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guilty 24. 水着回かと思ってたらなんか別の戦いが始まっていた
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ムワアァッとした過ごしにくい梅雨が明け、そろそろ夏本番の暑さが到来するかという今日この頃。俺は詩織の企てに乗せられる形で市民プールに向かっていた。使用済みのママチャリで。使用済みのママチャリと聞くと何故か団地妻を連想してしまうのは折原の悪影響だろうか。使い古しのオンボロママチャリをギコギコと漕ぎながらこれまでのことを考える。
女子をひとり同伴との詩織との約束。女子をプールに誘うのは陰キャの俺にとってはオムツとカラカラを装備して道端でゴロゴロと回転しながらギャン泣きするのと同じくらい難易度が高いミッションである。そして当然ではあるが妹様の手前、波風が立たない無農薬野菜のようなかまぼこ女子を選択する必要がある。
そもそも知り合いの女子どころか男子も少ない俺にとっては誘える女子は限定されるのだ。頭の中で知り合いのバケモ…女子を一人ずつ洗い出してみた。
ハニ…薬師寺蝉子サンはいわゆる地獄系女子(地雷系女子の上位互換)である。周囲に恥死性の高い呪いを振り撒き、ちん●に服を着せたようなチャラ男を寄せ付けないある意味ボディーガードとしてはうってつけの存在で、詩織の友達のおぼこ女子の貞操を守るという目的に合致していると言えるだろう。但し、存在そのものが厄災で何をしでかすか分からないという違う意味でドキドキするデンジャラスな女子である。
大沢先生はうちの学園の常勤保険医で行かず後家である。白衣がデフォ装備だが、時には時代遅れの痛々しいセーラー服姿に変身する。武器は鞭を使用し、付き人のボールギャグ男子を盾にするのだろう。鞭で近寄るビニ本読みすぎてげっそりしているチャラ男をしばいたり、ボールギャング男子を押し付けてディープキスをさせるなどといった地獄絵図のような方法で陽キャを撃退するにはうってつけの兵器だろう。しかし、そもそも女子という年齢ではないし、存在そのものが世紀末である。かまぼこ女子どころか俺がかまぼこにされて美味しく頂かれるかもしれない。
蒼海ちゃんは折原さん家の妹さんである。容姿端麗で男子を寄せ付けないどころか蜜に群がる蜂のように寄ってくるんじゃないだろうか。また、気遣いが激しすぎて、おかしな言動や行動が見られる。押しに弱そうだし、今回の目的からいってむしろ状況を悪化させかねない危険な存在かもしれない。性格からして求めているかまぼこ女子に近い候補ではあるのだが。そして、俺はロリ●ンではない。
委員長の佐々木あかねはうちのクラス委員長である。しまった、当前のことを普通に言ってしまったぞ。こちらも容姿端麗、秀麗眉目、文武両道、森羅万象……思わずお堅い四文字熟語をツイートしたくなるような優等生女子である。ちなみに『お堅いのは背中のソレだけじゃないよな?』と声をかけると笑顔で急所を思い切り蹴られるので注意しなければならない。半月前の折原の台詞である(ちなみにその後、何故か俺が折檻されたが。とっても理不尽)。基本的には真面目なので煩悩に魂を売ってしまったようなチャラ男を見るとトンでもない説教が始まりそうで、抑止効果はありそうである。クセ強でコミュ力に難あり(俺も人のことは言えないが)だが、ナイト役には良いかもしれない。
越谷実さんは蒼海ちゃんのお友達らしい。
彼女のことは最近知り合ったばかりなので良く分からない。元気な女子という感じである。気軽に声を掛けにくい。そして、俺はロリ●ンではない。
以上のことを踏まえて、総合的に判断して比較的マシな我らが委員長を市民プールに誘うことにしたのである。
「ちょっと、先輩! 私の分析結果はないのですかかかかか!」
グイッ
「おぎゃああ! おっおみゃっ、運転中に首を絞めるのはヤメレ!!」
なんで俺の恥ずかしい思考がこいつに読まれとんねん。こいつとは今まさに背後から俺の首をネジ切る勢いで首を絞めてくる櫻井のことである。命の危険を感じたのでママチャリを急停止する。そして、後ろの荷台にまたがるように座っている櫻井の方に振り向く。
「あれ? 乳にある首の方が良かったですか?」
「ゲホォ……部位の問題では無いことに気づいてくれませんかね? ていうか、お前もう走ってついてこいや」
乳首を絞めるってどういう状況?SMプレイか?
