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霧の都編
狐騎士の森
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鳥の囀りが聞こえる。
重い瞼を眠気に抗いながら開けると、窓のカーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。
見たことがない白い天井と慣れない寝心地のベッドに、ここが現代日本でないことを思い知らせてくる。
最後の望みであった夢オチという線も潰えたことはショックだが、扉をノックする音が聞こえてきたので向き直る。
「起きなさいケンジロー。朝ごはんが冷めるわよ」
「ああ、今行く」
長く綺麗な廊下を通って案内された食堂には、朝食のベーコンエッグとパンが並んでいた。卵は半熟で、食欲をそそる香りが漂っている。
しかし、並んでいる料理は三人分。
貴族の屋敷をイメージさせる広い食堂にデカいテーブルの上にそれなので、見た目が非常に寂しい。
「……他の住人は出払ってるのか?」
従者というかメイドの姿も見当たらないが、そういった人たちはまだ始業時刻を迎えていないのだろうか。住み込みじゃないのか、とも思うが文化の違いなのかもしれない。
そのように予想していたのだが、表情に陰りを見せるソフィアとジョージさんを見て冗談を言う気にはなれなかった。
「その辺の話をする前に食事にしましょ。誰かさんが爆睡してたせいでいよいよご飯が冷めちゃうわ」
「ああ、わかった」
言われるままに席につき、朝食に手を付けることにした。
朝食もそこそこに、後回しになっていた話を促してみた。
パンを千切って食べながら次の言葉を待っていると、重々しい表情を浮かべるソフィアがジェスチャーを交えながら話し始めた。
「話したいことは山ほどあるんだけど、まずはうちの住人の話だったわよね。……うちの住人は私とジョージを除いてみんな亡くなったわ。去年街で流行した鼠の呪いのせいでね」
口に含んだパンが一気に重くなった気がする。
もちろん重くなってなどいないのだが、それほどまでに朝食に似つかわしくないほどヘビーな答えが返ってきた。
鼠の呪いというと、昨日倒した鼠亜人が持つ呪いのことだろう。人から人に伝播する上に放っておくと死に至る危険なものだと聞いていたが。
「わたくしはその頃ちょうど遠国へ出張に行っていて無事でございましたが、屋敷へ戻ったらこのような惨状に。呪いが効かないお嬢様がただ一人屋敷を彷徨っているのみでございました」
そんなことがあったのか。
この屋敷には想像を絶するほど凄惨な光景が広がっていたことだろう。
「辛いことを思い出させたようですまない」
「いいえ。本当は昨日のうちに伝えておくべきだったわ」
ベーコンエッグを細かく切りながらそんなことをいうソフィアだが、昨夜帰りの馬車で寝てしまった俺にも非があるので何も言えねえ。
それにしても、このメスガキは食べ方が上品だ。昨日から感じていたが本当に育ちがいいのだろう。
気まずさ故の現実逃避からそんなことを考えていると、視線に気づいたらしいソフィアが怪訝そうにこちらを見つめ返してくる。
「……見すぎよ。失礼だからやめなさい」
お叱りを受けてしまった。
「いや、本当にお嬢様だったんだなって思っただけだ」
所作の美しさに感心したのが半分、今の今までお嬢様っぽくないなと思っていたのが半分だ。
「どういう意味よ!」
「そのままの意味だよ」
「まあまあ、二人とも落ち着いてくださいませ。せっかくの朝食が冷めてしまってはもったいのうございますゆえ……」
ジョージさんに宥められ、ひと段落ついたところで本題に戻る。
「それで、ジョージさん以外は亡くなったって言ってたが、掃除が行き届いているあたり新しく誰か雇ったのか?」
もしそうだとしたら挨拶くらいしておきたいところだ。
同僚……という扱いになるかはわからないが、仲間となる人物がいるのなら気になる。
「屋敷内のすべての雑務はわたくしが担当しておりますゆえ。当家にいた召使いはみなご客人の対応を任されておりました」
事務作業だけじゃねえのかよ、すげえなこのおっさん。
起きてから食堂へ来るまでにこの屋敷の広大さはわかっていたつもりだが、その掃除を一人で担っているとは。おまけに、この朝食だってジョージさんが作ったものらしい。戦闘以外はなんでもできるという言葉の本当の意味を思い知らされた気分だ。
「それはそれとして、ご老人に大量の雑務を押し付けるのって倫理的にどうなんだ?」
たしかに、これほど仕事が早く正確な執事がいれば召使いはあまりいらないのだろうが。
だとしても、屋敷中のあれこれを一人でこなす老人を何も知らない人が見たらドン引きしそうだ。
「うちの従者はたくさんいたけど、そのほとんど騎士だったわ。ジョージが優れているのもあるけど、武力を高めておかなければならない理由があったのよ」
「理由?」
続きを聞いてみると、どうやらこの屋敷の貴族は地方貴族の長子を養子とすることで人質にしていたらしい。
なんて極悪なことをしていたのだと思うが、ソフィアの様子を見るにその実態は少し違うらしい。
「確かに穏やかじゃない制度だけど、ここの当主は実子も養子も平等に愛してくれてたわ。もともとは地方貴族の財政難に対する補助を目的に敷かれた制度だったらしいけど、当主はずっと『この代で終わらせるつもりだ』と言っていたわ」
立派な当主だったのだろう。
思い出を振り返りながら喋っているであろうソフィアの目尻には涙が溜まっている。
「奇跡を起こしてアンタを召還したのも鼠亜人の討伐に向かったのも、私から大切な人たちを奪った怨敵を打ち破るためよ!」
なるほど。
召還などという面倒ごとに巻き込んでくれた経緯はよくわかった。
天をともに戴けない存在を滅ぼすために力を貸してくれ、と。そうかそうか。
「なら、あれだ。いじらしくて健気なお姫様みたいな感じで『みんなの無念を晴らすために協力してちょうだい』って言ってみるがいい。いいか、いじらしくて健気にだぞ」
せっかくの機会なので、少なくとも昨日手をひっかかれた分くらいは屈辱を味わってもらうとしよう。
我ながら大変大人げない。あまつさえ、下劣であることもさすがに自覚しているが、メシウマなこの状況をただ素直に流してしまうのはもったいない。
本当に、本っ当に! 悔しそうにこちらを睨むソフィアは眺めているだけで気分が良いなぁ!
