THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第27話 ある意味凄い才能

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「弟子となり魔法を習得すれば、元の世界でも便利な魔法が使えるぞ?」

 そんなクウガの言葉に、知衣は首を振る。

「別に魔法が使えなくて不自由してたわけじゃないし。」

 魔法なんか使えなくてもいいのだと、知衣は主張する。
 何の迷いもなく即座に返されたその答えに、クウガは意外そうに目を見張る。

「魔法が使えるようになりたいとは思わないのか?」
「魔法が使えたらなあと思った事がないとは言わないわ。だけどそう簡単に使えるようになるものだとは思わないし、弟子入りしてまで覚えようとは思わないだけ。もう職業にだってついているし、今更魔法の修行って・・・・・・正直面倒臭いもの。」

 そんな知衣の答えに、クウガは呆れたように溜息を吐く。

「欲がないのか、不精なのか……。確かに何の努力もなく魔法が使えるようになるとは言えんが。」

 クウガの言葉に、やっぱりねと知衣は思う。
 確かに魔法は便利そうだけど、だからこそ使いこなすのは難しいのではないかと思うのだ。
 セフィーは撫でるだけで知衣の視力を魔法で回復したし、エステルはペンを振るうだけで色々な魔法を見せた。
 クウガがクレアの時を止めたのも、ただ指を弾いただけのように見えた。
 けれど、それだけであるはずがない。
 念じて撫でたり、ペンを振ったり、指を弾いたり――それだけで魔法が動くものなら、知衣の世界にもありふれているはずだ。
 そうなるまでには、幾多の努力と才能が必要なのだろう。

「魔法の才能が私にあるとは思えないしね。使えるようになったとしてもささやかなものだと思うのよ。」

 言い訳のようにそう言う知衣に、クウガは肩を竦める。

「ワシも無理強いするつもりはない。だけどせっかくだ。本当に魔法の才能がないのか、せめて試してみようじゃないか。」
「え。面倒臭い。」

 思いっきり嫌そうな顔をした知衣を、クウガは「これ!」と嗜める。

「まったく。若者のくせに気概のない。安心せい。そう手間ではない。これを転がすだけでいいんだからな。」

 そう言ってクウガが差し出したもは、知衣にも見覚えのある、小さな四角い物体だった。
 それは双六などでお馴染みの、表面に一から六までの点が記された、小さな立方体。

「サイコロ?」

 訝しげに尋ねた知衣に、クウガは頷く。

「ああ。ただし、サイコロはサイコロでもただのサイコロじゃない。魔法の才能を測る魔法の『才転』サイコロだ。これで大きな目が出るほど高い才能を示す。」
「普通に振るだけでいいの?」
「おう。三個同時にな。」

 そう言って、クウガは手の中のサイコロを振った。
 カラカラと音をたてて転がったサイコロが、テーブルの上で静止する。

 三個のサイコロの目の合計は、15。

「最高が18で15なんだから、才能が高いってことよね?」

 知衣の言葉にクウガは頷く。

「まあ、ワシはこれでも宮廷魔法師だしな。高くて当然だ。羽柴はここまで高い値は出ないだろうが、10が出れば一流になれる才能だぞ。」
「別に目指さないから出なくてもいいよ。まあ、出ないと思うしね。」

 何事にも平凡な自分を、知衣は当然のように受け入れている。
 それに頭の固い自分に、魔法の才能があるなど到底思えないのだ。

「まあ、駄目元で振ってみろ。」

 クウガに促され、知衣は仕方なくサイコロを振るう。
 何の気概も緊張もなく振るわれたサイコロは、乾いた音を立てて転がった。

 三個のサイコロの目の合計は、8。

「やっぱり、一流になれるほどの才能はないみたいね。」

 そう言ってクウガを見遣った知衣は、首を傾げる。
 知衣の視線の先でクウガはサイコロを見下ろし、唖然とした様子で固まっていたのだ。

「ちょっと?」

 怪訝に思って声をかけると、クウガはのろのろと顔を上げる。
 その表情は、しょっぱいと思って食べた梅干がとんでもなく甘かったような――なんとも微妙な表情だ。

「何よ。ひょっとして、私に凄い才能を期待していたりしたわけ?」
「いや、羽柴が予想外に……ある意味凄い才能だったから驚いているんだ。」
「凄い才能?だって10で一流なんでしょ?10ないんだし、そんな驚くほどじゃ……」
「だから『ある意味』凄いと言ったろう。まったく。何だこの在りえない才能は。」