市民プールまであともう少しなのでママチャリを押して歩くことにする。マジでもうこの女を乗せたくねえ。
「そうだ、私が先輩のママチャリを運転すればいいんですよ!」
「あれ? お前の自称先輩はどこにいったの?」
「荷台に乗ればいいんですよ。逆立ちで」
櫻井は良いこと思い付いたみたいな顔をする。俺はサーカス小屋の回し者か?想像するだけでシュールすぎる。ピエロ姿でそんなことしてたら道交法とかで捕まるんじゃないの?知らんけど。
「今日は楽しみですねっ、先輩!」
櫻井はチャリ押して歩く俺に並ぶ。この台詞だけ見れば『あ゛~青春してるなあ』とか思うかもしれないが、こいつの言う楽しみとはプールできゃっきゃっウフフすることではないことは容易に想像がつく。考えたくもないが、俺に対しておぞましい想像を脳内で繰り広げているのだろう。
「楽しみじゃねえです。何で俺がお前とプールに行かないとあかんねん」
「なんでですか~? プールにはビキニ姿のおぢさんがいっぱいいるんですよ! 思わず目移りしちゃいますよね!」
「オウフ、目移りじゃなくて目眩がしそうだわ。あとビキニのおやぢとかこの世に存在しないから、あってはならない存在だから」
櫻井さん?目を輝かせて何かを期待するような瞳で俺を見つめるのはやめて欲しい。
同行者は委員長にしたが、何故こいつまで着いてきているのか?話せば長くなるが、あれはクラスで委員長を市民プールに誘ったときの出来事である──。
『あ、あの……委員長。ちょっと、お時間宜しいですかね?』
『……なに』
朝、始業前。俺がおずおずと遠慮がちに委員長に声を掛けると、委員長は眉間に皺を寄せてぶっきらぼうに返答する。怖い、漏らしてしまいたい。
『い、委員長にご相談がございまして』
『待って。前から思っていたけれど私の名前は『委員長』じゃないわ。私の名前は佐々木あかね。あかねさんと呼びなさい』
委員長は不満げな顔してピッと俺に指差す。な、何故、名前呼び?悪友の折原でも苗字呼びなのに。
『しょ、承知いたしました、あかねさん』
『……っ。あ、あと、上司と部下じゃないのだからそのへりくだったような敬語はやめなさい』
『わ、分かったよ、あかね 』
『~~っ! き、気安く呼ぶんじゃないわよ、ばかっっ!! 委員長って呼びなさい!!』
机を両手で思い切り叩き、エキサイトするあかねさん。結局、委員長でいいんかい。今の無駄な件はいったいなんだったと言うのでしょうか……。
『そ、それで? 何の用よ?』
『えっと、な……今度の日曜に市民プールに行かないか?』
『……は?』
『いや、そのあの……妹に悪い虫がつかな』
『ちょっと、待ちなさい。つまり、その、それって、デデデデデデデデデデデデデ』
『どうした!? 委員長?!』
いきなり、マナーモードのように全身が震えだしたかと思ったら茹で蛸のように顔が真っ赤になり涎をたらして机を人差し指で叩きだす委員長。コッワ……変なゲーム廃人にでも取り憑かれたのかな?
『けふん、みっともないところ見せてしまったわね? それで? 私と市民プールに行きたい? そう、殺すわ』
まともになったと思ったら突然暴言を吐かれる俺。何故、なんの罪もない俺が殺されないといけないの?とりあえず、なんか誤解されてるような気がしたし誘うためには本当のことも言っておかなければならないので妹のこと、妹の友達が陽キャグループのチャラマンに狙われていること、そしてそのナイト役として俺と一緒に市民プールに着いてきて欲しいことを懇切丁寧にプレゼンした。話を聞いていた委員長はみるみるうちに落胆した表情となる。うーん、やっぱり委員長はチャラ男が苦手なのだろうか。先程のような猟奇的な瞳でドン引きするような口撃でチャラ男に是非とも天誅を下して欲しいのだが。
『色々と言いたいことはあるけれど、まあいいわよ。雛ちゃんのためだしね、私も行くわよ』
ハイ?
詩織の名前は出してないが、何故あのアタオカ女の名前がそこで出てくる?
『ヒ、ヒナ……チャン……アッ……レ…? オレ、オレノ……イモウト……クウ……ヒ……ナ……チャン……?』
『あんた、失禁して行き場のない園児みたいな顔つきになってるわよ。何を呆けてるのよ、あんたの妹さんでしょ?』
……。
げえ!!俺が設定した偽妹(櫻井)のことだ!前に委員長に櫻井を俺の妹として紹介していたことをすっかり忘れていたぞ!
『まったく……。それを早く言いなさいよ。腹違いとはいえ大切な妹さんのためなら協力するわよ』
いやなんか壮大な設定もオプションで追加されてるし。待てよ。何か思い出してきたぞ、櫻井が委員長に余計なことを言ってたような?