「……あ、アンタねぇ!」
恨めしそうな声が心地いい。
「せっかく端正な顔立ちをしているんだ。そんな怖い顔をしたらもったいないぞ?」
何も言い返せずに歯噛みするソフィアを挑発する。
高揚感の赴くままに煽てていると、急に俯いたかと思うとすぐに顔を上げた。もともと美人なのもあるが可憐な笑顔である。
どうやら開き直ったようだ。
わざわざ俺の席まで歩み寄ってくれた彼女に、さすがに座ったままではカッコ悪いのでこちらも立ち上がる。
距離は半歩ほど。
ソフィアは俺の手を両手で優しく握り、笑顔のままこちらを見上げている。
俗に言う上目遣いというもので、期待してなかった仕草なだけに俺も少し鼓動が早くなっているような気がする。
「青木健次郎さん。私の召喚に応じてくれてありがとうございます。非業の死を遂げた大切な人たちの無念を晴らすため、私に協力してください」
要望通りの健気でいじらしい様子がグッとくる。
あとついでに、コイツの無理してらしくないことをさせられてる状況を後日掘り返してやったらどうなってしまうのだろうか、という期待に今からワクワクが止まらねえ。
繋いだ手は柔らかいが、少し心配になるくらいヒンヤリしている。
「手が冷たいな。ほっとくと風邪ひくから気をつけろよ」
「えぇ、気を付けるわ。気にかけてくれてありがと」
日本よりも医療技術が低いこの国では風邪にかかることのリスクが高い。
若者でも悪化して肺炎でも起こそうものならバッドエンドを迎える可能性もあるからだ。
生意気なメスガキとはいえソフィアも仲間なのだから死なれては目覚めが悪い。そうでなくても、移されたら困るので仲間全体で健康管理は心がけていきたいところだ。
それはそうと、いつまで手を繋いでいるつもりなのだろうか。
「無茶ぶりをしておいてこんなこと言うのは憚られるが、もう手をはなしてもいいぞ。思春期の少女には辛いだろう」
「あら? そんなこと言っておいて、本当はアンタのほうが限界じゃないかしら。意外とシャイなのね」
「ちげえよ!」
このメスガキが!
素直に要望に応えてくれたから気を使ってやったというのに。
握力に物を言わせて泣かせてやろうかと手に意識を集中させて気づく。
「いくらなんでも冷たすぎだろ! 氷かよ!」
ヒンヤリするな、どころの話ではなく冷凍した物を素手で握っている気分だ。
「お前魔法使ってるだろ!」
「言いがかりよ。アンタの体がほてってるから冷たく感じるんでしょ? 私みたいな美少女に手を握られただけで緊張しちゃうような男じゃ無理もないわね」
「目がすわってるぞ。無理すんな、ツンデレちちくさ娘」
瞬間、繋いだ手から吹雪が発生した!
──あの後、逃げるようにして冒険者ギルドへと駆け込んだのだが、こっちもこっちで何やらきな臭い。
冒険者たちがざわついている理由を聞くべく受付嬢へ声をかけた。
「……ふぁー。あ、おはようございます。本日はどうなさいましたか?」
朝早いということもあってか、あくび交じりの対応である。
それでいいのか接客業。
「今日は予定がないんで軽い依頼でも、とやってきたんだが。……何があったんだ、あれは」
動揺している、という割には少々テンションが高すぎる冒険者たちを指さして聞いてみる。
感染性の精神病でも発生したのか、と思うとぞっとする。
しかし、受付嬢の表情を見るにどうやら杞憂に過ぎないようで。
「今日からフォックスナイトの狩猟が解禁されるんですが、恐らくそれで士気が上がっているんだと思いますよ」
「ほほう」
「フォックスナイトはその名の通りキツネのような特徴を持つ獣人系の魔物です。ナイトとつくだけあって騎士道精神あふれる紳士的な魔物で、普段は種族を問わず紳士的な振る舞いを見せるので危険性は低いのですが……」
この時期だけは例外だということか。
「この季節のフォックスナイトのオスは、女王候補のメスに貴重品を捧げる習性があるのよ」
聞き覚えのある声に振り向いてみると、そこには先ほど猛吹雪を起こした張本人がいた。
まさか追い打ちを加えに来たのか⁉
蛇に睨まれた蛙のような気分になっていると、不意に耳をつままれた。
「すみませんでした、受付のお姉さん。うちのバカは連れてきますのでー」
「痛い痛い痛い! 離せ! 離せえ!」
屋敷から追いかけてきたらしいソフィアに、フロアの隅のほうへと連行された。
「……で、フォックスナイトってのは何をやらかして討伐対象になってるんだ?」
痛む耳を摩りながらソフィアへ問いかける。
おそらく発情期か何かなんだろうが、冒険者がテンションを上げるほどなので何か良くない仕組みが存在するのだろうと踏んでいる。
「そういえばアンタは知らないんだったわね。さっき受付のお姉さんも言ってたけど、フォックスナイトのオスはこの時期になると金品を集めだすのよ」
「メスに献上するためとか言ってたな。……もしかして強盗でもするのか? 騎士の風上にも置けねえな」
受付嬢の説明を思い出しながらそんな風に相槌を入れる。『フォックスナイトもアンタだけは言われたくないでしょうね』なんて言われたが、突っかかったら話が進まない気がするのでグッとこらえて続きを促す。
「アンタが言う強盗ってのもあながち間違ってないのよ。この時期の彼らは献上する物品のためならなんでもするわ」
説明に耳を傾けながら、昨日に引き続きお世話になっている魔物図鑑に目を通す。
どうも、平均ステータスが低いわりに報酬が高額で、やっかいな耐性や状態異常攻撃も持ち合わせていないようだ。
「何が問題かは実際に現場を見ればわかるわ」
「急に雑だな!」
って、本当にもう行くのかよ!
