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水と花の都の疾風姫編
クラーケン討伐隊
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──その日の夜。
冒険者ギルドから徒歩数分の立地にある安宿の一室を借りた俺たちは作戦会議を開いていた。
作戦の目的はもちろん。
「クラーケンの討伐が辺境伯との交渉に必要不可欠だもの。諦めきれないけれど……はぁ」
ため息をつくソフィアの言葉に、クラーケンと対峙した時のことを少し振り返り。
「……あれはヤバいな。魔法銃が効かない魔法も効かない物理攻撃も効かない。おまけに何十メートルも伸びる触腕に捕まれば、ソフィアの支援なしではまず助からないときた」
そこまで口にして、俺もため息をつきそうになるのを堪える。
なんというか、無理ゲーである。
おまけに水棲の分際で陸上に出てもピンピンしていたのだ。
「本気で討伐しようと思うと正攻法じゃダメそうなのです。こういうとき、いつも道を踏み外した作戦を思いつくケンジローが頼りなのですが、なにか閃きませんか?」
「よし、俺がどれだけ極悪非道であるかを、コモンセンスに囚われない完璧な作戦をサジェストしてやろう。例えば、川に生活汚染水や毒液を流して川の生き物を殺すんだ。いくら丈夫なクラーケンといえど餌となる魚がいなくなっては生きていけないから、放っておけば他所へ逃げていくという寸法さ」
毒が効くのなら汚染された川魚を食ってくれれば討伐できるので儲けものである。
なお、河川の水質悪化による漁業や農業への被害は考えないものとする。
「君は本当に人の心というものがないよね。そんな君の言動に慣れてきた僕自身に嫌気が差すよ」
半分くらいは冗談のつもりで言ったのだが、素直でまっすぐ『月夜見』に言われると結構来るものがある。
「気にしなくていいわよ。それに『月夜見』はまだわからないと思うけど、こんな外道発言はコイツにとって片鱗に過ぎないわ」
「……討伐するだけならお前に毒を盛ってからクラーケンに食わせてもできるからな。警戒くらいされるだろうが、お詫びを兼ねた献上の品だとでも言って差し出せば一口くらい齧ってくれるだろ。よかったな。魔物の献上品にできる程度には美人で」
失礼なことを言うソフィアを口撃してやると、反論するでもなくマキと『月夜見』を抱き寄せてこそこそと耳打ちしだした。さすがに堪えたのかと思い口元を見て何を話しているのか探ってみると。
『……ね、言ったでしょ? アイツはああいう奴なのよ』
『うわぁ、本当に酷い言い方だね。君はよくあんな男を傍において置けるね』
おっと、酷い言い方じゃないか。
まあいい。元より人への嫌がらせが好きな俺は、その分他人から向けられるヘイトには慣れているからな。ほとぼりが冷めるまで夜の繁華街にでも繰り出るとしよう。
酒場にでもいけば辺境伯の協力を得るためのヒントが手に入るかもしれないと言うのは建前で、本音は三人の視線が俺に向いて面倒なことになる前に逃げるためだが。ともあれ、善は急げということで、三人がヒソヒソと話し込んでいるうちに荷物を確認して宿を出た。
夜の繁華街といえば飲み屋。大衆的なものからバーのようなもの、パブやクラブのようなものまで多種多様な大人の世界。それなりに規模の大きい街であればどこにもあるような区画が、当然ながらここ薔薇の街にもあった。
しかし、異世界では法律で飲酒が可能な年齢とはいえ、唯一の取柄である知力を酒で鈍らせたくはないので飲まないのだ。特にここは異世界だ。日本では間違いなく規制されそうな客引きもそこらじゅうで行われているアングラぶり。
そんな通りを、酒に興味がない俺は時間をかけて通り抜けた。
酒も出るが落ち着いて食事ができるところを探していたのだが、どうやらこの街ではそういったお店は見かけなかった。
騎士団や守衛がいらないくらい冒険者が強力なこの街において、作法のなってない荒くれでは入れない飲み屋には需要がないらしい。
とはいえ、今から宿に戻ってもまだソフィアたちが起きているかもしれないしなぁ。
絡まれたら面倒だからと逃げてきたので、アイツらが寝るかグチグチと文句が言えないほど眠くなる時間帯までやり過ごしたいところ。
アイツらのガキみたいな言動に振り回される自分を想像して嫌な気分になっていると、冒険者ギルドに近いところまで歩いていたことに気づく。
ここは通りから少し外れた道なので行き方はわからないが、方角さえあっていればどうとでもなるだろう。
曲がり角から覗き込むと少し治安が悪そうな雰囲気を感じるが、俺だって冒険者としてレベルが上がった身だ。一般ヤンキーくらいなら返り討ちにできるだろう。俺は特に後先考えることなく角を曲がった。
曲がった先は交差点がないくせにやたらとうねった道だった。
そんな道を三回曲がった先に見知った背中が三つあった。
「うおっ⁉ って、ケンジローか。ビックリさせるなよな」