~回想の回想~
『お兄ちゃんとは腹違いの兄妹なんです! お父さんの不貞が原因で別居中なんです! まあ、別々に来たのもそういうわけですね』(※9話抜粋)
~Fin~
いや、Finじゃねえ。言ってたわ、ちくせう。軽くついた嘘があとになって引くに引けない状況になっているような気がするんですけど。ていうか、この流れは櫻井も連れていかなきゃならんのかよ。あああ、ど、どうすんの?どうすんのよ、俺。リアルな妹と鉢合わせしたら……盆と正月が同時にやって来るようなものである。こ、ここは正直に本当のことを委員長に打ち明けて今のうちにダメージを少なくしておくべきなのでは?
『い、いや、俺のヒナチャンはだな、画面の向こう側から生まれた裏の妹でだな、いわゆる隠しシークレットビックリ●んキャラみたいな存在なんだよ、だからあれは嘘だったという結論に至るわけなんだな、わかった?』
『は、はあ? いきなり何を訳の分からないことを必死に宣っているのよ。ていうか自分の妹を『俺の…』とか『ちゃん』付けとか、あんたシスコン? キッッツ……とにかくそういうことだから時間は10時だったわね?』
キーンコーンカーンコーン
『ハヒッ……ヒョッマテヨ!』
俺は入れ歯を装着し忘れたジジイみたいなか細い声で委員長を引き止めたが、始業の鐘で聞こえてないのかそのまま自分の席に戻っていってしまったのでした。おしまい。嗚呼、焦った俺の意味不明な供述で会話が終わってしまった。明日は明日の風が吹く、どうしようもないこの状況にその時はウンウン悩みながらまあどうにかなるでしょ精神でそのまま当日を迎えてしまったわけである。
まあ、結局どうにもならなかったわけですが。唯一の救いとしてはリアルの妹様(in陽キャグループ)とはプールサイドで待ち合わせをしているので時間と気持ちの猶予があるということだけである。
そして、そのまま現在に至る。
「確か佐々木あかねさんでしたっけ? 前に一緒にカラオケに行ったひと……堅物から生まれたげんこつ煎餅に服を着せたような方でしたよね!」
櫻井は人差し指を立てて思い出すようにチャリを押して歩いている俺に話しかける。隣に無邪気に悪口をツイートする女がいなければもっと気持ちに余裕があったのだが。
「お前、マジでいらんことを言うなよ。あの方は下品な方向の冗談は通じないんだからな」
「え? お通じが通じない便秘な方なんですか? アッなるほどです~略してア●ル」
行った傍からそういうド下ネタはやめてクレメンス。ちなみに櫻井には俺の妹のことや今回の諸事情は一切伝えていない。普通に委員長が一緒に市民プールで遊びたいと言っていると伝えただけである。俺にとって櫻井の存在はイレギュラーそのもので事前に櫻井に伝えればますます場が混沌としそうだし。あり得ない話ではあるが、できれば今日一日うちの妹とエンカウントしないで欲しいまである。詩織に偽妹の櫻井の存在がバレると……嗚呼、想像するだけで寿命が鉄やすりでゴリゴリと削られる感覚になる。
「それにしても一度会っただけなのに、私と遊びたいだなんてすこぶる変人ですねー。もしかして口封じに命を狙われているんですかね私?」
「自分で言うのそれ? お前、顔『は』可愛い部類なんだから別に男女にモテモテでも可笑しくは無いだろ」
「そ、そういうことをサラッと言える先輩もなかなかになかなかです。うん、なかなかですね、なかなかですよっ、このっ!」
櫻井は俺に向かってジャブを打つような動作をする。何がなかなかなんだよ。照れ隠しかなんか知らんが、誉められてると勘違いしてテンション上がってるんじゃねえ。顔以外は不細工って意味だぞ。行間を読んでくださいませ。
「あ。可愛いで思い出したのですが、これを見てくださいよ」
櫻井は手持ちの鞄から何やら布きれを取り出す。
「セパレートタイプの花柄水着がなかなか可愛いと思うんですよね。ちなみにこのワンポ」
「きゃあああああああああん」
「……。いや、人が説明している途中で大の男が少女みたいな悲鳴上げるのは勘弁してくださいよ、ドン引きです」
な、何がドン引きです、だ!
いきなり公共の道路で女性ものの水着を取り出すやつがあるか!あ、あれか?前に下着を見てたときに自分用かと思ってたら俺用とか気の狂ったようなことを言い出したアレのパターンか!?