出発時刻が近いのか、クエストの準備をしに一階の市場フロアへと降りて行った。
──ところどころ雲があるがどちらかといえば晴れ。
そんな過ごしやすい天気のなか、街からそう遠くない森へとやってきていた。
森というには明るく歩きやすいが、林というにはちょっと歩きづらさを感じる、初心者向けの狩場らしい。
俺はというと、昨日に引き続き木の上からスコープで索敵している。
「様子はどう? それらしい痕跡は見つかった?」
木の根元で魔法陣を描いているソフィアの声だ。
「残念ながら見当たらない」
使えないわね、なんて吐き捨ててくれたメスガキは後で埋めて帰ろう。
それよりも、フォックスナイトの何が問題視されているのかを知りたいのに、一向にそれらしいシルエットが見えないことの方が困った。
「アンタ、索敵系のスキルでも取ったら? いくら視力が良くてもこういう森みたいに視界が悪かったら難しいでしょ」
下から、そんな声が聞こえる。
確かに見えづらくて困っていたところだが。
「スキルなんてあるのかよ。取るって、どうやればいいんだ?」
銃についたスコープから目を離し、下にいるソフィアに視線を向ける。
彼女の方はもう魔法陣を描き終えたようで、威力の低い魔法を飛ばして魔物の居場所を炙り出しているらしい。それを中断してこちらを見上げた表情は、まるで信じられないものを見るようで。
「はぁ……。ギルドの受付の横に専用の装置があるから、冒険証持っていけば誰でもできるはずよ。……てか、昨日スキル使わずに戦ってたの⁉」
「『そんなことも知らないの?』みたいな顔やめろ。安全圏から一方的に撃ち抜けば関係ねえんだよ」
それだけのために今日持ってきた武器だって可能な限り射程と火力が上がるようにカスタマイズしてある。
昨日に引き続き武器屋のおっちゃんからは『戦術がキモイ』とお墨付きをいただいているのだから間違いないだろう。
「それに、もし撃ち漏らしたとしても今日は秘策を用意してある」
ここへ来る前、ソフィアに買いに行かせたあるものを思い出し、つい口角が吊り上がってしまう。
「アンタ今とんでもない表情してるわよ」
下からなにか言われたが聞こえなかったことにしよう。
再び、銃のスコープ越しに見渡していると、木の奥の方を頭がキツネみたいな二足歩行の生き物が見えた。
ソイツは、首から上がなくなった牛みたいなものを担いでいたようで、巨大な切り株に立てた棒状のものにぶっ刺した。
おそらく先端が鋭利なのであろう棒に生き物が刺さっているので、さながら晒し首の逆バージョンみたいだ。
しかし、今のでフォックスナイトがなぜ危険視されているのかがわかった。
「……おいソフィア、いたぞ。そこの幹に丸い穴が開いてる木からほとんどまっすぐの開けた場所で、殺した牛を棒に刺してた」
「間違いないわ、ソイツよ」
ソフィアは小さい声でそう答えると、魔法陣を発動させた。
淡い光を放つそれを見ていると、心なしか気分がよくなった気がしてくる。
「防御力を上げる魔法をかけたわ。これでかすったくらいじゃ怪我しなくなるから安心しなさい」
言われてみれば確かに自分の体を叩いてみても痛みを感じにくい。これは非常に助かる。
リスクが減ったことだし、牛の前で嬉しそうに踊っているフォックスナイトの脳天へさっそく一発。
凄まじい轟音と反動に肌を震わしながらフォックスナイトの上半身がなくなったことをスコープ越しに確認した。
手早く弾を装填し直しつつ、見える範囲で索敵を続ける。
セミオートなんて便利な機構はこの世界にはなく、しかも今回は装填数を犠牲にしたカスタムを施してあるため一発撃つたびに隙を晒すことになるのだ。しかも、装填中にスコープを覗くなんて器用な真似はできないので目視である。
「アンタのそれ、相変わらず卑怯臭いわね。あまりやり過ぎると人間性疑われるわよ」
「余計なお世話だ。……で、次はどうする。ソフィアに合わせるぞ」
リロードを終え、再度銃を構えながら次の指示を仰ぐ。
先ほどの射撃音を聞きつけた魔物はいないようなので、移動する場合は今なら安全だろう。
「そしたら、少しだけ場所を変えましょ。祭壇……って言って伝わるかしら。アンタが撃った個体がいた近くにはメスの個体がいるかもしれないわ」
なるほど。オスがメスに金品や食料を献上するということは、必然的に牛を刺した棒の近くにはメスがいるというわけか。
となると、あの付近を安全に見渡せそうな場所は……
「左奥に見える丘の茂みと右手に見える巨木の上なら、献上品を持ってきたオスを見つけやすそうだな」
「そして、それら二ヵ所を同時に見渡せそうなのは正面にずっと歩いた先にある崖の上。でもどうやって行こうかしら」
仮に予想通りの場所にメスがいた場合、目の前で仲間が倒されたところも見ているはずだ。
そんなときに、誰かが近くを通れば間違いなく仇だと思われるだろう。非常に危険だ。
「二ヵ所同時に見るのは諦めるしかなさそうだな。でも、巨木の方を火の魔法で決め打ちして、いなかったら左奥の茂みを撃つというのであればどうだ?」
幸い、巨木の方は右手へ歩いて五分くらいなので、狙撃カスタムの銃より射程が短い一般的な攻撃魔法でも十分狙えるはずだ。致命傷にならなくても、巨木ごと燃やしてもらえればと思ったのだが。
「森林を燃やすのは法律で規制されてるからダメね。それこそ、アンタの銃で撃ち抜けないの?」
「ダメとまではいわないが、撃った弾が爆発するわけじゃないから難しいだろうな。巨木のどこにいるかわからないうえに、一発外して逃げられたら今度こそ探せなくなる」
敵が見えなくても隠れてるであろう場所が狭ければ問題ないのだがな。
俺の言葉に、しばらく考え込んだソフィアはやがて首を横に振った。
「それじゃ、諦めましょ。幸い、メスは人間に危害を加えないからここで倒せなくてもいいはずよ」
となれば、別のオスを見つけて始末することになるのか。狙撃ポイントの移動も考えなければならなさそうだ。
