喜んでもらって良かった。地球産のケーキだけど確か1日限定数で売られていて並ばないと買えなかった物だと思う。

「ティナちゃんは人族よね?」

お母様に問われ肯定した。

「シルヴェストル、少しティナちゃんと2人で話したいわ」

お母様は席を外せとシルに求める。シルは頑なに動かなったが、お父様に連れていかれた。

「ティナちゃん、古代竜の番は大変でしょう?」
「いえ、その……」
「うふふ。無理しなくていいわ。種族が同じでも大変なのに違えば尚更よ」

生活してきた習慣が違うんだから価値観が違うのは当然。そこをどう乗り越えていくのかが重要だと思う。私の場合、恋愛経験もないからシルに流されてばっかりいるけど。恥ずかしいとは思っていても嫌だと思ってないから私も大概だと思う。

「古代竜の雄はね。番が産まれたその時から面倒を見たがるのよ。まぁ赤子から育てられるなんて奇跡は起きないんだけどね」

産まれたばっかりでは親も手放さないだろう。

「殆どの番が成熟してから出会うから、ティナちゃんくらいの歳の子と会えたシルヴェストルは幸せ者だわ。ティナちゃんの成長を見守っていけるのだもの」
「でも……、大人的な関係にはなれないので不満もあるのではないのでしょうか?」

私が大人であればシルを待たせることもなかった。待たせてしまってることに何処か罪悪感を感じてる。

「まぁ! 大丈夫よ! 古代竜の雄はね、番が成熟してないならば欲情することもないのよ。あら? 子供に欲情って言っても分からないわよね? なんて言えばいいのかしら? ティナちゃんが大人になるまで待つのが平気なのよ」

大丈夫です、お母様。前世もありますので意味わかっています。

そんなことは言えず、うんうんと頷いておいた。

「15歳になるまで待ってくれるということですね」
「人族だと15歳で成人になるけど成熟とは違うわよ。体のことよ。つまりティナちゃんの肉体が大人になったならばシルヴェストルは我慢が出来ないってことね」

だ、大丈夫。番の契りを15歳って言ったのはシルだから、それまで待ってくれると思う。……多分。

「一気に成熟する訳じゃないし、その前に味見はされるでしょうねぇ」

味見って何?ちょっとお母様! 不安になるようなことはおっしゃらないで。

「ふふふ。ティナちゃん覚悟しておくことは大事よ? まだ子供だから分からないかもしれないけど、何があってもシルヴェストルに任せておけば大丈夫だからね」

いえ、大丈夫だとは思えないよ。覚悟は大事だと思うから早めにしておくことにするけど。

「大丈夫よ。ティナちゃんが本当に嫌だと思えばシルヴェストルは止まるわ。それが古代竜の雄だからね」

確かにトイレの介助は諦めてくれてる。未だにしてこようとはするけどね。

「古代竜の番とは何なのでしょうか?」
「そうねぇ。古代竜の雄にとって番はただ1人のお姫様よ。だから傷付けることは死んでも有り得ないわ」

お母様は可愛らしいしお姫様って感じがするけど、私は何だか気後れしてしまう。

耐えきれなくなったシルとお父様が戻ってきた。抱っこされ顔中にキスが降ってくる。

「ティナに会えなくて干からびるかと思った」

30分くらいしか経ってないし干枯らびることはないよ。

「セレスティア、僕も寂しかったよ。セレスティアに会えないなんて死んだ方がマシだ」

お父様も甘い! 人族でないの? まぁ人族でも甘々なご夫婦はいるけど、それ以上だと思う。

男性陣2人が落ち着くまで私とお母様はなすがまま。

「そうそう。ティナちゃん、初めての子供は古代竜の雄がいいわよ」
「当然だ」

産み分けるなんて出来るものなの? シルは即答したが当たり前なの?