「は、ははは……あれだろ? 『これは先輩が着る水着ですよ』とか言うつもりだろ? 残念でしたー俺は準備済みです」
「え? 普通に私が着る水着ですけど」
ワァ……。
「い、いや、アホか! そんな簡単に殿方に自分が着る水着を見せんな!! そういうのはひと夏のアバンチュールにとっとけ!」
「何を意味不明なことを言ってるんですか? 別に良いじゃないですか! どうせ後で草葉の陰からこっそりと穴が空くほどマジマジと視姦するんですから! 単に中身があるかないかの違いだけですよ」
「あ、穴が空くほどはマジマジとは視姦しませんが? こ、こらなんてことを言うんだこの子は……や、やめたまえ、櫻井くん、そういうのは薄くてエッチな同人誌で乞うご期待」
「はあ…。先輩の中学生みたいなアホな煩悩にはついていけないです。ほら、早く待ち合わせ場所に行きましょう」
櫻井は水着を鞄に入れ、そのままトボトボと歩いていく。だ、誰がアホな煩悩だ。諦めて悟ったような顔はやめたらんかい。俺は慌てて櫻井についていくのであった。
現在、午前9時半。
櫻井とともに市民プールの前に到着すると般若のような顔した委員長が腕を組んで待ち構えていた。
「遅い。今何時だと思ってるのよ」
「いや、約束時間の30分前ですが? えっ、委員長は何時に着いたの?」
「深夜1時頃よ」
はっっっやっっっ。
いや、前より酷くなってなあい?ひとり誰もいない暗闇の中、閉まっている市民プールの前で待っている委員長の姿はシュールを通り越してオカルトなんですけど。
「……。冗談よ、本当は3時頃に着いたわ。まあ、早起きは三文の徳と言うわね。早朝は涼しくて過ごしやすくてとても読書が捗ったわ」
???
この方はいったい何を仰っているのでせうか。深夜の1時も3時もそんなたいして変わらないのですがそれは。そして深夜の3時は早朝とはいわない。まったく意味のない冗談を言って何がしたいのだろう。頭の良いやつの考えていることは本当によくわからん。
「おっはよーございまーす! お久しぶりですね、佐々木さん! 今日は宜しくお願いします!」
「ええ、おはよう。朝から雛ちゃんはとっても元気ね。今日はあなたやあなたの友達を悪い蛆虫から守ってあげるからタイ●ニック号のような大船に乗った気分で安心して今日一日を過ごすといいわ」
「……? はあ、なんのことかよく分からないですけど、つまり期待はできないわけですね。宜しくお願いします」
委員長は櫻井の両肩を軽く掴み、充血した瞳で見つめる。やべえ、めっさヤル気まんまんなんですけど。準備は万端ってまさかのまさかだが凶器は持ってきてないだろうな?
「貴方達は家庭が色々と複雑で苦労も多いと思うけれど……うん、大丈夫。今日は私がそんな苦しみを解き放ってあげるから思い切り友達と楽しみなさい。」
え、なにそのノリ。もしかして、悪い神様にでも取り憑かれたのかな?ていうか嘘設定でそんな本気かつ感傷的にならないでください。バレた時の反動がヤバそうで怖い。こ、こっそりと帰ってもいいかな?なんか市民プールがあちこちに時限爆弾が仕掛けられた強制収容所に見えてきたんですけど。
「先輩、先輩、ちょっと、いいですか?」
櫻井は委員長の元から離れ、俺の隣までやってきた。
「あの人なんか変なキノコでも食べたんじゃないですか? 何か様子が変ですよ」
櫻井は珍しく目を泳がせて、小声でそう話しかけてくる。半分お前の虚言のせいでもあるのですが。委員長の異変には俺も気付いていたが、そんな他人に対して熱くなる人だったっけ?どちらかと言うと『私は孤高の存在よ、フフン』みたいなあまり他人を寄せ付けないオーラを放っていたような気がするんですが。
「私抜きでナニを二人でこそこそと密談しているのよ! 今日はみんなで一緒に幸せになるために来たのよ! はやく中に入るわよ!」
委員長は俺と櫻井の腕を掴んで捲し立ててくる。ヤバ……。お近づきになりたくない人No.1みたいになってるじゃん。そのうち、アバンギャルドな格好で変な幸福の壺とか押し売りしてきそう。
「ヒエエエエ! お、オニイチャーン! 二人で着替えるのなんか怖いので更衣室の中まで着いてきてください!」
「更衣室の中までって……俺を犯罪者にするおつもりですか? お前に着いていったら俺が社会的に殺されるんですけど」
「こ、更衣室の中で待ち合わせしようぜゲヘアヘ、ですって!? う、植木! い、いい加減にしなさいよ、この変態!! ……で、でも、まあ、今日くらいは許して上げるわ」