どこかいい場所はないものかとスコープ越しに見渡していると、今度は馬車の荷車と思わしき物を引きずっているフォックスナイトを見つけた。
「メスではないが、朗報だ。別のオスを見つけた」
フォックスナイトがいた方角を指さしてやると、ソフィアはなにやら魔法を使った。
なんの魔法だろうか。
そんなことを考えていることに気づいたらしい彼女は、魔法を中断してこちらに視線を戻した。
「今のは望遠魔法よ。それと、アンタの言った通りだったわ」
「そうか。じゃあ、今度はソフィアがやってくれないか? ちょっとここからだと絶妙に射線が通らない」
少なくとも距離は千メートル以上あり、どのタイミングを狙ってもどこかしらの木の枝に射線を遮られてしまう。
なので、ソフィアの魔法で手早くささっと倒してもらおうと思ったのだが、難しい顔をしているあたり期待薄だ。
「距離が遠いわ。もうちょっと近づけば届くし、場所を変えようかしら」
ソフィアの提案に異論はない。
どうせこの場所もさっきの射撃のせいで絶対に安全とは言い難いのだ。動けるうちにさっさと動いた方がいいだろうし、ここはソフィアの意見に乗っかることにしよう。
探知魔法を展開できるソフィアに安全な後ろを歩かせながら、先ほど見えたフォックスナイトへ近づいていたのだが。
「立派な祭壇ね。それにしても豪華だし、今年のキングフォックスはこの祭壇の持ち主かしら」
ちょっとした広場に、赤く輝く木の枝に無数の指輪やネックレスが飾ってあった。
さっきのシンプルな棒と違い、気合が入っているのがわかる。
「この祭壇ってもしかしてさっきの個体のか?」
「十中八九、さっきの子のやつね」
さっき発見した場所から割り出した勘だったのだが、索敵魔法を使えるソフィアが言うのであれば間違いないだろう。
改めて祭壇に目を向けるが、改めて豪華絢爛なものだな。雑にもぎ取られた枝みたいなのに、どこか引き込まれるような魅力がある。
そんな俺の様子に気づいたらしいソフィアが、祭壇にある赤い枝を撫でながら。
「これは魔樹木っていって、魔力を蓄えた樹木なの。魔法使い用の杖やワンドの素材として重宝されるんだけど、この枝の場合はこもってる魔力が上質だから持って帰ったらいい値段で売れそうね」
これだけいい物はこの一帯じゃもう手に入らないと思うわ、と続けたソフィアの言葉を聞いてふと閃いた。
魔樹木を持って帰ろうと祭壇に手を触れる彼女を制止し、首を横に振る。まだその時ではないのだ。
「持って帰るのは賛成だが、俺にいい案があるんだ」
小首を傾げるソフィアをよそに、その辺に落ちていた石で祭壇の根元に細工を加えた。
「……ねえ、なんで隠れる必要があるのよ」
祭壇のすぐ近くの茂みに身を隠して数分。
何度目かになるソフィアの言葉を聞き流していると、さきほどのフォックスナイトが荷車を引きずりながら歩いてきた。
荷車の中には金銀財宝の詰まった箱が括り付けられてあるが、その中でも特に目を引くのは三日月状のダイヤがあしらわれたティアラだ。
よく見ると、魔樹木のてっぺんにはちょうどピッタリはまりそうな窪みがあり、何がしたいのか一目瞭然である。
フォックスナイトはというと、俺たちに監視されているとは露知らず、もってきた荷車から金銀財宝の類で魔樹木の根元や枝に装飾を追加している。
……頃合いだろう。
魔樹木を固定してある根元の台座部分を銃のスコープ越しに睨む。
「あ、アンタ……まさか」
隣ではドン引きしているらしい、声が震えているソフィアの言葉が聞こえる。
未だに俺たちの存在に気づいていないフォックスナイトは荷車からティアラを取り出すと、嬉しそうに天にかざしてその輝きを確かめているようだ。
ひとしきり余韻に浸ったらしい彼は、魔樹木のてっぺんへと手に持ったティアラを取り付けようと手を伸ばし。
──本日二度目となる轟音が森に木霊した!
「──おかしい! なんでこんなにしつこいんだ!」
すさまじい形相で追いかけてくるフォックスナイトに、こっちの世界にきて以来最も大きなリアクションをとらされていた。
木の間を駆けながら時折銃で反撃しているのだが、一向に諦めてもらえる気がしない。
このフォックスナイト、なぜか倒れた魔樹木の横でケタケタ笑っているソフィアには目もくれず、俺だけを執拗に付け狙ってくるのだ。
というか、あのメスガキは帰ったら泣くまでセクハラしてやる!
『ガァアアアアアアーッ‼』
銃声に負けず劣らずの咆哮をあげるフォックスナイトの目からは確かなる殺意を感じる。
「はあ、笑った笑った。……おそらくこの森で一番の祭壇と献上品を用意して、まさに捧げるその時に目の前で祭壇を壊されたらフォックスナイトじゃなくても怒るわよ」
ひとしきり笑い終えて冷静になったソフィアにそんな言葉を投げかけられるが、残念ながらまともに受け答えできる余裕がない。
「知らねえよ! 俺はただ、替えが利かない自慢の逸品を使った自信作が完成直前で目の前で壊されたらコイツのメンタルはどうなってしまうのかとワクワクしながらやっただけで、恨まれる理由が見当たらねえよ!」
「それこそ知らないわよ! てか、今のセリフに恨まれる理由のすべてが詰まってるじゃない! アンタやっぱバカでしょ!」
さっぱりわからん!
どさくさに紛れて財宝や魔樹木を回収しているソフィアが狙われず、なぜ俺が執拗に狙われるのかがわからん。
見るからに殴り掛かられたらヤバそうなガタイをしているフォックスナイト相手に全力で距離を稼いでいると、ふと耳元で風を切る音がした。
つられて何かが通り過ぎた方へ視線を向けると、拳大の石が奥の木にめり込みそのまま木が倒れてきた。
もちろん、木にぶつかる直前の石は俺の耳元を通過していたわけで、そこかた導き出される発射地点はというと。
「飛び道具はズルいだろ! 騎士の風上にもおけねえ!」
というかもう限界なんだが!