 そう言ってクウガは再びサイコロを見下ろす。
 その表情は、感嘆というよりも呆れを含んでいるような気がする。

「ひょっとして才能がなさすぎて驚いてるわけ?」
「それもある。説明してやるから、よく聞けよ?」

 別に聞かなくても良かったのだが、それを言える雰囲気でもなかったので知衣は頷く。

「この世界には色々な魔法があるが、大きく分ければ『幻魔法』『精霊魔法』『時魔法』の三つに大別される。人によってどの魔法に向いているかは違う。宮廷魔法師が3人なのも、それぞれの系統の魔法使いの頂点に立つ者に与えられる称号だからで、『幻師』『霊師』『時師』とそれぞれ呼ばれるんだ。」
「なるほど。じゃあ、『時師』の貴方は、『時魔法』とやらに精通した魔法使いということなのね。」
「そういうことだ。ちなみにこの才転も一個一個がそれぞれの魔法の才能を示している。」

 そう言われて知衣は、才転に目を落とした。

 三つの才転は、それぞれ違う色をしている。
 赤、白、黒の三色だ。

「赤は『幻魔法』の才能だが、羽柴の目は?」
「1。」
「その通りだ。1なんてワシでもはじめて見たぞ。こんなに才能がない奴がいるなんて驚きだ。」
「悪うございましたね。」
「で、白が『精霊魔法』の才能だ。羽柴の目が…これまた1。」

 なるほど。
 三個中二個までが最低値を叩き出しているともなれば、呆れた様子に納得がいく。

「こんなに魔法の才能に乏しい人間がいるだなんて、嘆かわしさのあまりワシの寿命が千年は縮まったぞ。まったくありえん才能だ。」
「千年ってあと何年生きる気よ。あれ?でも待って。じゃあ、残りの黒って……」
「黒は『時魔法』の才能だ。まったく。けったいな結果を出してくれたもんだ。」

 知衣の目は、6――最高値だ。

「私、『時魔法』の才能だけはあるってこと?」
「ああ。しかし、よりにもよって『時魔法』だとはな。まいった。ワシは平和主義者なんだが。」

 そう言いながらも、クウガはにやりと人の悪い笑みを浮かべた。

 次の瞬間。

「羽柴、ワシの弟子になれ。さもなくば……」
「ひっ!?」

 突然目の前に突きつけられた切っ先に、知衣は息を呑む。
 知衣の目の前には、抜き放たれた日本刀が突きつけられていたのだ。
 日本刀をどこから出してきたのかも、いつ抜き放ったのかも、振りかぶる動きすら知衣の目には映ることなく、一瞬のうちにそれはなされた。
 刀で生計を立てていた――その言葉は、真実なのだろう。

「ちょ、いきなり何するの!?」

 目の前の切っ先に怯みながらも問いかけた知衣に、クウガは目を細めて応える。

「何って、弟子への勧誘さ。断ったら斬っちゃうぞ~っていうな。」
「き、斬るって!?」
「安心しろ。仮初の体だから死ぬ事はないさ。痛いけどな。まあ、死ぬ予行演習だと思えばいいだろう?」
「そんな予行演習いらないわよ!!」

 大体、刀に斬られて死ぬだなんて、時代的にまずないだろう。まずありえない予行演習だ。

「それじゃあ、弟子になるしかないなあ。ならないとか言われたら、ワシは斬らずにはいられないからなあ。悲しい侍の性だ。」
「な、何が侍の性よ!たんなる脅迫じゃない!」

 そんな知衣の非難を聞き流し、笑顔でクウガは選択を迫る。

「それじゃあ、羽柴。どっちがいい?」
「ど、どっちがって。」
「ワシに微塵切りにされるかワシの弟子になるのか、二つに一つだ。ちなみに前者を選んだ場合、弟子になりたいと羽柴が言うまでワシはずっと微塵切りを続けるぞ?」

 そんなクウガの言葉に、知衣は表情を引きつらせる。
 どちらも嫌な選択な上、実質道は一つしかないということではないか。

「さて、どっちを選ぶ?」

 そういうクウガは笑っているが、瞳は全然笑っていない。
 冷たい光を宿す瞳にクウガの本気を悟って、知衣は思わず震えた。


「で、で、弟子に……なります。なればいいんでしょ!」


 こうして知衣は、不本意ながらも魔法使いに弟子入りする事となったのである。
 

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