委員長はシャウトしながら荒ぶっているかと思ったら急に余所余所しくなる。やべえ、ついには幻聴まで聞こえだしたのかな。ていうか、今日の委員長はノリが意味不明で本当に怖い。逃げよう、後でまた合流するけど。
「あ、あとは若い二人で楽しんでクレメンス!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ女子二人から全力疾走で離れる俺。そしてすぐさま受付を済まし、更衣室に向かうのであった。
女子をひとり同伴との詩織との約束。女子をプールに誘うのは陰キャの俺にとってはオムツとカラカラを装備して道端でゴロゴロと回転しながらギャン泣きするのと同じくらい難易度が高いミッションである。そして当然ではあるが妹様の手前、波風が立たない無農薬野菜のようなかまぼこ女子を選択する必要がある。
そもそも知り合いの女子どころか男子も少ない俺にとっては誘える女子は限定されるのだ。頭の中で知り合いのバケモ…女子を一人ずつ洗い出してみた。
ハニ…薬師寺蝉子サンはいわゆる地獄系女子(地雷系女子の上位互換)である。周囲に恥死性の高い呪いを振り撒き、ちん●に服を着せたようなチャラ男を寄せ付けないある意味ボディーガードとしてはうってつけの存在で、詩織の友達のおぼこ女子の貞操を守るという目的に合致していると言えるだろう。但し、存在そのものが厄災で何をしでかすか分からないという違う意味でドキドキするデンジャラスな女子である。
大沢先生はうちの学園の常勤保険医で行かず後家である。白衣がデフォ装備だが、時には時代遅れの痛々しいセーラー服姿に変身する。武器は鞭を使用し、付き人のボールギャグ男子を盾にするのだろう。鞭で近寄るビニ本読みすぎてげっそりしているチャラ男をしばいたり、ボールギャング男子を押し付けてディープキスをさせるなどといった地獄絵図のような方法で陽キャを撃退するにはうってつけの兵器だろう。しかし、そもそも女子という年齢ではないし、存在そのものが世紀末である。かまぼこ女子どころか俺がかまぼこにされて美味しく頂かれるかもしれない。
蒼海ちゃんは折原さん家の妹さんである。容姿端麗で男子を寄せ付けないどころか蜜に群がる蜂のように寄ってくるんじゃないだろうか。また、気遣いが激しすぎて、おかしな言動や行動が見られる。押しに弱そうだし、今回の目的からいってむしろ状況を悪化させかねない危険な存在かもしれない。性格からして求めているかまぼこ女子に近い候補ではあるのだが。そして、俺はロリ●ンではない。
委員長の佐々木あかねはうちのクラス委員長である。しまった、当前のことを普通に言ってしまったぞ。こちらも容姿端麗、秀麗眉目、文武両道、森羅万象……思わずお堅い四文字熟語をツイートしたくなるような優等生女子である。ちなみに『お堅いのは背中のソレだけじゃないよな?』と声をかけると笑顔で急所を思い切り蹴られるので注意しなければならない。半月前の折原の台詞である(ちなみにその後、何故か俺が折檻されたが。とっても理不尽)。基本的には真面目なので煩悩に魂を売ってしまったようなチャラ男を見るとトンでもない説教が始まりそうで、抑止効果はありそうである。クセ強でコミュ力に難あり(俺も人のことは言えないが)だが、ナイト役には良いかもしれない。
越谷実さんは蒼海ちゃんのお友達らしい。
彼女のことは最近知り合ったばかりなので良く分からない。元気な女子という感じである。気軽に声を掛けにくい。そして、俺はロリ●ンではない。
以上のことを踏まえて、総合的に判断して比較的マシな我らが委員長を市民プールに誘うことにしたのである。
「ちょっと、先輩! 私の分析結果はないのですかかかかか!」
グイッ
「おぎゃああ! おっおみゃっ、運転中に首を絞めるのはヤメレ!!」
なんで俺の恥ずかしい思考がこいつに読まれとんねん。こいつとは今まさに背後から俺の首をネジ切る勢いで首を絞めてくる櫻井のことである。命の危険を感じたのでママチャリを急停止する。そして、後ろの荷台にまたがるように座っている櫻井の方に振り向く。
「あれ? 乳にある首の方が良かったですか?」
「ゲホォ……部位の問題では無いことに気づいてくれませんかね? ていうか、お前もう走ってついてこいや」
乳首を絞めるってどういう状況?SMプレイか?