こちらに気づいた男性冒険者が驚きながら俺を認識する。
釣られて他の二人の男性冒険者もこちらを向いた。
コイツらは今日の討伐から帰った後に仲良くなったこの街の男性冒険者だ。
「別にそういう意図はなかったんだが。……それより、こそこそとなにしてるんだよカール。それにケビンとゴリアテまで」
ハンターのカールにパラディンのケビン、それから剣聖のゴリアテまで。確かコイツらはアークソーサラーのナタリーという女の子を連れた四人パーティだったはずだが。こんな夜中に少女を一人にしているコイツらには少し思うところがあるが、全員上級職のコイツらならではの価値観があるのかもしれない。
さて、最初に俺に気づいたカールはしばし思案したのち懐から何かの紙切れを取り出した。
「コイツはこの先にある喫茶店のチケットなんだ」
「喫茶店? イマイチ要領を得ない」
なぜ喫茶店がチケット制なのかわからない。
オウム返しをしつつ続きを促すと、今度はガタイの良いゴリアテが見た目相応の太い声で説明を引き継ぐ。
「普通の喫茶店じゃねえ。ここは、独り身の男冒険者にとっての唯一の希望だ」
なるほど、わからん。
「カールもゴリアテも恥ずかしがっとらんと直球で言わんかい。あんな、ケンジロー。その喫茶店っちゅうんは言ってしまえば風俗やねん」
パラディンのケビンがコテコテの訛り言葉で説明してくれた。
なるほど、そういうことだったのか。
「この街の女冒険者は皆気性が荒ぇからよ。あんなの、抱いてくれーなんて言われたって反応しねえっての。よそから来たベッピンさん連れてるアンタにはわか……いや、さすがに手ぇ出さねえか。とにかく、こう……お前も溜まってくるものがあんだろ」
「つまり、性交渉をする機会はないが性的欲求は持て余していて、それを解消してくれる店にこっそり通っていると。パーティ全員で稼いだ報酬を費やして」
「お前が一番直球だよケンジロー」
男同士の会話で気を遣う必要もないだろうに。直球で何が悪いのか。
それはそれとして、コイツらの言い分は理解した。
さて、俺は冒険者ギルドに併設された食堂にでも足を運ぶとしよう。
軽く手を振ってこの場を後にしようとした次の瞬間、何者かに手首を掴まれた。
訂正しよう。何者ではない。曲者だ。
「なにとんずらここうとしとんねん。旅は道連れ世は情けって言うやろ」
「それお前が言う側かよ」
そもそも使い方があってるのかというところでもある。
しかし、高レベル上級職の野郎に引っ張られて抜け出せるはずもなく、抵抗虚しく喫茶店とやらに連行された。
裏口のような扉から店内に入ると、一見すると普通の個人喫茶のようなが広がっていた。ある一点を除いて。
「いらっしゃいませ。お食事ならお好きなお席へ、マッサージをご希望でしたらあちらの階段を上った先に受付がございます」
お淑やかな声色でそう言ったウェイトレスのお姉さんは、下着同然の装いをしていた。
同じような格好をしたエロい美女たちがいくつかあるテーブルに座って男性客を対応している様子は、娯楽作品でしか見たことのないキャバクラのように感じた。
だが、カールたちの目的はここではなく階段の上だろう。
「おっしゃ、案内したるわ」
やけに気合の入っているケビンが階段を駆け上っていくのを三人でついていった。
階段を上った先はちょっとしたラウンジになっている。
待合室的な役割も担っているこの空間では、何人かの客が既に呼び出されるのを待っていて。
「……げっ、キミは」
見覚えのある人物と目が合った俺は、相手に嫌そうなリアクションをされた。
そう、その相手とは。
「このようなものに国境はないというが、悪の組織にも通ずる考え方なんだな。なあ……『操魔』さんよ」
つい最近死闘を繰り広げた相手である、妖魔教団幹部の『操魔』を俺は挑発した。
「フン。キミたちのような下賤な思考でボクを語るな。ボクは小悪魔が経営するこの店から用心棒代を回収しに来ただけさ。なにせ、この国はボクたちにとっても重要な土地になるんだからね」
現代日本なら警察が出動しそうなことを、この幹部はなにも悪びれることもなく言ってのけた。
どういうことだろう。コイツらにとって重要というのは、この国を占領下にでも置くのだろうか。
警戒していると、隣から宥めるかのように割って入られた。
「おいおい。そいつは確かに妖魔教団幹部だが、別にこの街で悪さしてるわけじゃあねえ。むしろ、婚期を逃した女冒険者の八つ当たりから、この店の小悪魔ちゃんたちを守ってくれてるんだ」
えぇ……。
これは、この街の少子高齢化の原因を取り除くのが正義なのか。それとも、まだ悪さを働いていないこの店を見逃すのが正しいのか。
色々考えたが、この店は妖魔教団幹部にとってもこの街の人間と戦わずして丸め込むおいしい拠点だろうと思う。必死に守るほど重要かはわからないのでダメで元々ではあるが、上手くいけばおいしい思いをできそうだ。
「状況はだいたい理解した。なあ『操魔』。取引をしよう」
「はぁ?」
キミはそんなことをできる立場にあるのかい?