ソフィアも魔法の詠唱をはじめているので援護は期待していいのだろう。もう少し凌げば俺の勝ちだ。
その考えが甘かったのだろう。
足元の蔦を見落とし、盛大に躓いた。
接近戦に持ち込まれた時のための秘策も用意していたのだが、秘策が入ったスクールバッグごと手元から離れてしまった。
絶体絶命だ。
すぐさま起き上がろうとする俺と、足元に落ちたスクールバッグを交互に見たフォックスナイトはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
一世一代の機会を台無しにされた恨みをどう晴らすか考えているのだろう。
やがて、考えがまとまったらしいフォックスナイトはバッグを拾い上げると、長い爪で引き裂いた。
「ああっ! ケンジローセレクトのクエスト用お料理セットに何をしやがる! しかもその鞄は日本から持ち込んだ数少ない物なんだぞ!」
中身はカレーの材料に鍋と火起こし器具。それからデザートとしてちょっとしたお菓子を用意していたのだが、こうなってしまっては諦めるしかない。
大変残念ではあるのだが、そんな俺の様子を見たフォックスナイトは自身が手にした物が余程俺にとって大事なものだと察したのだろう。
中身を噛み砕くようにしてその大きな口へと放り込んだ。
「かかったな、畜生風情が!」
完全に勝ちを確信する。
今回、キツネの近縁種であるフォックスナイトを討伐するにあたり、ソフィアにはカレーの材料と称して玉ねぎを、お菓子としてチョコレートを準備させていた。
有名な話ではあるが、これらはイヌ科の生物にとって毒であり、それはキツネやその近縁種であるコイツらも例外ではない。
「やった! やったぞソフィア! 所詮は知能の足りねえ畜生どもだったってことだな! 人間様に牙を向いたことを悔いるがいい!」
魔法を準備していたソフィアにはまるでゴミを見るような視線を向けられるが、気にしなかったことにしよう。
結局この日は、悶え苦しむフォックスナイトにトドメを刺して帰還した。
重い瞼を眠気に抗いながら開けると、窓のカーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。
見たことがない白い天井と慣れない寝心地のベッドに、ここが現代日本でないことを思い知らせてくる。
最後の望みであった夢オチという線も潰えたことはショックだが、扉をノックする音が聞こえてきたので向き直る。
「起きなさいケンジロー。朝ごはんが冷めるわよ」
「ああ、今行く」
長く綺麗な廊下を通って案内された食堂には、朝食のベーコンエッグとパンが並んでいた。卵は半熟で、食欲をそそる香りが漂っている。
しかし、並んでいる料理は三人分。
貴族の屋敷をイメージさせる広い食堂にデカいテーブルの上にそれなので、見た目が非常に寂しい。
「……他の住人は出払ってるのか?」
従者というかメイドの姿も見当たらないが、そういった人たちはまだ始業時刻を迎えていないのだろうか。住み込みじゃないのか、とも思うが文化の違いなのかもしれない。
そのように予想していたのだが、表情に陰りを見せるソフィアとジョージさんを見て冗談を言う気にはなれなかった。
「その辺の話をする前に食事にしましょ。誰かさんが爆睡してたせいでいよいよご飯が冷めちゃうわ」
「ああ、わかった」
言われるままに席につき、朝食に手を付けることにした。
朝食もそこそこに、後回しになっていた話を促してみた。
パンを千切って食べながら次の言葉を待っていると、重々しい表情を浮かべるソフィアがジェスチャーを交えながら話し始めた。
「話したいことは山ほどあるんだけど、まずはうちの住人の話だったわよね。……うちの住人は私とジョージを除いてみんな亡くなったわ。去年街で流行した鼠の呪いのせいでね」
口に含んだパンが一気に重くなった気がする。
もちろん重くなってなどいないのだが、それほどまでに朝食に似つかわしくないほどヘビーな答えが返ってきた。
鼠の呪いというと、昨日倒した鼠亜人が持つ呪いのことだろう。人から人に伝播する上に放っておくと死に至る危険なものだと聞いていたが。
「わたくしはその頃ちょうど遠国へ出張に行っていて無事でございましたが、屋敷へ戻ったらこのような惨状に。呪いが効かないお嬢様がただ一人屋敷を彷徨っているのみでございました」
そんなことがあったのか。
この屋敷には想像を絶するほど凄惨な光景が広がっていたことだろう。
「辛いことを思い出させたようですまない」
「いいえ。本当は昨日のうちに伝えておくべきだったわ」
ベーコンエッグを細かく切りながらそんなことをいうソフィアだが、昨夜帰りの馬車で寝てしまった俺にも非があるので何も言えねえ。
それにしても、このメスガキは食べ方が上品だ。昨日から感じていたが本当に育ちがいいのだろう。
気まずさ故の現実逃避からそんなことを考えていると、視線に気づいたらしいソフィアが怪訝そうにこちらを見つめ返してくる。
「……見すぎよ。失礼だからやめなさい」
お叱りを受けてしまった。
「いや、本当にお嬢様だったんだなって思っただけだ」
所作の美しさに感心したのが半分、今の今までお嬢様っぽくないなと思っていたのが半分だ。
「どういう意味よ!」
「そのままの意味だよ」
「まあまあ、二人とも落ち着いてくださいませ。せっかくの朝食が冷めてしまってはもったいのうございますゆえ……」
ジョージさんに宥められ、ひと段落ついたところで本題に戻る。
「それで、ジョージさん以外は亡くなったって言ってたが、掃除が行き届いているあたり新しく誰か雇ったのか?」
もしそうだとしたら挨拶くらいしておきたいところだ。
同僚……という扱いになるかはわからないが、仲間となる人物がいるのなら気になる。
「屋敷内のすべての雑務はわたくしが担当しておりますゆえ。当家にいた召使いはみなご客人の対応を任されておりました」
事務作業だけじゃねえのかよ、すげえなこのおっさん。
起きてから食堂へ来るまでにこの屋敷の広大さはわかっていたつもりだが、その掃除を一人で担っているとは。おまけに、この朝食だってジョージさんが作ったものらしい。戦闘以外はなんでもできるという言葉の本当の意味を思い知らされた気分だ。
「それはそれとして、ご老人に大量の雑務を押し付けるのって倫理的にどうなんだ?」
たしかに、これほど仕事が早く正確な執事がいれば召使いはあまりいらないのだろうが。
だとしても、屋敷中のあれこれを一人でこなす老人を何も知らない人が見たらドン引きしそうだ。
「うちの従者はたくさんいたけど、そのほとんど騎士だったわ。ジョージが優れているのもあるけど、武力を高めておかなければならない理由があったのよ」
「理由?」
続きを聞いてみると、どうやらこの屋敷の貴族は地方貴族の長子を養子とすることで人質にしていたらしい。
なんて極悪なことをしていたのだと思うが、ソフィアの様子を見るにその実態は少し違うらしい。
「確かに穏やかじゃない制度だけど、ここの当主は実子も養子も平等に愛してくれてたわ。もともとは地方貴族の財政難に対する補助を目的に敷かれた制度だったらしいけど、当主はずっと『この代で終わらせるつもりだ』と言っていたわ」
立派な当主だったのだろう。
思い出を振り返りながら喋っているであろうソフィアの目尻には涙が溜まっている。
「奇跡を起こしてアンタを召還したのも鼠亜人の討伐に向かったのも、私から大切な人たちを奪った怨敵を打ち破るためよ!」
なるほど。
召還などという面倒ごとに巻き込んでくれた経緯はよくわかった。
天をともに戴けない存在を滅ぼすために力を貸してくれ、と。そうかそうか。
「なら、あれだ。いじらしくて健気なお姫様みたいな感じで『みんなの無念を晴らすために協力してちょうだい』って言ってみるがいい。いいか、いじらしくて健気にだぞ」
せっかくの機会なので、少なくとも昨日手をひっかかれた分くらいは屈辱を味わってもらうとしよう。
我ながら大変大人げない。あまつさえ、下劣であることもさすがに自覚しているが、メシウマなこの状況をただ素直に流してしまうのはもったいない。
本当に、本っ当に! 悔しそうにこちらを睨むソフィアは眺めているだけで気分が良いなぁ!
