日本ワインに酔いしれて

三枝 優

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第1.5章 家飲み あれこれ

ロリアン 勝沼甲州 2019

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「はい、では腕を下げてくださいね。アルコール消毒しますけどアレルギーとかありますか?」
「あ、大丈夫です」
「では、ちょっとチクッとしますね」

 確かに、ちょっとばかりチクリとしたが思っていたほどではなかった。
 これなら、血液検査の方が痛いくらい。

「はい、終わりました。では、あちらにお進みください」
「ありがとうございます」

 今日、美樹は1回目のワクチンの接種に来た。
 ようやく予約が取れたのだ。

 なにか、あっけなく終わったがこれからが問題なのだろう。
 母親は、ワクチン接種した晩に高熱を出している。
 自分もそうなるのであろうか。少し心配である。

 

 実家の八百屋に帰ってくると、母親が店頭から声をかけてくる。

「あ、おかえり。どう?体調悪くない?」
「今のところなんともないよ~」
「まぁ。今日は横になってゆっくりしてなさい。熱が出るかもしれないから」
「うん、そうさせてもらうね~」

 そう言って、自室に入りベッドに横になった。
 

 ううむ、やることが無い。
 スマホでも見ようかとも思ったのだが、横になって片手で操作するのも難しい。

 結局、夕方まで寝るしかなかった。



「美樹~!体調はどう?」

 母親の声で目が覚めた。
 体調は・・・注射を打ったところに鈍痛がある。
 激痛と言うほどではない。
 それ以外に異常はなさそうだ。

「ん~。だいじょ~ぶ~!」
「それじゃあ、夜ご飯食べる?」
「たべる~!」

 階下の居間に行くと、食事の用意が整っていた。

 そして、テーブルの上に既に開栓されて置いてあるのは・・・

 山梨県甲州市 白百合醸造株式会社
 ロリアン 勝沼甲州 2019

「お~、どうだ?熱は無いか?」

 そう言う父親の話を遮って、美樹は大きな声で文句を言った。

「あ~~~!!それ、大事にとっていたのに~~!
 今日は、私飲めないじゃないの~!」
「あ~、すまんすまん。つい空けちゃったよ」

 いくつもの賞を獲得している甲州を使った白ワイン。
 美樹は大切に保管していたのだったが、勝手に開けてしまわれたのだ。
 よりによって、自分が飲め無い日に・・・
 ワクチン接種の後は、飲酒はだめと言われているため、美樹は悔しそうに睨むしかなかった。

 美樹の見ている前で、グラスに入ったワインをちびりと飲む父親。

「このワイン、さっぱりしてうまいなぁ」
「ちゃんと残しておいてよ、明日飲むんだから!」
「はいはい、わかったわかった。でも、明日も熱があるかもしれないぞ」
「う・・・・じゃあ、明後日に飲む・・・」

 うまそうに飲む父親と、それを睨み続ける美樹。
 美樹は大事なワインには、”勝手に飲むな”と貼り紙をしようと心に決めたのであった。

 なお、美樹はその夜も熱が出ることもなく無事に1回目のワクチン接種を終えることができた。
 次の接種は3週間後である。
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