市民プールまであともう少しなのでママチャリを押して歩くことにする。マジでもうこの女を乗せたくねえ。
「そうだ、私が先輩のママチャリを運転すればいいんですよ!」
「あれ? お前の自称先輩はどこにいったの?」
「荷台に乗ればいいんですよ。逆立ちで」
櫻井は良いこと思い付いたみたいな顔をする。俺はサーカス小屋の回し者か?想像するだけでシュールすぎる。ピエロ姿でそんなことしてたら道交法とかで捕まるんじゃないの?知らんけど。
「今日は楽しみですねっ、先輩!」
櫻井はチャリ押して歩く俺に並ぶ。この台詞だけ見れば『あ゛~青春してるなあ』とか思うかもしれないが、こいつの言う楽しみとはプールできゃっきゃっウフフすることではないことは容易に想像がつく。考えたくもないが、俺に対しておぞましい想像を脳内で繰り広げているのだろう。
「楽しみじゃねえです。何で俺がお前とプールに行かないとあかんねん」
「なんでですか~? プールにはビキニ姿のおぢさんがいっぱいいるんですよ! 思わず目移りしちゃいますよね!」
「オウフ、目移りじゃなくて目眩がしそうだわ。あとビキニのおやぢとかこの世に存在しないから、あってはならない存在だから」
櫻井さん?目を輝かせて何かを期待するような瞳で俺を見つめるのはやめて欲しい。
同行者は委員長にしたが、何故こいつまで着いてきているのか?話せば長くなるが、あれはクラスで委員長を市民プールに誘ったときの出来事である──。
『あ、あの……委員長。ちょっと、お時間宜しいですかね?』
『……なに』
朝、始業前。俺がおずおずと遠慮がちに委員長に声を掛けると、委員長は眉間に皺を寄せてぶっきらぼうに返答する。怖い、漏らしてしまいたい。
『い、委員長にご相談がございまして』
『待って。前から思っていたけれど私の名前は『委員長』じゃないわ。私の名前は佐々木あかね。あかねさんと呼びなさい』
委員長は不満げな顔してピッと俺に指差す。な、何故、名前呼び?悪友の折原でも苗字呼びなのに。
『しょ、承知いたしました、あかねさん』
『……っ。あ、あと、上司と部下じゃないのだからそのへりくだったような敬語はやめなさい』
『わ、分かったよ、あかね 』
『~~っ! き、気安く呼ぶんじゃないわよ、ばかっっ!! 委員長って呼びなさい!!』
机を両手で思い切り叩き、エキサイトするあかねさん。結局、委員長でいいんかい。今の無駄な件はいったいなんだったと言うのでしょうか……。
『そ、それで? 何の用よ?』
『えっと、な……今度の日曜に市民プールに行かないか?』
『……は?』
『いや、そのあの……妹に悪い虫がつかな』
『ちょっと、待ちなさい。つまり、その、それって、デデデデデデデデデデデデデ』
『どうした!? 委員長?!』
いきなり、マナーモードのように全身が震えだしたかと思ったら茹で蛸のように顔が真っ赤になり涎をたらして机を人差し指で叩きだす委員長。コッワ……変なゲーム廃人にでも取り憑かれたのかな?
『けふん、みっともないところ見せてしまったわね? それで? 私と市民プールに行きたい? そう、殺すわ』
まともになったと思ったら突然暴言を吐かれる俺。何故、なんの罪もない俺が殺されないといけないの?とりあえず、なんか誤解されてるような気がしたし誘うためには本当のことも言っておかなければならないので妹のこと、妹の友達が陽キャグループのチャラマンに狙われていること、そしてそのナイト役として俺と一緒に市民プールに着いてきて欲しいことを懇切丁寧にプレゼンした。話を聞いていた委員長はみるみるうちに落胆した表情となる。うーん、やっぱり委員長はチャラ男が苦手なのだろうか。先程のような猟奇的な瞳でドン引きするような口撃でチャラ男に是非とも天誅を下して欲しいのだが。
『色々と言いたいことはあるけれど、まあいいわよ。雛ちゃんのためだしね、私も行くわよ』
ハイ?
詩織の名前は出してないが、何故あのアタオカ女の名前がそこで出てくる?
『ヒ、ヒナ……チャン……アッ……レ…? オレ、オレノ……イモウト……クウ……ヒ……ナ……チャン……?』
『あんた、失禁して行き場のない園児みたいな顔つきになってるわよ。何を呆けてるのよ、あんたの妹さんでしょ?』
……。
げえ!!俺が設定した偽妹(櫻井)のことだ!前に委員長に櫻井を俺の妹として紹介していたことをすっかり忘れていたぞ!
『まったく……。それを早く言いなさいよ。腹違いとはいえ大切な妹さんのためなら協力するわよ』
いやなんか壮大な設定もオプションで追加されてるし。待てよ。何か思い出してきたぞ、櫻井が委員長に余計なことを言ってたような?
