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guilty 2. 委員長が俺の尻を狙っていた

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JKに痴漢扱いされたのが相当効いたのか、昨夜は寝不足で俺、植木桂一郎の体調はすこぶる悪い。



 昨日あんな変なイベントがあったせいか、今朝の通学時の電車内では警戒していたが、あの指差しJKとエンカウントすることはなかった。まあ、そんな漫画やアニメみたいなミラクル展開はそうそうないわな。



 昨日の出来事はきっとサキュパスが見せた白昼夢だったのだろう。うん、そうだ、きっとそうに違いない。そう自分に言い聞かせて、教室の自分の席にぐでーっと全体重を預ける。野郎の胸板のように固くて、寝心地最悪なベッドだが、俺の身体を支えてくれるだけありがたいというものである。



「よう、桂一郎。どうした、登校していきなり居眠りか? お盛んだな」



 机に突っ伏してすぐに、クラスメイトの折原航が声を掛けてきた。あー、最悪なタイミングにやって来るなよ、おい。折原は汚い薄い絵本の中から出てきたような金髪サラサラ系の美男子である。モブ顔の俺とは釣り合いがとれないが、何故か入学当初からこうやってるつるむことが多い。



「お盛ん要素どこにある? 頼むから今日は寝かせてくれよ、しんどいんだからさ」

「そんなつれない事言うなよ。今日も寝かさないぞ」



 舌をペロっと出し、素敵な笑顔でサムズアップする折原。

その親指をあらぬ方向に曲げてやろうか。



「うへぇ……どうせ、今日もお前の得意な『熟女』の話だろ、恋バナもとい濃いバナは勘弁してくれ」

「何を言ってるんだ、桂一郎。熟女はいいぞ……熟女はとってもいいぞ! 昨日見たAVでは園児服を身に纏った熟女がだな」



 いきなり胸焼けしそうな話であった。

ただでさえ体調が悪いのに、豚の妖精さんに無理矢理ラードの塊を大量に喰わされているような気分になる。



 目の前にいる友人の折原は熟女スキーな熟女専である。エーブイやエロ漫画で仕入れてきた熟女エピソードをこうして毎朝熱心に俺に演説するという嫌がらせを仕掛けてくる。こいつはボッチ系の俺と違って友達が多いはずなのに、何でそんなこの世の肥溜めみたいな話を俺にしてくるんだと本人に聞いたことがある。



『桂一郎は嫌な顔一つせずに聞いてくれるんだよな』



 いや、今も絶賛渋柿を喰い散らかしたエテ公みたいな顔してますけど?まあ、俺も何だかんだ言いつつ話は聞くし、人間的には悪い奴ではないから付き合ってはいるのだが。



「おはよう植木。進路希望用紙は持って来た?」



 これまた最悪なタイミングでクラスの委員長様が声を掛けてきた。彼女の名は佐々木あかね。ハーフアップにまとめた髪は少し同年代の女子よりも大人びた印象を与えており、実際に喋っていてもソレを感じさせる。委員長様の代名詞である真面目に違わぬ秀麗眉目、文武両道を体現した女子である。



「あ、おい佐々木。俺は今、熟女園児について桂一郎に熱く語っていたんだぞ、邪魔するなよ」

「熟女園児? 何それ、日本語が崩壊してるわよ。そんなあんたのしょうもない話より私は植木に大事な話があるの、邪魔しないで」

「何だ、朝っぱらから告白でもしに来たのか」

「折原、あんた難聴系男子? 進路希望用紙を回収しに来たのよ」

「クールな女だぜ」



 折原は両手を上げて降参のポーズをし、やれやれといった表情をする。真面目で冷凍中のあず●バーようにお堅い彼女には折原の下世話な冗談は通用しないようだ。



「進路希望用紙……」

「え。なに、植木……その歳で痴呆入ってる?」



 佐々木は怪訝な顔をする。酷い言われようだ。

いや、進路希望用紙自体は覚えているが、昨日、便所で大きい方をしていた時にトイレットペーパーが切れてそれで偶々尻ポケットに入っていた進路希望用紙でをチリ紙と勘違いして、えっと、それで……。



「…………」

「何よ。歯医者で順番待ちしてる小学生みたいに震えて……もしかして、忘れたの? はあ~、将来を左右する進路よ? もう少し真面目に考えなさいよ。まあ、いいわよ。今日中に提出だから考えて後で私に渡してよね」



