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疾走する車内での会話
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注:この作品は、違法行為や反社会的行為を推奨するものではありません。
みなさん、法律は守りましょう。
◇◇◇◇
金曜の夜、21時。
仕事で遅くなったため、これから夕食。
婚約者と一緒に住んでいる健司は、
明日は休みなので、お酒を気兼ねなく飲むことができる。
グラスにワインを注いで、あとは乾杯・・といところで、婚約者に電話がかかって来た。
仕方なく、電話が終わるのを待つ。
「・・え?それは大変ね・・。え?今から?」
どうやら、電話の相手は彼女の親友かららしい。どうも、真剣な話をしているようだ。
すると、彼女が電話を顔から離して健司に困ったように言ってきた。
「健司さん・・、ミキちゃんからなんだけど。海斗君のお父さんが倒れたとかで、車出してもらえないかって」
「え?今から・・?」
彼女の親友の彼氏。その父親が倒れた・・
まぁ、もう終電がないので車で行くしかないのだろうけど。
ワイングラスに注がれたワイン。
あと1分遅ければ飲んでいたんだけど。
----
「健司さん、すみません」
「大丈夫だよ。海斗君こそ大変だね。で、どこに向かえばいいの?」
「その・・ちょっと遠いんですが、茨城県の太子町ってわかるでしょうか・・」
「・・・袋田の滝がある?」
「そうです・・。そこの祖父の家に父が住んでるんです。今、祖父と連絡を取っているところなんですが・・まだ、どの病院に行ったかまではわからないので」
「そうか、まずはそっちに向かおう。病院がわかったら教えてくれ」
「はい」
海斗がシートベルトをすると、後部座席に恋人のミキが乗りこもうとしてきた。
「明日仕事ですよね。大丈夫だから待っていて」
「でも・・・」
「大丈夫、心配しないで待っていなさい」
健司も言った。
「じゃあ、行ってくるよ」
「気を付けてね」
二人が言葉を交わすたあと、車を発進させる。
高速道路の入り口はすぐ。
その手前で、健司は車を操作した。
センターコンソールに、赤い車の絵が表示された。”SPORT”と表示される。
「え?」
さらに操作する。
”オービスの検知を開始します”
「え?」
「じゃあ、ちゃんとシートベルトをしてね。あと、手すりは窓の上のところにあるから」
「え?」
そのあと
海斗はジェットコースターをはるかに超える恐怖を味わうことになった。
首都高速道路は曲がりくねったりトンネルがあったり。
それを、健司の車はものすごいスピードで駆け抜けていったのだ。
「それで、病院はそろそろ分かったかな?」
常磐自動車道路に入ってから、健司は聞いた。
首都高速を抜けたのでまっすぐな道が続いている。
それでも、まだスピードはかなり出ているのだが。
「あ・・ちょっと待ってください・・」
海斗は電話をかけた。祖父と連絡が付き、病院の場所がわかった。
「常陸大宮の総合病院に入ったそうです。すぐ手術だとか」
「そうか。太子町よりは近いから早く着くね」
「・・・・」
「どうも、脳梗塞らしいんです」
青ざめて、うつむく海斗。
「そうか・・・早期発見できてるといいんだけど」
「早期発見ですか?」
「今は、血栓を溶かすいい薬があるんだよ。早期発見できれば後遺症もなく治るそうだよ」
「そうなんですか。少し安心しました。脳梗塞って聞いて、命が危ないのではないかと思っちゃいました」
「もちろん油断はできないけどね」
「そういえば、健司さんには僕が一人暮らししている理由を話したことはなかったですね」
「そうだね」
「僕は、母を小学生のときに亡くして。その後は父と一緒に暮らしていました。父子家庭ですね。
父は僕を育てるのも、仕事も大変だったと思います。
そのせいかもしれません。
高校一年の時。父はうつ病になってしまったんです」
「僕にはいつも優しい父でした。困っているときにいつも”大丈夫だ”と声をかけてくれて。
父にはとても感謝しているんです」
「そうだったんだ」
「父は会社を休職して祖父の田舎で休養することになったんです。
それ以来会っていませんでした。
僕のせいで父に苦労を掛けさせてしまってたんだから、離れていたほうが良いですし」
「そんなことないんじゃないのか?」
「でも、うつ病なんて普通ならないでしょう」
「いや・・今どきはそんなことないんだよ。私の周りにもいるしね」
「え?」
健司の職業はIT関係。ストレスが多いので、同僚にもうつ病になった人が複数いる。今どきは珍しい病気ではない。
会社からも、ストレスやうつ病に関する教育がされている。
「うつ病は、体の中のエネルギーがストレスで消費されて足りなくなることで起こる病気だからね。お父さんはちょっと疲れてしまっているだけなんだと思う。