「古代竜の雄はね。餌さえ与えてれば勝手に育つのよ。そして弟妹が産まれたら任せるの」

なるほど、シルが世話慣れてるとは思っていたけど弟妹を面倒見てたからなんだね。育児してみたいから全部を任せるのは嫌なんだけどなぁ。

「古代竜の雌はダメなのでしょうか?」
「古代竜の雌はお姫様だから手が掛かるわよ?」
「雄と雌では、そんなに違うものなのですか?」
「全然違うわよ。ステータスも雌は雄の1/100しかないのよ。とてもか弱い生き物なのよ」

いえ、お母様。1/100でも人族に比べれれば十分に強いから! 立派な冒険者になれると思う。

その後も古代竜について教えてもらった。獣人以上に本能に忠実だとか。知らないことが沢山あって勉強になったし心構えも出来たと思う。お母様に合わせてくれたシルに感謝の気持ちでいっぱいだ。



ランロワに戻ってからも更に2日間休みだったからポーション作りに精を出した。

「ハルトさん、下級ヒールポーションと下級マナポーション出来ました」

200個ほどテーブルの上に置く。ハルトさんは驚いて椅子から立ち上がった。

「いくつあるの?」
「100個ずつです」
「ひゃ、ひゃく?」

無限収納の中にはまだまだ入ってる。いつどこで必要になるか分からないので多めに作り置きした。

「ま、待って。鑑定するから」

急いでいないからいくらでも待つ。ハルトさんはマジックバッグの中から鑑定の道具を出し作業を始めた。

「……すごいよ。全部、最高ランク品質だったよ」

全部マジックバッグの中にしまうのかと思えば半分返される。多く作りすぎてしまったのかな?

「これ全てをうちのクランで独占すれば妬み嫉みを買うから錬金術ギルドに売っておいで。下級ヒールポーション1つ40ギル、下級マナポーション1つ60ギルでいいかな?」
「あれ? 高くないですか?」

錬金術ギルドで売った時は1つ20ギルだったと思う。

「錬金術ギルドでの買取金額ではないからね。この品質はだいたいこれくらいで売られてるよ」

5%取っておきながら売る時は更に高くしてるのか。まぁ魔物の素材もそうかもしれない。世の中そんなものだ。

錬金術ギルドカードを出すと、シルがクランカードを出しそれからお金が支払われる。

「行くか」

シルに抱っこされ錬金術ギルドに向かった。受付のお兄さんは私の胸にあるエンブレムとシルを見て目を剥いてる。カウンターにポーションを無限収納から出した。

「鑑定しますのでお待ちください」

1つ1つ鑑定されていく。

「下級ヒールポーション全て最高ランクの品質で1つ2ポイント20ギルで、下級マナポーション全て最高ランクで1つ3ポイント30ギルになります。ランクがEになりまして残り840ポイントでDランクとなります」

冒険者ギルドの収入の1%しかクラン払わないし、家賃なし食費神通販で魔力での交換だから、お金がドンドン貯まっていく。

「浮かない顔してどうした?」
「お金の使い道がないなって思って」
「貯めておけばいい」

そうだね。いつ必要になるか分からないし、貯めておいて損はない。



今日はAランクメンバーも一緒に採取しに西の森に来た。Aランクメンバーの目的はお昼ご飯だけどね。この前より人数が多いんだけど依頼はないのかな?まさかお昼ご飯目当てで断ってるなんてないよね? ありそうで怖い。

皆気合い入ってるため薬草はみるみる間に集まっていく。

そこにこの前の護衛依頼で最後まで残っていたパーティが現われた。

「お前、他の人に集めてもらうなんてずるいぞ! 」

彼らの言い分が理解出来るため黙ってしまう。

「あら? クランメンバーのランク上げを手伝うことはルール違反ではないわよ。当然のことよ。どこのクランでも行われてるのよ。悔しかったら何処かのクランにいれてもらうのね。うちはお断りよ。ティナちゃんに言い掛かりつけるような人はいらないわ」