そんな風に顔に書いてある『操魔』を見て見ぬふりして続ける。
「クラーケンの倒し方を教えてくれさえすればこの店の存在をソフィアたちには秘匿にしてやろう」
「断る。キミたちが攫った『月夜見』を返すというのなら答えてやらないこともないけどね」
「おっとソイツは困る。アイツはもう俺たちのマスコット枠だからな。打てば響く可愛い子だ。……言いたいことがあるなら言えばいい」
そうでなくても道徳的にあまりよろしくない組織に、一度仲間にした者をそう易々と譲る気はない。
巷ではちらほら心無い中傷を受ける俺だが、その辺の倫理観まで捨てた覚えはないのだから。
俺にだって人の心くらいあるのだが、この幹部の評価は俺が自分に対し抱いているほど高くないようで。
「驚いただけさ。キミはヤツの正体を知らないのか?」
神に対して不敬ではないのか、という意味だろう。
そんなものはない。
生憎、俺は無宗派だからな。神仏への信仰心などあまりない。
それはそうと、このままでは有益な情報を掴めそうにない。何か知っているなら吐かせたいところだが。
どうしたものかと思案していると、受付で手続きをしてきたらしいカールたちが戻ってきた。
「全員分の受付済ませてきたで。ほれ、こっちはケンジローの分や。……と、そっちのアンちゃんとお取込み中やったみたいやな。せやけど、アンちゃん。アンタ呼ばれとるで?」
この分だと、俺たちのやり取りなど聞こえていなかったんだろう。
剣呑な雰囲気を真正面からぶち壊しにする訛り言葉は、しかし俺としては追い風だった。
「言ってきたらどうだ。……むっつり幹部」
「むっつり言うな!」
店の奥へ続く通路から顔を出すエロいお姉さんこと小悪魔さんがニコニコしながら『操魔』を見ているのをいじってやる。すると、さすがに恥ずかしいのか耳まで真っ赤にした『操魔』が文字通り飛んで詰め寄ってきた。そして、耳元で。
「言いかい。ここで見聞きしたことを他言したら、君と君の仲間は大量破壊兵器を使ってでもあの世へ送ってやる」
他の奴らに聞こえないようにこっそりと脅してきた『操魔』だが、この瞬間お互いの上下関係がはっきりしたことに気づいていないらしい。
ひとまず頷くことで肯定する意を示す。
何事もなかったかのように離れる『操魔』を見送りつつ、俺は大きな声で叫んだ。
「そこの妖魔教団幹部さんが、男同士の熱い秘密を貫き通してくれるなら、男冒険者全員に酒奢ってくれるってよ!」
そう。カールたちの話を聞くにここはこの街の大半の男冒険者のたまり場でもあるらしい。
店内で見ていないだけで述語休憩スペースなんて書かれた部屋がある以上、相当数の冒険者がいるとみていいだろう。
そんな状況で、身の程知らずなクソガキに痛い目を見せるべくそう叫んだのだ。
繰り返しになるが、俺だって倫理観くらい持ち合わせている。なので、本来ならこういったことは大声で叫ぶべきではないことくらいわかっている。
しかし、相手がコイツなら話は別だ。それに、冒険者という生き物ならば当然悪乗りしてくる。
「マジかよ⁉ 幹部さん太っ腹だなぁ!」
「ホンマかいな⁉ こりゃ、その辺の貴族議員なんかより幹部様やな!」
「おで、明日、妖魔教団に寄付する!」
こんな夜中に店内はざわついた。
──翌朝。
冒険者ギルド併設の食堂兼坂場で男冒険者たちと徹夜で飲み明かした俺は、ソフィアたちとともに宿泊する予定だった宿へと戻ってきたのだが。
(……開かない)
鍵でもかけられているのか、部屋の鍵が開かないのである。
霧の都にもあるのだが、冒険者向けの宿というのはパーティ単位で泊まれるように部屋の中に男部屋と女部屋が用意されているのだ。まあ、世界共通の規格だということはこの国に来て初めて知ったのだが。
こうした施設のおかげか、冒険者はその粗暴で荒くれ者のイメージとは裏腹に、全業種で見てもトップクラスの性犯罪発生率の低さを誇るのだという。
……冒険者向け風俗のおかげだとは思いたくない。
余談だが、こうした宿は盗賊職の鍵開けスキルを対策してか内側からしか解錠できない高級な鍵が使われている。
つまり何が言いたいかというと、中に入れないのである。
今の時刻は五時半すぎ。そろそろマキの日課である朝の走り込みに出ていく頃だろう。
遅くともあと数分もすれば中に入れてもらえるだろうと考えていると、ちょうど部屋の扉が開いた。
「ただいま戻った。中に入れなくて困って」
外へ出ようとしていたらしいマキと目が合うや否やそう言って見たが、言い切る前にバタンと扉を閉められた。
