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第2章

迷いの森

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ゴブリンら魔物の跋扈する太古の森をいつの間にか抜けて出た先は、霧立ち込める樹海の入り口だった。

「きっと此処が迷いの森だ。そんな雰囲気が出てる。」

ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
クリスだろうか。立ち並ぶ巨木達は雲を突き抜け、その先が見えなかった。
逸脱したスケール感に、ただただ見上げるばかりだった。

「おっ、大っきいです……」

「樹齢や種の特性で収まるレベルの巨大さでは無いね。これは魔力や何か特別な力が、この地に影響を与えている、そんな気がするよ。」

「エリスの覚醒と睡眠の間隔が短くなっている。専門家じゃないから分からんが多分ヤバい。急ぐぞ。」

俺達は深い霧の中へ進んだ。



※ ※ ※


ーーロドリゲス part ーー


ブラザー達とはぐれてしまった。
視界は霧で遮られ、足元すら危うい。
手を伸ばすと巨木らの幹に当たる、それを頼りに奥へ、奥へと進む。
既に方向感覚など無い。それでも奥へと足を進める。


(アッハッハ…王子様は何処に向かって進んでいるんだい?此処には君の求める物は何も無いよ。
自分が何をすべきなのか、為すべきなのか、それすらも見失なってる様だね。非常に滑稽だよ。アーッハッハ…)


何者かが僕に囁きかけて来る。
神経を逆撫でる様な声で僕を嗤っている。
この声の主は何故、僕の事を知っているのだろうかとフト疑問に思った。


「何者だ!?」

(ハハハッ!そうだね、強いて言うなら迷いの森の主とでも言っておこうか。王子様。
何で僕の事を知っているんだ?みたいな顔をしているね。
僕は君の事を何でも知っている。
父親を見殺しにした事の後悔も。その心に滾る憎悪も。そして復讐すべき相手に向ける愛情も。
何もかもが掛け違えたボタンの様だ。
そこから逃げ出した君の侮蔑も僕には手に取るように分かるよ。
あのデンジャラスな男に着いていれば君の望む終わりが来る事を期待している、そんな君を滑稽と思わずして何と思えばいいんだい?
アーッハッハッ……)


「僕を、嗤うなッッ!!」


※ ※ ※


ーーーークリス part ーーーー


マスター達とはぐれてしまいました。
目の前は霧で遮られてて、ちょっと歩くと転びそうです。
恐る恐る手探りで手を伸ばして木の幹を触ります。それを頼りに奥へ、奥へと進みます。

どちらにおられるのですかマイマスタぁ……
マスターの腕にしがみ着きたい。マスターの匂いをクンカクンカしたい。マスターの唇に触れたい。マスターに愛撫してもらいたい。マスターのしゃぶりたい。マスターに乱暴に犯されたい。
でも今は駄目。タルハート家の男らしい振舞いをしないと姉様に怒られてしまいます。
騎士らしく、タルハート家の男らしく。もっとシャッキリしないと!!えい、えいおー!!


(クスクス……可愛い可愛いお姫様ぁ。
此処には貴女の欲する物は何も無いわ。
そして貴女の欲する物はこの先も、この後も手に入る事は出来ないわ。
女の子は剣なんて持たずに家に帰って紅茶でも飲んでなさい……クスクス)


ふぇっ!!び、びっくりしましたぁ…
何処からかわかりませんが声を掛けられています。こ、怖いです。
笑われています。どうしてか嫌に耳障りの悪い声です。でも可愛いお姫様って言われて嬉しかったりします。マスター何処ぉ…


「ど、どちら様ですか?」

(クスクス……可愛いお姫様は、お姉様の事が邪魔なのかしら?そうよね。
傷だらけになったお姉様が彼に全身を舐め回されているのを見て
チン◯ギンギンに興奮しちゃってる変態さんですもんね。
陵辱されたお姉様に嫉妬してるだけではなく、その存在すら邪魔だと感じ始めてる。
誇りとかプライドとか、そんな物を理由に大切なお姉様をその手にかけようとして…
まるで掛け違えたボタンの様に心と体がチグハグ。
彼に愛される事は無いわ。いくら尽くしても彼の子をその身に宿す事は出来ないわ。
彼が迷惑そうにしているの気がついてるんでしょ?
それなのに彼に愛されようと必死に付き従う姿は滑稽ね。本当に……クスクス。)