私の代わりにミーアさんが反論してくれた。少年たちはそれでも納得いかないようで私を睨みつけてくる。

「何でそんな餓鬼がいいんだよ! どうみても俺らの方がいいだろう!」

あなた達も子供で年齢だけで言えばクランメンバーからしたら私と大した違いはないと思うよ。

「ええー! あなた達どこに目を付けてるの? ティナちゃんの方が強いしでしょう。更に可愛いし、礼儀正しい。更に神様の加護持ちよ。あなた達何1つティナちゃんに勝ってないの。己を見極められなければ冒険者としてやっていけないわよ」

ミーアさん、可愛いはクランに入るためには必要ではないと思うよ。少年たちはわなわなと震えた。

「け、決闘だ!」

喧嘩は許されてないが決闘は許されている。

「勝利の場合の条件は何かな?」

ハルトさんが話しに加わってきた。決闘という言葉でAランクメンバーたちも耳を傾けてる。

「俺たちが勝ったら、その餓鬼をクランから追放して俺たちをクランにいれてくれ」
「いいでしょう。ティナちゃんは何を望む?」
「私が勝ったならば2度と話しかけて来ないでください」

関わりたくないと示した。

「君たちはその条件のめる?」
「分かった!」
「では場所は冒険者ギルドの訓練所で、こちらが手配しておこう。時間は今日の夕方6時でいいかな?」
「問題ない! そっちはお前1人だからな!」

1対パーティでやるつもりなのね。1人で勝てる見込みがないとは分かってるのか。

「問題ありません」
「絶対に勝ってやる!」

少年たちは去っていく。私はミーアさんとハルトさんに謝罪と感謝を述べた。本当は自分で解決しないといけない問題だ。

「いいのよ。ああいうの慣れてるの。ほら、私って魅力的でしょう?自然と妬まれるのよ」

ミーアさんが魅力的なのは賛同する。胸も大きいし色気もある。男ならイチコロだ。

「僕は当然のことをしただけだよ。だから気にしないで」
「ありがとうございます」
「決闘、頑張ってね」

採取しながら決闘について考える。真剣あり魔法ありでの勝負だが殺すことは禁止されてる。相手が負けたと認めるか場外にするか、どちらかで勝ちが決まる。

お昼はハンバーガーとポテフライにする。ハンバーガーは色んな種類を出した。この世界に肉をミンチにした料理はない。皆初めて食べる物に表情が明るくなっていた。次々なくなるため何度も追加購入する。ハンバーガーは流石にシルの介助もないかと思ったが甘かった。1口サイズに器用にちぎって食べさせられる。手に付いたタレを舐める姿は色気があり見てる私が頬を染めた。

早目にギルドに戻り薬草をカウンターに置く。大量採取は2度目なため受付けのお姉さんも驚くことなく対応してくれた。

「ハイヒール草460束46ポイント690ギル、ハイマナ草370束37ポイント740ギルとなります。残り508ポイント、護衛依頼3件でDランクとなります」

採取時間は前回より短かったが、その分人が沢山いたため前回多く採取出来てる。

「ティナ様、決闘のことお聞きしました。頑張って下さいね」

受付けのお姉さんにも応援されやる気がアップした。

絶対に負けない!

冒険者ギルドの裏手にある練習場に行くと観客がいっぱいいて驚く。

これだけの人が見に来たの? どうやって決闘の情報を手に入れたのだろうか。

訓練所で待ってると少年たちが現われた。だが、少年たちだけではなくその後ろに5人ほどの男たちもいる。

「痛い目を見たくないなら今のうちに降参するんだな!」

少年たちだけと戦うって言ってない。だから彼らはルールに反してない。

「何人の人がいようと構いません」
「強がりも今のうちだ!」

中央に1人の中年の男の人が出てきた。

「今回、決闘の審判をするランロワ冒険者ギルドのマスターのジェロームだ」

ギルドマスターが審判するの? 話が大きくなったな。

「パーティ優雅な獅子が勝てばティナ嬢をクラン虹色の雫から追放しパーティ優雅な獅子が加入する。ティナ嬢が勝てばパーティ優雅な獅子は今後一切ティナ嬢に話しかけない。双方、間違いないか?」

優雅な獅子なんてパーティ名なんだ。どこが優雅でどこが獅子何だろうか? 以前に絡んできたCランクパーティも紅の獅子って名前だった。獅子ってつくパーティはいいところがないのかな。

