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FIRST MAGIC
第16話 承認の証
しおりを挟むエステルに叱咤されながらも、ベルフェールの手によって知衣とクレアに承認の魔法が施された。
二の腕にピリピリと静電気のような痺れが走り、知衣は思わず袖を捲りあげる。
そこには、直径十センチはありそうな紋様が鮮やかに浮かび上がっていた。
「何これ?」
知衣の疑問に、エステルが答える。
「それが承認の証です。」
そう言われてクレアに視線を移せば、確かにその二の腕にも同じ紋様が浮かび上がっている。
「これ消えるの?」
知衣は思わず眉を寄せる。
それはまるで龍の刺青。
しかも、時代劇に出てきそうな――今の世では、頭に『ヤ』のつく危険な方々の間でしか見られないようなものだ。
銭湯からは間違いなく入場を断られそうなそれに、知衣は泣きたくなる。
別に銭湯好きなわけではないが、社員旅行等で大衆浴場にお世話になる機会は今後あるであろう。
知衣の不安気な表情に、安心させるようにエステルは微笑む。
「ご安心ください。承認の証は特殊な魔法空間内においてのみ浮かび上がるもの。元の世界は勿論、城外に出れば浮かび上がることはまずありません。」
「ほんと?よかった。」
安堵の息を零す知衣に、エステルは言う。
「これで城内の移動装置が自由に使えます。使い方についてはクレアにお聞きください。城内は広いので、慣れるまではクレアと一緒に行動することをお勧めします。迷子になるといけませんから。」
「そうします。」
「あとチイ様の役目についてこちらでご説明しなければいけないのですが――ベルフェール様があの通り使い物になりませんので、申し訳ないですが本日は簡単に弟子の私から。後日、別の宮廷魔法師を呼び付けて詳細をということで構いませんか?」
「ええ。それしかなさそうだし……」
そう言って知衣がちらりと部屋の隅で丸くなっているベルフェールに目をやると、「ひぃっ!」と悲鳴があがる。
最初に抱きついてきたのはあっちなのに……理不尽だ。
「も、申し訳ありません。情けのない師で。」
しかし、自分より年少であろう少女の謝罪を受けて、責める気にはなれない。
「別にエステルさんのせいじゃないんだから、謝らなくても。」
そう言うと、エステルはほっとしたように表情を緩めた。
「あ、私のことは『エステル』とお呼び下さい。まだ私は見習いの身で、身分はないんです。」
「なら、私にも様付はいらないわ。私だって元の世界じゃ一般市民。身分なんてないんだから。」
「ですが……」
困ったように俯くエステルに、知衣は首を傾ける。
王族と並ぶ身分らしいし、無理なのかな?
けれど、この願いはかなり切実だ。
セフィーの時も思ったが、自分より年少の子供に様付けされたりするのは、どうも落ち着かない。
大人にされる分ならば、まだ仕事上だとか、形式上と割り切れるのだけれども。
「お願い。どうしてもダメ?」
縋るように問いかける知衣に、エステルは暫し逡巡した後、頷いた。
「わかりました。チイさん――でいいですか?」
首を傾けて言うエステルに、知衣はほっとして頷く。
「ありがとう。敬語もいらないわよ?」
「ええと、それはもう癖みたいなものなので。」
「そっか。」
まあ、お城にいるくらいだ。身分の高い人間に接することが多く、自然とそうなったのかもしれない。
「ところで、いくつなの?」
「12歳です。」
「やっぱり大人びてるなぁ。」
12歳程幼くは見えない。精々十代半ばだ。
「チイさんの世界は、みんなチイさんみたいに童顔なんですか?」
「この世界に比べたらね。まあ私は、元の世界でも童顔な方ではあるけど。そうね…さっきベルフェールさんのことを童顔って言ってたけど、24歳っていうのは私の世界では妥当なところだと思うよ。」
「やっぱり、すごい童顔な世界なんですね。」
「やっぱりそういう結論になるの?」
そうだろうとは思っていたが、知衣としては苦笑するしかない。
「ではチイさん。チイさんを召喚したことについて簡単に説明するので、こちらへついて来てもらえますか?」
そう言うエステルに頷き、エステルを先頭に知衣とクレアはその後に続いた。
ちなみに隅で震えていたベルフェールは、エステルに代わりにここで受付をするよう言いつけられ、青ざめながらも頷いていた。
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