……ほう。
確かに無断でいなくなって、そのうえ朝帰りまでかましたのは俺だ。その点については反省している。
しかし、それには『操魔』を脅して、クラーケンを退治する方法を吐かせるという大義名分があったのだ。そして、俺はその点できちんと聞き出せたのだ。
十分な戦果を持ち帰ったのだから締め出される筋合いはないはずだ。
言い換えるなら、俺は悪くない。というわけで。
「ケンジローや! はよ開けんかい!」
手始めにテレビやネットでたまに見るどこぞのマル暴の人みたいに大声で怒鳴ってみた。
心の中の良心が朝から怒鳴り声をあげるべきではないと囁いてくるが、これについては無視する。なんならもみ消していい良心だ。
というのも、冒険者向けの宿において朝晩の怒号は日常茶飯事だからである。周辺の地価が下がるレベルでうるさいため、今更近所迷惑もクソもない。
まあ、歩く騒音公害だからこそ、このように冒険者ギルドの近くに寄せ集めるように宿が建っているのだと思うが。
人間に対する扱いとしては如何なものかと思うが、この状況においては好都合なので利用させてもらおう。
なんなら丈夫な扉をギシギシと力任せに引っ張ってみるのもいいだろう。
「はよ開けんかゴラァ!」
怒号を響かせながら扉を叩いていると、やがて扉越しにくぐもった声が聞こえてきた。
「朝っぱらからなんだよぅ。……開けてあげるから、帰って来たならせめて」
「やかましいはよ開けい! おい、出て来いゴラァ!」
上手く聞き取れなかったが、たぶん開けてくれるのだろう。
小さく鍵が開いた音が聞こえたので思いっきり扉を引っ張って中へと侵入した。
「ワレェ! はよ開けんかいゴラァ!」
この短時間で泣きそうになっているマキと『月夜見』を肩でどかして、おそらく締め出した張本人であろうソフィアを探す。
アイツはまだ寝ているだろうと思うので、とりあえず女部屋の扉を叩こうとした。
まさにその瞬間だった。
ガチャリ、と扉の開く音が聞こえた時にはもう手遅れだった。
扉を叩こうとして振り下ろした腕はすぐには止められず。
「あああああああああああ!」
もはや近所迷惑なんて言葉ですら軽いレベルの甲高い悲鳴がこだました。
──あの悲鳴の後、泣きながら自身に治療魔法を掛けたソフィアは、扉の前に立つ俺を見て。
「信じられない! ホント信じらんない!」
本気で怒りだしたソフィアの前で、俺は土下座させられていた。
まあ無理もない。
いつまでも帰ってこない俺を待つより、セキュリティ面から考えて戸締りして寝るだろう。朝帰り云々の以前に、普通はそうするだろう。
まあ、目の前で扉を閉めたマキを見るに、多少は朝帰りに怒っていたのかもしれないが。
そんな状況で、騒音で叩き起こされたかと思えば殴られたのだ。短気なソフィアでなくても怒って当然だ。
「本当に申し訳ない」
言い訳はしない。
わざとではないとしても理不尽な暴力を振るってしまった以上悪いのは俺だからだ。
そうしていると、立ったまま見下ろしていたソフィアは俺の前でしゃがみ込む。
「……本当に反省してるの?」
「あぁ、もちろん反省しているよ。すまなかった」
本心からそう思っている。
察しがいいソフィアのことだ。俺がふざけていないことくらいわかっているのだろう。先ほどより声色が優しい。
「まだ酔ってるみたいだし、アンタはとりあえず寝てなさい。……あとやっぱこのまま許すのは釈然としないから一回くらい踏んでいい?」
「今やられるとアルコール飲料が逆流する。仕返しがしたいなら甘んじて受けるが、せめて後にしてほしい」
もはや今の俺にソフィアに楯突く権利などない。
もちろん他意はないのだが、何を勘違いしたのかマキと『月夜見』がそれぞれ己の肩を庇う様に抱いて。
「この人、踏まれるのは別にいいんですね」
「君はそういう方もいけるんだね。し、知らなかったよ」
なにかとんでもない勘違いをされている気がする。
というか、絶対勘違いされている。
あと『月夜見』にはもう一個物申したい。『も』ってなんだよ。
「違うからな! このままソフィアに楯突いて言葉で叩き伏せようものなら俺が悪者になるじゃねえか!」
訂正しなければならないところを訂正しようとして、言い終えてから地雷を踏んだことに気づいた。
しゃがんでいたソフィアは険しい顔つきをして俺の前に立ちあがる。
「正体現したわね⁉ アンタがその気なら受けて立つわ!」
「待った! 今のは──」
「問答無用よ!」
ソフィアは氷の上級魔法を無詠唱で放った!