「……あ、アンタねぇ!」
恨めしそうな声が心地いい。
「せっかく端正な顔立ちをしているんだ。そんな怖い顔をしたらもったいないぞ?」
何も言い返せずに歯噛みするソフィアを挑発する。
高揚感の赴くままに煽てていると、急に俯いたかと思うとすぐに顔を上げた。もともと美人なのもあるが可憐な笑顔である。
どうやら開き直ったようだ。
わざわざ俺の席まで歩み寄ってくれた彼女に、さすがに座ったままではカッコ悪いのでこちらも立ち上がる。
距離は半歩ほど。
ソフィアは俺の手を両手で優しく握り、笑顔のままこちらを見上げている。
俗に言う上目遣いというもので、期待してなかった仕草なだけに俺も少し鼓動が早くなっているような気がする。
「青木健次郎さん。私の召喚に応じてくれてありがとうございます。非業の死を遂げた大切な人たちの無念を晴らすため、私に協力してください」
要望通りの健気でいじらしい様子がグッとくる。
あとついでに、コイツの無理してらしくないことをさせられてる状況を後日掘り返してやったらどうなってしまうのだろうか、という期待に今からワクワクが止まらねえ。
繋いだ手は柔らかいが、少し心配になるくらいヒンヤリしている。
「手が冷たいな。ほっとくと風邪ひくから気をつけろよ」
「えぇ、気を付けるわ。気にかけてくれてありがと」
日本よりも医療技術が低いこの国では風邪にかかることのリスクが高い。
若者でも悪化して肺炎でも起こそうものならバッドエンドを迎える可能性もあるからだ。
生意気なメスガキとはいえソフィアも仲間なのだから死なれては目覚めが悪い。そうでなくても、移されたら困るので仲間全体で健康管理は心がけていきたいところだ。
それはそうと、いつまで手を繋いでいるつもりなのだろうか。
「無茶ぶりをしておいてこんなこと言うのは憚られるが、もう手をはなしてもいいぞ。思春期の少女には辛いだろう」
「あら? そんなこと言っておいて、本当はアンタのほうが限界じゃないかしら。意外とシャイなのね」
「ちげえよ!」
このメスガキが!
素直に要望に応えてくれたから気を使ってやったというのに。
握力に物を言わせて泣かせてやろうかと手に意識を集中させて気づく。
「いくらなんでも冷たすぎだろ! 氷かよ!」
ヒンヤリするな、どころの話ではなく冷凍した物を素手で握っている気分だ。
「お前魔法使ってるだろ!」
「言いがかりよ。アンタの体がほてってるから冷たく感じるんでしょ? 私みたいな美少女に手を握られただけで緊張しちゃうような男じゃ無理もないわね」
「目がすわってるぞ。無理すんな、ツンデレちちくさ娘」
瞬間、繋いだ手から吹雪が発生した!
──あの後、逃げるようにして冒険者ギルドへと駆け込んだのだが、こっちもこっちで何やらきな臭い。
冒険者たちがざわついている理由を聞くべく受付嬢へ声をかけた。
「……ふぁー。あ、おはようございます。本日はどうなさいましたか?」
朝早いということもあってか、あくび交じりの対応である。
それでいいのか接客業。
「今日は予定がないんで軽い依頼でも、とやってきたんだが。……何があったんだ、あれは」
動揺している、という割には少々テンションが高すぎる冒険者たちを指さして聞いてみる。
感染性の精神病でも発生したのか、と思うとぞっとする。
しかし、受付嬢の表情を見るにどうやら杞憂に過ぎないようで。
「今日からフォックスナイトの狩猟が解禁されるんですが、恐らくそれで士気が上がっているんだと思いますよ」
「ほほう」
「フォックスナイトはその名の通りキツネのような特徴を持つ獣人系の魔物です。ナイトとつくだけあって騎士道精神あふれる紳士的な魔物で、普段は種族を問わず紳士的な振る舞いを見せるので危険性は低いのですが……」
この時期だけは例外だということか。
「この季節のフォックスナイトのオスは、女王候補のメスに貴重品を捧げる習性があるのよ」
聞き覚えのある声に振り向いてみると、そこには先ほど猛吹雪を起こした張本人がいた。
まさか追い打ちを加えに来たのか⁉
蛇に睨まれた蛙のような気分になっていると、不意に耳をつままれた。
「すみませんでした、受付のお姉さん。うちのバカは連れてきますのでー」
「痛い痛い痛い! 離せ! 離せえ!」
屋敷から追いかけてきたらしいソフィアに、フロアの隅のほうへと連行された。
「……で、フォックスナイトってのは何をやらかして討伐対象になってるんだ?」
痛む耳を摩りながらソフィアへ問いかける。
おそらく発情期か何かなんだろうが、冒険者がテンションを上げるほどなので何か良くない仕組みが存在するのだろうと踏んでいる。
「そういえばアンタは知らないんだったわね。さっき受付のお姉さんも言ってたけど、フォックスナイトのオスはこの時期になると金品を集めだすのよ」
「メスに献上するためとか言ってたな。……もしかして強盗でもするのか? 騎士の風上にも置けねえな」
受付嬢の説明を思い出しながらそんな風に相槌を入れる。『フォックスナイトもアンタだけは言われたくないでしょうね』なんて言われたが、突っかかったら話が進まない気がするのでグッとこらえて続きを促す。
「アンタが言う強盗ってのもあながち間違ってないのよ。この時期の彼らは献上する物品のためならなんでもするわ」
説明に耳を傾けながら、昨日に引き続きお世話になっている魔物図鑑に目を通す。
どうも、平均ステータスが低いわりに報酬が高額で、やっかいな耐性や状態異常攻撃も持ち合わせていないようだ。
「何が問題かは実際に現場を見ればわかるわ」
「急に雑だな!」
って、本当にもう行くのかよ!