~回想の回想~
『お兄ちゃんとは腹違いの兄妹なんです! お父さんの不貞が原因で別居中なんです! まあ、別々に来たのもそういうわけですね』(※9話抜粋)
~Fin~
いや、Finじゃねえ。言ってたわ、ちくせう。軽くついた嘘があとになって引くに引けない状況になっているような気がするんですけど。ていうか、この流れは櫻井も連れていかなきゃならんのかよ。あああ、ど、どうすんの?どうすんのよ、俺。リアルな妹と鉢合わせしたら……盆と正月が同時にやって来るようなものである。こ、ここは正直に本当のことを委員長に打ち明けて今のうちにダメージを少なくしておくべきなのでは?
『い、いや、俺のヒナチャンはだな、画面の向こう側から生まれた裏の妹でだな、いわゆる隠しシークレットビックリ●んキャラみたいな存在なんだよ、だからあれは嘘だったという結論に至るわけなんだな、わかった?』
『は、はあ? いきなり何を訳の分からないことを必死に宣っているのよ。ていうか自分の妹を『俺の…』とか『ちゃん』付けとか、あんたシスコン? キッッツ……とにかくそういうことだから時間は10時だったわね?』
キーンコーンカーンコーン
『ハヒッ……ヒョッマテヨ!』
俺は入れ歯を装着し忘れたジジイみたいなか細い声で委員長を引き止めたが、始業の鐘で聞こえてないのかそのまま自分の席に戻っていってしまったのでした。おしまい。嗚呼、焦った俺の意味不明な供述で会話が終わってしまった。明日は明日の風が吹く、どうしようもないこの状況にその時はウンウン悩みながらまあどうにかなるでしょ精神でそのまま当日を迎えてしまったわけである。
まあ、結局どうにもならなかったわけですが。唯一の救いとしてはリアルの妹様(in陽キャグループ)とはプールサイドで待ち合わせをしているので時間と気持ちの猶予があるということだけである。
そして、そのまま現在に至る。
「確か佐々木あかねさんでしたっけ? 前に一緒にカラオケに行ったひと……堅物から生まれたげんこつ煎餅に服を着せたような方でしたよね!」
櫻井は人差し指を立てて思い出すようにチャリを押して歩いている俺に話しかける。隣に無邪気に悪口をツイートする女がいなければもっと気持ちに余裕があったのだが。
「お前、マジでいらんことを言うなよ。あの方は下品な方向の冗談は通じないんだからな」
「え? お通じが通じない便秘な方なんですか? アッなるほどです~略してア●ル」
行った傍からそういうド下ネタはやめてクレメンス。ちなみに櫻井には俺の妹のことや今回の諸事情は一切伝えていない。普通に委員長が一緒に市民プールで遊びたいと言っていると伝えただけである。俺にとって櫻井の存在はイレギュラーそのもので事前に櫻井に伝えればますます場が混沌としそうだし。あり得ない話ではあるが、できれば今日一日うちの妹とエンカウントしないで欲しいまである。詩織に偽妹の櫻井の存在がバレると……嗚呼、想像するだけで寿命が鉄やすりでゴリゴリと削られる感覚になる。
「それにしても一度会っただけなのに、私と遊びたいだなんてすこぶる変人ですねー。もしかして口封じに命を狙われているんですかね私?」
「自分で言うのそれ? お前、顔『は』可愛い部類なんだから別に男女にモテモテでも可笑しくは無いだろ」
「そ、そういうことをサラッと言える先輩もなかなかになかなかです。うん、なかなかですね、なかなかですよっ、このっ!」
櫻井は俺に向かってジャブを打つような動作をする。何がなかなかなんだよ。照れ隠しかなんか知らんが、誉められてると勘違いしてテンション上がってるんじゃねえ。顔以外は不細工って意味だぞ。行間を読んでくださいませ。
「あ。可愛いで思い出したのですが、これを見てくださいよ」
櫻井は手持ちの鞄から何やら布きれを取り出す。
「セパレートタイプの花柄水着がなかなか可愛いと思うんですよね。ちなみにこのワンポ」
「きゃあああああああああん」
「……。いや、人が説明している途中で大の男が少女みたいな悲鳴上げるのは勘弁してくださいよ、ドン引きです」
な、何がドン引きです、だ!
いきなり公共の道路で女性ものの水着を取り出すやつがあるか!あ、あれか?前に下着を見てたときに自分用かと思ってたら俺用とか気の狂ったようなことを言い出したアレのパターンか!?