冒険者ギルドから徒歩数分の立地にある安宿の一室を借りた俺たちは作戦会議を開いていた。
作戦の目的はもちろん。
「クラーケンの討伐が辺境伯との交渉に必要不可欠だもの。諦めきれないけれど……はぁ」
ため息をつくソフィアの言葉に、クラーケンと対峙した時のことを少し振り返り。
「……あれはヤバいな。魔法銃が効かない魔法も効かない物理攻撃も効かない。おまけに何十メートルも伸びる触腕に捕まれば、ソフィアの支援なしではまず助からないときた」
そこまで口にして、俺もため息をつきそうになるのを堪える。
なんというか、無理ゲーである。
おまけに水棲の分際で陸上に出てもピンピンしていたのだ。
「本気で討伐しようと思うと正攻法じゃダメそうなのです。こういうとき、いつも道を踏み外した作戦を思いつくケンジローが頼りなのですが、なにか閃きませんか?」
「よし、俺がどれだけ極悪非道であるかを、コモンセンスに囚われない完璧な作戦をサジェストしてやろう。例えば、川に生活汚染水や毒液を流して川の生き物を殺すんだ。いくら丈夫なクラーケンといえど餌となる魚がいなくなっては生きていけないから、放っておけば他所へ逃げていくという寸法さ」
毒が効くのなら汚染された川魚を食ってくれれば討伐できるので儲けものである。
なお、河川の水質悪化による漁業や農業への被害は考えないものとする。
「君は本当に人の心というものがないよね。そんな君の言動に慣れてきた僕自身に嫌気が差すよ」
半分くらいは冗談のつもりで言ったのだが、素直でまっすぐ『月夜見』に言われると結構来るものがある。
「気にしなくていいわよ。それに『月夜見』はまだわからないと思うけど、こんな外道発言はコイツにとって片鱗に過ぎないわ」
「……討伐するだけならお前に毒を盛ってからクラーケンに食わせてもできるからな。警戒くらいされるだろうが、お詫びを兼ねた献上の品だとでも言って差し出せば一口くらい齧ってくれるだろ。よかったな。魔物の献上品にできる程度には美人で」
失礼なことを言うソフィアを口撃してやると、反論するでもなくマキと『月夜見』を抱き寄せてこそこそと耳打ちしだした。さすがに堪えたのかと思い口元を見て何を話しているのか探ってみると。
『……ね、言ったでしょ? アイツはああいう奴なのよ』
『うわぁ、本当に酷い言い方だね。君はよくあんな男を傍において置けるね』
おっと、酷い言い方じゃないか。
まあいい。元より人への嫌がらせが好きな俺は、その分他人から向けられるヘイトには慣れているからな。ほとぼりが冷めるまで夜の繁華街にでも繰り出るとしよう。
酒場にでもいけば辺境伯の協力を得るためのヒントが手に入るかもしれないと言うのは建前で、本音は三人の視線が俺に向いて面倒なことになる前に逃げるためだが。ともあれ、善は急げということで、三人がヒソヒソと話し込んでいるうちに荷物を確認して宿を出た。
夜の繁華街といえば飲み屋。大衆的なものからバーのようなもの、パブやクラブのようなものまで多種多様な大人の世界。それなりに規模の大きい街であればどこにもあるような区画が、当然ながらここ薔薇の街にもあった。
しかし、異世界では法律で飲酒が可能な年齢とはいえ、唯一の取柄である知力を酒で鈍らせたくはないので飲まないのだ。特にここは異世界だ。日本では間違いなく規制されそうな客引きもそこらじゅうで行われているアングラぶり。
そんな通りを、酒に興味がない俺は時間をかけて通り抜けた。
酒も出るが落ち着いて食事ができるところを探していたのだが、どうやらこの街ではそういったお店は見かけなかった。
騎士団や守衛がいらないくらい冒険者が強力なこの街において、作法のなってない荒くれでは入れない飲み屋には需要がないらしい。
とはいえ、今から宿に戻ってもまだソフィアたちが起きているかもしれないしなぁ。
絡まれたら面倒だからと逃げてきたので、アイツらが寝るかグチグチと文句が言えないほど眠くなる時間帯までやり過ごしたいところ。
アイツらのガキみたいな言動に振り回される自分を想像して嫌な気分になっていると、冒険者ギルドに近いところまで歩いていたことに気づく。
ここは通りから少し外れた道なので行き方はわからないが、方角さえあっていればどうとでもなるだろう。
曲がり角から覗き込むと少し治安が悪そうな雰囲気を感じるが、俺だって冒険者としてレベルが上がった身だ。一般ヤンキーくらいなら返り討ちにできるだろう。俺は特に後先考えることなく角を曲がった。
曲がった先は交差点がないくせにやたらとうねった道だった。
そんな道を三回曲がった先に見知った背中が三つあった。
「うおっ⁉ って、ケンジローか。ビックリさせるなよな」
こちらに気づいた男性冒険者が驚きながら俺を認識する。
釣られて他の二人の男性冒険者もこちらを向いた。
コイツらは今日の討伐から帰った後に仲良くなったこの街の男性冒険者だ。
