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第2章
聖骸布の加護 ーイージスー
しおりを挟むーーお前はその力を尽くし、心を尽くし、魂をも尽くし、主と、隣人を愛すと誓うか?ーー
ああ!?何だよこのクッソ忙しい時に!!
野郎、砲撃開始しやがった!エリスの元まで間に合えよ!!俺の身体ァ!!
ーー主と、隣人を愛すと誓うか?ーー
うるせーよ!このクソ腰巻き!主?隣人?
誰だよ!?知らねーよ!俺はエリスを救うって約束したんだ。必ず救うってな。
ここで命張りゃ、一秒でも長く生きさせてやれる。
もしかしたらロドリゲスやクリスが助けてくれるカモってな。
最悪、蜂の巣にされても口ん中から世界樹の雫垂れ流しにしてやんよ。
神々しい光撒き散らしてんじゃねーよ!!
ーー愛を……誓うか?ーー
駄目だ、届かない、目の前を岩石弾がゆっくりと通り過ぎて行く。弾丸の向かう先はエリスの横たわる巨木だ。
クソッ!クソックソッ!走馬灯ぶってんじゃねーよ!
絶対にエリスは俺の物だ!
いくら穢されてようと一目見た時から愛してんだよ!こっちは!下心丸出しだよ!
何なら世界中のまだ見た事の無い俺の嫁達、全てを愛してんだよ!セックスしたいんだよ!!
ああ、ハーレム作りてーんだよ!男の夢だろ!
このクソッタレ腰巻き!!何でも良いから力を寄越せや!!エリスを護る力を!!
ーー仮契約完了。これよりリモートプログラム聖骸布の加護を発動します。ーー
※ ※ ※
ブゥンっと次元が揺れた。
目の前の時間は止まり、グレイアウトしたかの様に視界に映る物全てが色褪せていた。
ピシピシと音を立てて空間に十字の亀裂が入る。
やがて空間そのものがパリンと割れる様に崩れ、世界は鮮明さと時間を取り戻した。
そして弾丸はエリスの元まで届いていた。俺の手は届かなかった。
無数の岩石弾が着弾し、モクモクと土煙を上げる巨木のそこを見つめ俺は膝から崩れた。
俺の手は届かなかったのだと理解するまで何度も宙を掻いた。
(ギャーーーッハッハ!!ド派手にプシャらせてやったぜ。見てたか?俺ちゃんよぉー?
次はテメーの番だぜ?呆けてんじゃねーよ。精々逃げて俺を楽しませなァァァ!!)
俺は虚な眼差しでモクモクと上がる土煙の中に赤い光を見た刹那、獣臭漂わせる男は(…ァ?何これ?)と胸を撃ち抜かれていた。
そしてゆっくりと膝から崩れ落ち、こちらに何かを求める様な眼差しを残し肉体は霧に溶けていった。
其処に残ったのは誰とも知らぬ骸骨の白々とした姿だった。
そしてあたり一面の霧は晴れていた。
※ ※ ※
「いったい、何がどうなってやがんだ?」
土煙が晴れると其処には人の背より大きい十字架が地面に突き刺さっていた。
その十字架には荊の冠をし、口元は黒いベルトの様な物で拘束された男がボロボロの腰巻き半裸スタイルで磔にされていた。
手足に楔を打ち込まれ力無く項垂れていた。
「エ、エリスは無事か!?」
慌ててエリスの無事を確かめようとその元に駆け寄ろうとすると
項垂れた荊の冠をした男がガッとこちらを向き目が赤く光る。
咄嗟に放たれた熱線は俺の足の甲を貫いた。
「クッソ!!新手かよ!!」
圧縮空気発射で荊の冠の男から距離を取る。
口から世界樹の雫をペッと吐き出し、貫かれた足の甲に応急処置をした。
威嚇射撃だったのか追撃は無く、再び荊の冠の男は項垂れていた。
「迂闊に近寄れる雰囲気じゃねぇな、アレは。」
ザッザッザッと複数の人間の足音を聞き、
荊の冠の男と相対している場合じゃなくなった。
周囲を警戒し、足音のする方向を見やる。二手から来やがる。チッ、囲まれたか。
※ ※ ※
「ふぇっ!!マ、マイマスター!!ご無事でしたか!?
私は森の妖精さんに嫌な事いっぱい言われて、こ、怖かったです!!ふぇーーーーん!!」
足早に飛び出して来た人影はクリスだった。
涙と鼻水でグチョグチョにした顔で俺に抱き着いて来た。
「突然、霧が晴れたかと思ったらさっきの赤い光だ。アレは敵かい?
ヤバそうな雰囲気がプンプンするね。まるでブラザーの殺気がそのまま具現化してるみたいな奴だね。」
ロドリゲスは俺とクリスの無事を確かめつつ、荊の冠の男を警戒し構える。
心なしか、憔悴している様だった。
「わからねぇ。多分敵だ。目から熱線を放って足を貫かれた。
アイツの後ろにエリスが居る。無事だと良いが全く近寄れる雰囲気じゃねぇ。
森の妖精か知らんが、この森の主っぽいのはアイツの熱線で一撃で貫かれて死んだ。あの骨がそうだ。」
「仲間割れかい!?」
「全く何がどうなってやがるのかわかんねぇんだ。
森の主っぽい奴は俺と同じ姿で、俺に襲いかかって来やがった。
めちゃくちゃ強かった。勝てねぇかと思った。
しかもエリスに砲撃を放ちやがった。クソッ!クソッ!クソッ!
それでも俺はエリスを護ろうと必死で………」
ーー聖骸布の加護 リモートプログラム終了。これより帰投を開始します。
愛する人の為にその命を捨てようとする、それよりも大きな愛はありません。主の御導きのまま愛に生き、愛に殉じなさい。ーー
十字架に磔にされた荊の冠の男は、その身を激しく揺らしている。必死に何かに抵抗する様だった。
手足の楔もお構いなく暴れ、流れ出る血が溢れる。その拘束が解けやしないかとヒヤヒヤしながら見ていると、
憎悪と殺意に塗れた仄暗く輝く瞳でこちらを睨みながら、パリンと割れる様に消えていってしまった。
「まったく何がなんだかわかんねぇ…」
※ ※ ※
エリスの無事を確かめるべく、十字架の消えた跡地に駆け寄る。
スゥスゥと穏やかな寝息が聞こえ、ホッとした。心からホッとした。
急に力が抜け、その場に腰を下ろした。
「よ、良かったです…」
クリスは何とも言えない表情を浮かべていた。
その心の奥底に蟠りを感じる様な、絶望と安堵が入り混じったかの様な表情だった。
その瞳から溢れた雫がキラキラと輝きながら地面に消える。
それに嘘偽りの無い美しさを感じた俺は胸の奥にそれをしまう事にした。
俺は晴れ渡った空を見上げた。
霧は晴れ、天まで届く巨木に囲まれた空はとても小さく、とても美しかった。
エリス。もう少し辛抱だ。ヒョイと背中に背負い森の奥を目指す。
ここは迷いの森。
霧は晴れ渡り、只の巨木の森になったとしても、誰もが心の奥底に迷いを抱えている限り
森は迷いの森で在り続ける。
ここは迷いの森。
一歩一歩、確かめるように踏みしめ歩を進める。背中に感じる暖かさが俺から迷いを振り払う。
後ろを歩く二人の抱えた迷いも、いつか晴れるだろうと空を見上げた。
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