こういう時は、家族の支えも大切だよ」
「そうですか・・」
「だれしも、不安な時や苦しいときは家族が支えてあげないとね」
「僕は、まだまだ子供ですけど・・・大人になっても不安な時ってあるんですか?」
「大人ねぇ・・・子供だろうと大人だろうと、みんな不安だったり、苦しんだりするんだよ」
「そうなんですか?健司さんは何でもできるように思ってましたけど」
「そんなことないさ、俺も含めてみんな不安だったりするよ。
今まで経験したことない事ばかりだからね。
不安だったり、怖かったり。そんなことの繰り返しだよ」
「そうなんですか・・」
「だいたい、成人年齢がもうすぐ18歳になるから海斗君ももうすぐ大人でしょう」
「え・・・僕が大人・・・?まだまだですよ」
「年齢は関係ないんだよ、みんな不安なんだ。
初めての結婚。初めての子育て。初めてなことばかり続いていく。
私も不安ばかりだね。
そんな時に”大丈夫だよ”って声をかけてくれる家族がいるだけですくわれるんじゃないかな?」
「なんとなくわかります。僕が悩んで苦しんでいるときに、ミキさんに助けてもらいましたから」
「そうか。海斗君が今度はお父さんを支えてあげればいいんじゃないかな。
こんどは、海斗君が”大丈夫”と声をかけてあげればいい」
「僕が・・ですか」
「そうだよ」
健司の車は、那珂ICを出て一般道に出てきた。
「もうすぐ、病院につくよ」
「ありがとうございます」
病院に着くと、あらかじめ連絡していたため祖父が通用口で待っていた。
祖父に案内され、ICUまで案内される。
もちろん、中には入れないが様子を見ることはできた。
手術はすでに終わっていた。成功したとのことだ。
もう、生命にかかわる状態ではないそうだ。
やはり、早期発見できたのが良かったらしい。
後遺症が出るかどうかは、意識が戻った後でないとわからないそうだけど。
「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」
「健司さん、ありがとうございました。本当に助かりました」
「いやいや、まずはよかったね。ミキさんに連絡しておいたほうが良いよ。多分心配している」
「はい、わかりました」
「僕、父が意識を取り戻したらちゃんと話してみようかと思います」
「そうだね、それがいいよ。それじゃね」
「あ、、健司さん。一つだけ」
「ん?何?」
「法定速度は守って帰ってくださいね」
苦笑いで手を振る健司だった。
みなさん、法律は守りましょう。
◇◇◇◇
金曜の夜、21時。
仕事で遅くなったため、これから夕食。
婚約者と一緒に住んでいる健司は、
明日は休みなので、お酒を気兼ねなく飲むことができる。
グラスにワインを注いで、あとは乾杯・・といところで、婚約者に電話がかかって来た。
仕方なく、電話が終わるのを待つ。
「・・え?それは大変ね・・。え?今から?」
どうやら、電話の相手は彼女の親友かららしい。どうも、真剣な話をしているようだ。
すると、彼女が電話を顔から離して健司に困ったように言ってきた。
「健司さん・・、ミキちゃんからなんだけど。海斗君のお父さんが倒れたとかで、車出してもらえないかって」
「え?今から・・?」
彼女の親友の彼氏。その父親が倒れた・・
まぁ、もう終電がないので車で行くしかないのだろうけど。
ワイングラスに注がれたワイン。
あと1分遅ければ飲んでいたんだけど。
----
「健司さん、すみません」
「大丈夫だよ。海斗君こそ大変だね。で、どこに向かえばいいの?」
「その・・ちょっと遠いんですが、茨城県の太子町ってわかるでしょうか・・」
「・・・袋田の滝がある?」
「そうです・・。そこの祖父の家に父が住んでるんです。今、祖父と連絡を取っているところなんですが・・まだ、どの病院に行ったかまではわからないので」
「そうか、まずはそっちに向かおう。病院がわかったら教えてくれ」
「はい」
海斗がシートベルトをすると、後部座席に恋人のミキが乗りこもうとしてきた。
「明日仕事ですよね。大丈夫だから待っていて」
「でも・・・」
「大丈夫、心配しないで待っていなさい」
健司も言った。
「じゃあ、行ってくるよ」
「気を付けてね」
二人が言葉を交わすたあと、車を発進させる。
高速道路の入り口はすぐ。
その手前で、健司は車を操作した。
センターコンソールに、赤い車の絵が表示された。”SPORT”と表示される。
「え?」
さらに操作する。
”オービスの検知を開始します”
「え?」
「じゃあ、ちゃんとシートベルトをしてね。あと、手すりは窓の上のところにあるから」
「え?」
そのあと
海斗はジェットコースターをはるかに超える恐怖を味わうことになった。
首都高速道路は曲がりくねったりトンネルがあったり。