「は、ははは……あれだろ? 『これは先輩が着る水着ですよ』とか言うつもりだろ? 残念でしたー俺は準備済みです」
「え? 普通に私が着る水着ですけど」
ワァ……。
「い、いや、アホか! そんな簡単に殿方に自分が着る水着を見せんな!! そういうのはひと夏のアバンチュールにとっとけ!」
「何を意味不明なことを言ってるんですか? 別に良いじゃないですか! どうせ後で草葉の陰からこっそりと穴が空くほどマジマジと視姦するんですから! 単に中身があるかないかの違いだけですよ」
「あ、穴が空くほどはマジマジとは視姦しませんが? こ、こらなんてことを言うんだこの子は……や、やめたまえ、櫻井くん、そういうのは薄くてエッチな同人誌で乞うご期待」
「はあ…。先輩の中学生みたいなアホな煩悩にはついていけないです。ほら、早く待ち合わせ場所に行きましょう」
櫻井は水着を鞄に入れ、そのままトボトボと歩いていく。だ、誰がアホな煩悩だ。諦めて悟ったような顔はやめたらんかい。俺は慌てて櫻井についていくのであった。
現在、午前9時半。
櫻井とともに市民プールの前に到着すると般若のような顔した委員長が腕を組んで待ち構えていた。
「遅い。今何時だと思ってるのよ」
「いや、約束時間の30分前ですが? えっ、委員長は何時に着いたの?」
「深夜1時頃よ」
はっっっやっっっ。
いや、前より酷くなってなあい?ひとり誰もいない暗闇の中、閉まっている市民プールの前で待っている委員長の姿はシュールを通り越してオカルトなんですけど。
「……。冗談よ、本当は3時頃に着いたわ。まあ、早起きは三文の徳と言うわね。早朝は涼しくて過ごしやすくてとても読書が捗ったわ」
???
この方はいったい何を仰っているのでせうか。深夜の1時も3時もそんなたいして変わらないのですがそれは。そして深夜の3時は早朝とはいわない。まったく意味のない冗談を言って何がしたいのだろう。頭の良いやつの考えていることは本当によくわからん。
「おっはよーございまーす! お久しぶりですね、佐々木さん! 今日は宜しくお願いします!」
「ええ、おはよう。朝から雛ちゃんはとっても元気ね。今日はあなたやあなたの友達を悪い蛆虫から守ってあげるからタイ●ニック号のような大船に乗った気分で安心して今日一日を過ごすといいわ」
「……? はあ、なんのことかよく分からないですけど、つまり期待はできないわけですね。宜しくお願いします」
委員長は櫻井の両肩を軽く掴み、充血した瞳で見つめる。やべえ、めっさヤル気まんまんなんですけど。準備は万端ってまさかのまさかだが凶器は持ってきてないだろうな?
「貴方達は家庭が色々と複雑で苦労も多いと思うけれど……うん、大丈夫。今日は私がそんな苦しみを解き放ってあげるから思い切り友達と楽しみなさい。」
え、なにそのノリ。もしかして、悪い神様にでも取り憑かれたのかな?ていうか嘘設定でそんな本気かつ感傷的にならないでください。バレた時の反動がヤバそうで怖い。こ、こっそりと帰ってもいいかな?なんか市民プールがあちこちに時限爆弾が仕掛けられた強制収容所に見えてきたんですけど。
「先輩、先輩、ちょっと、いいですか?」
櫻井は委員長の元から離れ、俺の隣までやってきた。
「あの人なんか変なキノコでも食べたんじゃないですか? 何か様子が変ですよ」
櫻井は珍しく目を泳がせて、小声でそう話しかけてくる。半分お前の虚言のせいでもあるのですが。委員長の異変には俺も気付いていたが、そんな他人に対して熱くなる人だったっけ?どちらかと言うと『私は孤高の存在よ、フフン』みたいなあまり他人を寄せ付けないオーラを放っていたような気がするんですが。
「私抜きでナニを二人でこそこそと密談しているのよ! 今日はみんなで一緒に幸せになるために来たのよ! はやく中に入るわよ!」
委員長は俺と櫻井の腕を掴んで捲し立ててくる。ヤバ……。お近づきになりたくない人No.1みたいになってるじゃん。そのうち、アバンギャルドな格好で変な幸福の壺とか押し売りしてきそう。
「ヒエエエエ! お、オニイチャーン! 二人で着替えるのなんか怖いので更衣室の中まで着いてきてください!」
「更衣室の中までって……俺を犯罪者にするおつもりですか? お前に着いていったら俺が社会的に殺されるんですけど」
「こ、更衣室の中で待ち合わせしようぜゲヘアヘ、ですって!? う、植木! い、いい加減にしなさいよ、この変態!! ……で、でも、まあ、今日くらいは許して上げるわ」
委員長はシャウトしながら荒ぶっているかと思ったら急に余所余所しくなる。やべえ、ついには幻聴まで聞こえだしたのかな。ていうか、今日の委員長はノリが意味不明で本当に怖い。逃げよう、後でまた合流するけど。
「あ、あとは若い二人で楽しんでクレメンス!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ女子二人から全力疾走で離れる俺。そしてすぐさま受付を済まし、更衣室に向かうのであった。
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