 頬を雪見大福のように膨らませて説教する佐々木。

リアルで頬を膨らませる女なんて二次元以外で初めて見た。



 委員長様に『トイレットペーパー代わりに使用しました。ちょっと硬くて痛かったけど助かりました』なんて……とても本当の事は言えない。しかし、困った。俺の進路希望用紙は既に水洗トイレでお亡くなりになったので新しいものを用意しないといけない。



「桂一郎よ。お前もしかして、便所で尻を拭くのに使って今は無いとか?」

「何で分かるんだよお前は……俺の大便姿を盗撮でもしてたんか、アッ」



 時すでにおすし。



「なっななな……なっ何それ何それ! 最低最低最低最低! ばかばかばかばか! う、植木何てもう知らない! 勝手にしなさいよ!!」



 佐々木は何故か顔を柘榴のように真っ赤にし、子供のような罵倒を言い残してピャーっと席に戻っていく。終わった。明日から、『進路希望ウンコ君』とか呼ばれたらどうしよう。



「ははは、佐々木の奴、怒ってら」

「折原、お前の所為だぞ」

「いくらピンチだからといって進路希望用紙をトイレットペーパー代わりにするお前もどうかと思うぞ。まあ、心配すんなよ。何だかんだ言っても委員長様はお前の尻を虎視眈々と狙ってると思うぞ」

「…………」

「あ、間違えた。テイク2。何だかんだ言っても委員長様はお前のこと好意的だと思うぞ」



 間違え方がおかしくない?



「佐々木が俺の事を好いてる? 天と地がひっくり返ってもないだろ。見ただろ、まるで姑のようにガミガミと俺をしかりつける姿。俺は体のいいサンドバッグなんだよ」

「そうかねえ、本当に嫌ってるなら声も掛けないと思うけどな。昔さ、付き合っていた三十年上の四十路の元カノがいたんだけどさ、別の四十路女と二股してフラれたの。そしたら、俺の家にカッター刃と髪の毛が入った封筒が送られてきたの。それからラインしても既読スルーされるし、ハハハ、これはマジ嫌われたって思ったね」



 折原はケラケラと腹を抱えて笑う。

お、お前のは嫌われるの次元が違うだろ……!ていうか、そんなリアルで色々とエグイ話は聞きたくない。夜道に気を付けた方が良いぞ、と言いたくなったがある意味コイツの自業自得なところもあるので黙っておくことにする。



「まあ……『好き』の反対は『興味ない』というからな。お前の話も間違ってはいないと思うが、進路希望何てクラスにかかわることだからな、まだ提出していない俺を見かねて声を掛けてきたんだろ」

「俺も進路希望まだ出してなかったけど、何にもないぜ? 愛されてるねえ、桂一郎ちゃんよー」



 折原は俺の乳首をクリクリと人差し指で愛撫し、肩を抱く。やめろ、俺の乳首を弄っていいのは股の食い込みがえぐいレースクイーンだけと相場が決まっているのだ。



 バァン!



「キャンッ」



 突如、目の前の机にコピー用紙と白魚の様なおみ手が現れた。吃驚して犬コロの様な悲鳴を上げてしまった。何事かと顔を上げるとそこにはそこには、先程まで子供のようにプリプリと怒っていた佐々木が立っていた。



「折り紙か?」

「新しい進路希望用紙よ!! これをなくしたら今度こそ本当に知らないわよ!!」

「あり……嗚呼、行っちまった」



 プイッと俺から顔を逸らして、またプリプリしながらお礼を言う前に席に戻って行ってしまった。瞬間湯沸かし器みたいな女である。



「愛されてるねえ、桂一郎ちゃん」



 折原は俺の両肩を背後から揉み、セーターを肩からかけグラサン、ローファーを装備している監督の様な口調になる。とりあえず、ウザかったので両手を払っておく。折原のニヤケ面は癪に障るが、佐々木には後でちゃんとお礼は言っておこう。黙って当たり前のように施しを受けるほど落ちぶれていない俺である。



 キーンコーンカーンコーン



 折原としょうもない話をしていると予鈴の鐘が鳴った。

うちの高校は予鈴の3分後に本鈴が鳴り、本鈴とともに授業が始まるという親切設計である。


「おっと、先刻の続きだったな。園児服姿の熟女が四つん這いで誘ってくる姿がサイコーだったぜ」



 ところで、このサイコ野郎はいつまで俺の席にいるつもりだ?