「それでいい!」
「相違ありません」

「それでは降参または場外で勝負がつく! 開始!」

ギルドマスターの合図で決闘が始まった。優雅な獅子たちは剣を抜いて向かってくる者、詠唱を始める者がいる。

「【デバフ】」

相手側全員が地に倒れ込んだ。それでも降参の言葉は聞こえてこない。

「【風】」

仕方ないので風魔法で彼らを場外に出した。一瞬で終わった決闘に周りは静まり返ってる。

「勝者、ティナ嬢!」

ギルドマスターの合図で漸く状況を理解したのが会場が歓声に沸いた。

掛けていたデバフを解くと、よろよろと優雅な獅子たちが立ち上がる。1人の少年が私を指した。

「ずるいぞ!」
「何がですか? 魔法は禁止されてませんよ」

意味が分からず首を傾げる。

「違う! お前じゃない! 虹色の雫が魔法を放ったんだ!」

何を言うかと思えば。言いがかりも甚だしい。

「審判してた俺が保証する。魔法はティナ嬢から放たれていた。それでも疑うなら真偽の水晶を使おう」

ギルドマスターの指示で真偽の水晶が持ち込まれてきた。優雅な獅子なんだから優雅に去ればいいのに。これ以上、恥の上塗りするなんて獅子らしくもない。

真偽の水晶に手を翳す。

「先程、使用した魔法2つともティナ嬢が放ったもので間違いないか?」
「間違いありません」

水晶が青く光り、少年たちの言い分は間違いだと跳ね除けられた。それでも去らない少年たちに外野がヤジを飛ばす。

「みっともないぞ!」
「負けを認めて去れ!」

少年たちは顔を歪ませ、憎々し気に私を見ながら訓練所を後にした。

少年たちにどう思われようと、これ以上相手にしないでいいのであればそれでいい。今後、少年たちが話しかけてくればギルドに報告すればいいだけ。そうすれば彼らは罰を受けることになる。

「審判ありがとうございました」

審判してくれたギルドマスターのところに行きお礼を述べた。

「噂のティナ嬢を見たくて審判しただけだから気にするな」
「噂ですか?」

どんな噂が流れてるの?

「超一流の魔術師で古代竜の番となれば1度でいいから見てみたくなる」

シルと番なこと既に噂になってるのか。早いな。
これからも頑張る旨を告げて踵を返した。

皆の元に戻ると早速シルに抱き上げられた。

「流石はティナ。安心して見てられたぞ」

シルに褒められて笑みを浮かべる。

「あのデバフはどれほどの威力があるのか。まさかバフと同じということは……」

ハルトさん、私も検証したことないので何%のダウンになるかは知らない。さぁ?と首を傾げて分からないことを伝えた。

「誰か試してみるか?」
「お? なら俺にしてみればいい」

シルの提案にジョンさんが挙手する。拠点に戻ってからやることになった。

拠点に戻ると早速とジョンさんが前に立つ。

「俺は盾職だからな。耐えてみせるぞ」
「本当にいいのですか?」
「ティナ、遠慮はいらない」

シルに言われ、それならばとデバフを掛けた。ジョンさんは崩れ落ちて床に転がる。

「ジョン、ステータスはどうなってる?」

ハルトさんの質問にもジョンさんは答えられいでいた。

「マスター」
「ああ。俺が鑑定してみよう」

シルがジョンさんを鑑定する。鑑定が終わり解いていいと言われたのでデバフを解除した。ジョンさんはフラフラと立ち上がる。

「何だあれ? 全身の力が抜けて言葉すら発せられないしステータスも確認出来なかったぞ!」

デバフを掛けると、そんな感じになるんだ。

「マスター、どうだったの?」

興味津々にハルトさんはシルに聞いた。

「ああー……。マイナスになってた」
「マイナス?」
「マイナス100%だ」

バフで200%プラスだったから、デバフでも200%マイナスされるのね。

「まさか……、体力や魔力も?」

ハルトさんの言葉にシルは頷く。

「……それは、立っていられないし喋れないね。マスターでも無理じゃない?」
「無理だな」

そうなの? デバフ掛ければ私って最強?

