日本ワインに酔いしれて

三枝 優

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第1章

サンサンワイナリー メルロ クラレット 樽熟成 2015 ②

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 時は3年ほど前のこと。


 くねくねと曲がりくねる山道を、ひらりひらりと疾走する車。
 時々硫黄の香りが社内にも入ってくる。
 ここは、群馬県と長野県の県境にある、草津白根山。

 健司は、この当時は休みの度にドライブをしていた。
 車を運転していれば、いろいろな雑念を忘れられる。特にこういう山道だと、運転に集中するしかない。

 一人で家にいるのは苦痛だ。
 どうしても、思い出してしまう。そして、考えてしまうのだ。
 ”何が悪かったのだろう”

 考えて、いろんなことが思い浮かぶ。でも、だからと言って現状が変わるわけではない。
 でもどうしても考えてしまうのだ。

 なので、休日は一人でドライブに出かける。休日だけではない。夜中に車に乗って運転することだってある。
 どこかにいくという明確な目的なんかない。ただ、運転するためだけに車を疾らせる。

 峠道を上っていく。
 健司の車は今どき珍しくなってきたマニュアル車。2Lターボで燃費はよくない。
 だが、上り坂でのパワーは十二分にある。

 カーブの手前で減速。ブレーキは姿勢制御。シフトダウンを素早く行う。エンジンブレーキを併用しながら速度を落としハンドルを切る。
 そして、カーブの出口に向かってアクセルを開ける。
 スローイン・ファーストアウト。
 アウト・イン・アウト。

 大学生の頃も、峠道でよく疾っていた。
 その頃ほどではないが、まだ運転技術は残っている。
 
 峠道を上りきったら、万座温泉から嬬恋方面に向かった。
 まぁ、理由なんかなく”適当に”だ。
 学生時代はこんな風に適当に旅をすることをした。それこそ棒を立てて倒れたほうに向かうとか。(実際は道なき方向に倒れることが多く、やめてしまったが)

 山道を今度は下っていく。ここは冬はスキー場になるんだろう。気が少ない山肌を見ながら車を走らせる。

 やがて・・民家が増えてきた。

 ”さて、この後どうするか・・・”
 軽井沢に向かう気はない。観光地に行きたいわけではない。
 むしろ、山道の方。須坂方面に曲がった。

 しばらく走ったが・・・。
 ”なんか、整備された国道だなぁ・・”
 こういう道をゆっくり走っていきたいわけではない。

 すると、左にそこそこ昇っている脇道がある。”湯の丸温泉”という案内看板。
 ”こっちに行ってみるか・・・”

 その道は、やはりカーブの続く峠道。交通量も少なく快適である。

 ストレスなく、車を疾らせることができる。
 こちらの峠道は狭くはないが、カーブはきつい。
”そろそろタイヤを替えなきゃな・・。それとも車自体かな・・”
 この車も、もう12万km走っている。
 前回の車検で、整備費用も結構かかった。
 とても、気に入っている車ではあるが・・・

 峠を上り、やがて下っていく。
 途中に何軒かの温泉旅館やホテルがあった。
 ただ、そこでは泊まらずに通り過ぎていく。
”いつか泊まってみてもいいかも”
 と思ったが。
 
 やがて視界がひらけた。
 下り坂だけど、カーブの少ないまっすぐな道。
 坂の下の盆地が一望でき、遠くにも山が見える。
 眺めのいい道路。

 左手に、駐車場におしゃれな屋根。
 なにかのお店と思われる。

 ”そろそろ喉が渇いたな。まぁ、自販機くらいあるだろう。トイレ休憩にもいいしな”
 砂利の駐車場に車を停めた。

 健司は、当時はその店を知らなかった。

 その店は、”アトリエ・ド・フロマージュ”。
 青山にも支店がある、チーズ工房。

 その後、何度も通うことになった店だ。

◇◇◇◇◇◇◇◇
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

 
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