「別にそういう意図はなかったんだが。……それより、こそこそとなにしてるんだよカール。それにケビンとゴリアテまで」
ハンターのカールにパラディンのケビン、それから剣聖のゴリアテまで。確かコイツらはアークソーサラーのナタリーという女の子を連れた四人パーティだったはずだが。こんな夜中に少女を一人にしているコイツらには少し思うところがあるが、全員上級職のコイツらならではの価値観があるのかもしれない。
さて、最初に俺に気づいたカールはしばし思案したのち懐から何かの紙切れを取り出した。
「コイツはこの先にある喫茶店のチケットなんだ」
「喫茶店? イマイチ要領を得ない」
なぜ喫茶店がチケット制なのかわからない。
オウム返しをしつつ続きを促すと、今度はガタイの良いゴリアテが見た目相応の太い声で説明を引き継ぐ。
「普通の喫茶店じゃねえ。ここは、独り身の男冒険者にとっての唯一の希望だ」
なるほど、わからん。
「カールもゴリアテも恥ずかしがっとらんと直球で言わんかい。あんな、ケンジロー。その喫茶店っちゅうんは言ってしまえば風俗やねん」
パラディンのケビンがコテコテの訛り言葉で説明してくれた。
なるほど、そういうことだったのか。
「この街の女冒険者は皆気性が荒ぇからよ。あんなの、抱いてくれーなんて言われたって反応しねえっての。よそから来たベッピンさん連れてるアンタにはわか……いや、さすがに手ぇ出さねえか。とにかく、こう……お前も溜まってくるものがあんだろ」
「つまり、性交渉をする機会はないが性的欲求は持て余していて、それを解消してくれる店にこっそり通っていると。パーティ全員で稼いだ報酬を費やして」
「お前が一番直球だよケンジロー」
男同士の会話で気を遣う必要もないだろうに。直球で何が悪いのか。
それはそれとして、コイツらの言い分は理解した。
さて、俺は冒険者ギルドに併設された食堂にでも足を運ぶとしよう。
軽く手を振ってこの場を後にしようとした次の瞬間、何者かに手首を掴まれた。
訂正しよう。何者ではない。曲者だ。
「なにとんずらここうとしとんねん。旅は道連れ世は情けって言うやろ」
「それお前が言う側かよ」
そもそも使い方があってるのかというところでもある。
しかし、高レベル上級職の野郎に引っ張られて抜け出せるはずもなく、抵抗虚しく喫茶店とやらに連行された。
裏口のような扉から店内に入ると、一見すると普通の個人喫茶のようなが広がっていた。ある一点を除いて。
「いらっしゃいませ。お食事ならお好きなお席へ、マッサージをご希望でしたらあちらの階段を上った先に受付がございます」
お淑やかな声色でそう言ったウェイトレスのお姉さんは、下着同然の装いをしていた。
同じような格好をしたエロい美女たちがいくつかあるテーブルに座って男性客を対応している様子は、娯楽作品でしか見たことのないキャバクラのように感じた。
だが、カールたちの目的はここではなく階段の上だろう。
「おっしゃ、案内したるわ」
やけに気合の入っているケビンが階段を駆け上っていくのを三人でついていった。
階段を上った先はちょっとしたラウンジになっている。
待合室的な役割も担っているこの空間では、何人かの客が既に呼び出されるのを待っていて。
「……げっ、キミは」
見覚えのある人物と目が合った俺は、相手に嫌そうなリアクションをされた。
そう、その相手とは。
「このようなものに国境はないというが、悪の組織にも通ずる考え方なんだな。なあ……『操魔』さんよ」
つい最近死闘を繰り広げた相手である、妖魔教団幹部の『操魔』を俺は挑発した。
「フン。キミたちのような下賤な思考でボクを語るな。ボクは小悪魔が経営するこの店から用心棒代を回収しに来ただけさ。なにせ、この国はボクたちにとっても重要な土地になるんだからね」
現代日本なら警察が出動しそうなことを、この幹部はなにも悪びれることもなく言ってのけた。
どういうことだろう。コイツらにとって重要というのは、この国を占領下にでも置くのだろうか。
警戒していると、隣から宥めるかのように割って入られた。
「おいおい。そいつは確かに妖魔教団幹部だが、別にこの街で悪さしてるわけじゃあねえ。むしろ、婚期を逃した女冒険者の八つ当たりから、この店の小悪魔ちゃんたちを守ってくれてるんだ」
えぇ……。
これは、この街の少子高齢化の原因を取り除くのが正義なのか。それとも、まだ悪さを働いていないこの店を見逃すのが正しいのか。
色々考えたが、この店は妖魔教団幹部にとってもこの街の人間と戦わずして丸め込むおいしい拠点だろうと思う。必死に守るほど重要かはわからないのでダメで元々ではあるが、上手くいけばおいしい思いをできそうだ。
「状況はだいたい理解した。なあ『操魔』。取引をしよう」
「はぁ?」
キミはそんなことをできる立場にあるのかい?