出発時刻が近いのか、クエストの準備をしに一階の市場フロアへと降りて行った。
──ところどころ雲があるがどちらかといえば晴れ。
そんな過ごしやすい天気のなか、街からそう遠くない森へとやってきていた。
森というには明るく歩きやすいが、林というにはちょっと歩きづらさを感じる、初心者向けの狩場らしい。
俺はというと、昨日に引き続き木の上からスコープで索敵している。
「様子はどう? それらしい痕跡は見つかった?」
木の根元で魔法陣を描いているソフィアの声だ。
「残念ながら見当たらない」
使えないわね、なんて吐き捨ててくれたメスガキは後で埋めて帰ろう。
それよりも、フォックスナイトの何が問題視されているのかを知りたいのに、一向にそれらしいシルエットが見えないことの方が困った。
「アンタ、索敵系のスキルでも取ったら? いくら視力が良くてもこういう森みたいに視界が悪かったら難しいでしょ」
下から、そんな声が聞こえる。
確かに見えづらくて困っていたところだが。
「スキルなんてあるのかよ。取るって、どうやればいいんだ?」
銃についたスコープから目を離し、下にいるソフィアに視線を向ける。
彼女の方はもう魔法陣を描き終えたようで、威力の低い魔法を飛ばして魔物の居場所を炙り出しているらしい。それを中断してこちらを見上げた表情は、まるで信じられないものを見るようで。
「はぁ……。ギルドの受付の横に専用の装置があるから、冒険証持っていけば誰でもできるはずよ。……てか、昨日スキル使わずに戦ってたの⁉」
「『そんなことも知らないの?』みたいな顔やめろ。安全圏から一方的に撃ち抜けば関係ねえんだよ」
それだけのために今日持ってきた武器だって可能な限り射程と火力が上がるようにカスタマイズしてある。
昨日に引き続き武器屋のおっちゃんからは『戦術がキモイ』とお墨付きをいただいているのだから間違いないだろう。
「それに、もし撃ち漏らしたとしても今日は秘策を用意してある」
ここへ来る前、ソフィアに買いに行かせたあるものを思い出し、つい口角が吊り上がってしまう。
「アンタ今とんでもない表情してるわよ」
下からなにか言われたが聞こえなかったことにしよう。
再び、銃のスコープ越しに見渡していると、木の奥の方を頭がキツネみたいな二足歩行の生き物が見えた。
ソイツは、首から上がなくなった牛みたいなものを担いでいたようで、巨大な切り株に立てた棒状のものにぶっ刺した。
おそらく先端が鋭利なのであろう棒に生き物が刺さっているので、さながら晒し首の逆バージョンみたいだ。
しかし、今のでフォックスナイトがなぜ危険視されているのかがわかった。
「……おいソフィア、いたぞ。そこの幹に丸い穴が開いてる木からほとんどまっすぐの開けた場所で、殺した牛を棒に刺してた」
「間違いないわ、ソイツよ」
ソフィアは小さい声でそう答えると、魔法陣を発動させた。
淡い光を放つそれを見ていると、心なしか気分がよくなった気がしてくる。
「防御力を上げる魔法をかけたわ。これでかすったくらいじゃ怪我しなくなるから安心しなさい」
言われてみれば確かに自分の体を叩いてみても痛みを感じにくい。これは非常に助かる。
リスクが減ったことだし、牛の前で嬉しそうに踊っているフォックスナイトの脳天へさっそく一発。
凄まじい轟音と反動に肌を震わしながらフォックスナイトの上半身がなくなったことをスコープ越しに確認した。
手早く弾を装填し直しつつ、見える範囲で索敵を続ける。
セミオートなんて便利な機構はこの世界にはなく、しかも今回は装填数を犠牲にしたカスタムを施してあるため一発撃つたびに隙を晒すことになるのだ。しかも、装填中にスコープを覗くなんて器用な真似はできないので目視である。
「アンタのそれ、相変わらず卑怯臭いわね。あまりやり過ぎると人間性疑われるわよ」
「余計なお世話だ。……で、次はどうする。ソフィアに合わせるぞ」
リロードを終え、再度銃を構えながら次の指示を仰ぐ。
先ほどの射撃音を聞きつけた魔物はいないようなので、移動する場合は今なら安全だろう。
「そしたら、少しだけ場所を変えましょ。祭壇……って言って伝わるかしら。アンタが撃った個体がいた近くにはメスの個体がいるかもしれないわ」
なるほど。オスがメスに金品や食料を献上するということは、必然的に牛を刺した棒の近くにはメスがいるというわけか。
となると、あの付近を安全に見渡せそうな場所は……
「左奥に見える丘の茂みと右手に見える巨木の上なら、献上品を持ってきたオスを見つけやすそうだな」
「そして、それら二ヵ所を同時に見渡せそうなのは正面にずっと歩いた先にある崖の上。でもどうやって行こうかしら」
仮に予想通りの場所にメスがいた場合、目の前で仲間が倒されたところも見ているはずだ。
そんなときに、誰かが近くを通れば間違いなく仇だと思われるだろう。非常に危険だ。
「二ヵ所同時に見るのは諦めるしかなさそうだな。でも、巨木の方を火の魔法で決め打ちして、いなかったら左奥の茂みを撃つというのであればどうだ?」
幸い、巨木の方は右手へ歩いて五分くらいなので、狙撃カスタムの銃より射程が短い一般的な攻撃魔法でも十分狙えるはずだ。致命傷にならなくても、巨木ごと燃やしてもらえればと思ったのだが。
「森林を燃やすのは法律で規制されてるからダメね。それこそ、アンタの銃で撃ち抜けないの?」
「ダメとまではいわないが、撃った弾が爆発するわけじゃないから難しいだろうな。巨木のどこにいるかわからないうえに、一発外して逃げられたら今度こそ探せなくなる」
敵が見えなくても隠れてるであろう場所が狭ければ問題ないのだがな。
俺の言葉に、しばらく考え込んだソフィアはやがて首を横に振った。
「それじゃ、諦めましょ。幸い、メスは人間に危害を加えないからここで倒せなくてもいいはずよ」
となれば、別のオスを見つけて始末することになるのか。狙撃ポイントの移動も考えなければならなさそうだ。
どこかいい場所はないものかとスコープ越しに見渡していると、今度は馬車の荷車と思わしき物を引きずっているフォックスナイトを見つけた。
「メスではないが、朗報だ。別のオスを見つけた」
フォックスナイトがいた方角を指さしてやると、ソフィアはなにやら魔法を使った。
なんの魔法だろうか。
そんなことを考えていることに気づいたらしい彼女は、魔法を中断してこちらに視線を戻した。
「今のは望遠魔法よ。それと、アンタの言った通りだったわ」
「そうか。じゃあ、今度はソフィアがやってくれないか? ちょっとここからだと絶妙に射線が通らない」
少なくとも距離は千メートル以上あり、どのタイミングを狙ってもどこかしらの木の枝に射線を遮られてしまう。
なので、ソフィアの魔法で手早くささっと倒してもらおうと思ったのだが、難しい顔をしているあたり期待薄だ。
「距離が遠いわ。もうちょっと近づけば届くし、場所を変えようかしら」
ソフィアの提案に異論はない。