それを、健司の車はものすごいスピードで駆け抜けていったのだ。
「それで、病院はそろそろ分かったかな?」
常磐自動車道路に入ってから、健司は聞いた。
首都高速を抜けたのでまっすぐな道が続いている。
それでも、まだスピードはかなり出ているのだが。
「あ・・ちょっと待ってください・・」
海斗は電話をかけた。祖父と連絡が付き、病院の場所がわかった。
「常陸大宮の総合病院に入ったそうです。すぐ手術だとか」
「そうか。太子町よりは近いから早く着くね」
「・・・・」
「どうも、脳梗塞らしいんです」
青ざめて、うつむく海斗。
「そうか・・・早期発見できてるといいんだけど」
「早期発見ですか?」
「今は、血栓を溶かすいい薬があるんだよ。早期発見できれば後遺症もなく治るそうだよ」
「そうなんですか。少し安心しました。脳梗塞って聞いて、命が危ないのではないかと思っちゃいました」
「もちろん油断はできないけどね」
「そういえば、健司さんには僕が一人暮らししている理由を話したことはなかったですね」
「そうだね」
「僕は、母を小学生のときに亡くして。その後は父と一緒に暮らしていました。父子家庭ですね。
父は僕を育てるのも、仕事も大変だったと思います。
そのせいかもしれません。
高校一年の時。父はうつ病になってしまったんです」
「僕にはいつも優しい父でした。困っているときにいつも”大丈夫だ”と声をかけてくれて。
父にはとても感謝しているんです」
「そうだったんだ」
「父は会社を休職して祖父の田舎で休養することになったんです。
それ以来会っていませんでした。
僕のせいで父に苦労を掛けさせてしまってたんだから、離れていたほうが良いですし」
「そんなことないんじゃないのか?」
「でも、うつ病なんて普通ならないでしょう」
「いや・・今どきはそんなことないんだよ。私の周りにもいるしね」
「え?」
健司の職業はIT関係。ストレスが多いので、同僚にもうつ病になった人が複数いる。今どきは珍しい病気ではない。
会社からも、ストレスやうつ病に関する教育がされている。
「うつ病は、体の中のエネルギーがストレスで消費されて足りなくなることで起こる病気だからね。お父さんはちょっと疲れてしまっているだけなんだと思う。
こういう時は、家族の支えも大切だよ」
「そうですか・・」
「だれしも、不安な時や苦しいときは家族が支えてあげないとね」
「僕は、まだまだ子供ですけど・・・大人になっても不安な時ってあるんですか?」
「大人ねぇ・・・子供だろうと大人だろうと、みんな不安だったり、苦しんだりするんだよ」
「そうなんですか?健司さんは何でもできるように思ってましたけど」
「そんなことないさ、俺も含めてみんな不安だったりするよ。
今まで経験したことない事ばかりだからね。
不安だったり、怖かったり。そんなことの繰り返しだよ」
「そうなんですか・・」
「だいたい、成人年齢がもうすぐ18歳になるから海斗君ももうすぐ大人でしょう」
「え・・・僕が大人・・・?まだまだですよ」
「年齢は関係ないんだよ、みんな不安なんだ。
初めての結婚。初めての子育て。初めてなことばかり続いていく。
私も不安ばかりだね。
そんな時に”大丈夫だよ”って声をかけてくれる家族がいるだけですくわれるんじゃないかな?」
「なんとなくわかります。僕が悩んで苦しんでいるときに、ミキさんに助けてもらいましたから」
「そうか。海斗君が今度はお父さんを支えてあげればいいんじゃないかな。
こんどは、海斗君が”大丈夫”と声をかけてあげればいい」
「僕が・・ですか」
「そうだよ」
健司の車は、那珂ICを出て一般道に出てきた。
「もうすぐ、病院につくよ」
「ありがとうございます」
病院に着くと、あらかじめ連絡していたため祖父が通用口で待っていた。
祖父に案内され、ICUまで案内される。
もちろん、中には入れないが様子を見ることはできた。
手術はすでに終わっていた。成功したとのことだ。
もう、生命にかかわる状態ではないそうだ。
やはり、早期発見できたのが良かったらしい。
後遺症が出るかどうかは、意識が戻った後でないとわからないそうだけど。
「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」
「健司さん、ありがとうございました。本当に助かりました」
「いやいや、まずはよかったね。ミキさんに連絡しておいたほうが良いよ。多分心配している」
「はい、わかりました」
「僕、父が意識を取り戻したらちゃんと話してみようかと思います」
「そうだね、それがいいよ。それじゃね」
「あ、、健司さん。一つだけ」
「ん?何?」
「法定速度は守って帰ってくださいね」
苦笑いで手を振る健司だった。
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