そんな風に顔に書いてある『操魔』を見て見ぬふりして続ける。
「クラーケンの倒し方を教えてくれさえすればこの店の存在をソフィアたちには秘匿にしてやろう」
「断る。キミたちが攫った『月夜見』を返すというのなら答えてやらないこともないけどね」
「おっとソイツは困る。アイツはもう俺たちのマスコット枠だからな。打てば響く可愛い子だ。……言いたいことがあるなら言えばいい」
そうでなくても道徳的にあまりよろしくない組織に、一度仲間にした者をそう易々と譲る気はない。
巷ではちらほら心無い中傷を受ける俺だが、その辺の倫理観まで捨てた覚えはないのだから。
俺にだって人の心くらいあるのだが、この幹部の評価は俺が自分に対し抱いているほど高くないようで。
「驚いただけさ。キミはヤツの正体を知らないのか?」
神に対して不敬ではないのか、という意味だろう。
そんなものはない。
生憎、俺は無宗派だからな。神仏への信仰心などあまりない。
それはそうと、このままでは有益な情報を掴めそうにない。何か知っているなら吐かせたいところだが。
どうしたものかと思案していると、受付で手続きをしてきたらしいカールたちが戻ってきた。
「全員分の受付済ませてきたで。ほれ、こっちはケンジローの分や。……と、そっちのアンちゃんとお取込み中やったみたいやな。せやけど、アンちゃん。アンタ呼ばれとるで?」
この分だと、俺たちのやり取りなど聞こえていなかったんだろう。
剣呑な雰囲気を真正面からぶち壊しにする訛り言葉は、しかし俺としては追い風だった。
「言ってきたらどうだ。……むっつり幹部」
「むっつり言うな!」
店の奥へ続く通路から顔を出すエロいお姉さんこと小悪魔さんがニコニコしながら『操魔』を見ているのをいじってやる。すると、さすがに恥ずかしいのか耳まで真っ赤にした『操魔』が文字通り飛んで詰め寄ってきた。そして、耳元で。
「言いかい。ここで見聞きしたことを他言したら、君と君の仲間は大量破壊兵器を使ってでもあの世へ送ってやる」
他の奴らに聞こえないようにこっそりと脅してきた『操魔』だが、この瞬間お互いの上下関係がはっきりしたことに気づいていないらしい。
ひとまず頷くことで肯定する意を示す。
何事もなかったかのように離れる『操魔』を見送りつつ、俺は大きな声で叫んだ。
「そこの妖魔教団幹部さんが、男同士の熱い秘密を貫き通してくれるなら、男冒険者全員に酒奢ってくれるってよ!」
そう。カールたちの話を聞くにここはこの街の大半の男冒険者のたまり場でもあるらしい。
店内で見ていないだけで述語休憩スペースなんて書かれた部屋がある以上、相当数の冒険者がいるとみていいだろう。
そんな状況で、身の程知らずなクソガキに痛い目を見せるべくそう叫んだのだ。
繰り返しになるが、俺だって倫理観くらい持ち合わせている。なので、本来ならこういったことは大声で叫ぶべきではないことくらいわかっている。
しかし、相手がコイツなら話は別だ。それに、冒険者という生き物ならば当然悪乗りしてくる。
「マジかよ⁉ 幹部さん太っ腹だなぁ!」
「ホンマかいな⁉ こりゃ、その辺の貴族議員なんかより幹部様やな!」
「おで、明日、妖魔教団に寄付する!」
こんな夜中に店内はざわついた。
──翌朝。
冒険者ギルド併設の食堂兼坂場で男冒険者たちと徹夜で飲み明かした俺は、ソフィアたちとともに宿泊する予定だった宿へと戻ってきたのだが。
(……開かない)
鍵でもかけられているのか、部屋の鍵が開かないのである。
霧の都にもあるのだが、冒険者向けの宿というのはパーティ単位で泊まれるように部屋の中に男部屋と女部屋が用意されているのだ。まあ、世界共通の規格だということはこの国に来て初めて知ったのだが。
こうした施設のおかげか、冒険者はその粗暴で荒くれ者のイメージとは裏腹に、全業種で見てもトップクラスの性犯罪発生率の低さを誇るのだという。
……冒険者向け風俗のおかげだとは思いたくない。
余談だが、こうした宿は盗賊職の鍵開けスキルを対策してか内側からしか解錠できない高級な鍵が使われている。
つまり何が言いたいかというと、中に入れないのである。
今の時刻は五時半すぎ。そろそろマキの日課である朝の走り込みに出ていく頃だろう。
遅くともあと数分もすれば中に入れてもらえるだろうと考えていると、ちょうど部屋の扉が開いた。
「ただいま戻った。中に入れなくて困って」
外へ出ようとしていたらしいマキと目が合うや否やそう言って見たが、言い切る前にバタンと扉を閉められた。
……ほう。