「わ、私は愛されたいのではありません!愛し愛されたいのです!」


※ ※ ※


いつの間にかアイツらとはぐれちまった。
この深い霧の中だ。しょうがないと諦めよう。
背中に背負う暖かさが、より熱を帯びている。急がなくては。
近くの巨木の根にエリスを寝かせる様に下ろし、世界樹の雫を全身に浴びせる。

「……ここは何処だ?……」

熱が少し下がり、目を覚ましたエリス。
俺は彼女のピンク色のローブの前を閉めながら話掛けた。

「この先に友人が居る。見てくれはちょっとアレだが頼りになる奴だ。
お前の快癒をする為に力を貸してくれるだろう。もう少しの辛抱だ。頑張ろう。」

「……おい、いつまで胸を触っている?」

「エリス。お前は俺の物だ。」

「……フン、どうせ手も足も出ない。言葉通りな。動かんよ。好きにするがいい。」

「ああ、応急処置とは言え、お前の身体の隅々まで舐めた。今更恥ずかしいとか言わんよな?」

「……私の身体はもう壊れてしまっている。ゴブリン共の慰みモノにされてな。
もう子を宿す事すら出来ない身体になっている事ぐらい私でも分かるのだ。
そんな廃棄物を抱こうだなんて愉快な話だ。
ほら、早くぶら下げたイチモツを私の傷口に突き刺せばいい。
なにせ穴は至る所に空いている。せいぜい可愛らしい喘ぎ声を上げてやるさ。」

「エリス。お前は俺が救う。必ずだ。」

再び寝息を立てるまでエリスの頭を優しく撫でた。スゥスゥと寝息をたてる彼女を見守りながら黒光りする棍棒をスラリと抜いた。


「出て来い。其処に居るのは分かっている。」



※ ※ ※


(お?もしかして俺の姿が見えるのか?)


霧の中からボロボロの腰巻きをした男が獣臭を漂わせゆらりと現れた。


(クックック……よお、俺。ホントはな、この霧の中で惑わせ、狂わせ、絶望と飢餓の中、息の根が止まるその時まで
嘲笑ってやろうとしてたのに気が変わったぜ。お前は危険だ。人間風情にこの森を抜けさせる訳にはいかねぇ。ここで殺す。
其処のゴブリンにも股を開くアバズレと一緒に仲良く脳漿ブチ撒けなぁ!!)


獣臭漂わせる男は棍棒を手にし、俺に飛びかかる様に襲いかかって来た。


「コイツ、早いっ!!」

ガギィンと鈍い音を立て両者の棍棒が火花を散らす。
一撃、一撃が重い。当たれば即ち必殺の一撃だった。


(ホラホラ!どしたどしたァーーー!?)


獣臭漂わせる男の棍棒を捌くだけで手一杯だ。男の棍棒は更に加速し、反撃の隙を与えてはくれない。
ジリジリと押されていた。棍棒を握る手が痺れていた。それを見透かす様に、より激しい打撃が続く。


(まだまだ行くぜ?ドンドン行くぜ?派手に脳漿ブチ撒けれるよう精々頑張りなァァァ!!)


クソッタレ。この男メチャクチャ強い。
手がジンジン痺れる。一撃防ぐ度に骨の芯に響きやがる。
手汗で滑った!危ない!咄嗟に圧縮空気発射を使い崩れた体勢をリカバリする。
男の棍棒が頬を掠める。鮮血が程走る。まだ大丈夫だ。薄皮一枚持ってかれただけだ。
ペッと唾を吐き手に棍棒を馴染ませる。
男に対し距離を取る。冷静になれ俺。奴は俺だ。俺は奴だ。ワケがわからなくなってきた。


(あー惜しい惜しい。もうちょい回転上げるかァ~?
しぶといね流石オレ。いやー、強い強い。
先にゴブリンのオナホールから殺しちゃうか。よし決まり。砲撃開始ィィィ!!)


奴はペロリと腰巻きをめくり、こちらにケツを向けて四つん這いになった。アレはマズイ。

背中には必ず救うと約束をした。
心の底から助けたいと思えた存在が在る。
それなのに、俺ときたら振り回す凶器だけしか持っていない。
俺は身を呈して彼女の盾になる事しか術が無いのなら、そうで在ろうと誓った。







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