「待って! シルは状態異常無効があるじゃん?」
「毒や呪いには効くが、それ以外には意味ない」

ステータスをマイナスにするなんて呪いのようなものだと思うんだけどな。違いがよく分からない。

考えているとシルに頭を撫でられ思考が止まった。

「強いってことは良いことだ。深く考えすぎるな」
「そうだぞ! 力の使い所を間違えなければいいんだからな」
「そうよ。殺さず無力化出来なんて凄い能力よ」

私が力のことで悩んでると思っているのか皆が励ましてくれる。大きすぎる力は脅威だし狙われやすいけど、力がなくて大事なものを失うよりかは何倍もいい。

「ありがとうございます。これからもクランのために頑張りますね」
「まずはランク上げだな」

Dランクまで漸く半分くらいだもん。先は長い。

「Eランクのメンバー集めてるから護衛依頼はそれからね」
「ミーアさん、それはどういう事ですか?」
「前の護衛依頼、酷かったでしょう? それでクランのEランクを集めることにしたのよ」

ハルトさんたちが話し合っていたのは、その事なの?私のためだけに呼び寄せたの?

「そこまでして頂いて私は何を返せば良いのでしょうか?」
「何も必要ないわよ。私たちは優秀な冒険者を育ててるだけだから」

そうは言っても申し訳なくなってくる。だって普通はここまでしてくれないよね。

部屋に戻ってからもウジウジしてるとシルに名前を呼ばれた。

「なるべく良い環境で成長してほしいというのが皆の総意だ」
「いいのかな? 私だけ……」

優雅な獅子のメンバーのずるいぞ!って言葉が聞こえた気がした。

「ティナだけじゃないぞ? 能力のあるメンバーには皆が力を合わせて協力してランクを上げていくんだ。それはうちのクランだけでもない。どこのクランでも一緒だ」

それに、とシルは話を続ける。

「冒険者ギルド自体、それを望んでる」
「どういうこと?」

コツコツと依頼こなして信用と実力を積んでいくのが本来の姿じゃないの?

「力のある冒険者はさっさとSランク以上になって中央のダンジョンに挑戦して欲しいんだ。その方が冒険者ギルドも儲かるし、ダンジョンからの魔物の氾濫も防げるからな。だから上位ランク者が下位ランク者の手伝いに文句を言うことはない」

1人でも多くのSランク以上の冒険者をギルドは求めてるのか。

「クランにとっても?」
「そうだ。ティナがSランクになれば一緒に神話級のダンジョンに潜れる。ティナがいれば今まで以上に捗るし安全性も高くなる。クランにとっても利しかならない」

チュッチュッとキスが降ってきて思考が止まりかかる。ながされないからね!

「でも……他の冒険者からは妬まれるよ」
「力がある限り地道にやっていても同じだ。能力のないやつはあるやつを羨むのは世の中の道理。ティナは可愛いし能力もある。これからも沢山の人に妬まれるだろうし敵視されるであろう」

想像ができてしまいゲンナリしてしまう。

「だが、これだけは忘れないでくれ」
「何?」
「何があろうとも俺だけはティナの味方でいる」

味方でいてくれる。その言葉に心がふるえた。たった1人でも私の味方がいてくれる。その事に嬉しく思った。

「絶対だよ?」
「絶対にだ」

さぁ風呂だと連れていかれて甲斐甲斐しく世話をされるが、抵抗することなく身を任せた。今まで疲れてた風呂が久しぶりに体を休めることが出来た。

恥ずかしさは消えないけど、こんなに心落ち着けるなら最初から素直に流されちゃえばよかったのね。

【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】352
【体力】362
【魔力】∞
【物理攻撃】70
【物理防御】70
【魔法攻撃】35,200,000
【魔法防御】35,200,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv5、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100

寝る前にステータスを確認すると鑑定が5レベルになっていた。
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