確かに無断でいなくなって、そのうえ朝帰りまでかましたのは俺だ。その点については反省している。
しかし、それには『操魔』を脅して、クラーケンを退治する方法を吐かせるという大義名分があったのだ。そして、俺はその点できちんと聞き出せたのだ。
十分な戦果を持ち帰ったのだから締め出される筋合いはないはずだ。
言い換えるなら、俺は悪くない。というわけで。
「ケンジローや! はよ開けんかい!」
手始めにテレビやネットでたまに見るどこぞのマル暴の人みたいに大声で怒鳴ってみた。
心の中の良心が朝から怒鳴り声をあげるべきではないと囁いてくるが、これについては無視する。なんならもみ消していい良心だ。
というのも、冒険者向けの宿において朝晩の怒号は日常茶飯事だからである。周辺の地価が下がるレベルでうるさいため、今更近所迷惑もクソもない。
まあ、歩く騒音公害だからこそ、このように冒険者ギルドの近くに寄せ集めるように宿が建っているのだと思うが。
人間に対する扱いとしては如何なものかと思うが、この状況においては好都合なので利用させてもらおう。
なんなら丈夫な扉をギシギシと力任せに引っ張ってみるのもいいだろう。
「はよ開けんかゴラァ!」
怒号を響かせながら扉を叩いていると、やがて扉越しにくぐもった声が聞こえてきた。
「朝っぱらからなんだよぅ。……開けてあげるから、帰って来たならせめて」
「やかましいはよ開けい! おい、出て来いゴラァ!」
上手く聞き取れなかったが、たぶん開けてくれるのだろう。
小さく鍵が開いた音が聞こえたので思いっきり扉を引っ張って中へと侵入した。
「ワレェ! はよ開けんかいゴラァ!」
この短時間で泣きそうになっているマキと『月夜見』を肩でどかして、おそらく締め出した張本人であろうソフィアを探す。
アイツはまだ寝ているだろうと思うので、とりあえず女部屋の扉を叩こうとした。
まさにその瞬間だった。
ガチャリ、と扉の開く音が聞こえた時にはもう手遅れだった。
扉を叩こうとして振り下ろした腕はすぐには止められず。
「あああああああああああ!」
もはや近所迷惑なんて言葉ですら軽いレベルの甲高い悲鳴がこだました。
──あの悲鳴の後、泣きながら自身に治療魔法を掛けたソフィアは、扉の前に立つ俺を見て。
「信じられない! ホント信じらんない!」
本気で怒りだしたソフィアの前で、俺は土下座させられていた。
まあ無理もない。
いつまでも帰ってこない俺を待つより、セキュリティ面から考えて戸締りして寝るだろう。朝帰り云々の以前に、普通はそうするだろう。
まあ、目の前で扉を閉めたマキを見るに、多少は朝帰りに怒っていたのかもしれないが。
そんな状況で、騒音で叩き起こされたかと思えば殴られたのだ。短気なソフィアでなくても怒って当然だ。
「本当に申し訳ない」
言い訳はしない。
わざとではないとしても理不尽な暴力を振るってしまった以上悪いのは俺だからだ。
そうしていると、立ったまま見下ろしていたソフィアは俺の前でしゃがみ込む。
「……本当に反省してるの?」
「あぁ、もちろん反省しているよ。すまなかった」
本心からそう思っている。
察しがいいソフィアのことだ。俺がふざけていないことくらいわかっているのだろう。先ほどより声色が優しい。
「まだ酔ってるみたいだし、アンタはとりあえず寝てなさい。……あとやっぱこのまま許すのは釈然としないから一回くらい踏んでいい?」
「今やられるとアルコール飲料が逆流する。仕返しがしたいなら甘んじて受けるが、せめて後にしてほしい」
もはや今の俺にソフィアに楯突く権利などない。
もちろん他意はないのだが、何を勘違いしたのかマキと『月夜見』がそれぞれ己の肩を庇う様に抱いて。
「この人、踏まれるのは別にいいんですね」
「君はそういう方もいけるんだね。し、知らなかったよ」
なにかとんでもない勘違いをされている気がする。
というか、絶対勘違いされている。
あと『月夜見』にはもう一個物申したい。『も』ってなんだよ。
「違うからな! このままソフィアに楯突いて言葉で叩き伏せようものなら俺が悪者になるじゃねえか!」
訂正しなければならないところを訂正しようとして、言い終えてから地雷を踏んだことに気づいた。
しゃがんでいたソフィアは険しい顔つきをして俺の前に立ちあがる。
「正体現したわね⁉ アンタがその気なら受けて立つわ!」
「待った! 今のは──」
「問答無用よ!」
ソフィアは氷の上級魔法を無詠唱で放った!
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