どうせこの場所もさっきの射撃のせいで絶対に安全とは言い難いのだ。動けるうちにさっさと動いた方がいいだろうし、ここはソフィアの意見に乗っかることにしよう。
探知魔法を展開できるソフィアに安全な後ろを歩かせながら、先ほど見えたフォックスナイトへ近づいていたのだが。
「立派な祭壇ね。それにしても豪華だし、今年のキングフォックスはこの祭壇の持ち主かしら」
ちょっとした広場に、赤く輝く木の枝に無数の指輪やネックレスが飾ってあった。
さっきのシンプルな棒と違い、気合が入っているのがわかる。
「この祭壇ってもしかしてさっきの個体のか?」
「十中八九、さっきの子のやつね」
さっき発見した場所から割り出した勘だったのだが、索敵魔法を使えるソフィアが言うのであれば間違いないだろう。
改めて祭壇に目を向けるが、改めて豪華絢爛なものだな。雑にもぎ取られた枝みたいなのに、どこか引き込まれるような魅力がある。
そんな俺の様子に気づいたらしいソフィアが、祭壇にある赤い枝を撫でながら。
「これは魔樹木っていって、魔力を蓄えた樹木なの。魔法使い用の杖やワンドの素材として重宝されるんだけど、この枝の場合はこもってる魔力が上質だから持って帰ったらいい値段で売れそうね」
これだけいい物はこの一帯じゃもう手に入らないと思うわ、と続けたソフィアの言葉を聞いてふと閃いた。
魔樹木を持って帰ろうと祭壇に手を触れる彼女を制止し、首を横に振る。まだその時ではないのだ。
「持って帰るのは賛成だが、俺にいい案があるんだ」
小首を傾げるソフィアをよそに、その辺に落ちていた石で祭壇の根元に細工を加えた。
「……ねえ、なんで隠れる必要があるのよ」
祭壇のすぐ近くの茂みに身を隠して数分。
何度目かになるソフィアの言葉を聞き流していると、さきほどのフォックスナイトが荷車を引きずりながら歩いてきた。
荷車の中には金銀財宝の詰まった箱が括り付けられてあるが、その中でも特に目を引くのは三日月状のダイヤがあしらわれたティアラだ。
よく見ると、魔樹木のてっぺんにはちょうどピッタリはまりそうな窪みがあり、何がしたいのか一目瞭然である。
フォックスナイトはというと、俺たちに監視されているとは露知らず、もってきた荷車から金銀財宝の類で魔樹木の根元や枝に装飾を追加している。
……頃合いだろう。
魔樹木を固定してある根元の台座部分を銃のスコープ越しに睨む。
「あ、アンタ……まさか」
隣ではドン引きしているらしい、声が震えているソフィアの言葉が聞こえる。
未だに俺たちの存在に気づいていないフォックスナイトは荷車からティアラを取り出すと、嬉しそうに天にかざしてその輝きを確かめているようだ。
ひとしきり余韻に浸ったらしい彼は、魔樹木のてっぺんへと手に持ったティアラを取り付けようと手を伸ばし。
──本日二度目となる轟音が森に木霊した!
「──おかしい! なんでこんなにしつこいんだ!」
すさまじい形相で追いかけてくるフォックスナイトに、こっちの世界にきて以来最も大きなリアクションをとらされていた。
木の間を駆けながら時折銃で反撃しているのだが、一向に諦めてもらえる気がしない。
このフォックスナイト、なぜか倒れた魔樹木の横でケタケタ笑っているソフィアには目もくれず、俺だけを執拗に付け狙ってくるのだ。
というか、あのメスガキは帰ったら泣くまでセクハラしてやる!
『ガァアアアアアアーッ‼』
銃声に負けず劣らずの咆哮をあげるフォックスナイトの目からは確かなる殺意を感じる。
「はあ、笑った笑った。……おそらくこの森で一番の祭壇と献上品を用意して、まさに捧げるその時に目の前で祭壇を壊されたらフォックスナイトじゃなくても怒るわよ」
ひとしきり笑い終えて冷静になったソフィアにそんな言葉を投げかけられるが、残念ながらまともに受け答えできる余裕がない。
「知らねえよ! 俺はただ、替えが利かない自慢の逸品を使った自信作が完成直前で目の前で壊されたらコイツのメンタルはどうなってしまうのかとワクワクしながらやっただけで、恨まれる理由が見当たらねえよ!」
「それこそ知らないわよ! てか、今のセリフに恨まれる理由のすべてが詰まってるじゃない! アンタやっぱバカでしょ!」
さっぱりわからん!
どさくさに紛れて財宝や魔樹木を回収しているソフィアが狙われず、なぜ俺が執拗に狙われるのかがわからん。
見るからに殴り掛かられたらヤバそうなガタイをしているフォックスナイト相手に全力で距離を稼いでいると、ふと耳元で風を切る音がした。
つられて何かが通り過ぎた方へ視線を向けると、拳大の石が奥の木にめり込みそのまま木が倒れてきた。
もちろん、木にぶつかる直前の石は俺の耳元を通過していたわけで、そこかた導き出される発射地点はというと。
「飛び道具はズルいだろ! 騎士の風上にもおけねえ!」
というかもう限界なんだが!
ソフィアも魔法の詠唱をはじめているので援護は期待していいのだろう。もう少し凌げば俺の勝ちだ。
その考えが甘かったのだろう。
足元の蔦を見落とし、盛大に躓いた。
接近戦に持ち込まれた時のための秘策も用意していたのだが、秘策が入ったスクールバッグごと手元から離れてしまった。
絶体絶命だ。
すぐさま起き上がろうとする俺と、足元に落ちたスクールバッグを交互に見たフォックスナイトはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
一世一代の機会を台無しにされた恨みをどう晴らすか考えているのだろう。
やがて、考えがまとまったらしいフォックスナイトはバッグを拾い上げると、長い爪で引き裂いた。
「ああっ! ケンジローセレクトのクエスト用お料理セットに何をしやがる! しかもその鞄は日本から持ち込んだ数少ない物なんだぞ!」
中身はカレーの材料に鍋と火起こし器具。それからデザートとしてちょっとしたお菓子を用意していたのだが、こうなってしまっては諦めるしかない。
大変残念ではあるのだが、そんな俺の様子を見たフォックスナイトは自身が手にした物が余程俺にとって大事なものだと察したのだろう。
中身を噛み砕くようにしてその大きな口へと放り込んだ。
「かかったな、畜生風情が!」
完全に勝ちを確信する。
今回、キツネの近縁種であるフォックスナイトを討伐するにあたり、ソフィアにはカレーの材料と称して玉ねぎを、お菓子としてチョコレートを準備させていた。
有名な話ではあるが、これらはイヌ科の生物にとって毒であり、それはキツネやその近縁種であるコイツらも例外ではない。
「やった! やったぞソフィア! 所詮は知能の足りねえ畜生どもだったってことだな! 人間様に牙を向いたことを悔いるがいい!」
魔法を準備していたソフィアにはまるでゴミを見るような視線を向けられるが、気にしなかったことにしよう。
結局この日は、悶え苦しむフォックスナイトにトドメを刺して帰還した。
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