THREE MAGIC

九備緒

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SECOND MAGIC

第38話 つかの間の勝利

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 何だかんだで、この世界に来て半月。
 やる気はなかった知衣も、精神的に耐え難い羞恥を催す修行に対し、流石に死ぬ気の頑張りをみせ、クロちゃんに憑かれた状態での魔力のコントロールを身につけていた。
 そして、時魔法限定であれば飛び抜けた才能を持つ知衣は、一つの強力な魔法を編み出した。 




「くうぅっ!けったいな魔法を編み出しおって!」

 目の前で悔しそうに足踏みするクウガの姿に、知衣は最高の笑みを浮かべた。
 元の世界ではあまり役に立ちそうにないけれど、この世界で平穏な生活を送る為には最高の魔法を手に入れたと思う。

「真面目に修行せんか~!」

 そう言って刀を振り回すクウガも、もう怖くない。
 何故ならば――クウガの刃は、知衣の体を捕らえられない。
 魔法は、想像力によるところが大きい。
 その為か、魔法に呪文や名前は必要不可欠というわけではないが、きちんと決めておけば想像が明確化しやすく、安定した効力を発揮するのに一役買う。知衣のような、初心者であればなおのことだ。
 知衣の編み出した魔法も、呪文こそないが、名前はつけた。

 『危機逃避行』

 この世界での知衣のカラダ(肉体・精神体とも)に一定以上の危険が迫れば、その部位のみ体を元の世界に一時的に逃がすというものらしい。
 らしいというのは、それがクウガの説明で、知衣自身はあまり理解していないからだ。
 クウガにも使えない知衣オリジナルの魔法らしいのだが、修行で追いつめられて無意識のうちに編み出された偶然の産物である為、知衣自身は原理なんてさっぱりだ。
 魔力のコントロールを身につけた知衣が、必死にクウガの振り回す刀を避けようとした結果、無意識下に危機を脱したいという強い思いが魔法として発動したのが、この魔法なのだ。
 原理はわからなくても何となくで知衣はこの魔法が使えるのだが、それはこの世界での知衣が英雄として召喚されたため、異なる次元に本体を持つ仮初めの体であるため、その二つの体の繋がりを利用することで可能となるものであり、その条件を満たさないクウガには使えない術なのだ。
 時魔法に優れるクウガには、原理自体はわかるというが、英雄召喚という国家レベルの大魔法には下手に手を出せない。
 よって、この魔法さえ使っていれば、魔法初心者の知衣も、クウガの力を刀も魔法も恐れるものではなくなるのだ。
 魔法の修行をしていたのは、一重にクウガの脅しに負けたからで、元々やる気なんてなかった知衣である。
 脅しによる脅威さえなくなれば、最早修行する気はゼロである。

「修行せんか!馬鹿弟子!」

 目の前で地団駄を踏むクウガの姿に、知衣はキッパリ言い放つ。

「イヤ。」

 そう言って、嫌なことを嫌と言える喜びを噛み締めれば、この世界にきて一番の笑顔が、自然と浮かぶ。    

 
 しかしこの時、クウガが時魔法最高の使い手であるということを――このままで済むはずもないことを、知衣はすっかり失念していたのである。


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