「おい、予鈴が鳴ったから席に戻れよ」

「まだ、カップラーメンの待ち時間くらいはあるじゃないか。語ろうぜ。それにお前と過ごすハートフルタイムが増えれば増えるほど委員長の嫉妬心を炊きつけることが出来ると思ってさ」

「何を訳の分からんことを言ってるんだ……。俺はしんどいから寝たいのだが」

「真面目系クズの桂一郎がしんどいなんて言うの珍しいからな、どんなお盛んな事をしたのか気になってな」



 え、今普通にディスられた?

ハートフルボッコタイムにしてやろうか。



 あー、これは事情を話す流れか。出来ればあまり話はしたくなかったのだが、もったいぶってるといつまでも熟女キラーの話に付き合わされるハメになるかもしれない。



「分かったよ、話すよ。言いにくい事なんだが、昨日の電車で下校しているときにだな。他校のJKに痴漢と間違われたんだよ」

「え? 桂一郎が痴漢者トー●スに間違われた?」



 流行ってんのかそれ。



「桂一郎は寧ろ痴漢される側だろ、熟女受けする可愛いショタ顔してるんだからさ。舌なめずりする熟女も多いはずさ」

「シャレにならん冗談はヤメロ。ともかく、JKに痴漢と罵られ心に傷を負った俺は夜もまともに寝れずにこのありさまと言う訳さ」

「JKに罵倒されるなんてロリコンの桂一郎にはご褒美なんじゃないか」

「今聞き捨てならないことを言われたような気がするな。現実と二次元は違うんだよ。知らん女子に罵倒されて気持ち良くなる変態じゃないし、あの時は心臓を鷲掴みされたような気分になったよ」

「そうか、それは災難だったな。しかし、どうだ。心のムラムラを誰かに話せただけでもスッキリしたんじゃないか?」

「ムラムラじゃなくてモヤモヤな。お前と話すことで新たなモヤモヤが絶賛発生中だけど」

「俺の尻に惚れるなよ?」

「痴漢しねえよ」



 折原は軽く手を上げ、自分の席に戻っていく。

折原はチャラいイケメンキャラだが、話してみると存外話し上手でもあり聞き上手でもある。ふと、誰かの視線を感じたので周囲を見回してみる。



「じぃ~~……」



 佐々木が肉食獣系の瞳で俺を睨んでいた。

……こっっわっ。あいつ、本当に俺の尻を狙ってるんじゃないか?




完全に油断した。



「さあ、痴漢先輩! 今日のターゲットもといお好みのおぢさんは誰ですか!?」



 登校時にあのJKが居なくてホッとしたのも束の間。

下校時のことはとっくに頭の片隅から抜け落ちていた。高校の最寄り駅に着くと、待ち構えていたかのようにミディアムヘアーの茶髪JKが仁王立ちしていた。いや、何でここにいるんだよ!昨日の駅で偶然でくわすならまだしも!



 そのままスルーして通り過ぎようとしたが、襟首を掴まれ、今に至る。知らない女子に襟首を掴まれるなんて初体験だよ。



「あー、えっと……どちら様ですか?」

「しらばっくれないで下さい! 昨日の電車内で痴漢現場で痴漢行為を働いた痴漢野郎でしょう貴女!?」



 往来のど真ん中で痴漢痴漢、連呼しないで欲しい。

すっとぼけ作戦は実らなかったので、取り敢えず場所を変えようと思う。



「分かった、分かった……何が目的なのか知らんが、取り敢えず場所を変えよう」

「薄暗い細道に連れ込んで痴漢を目撃した私を亡き者にするつもりですね! グエエエ、怖い!」



 あの、喋らせて?



「違うよ、取り敢えずそこの喫茶店でどうだろ。落ち着いて話せるし」

「……成る程ですね、私と話しながら落ち着いて好みのおぢさんを物色できると言うわけですね」



 何が成る程ですね、だよ。

さっきから何でこの娘は俺がおやぢを狙ってると勘違いしているのだろ。勘違いというか、妄想……いや、もうメルヘンの域に達しているな。しかし、勝手にそんなメルヘンの登場人物にしないで欲しい。



「人聞きの悪いことを言わないでくれ。俺はおっさんが好物でないし、ましてや痴漢もしてない」

「まあ、蓼食う虫も好き好きと言いますからね。あの閑古鳥の鳴いてそうな古びた喫茶店には渋くてエロそうな身体つきのおぢさんがうじゃうじゃいそうです!」



 人の話を聞けよ。

ていうか、マスターは俺の知り合いだから酷いこと言うのやめてあげて?とりえあえずらちがあかないので、JKの手を引っ張り、喫茶店に連れて行く。



「グエエエ、ギャランドゥ愛好者に拉致されてます~~!!」



 その独特な悲鳴もやめてあげて?
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