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第2章

少女のお願い

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ムシャムシャと屁こき芋を口にすれば
些細な事はどうでも良くなり鼻歌交じりに街道をノンビリ進む。
この芋アッパー系の成分入ってんじゃねーか?ヤバくね?と、一瞬思ったが新しい鼻歌を思いつき
直ぐにそれらを考える事を放棄した。フンフフンフーン♪


側から見てもゴキゲンな俺は隣を歩くロドリゲスに声をかける。

「なぁ!町とか村とか近いの!?」

「そうだね、そろそろ村くらいは見えてくるんじゃないかな?」


つい先程までは殺意を込めて襲いかかってきた男に対して
気にする素振りすら見せずいつもの様に受け答えをしてくれるこいつマジイケメン。
常識的な部分大腸菌のヤバさに無知なところが少し欠落してるぐらいは許してやるべきだろうと思い、俺は少し大人になった。



……ガサガサ……



やや前方に見える街道沿いの茂みが揺れた。
人の気配を感じた俺達はすぐに臨戦態勢に入る。
ハイパーボールの用意は万全だ。いつでも出て来い!!



すってんころりんと可愛らしい効果音と共に街道脇の茂みから飛び出して来たのはポケモンではなく少女。
その少女は仕立ての良い服を着て金髪のツインテールには小さめのティアラを乗せていた。
なんだぁ?このガキンチョ。


 ※ ※ ※


ムクリと涙目になりつつも立ち上がった少女は辺りをキョロキョロ……
やがて俺達と目が合い、一瞬の硬直ののちに両手をバタバタさせ



「キャアアアアアーーーーーーーーーーッ!!」


いきなり悲鳴を上げやがる始末。
俺は一瞬で少女に近づき背後から口を手で塞ぎ「騒ぐな!!ぶっ殺すぞ!!」と優しく語りかけた。

拘束を解こうと少しジタバタしたが
俺の優しげな語りかけを理解したらしく高速でコクコク首を縦に振る少女。
もう既に涙腺は崩壊しているが思ったよりはお利口さん。
頭からズルリと落ちそうになったティアラを片手を伸ばし頭を撫でるフリをし、それを懐に入れる。


「これからお前を解放してやる。
俺達が見えなくなるまでここで大人しくしてればお前もハッピー。俺達もハッピー。
お前は俺達に出会わなかった。オーライ?」


俺はロドリゲスに頭をチョップされた。


 ※ ※ ※


「それでどうしたのかな?君みたいなリトルレディーが護衛も連れずこんなところに居るなんて。
何か事情があるなら僕達に話して欲しい。」


「そっちの原始人みたいなのが怖いですぅ…
私の事を強姦おかしたり殺したり肉を焼いて食べたり山の中に穴掘って埋めたりしないです?」


「しねーよ!ガキンチョ!!」


「ブラザーは少し黙っていてくれないかい?」


「この原始人いちいち怖いのですぅ…」


※ ※ ※


ロドリゲスが話を聞くにはこのガキンチョどっかの国の偉い人の娘らしい。
護衛を引き連れ馬車でどっかに向かってる途中にどっかで魔物に襲われ逃げてる途中、
一緒に居た護衛達とどっかではぐれて現在に至る。そんな感じだった。


「んでー?そのガキンチョどうすんの?」

「僕としては見捨ててはおけないね…」

ハッキリ言ってやる気が無かった。
俺の異世界冒険譚が始まって最初に出て来た俺の嫁ヒロインフラグチ◯ポも勃たさせねぇガキンチョ。
ギガスロリコンは犯罪ですをこの場に連れてたらと思うとゾッとするぜ。全く。
ハァーーーーっとため息しか出ねぇよ。

もういいよ。早く街行きてえよ。
冒険者ギルドで俺のチートステータス発覚でうっかり系受付女子と仲良くなったり
地下迷宮でオーク襲われ系のエルフを助けて恋に落ちたり
奴隷オークションでケモ耳系美少女を買って俺専用メイドにしたり……


「護衛に連れてたタルハート騎士はめちゃくちゃ美人なのですー。
私の国ではシェーンの至宝とか言われてる程有名なのですー。
ゲシュタルト帝国の人達にも伝わってる筈なのです……」


「ロドリゲス。準備は出来たか?俺は出来た。すぐ助けに行くぞ!!」


俺はガバァッと地面に耳を付け目を閉じた。
ひぃ、ふぅ、みぃ………数が判った。俺達の数だ。
しばらく集中し何かを感じている様に装い
突然カッ!!と目を見開いた!!
ガキンチョのパンツが見えた。
……少し汚れていた。


「この原始人、絶対サイコパスですぅ…」

「心から同意するよ。リトルレディー。」

生暖かい目で俺を見下すロドリゲスに
ガキンチョはガタガタと震えて抱き着いていた。



 ※ ※ ※


ロドリゲスに抱えられたガキンチョは
必死で逃げて来たからどっちか分からないと涙目になり両手をバタバタとさせていたが
俺の悪魔的勘を頼りに林の中を突き進む。


「あっちに獲物ヒロインがいるぞ」と、俺の中の悪魔が囁きかけてくる。
もう近い。きっと近い。


「俺が絶対に助ける!!だから俺のもんだぞ!!
俺の新必殺技を何だか良くわからねぇ魔物達にブチ込んで一瞬で片付ける!!5秒だ!!
ロドリゲスっ!!オメーは出しゃばんじゃねーぞっ!!」


争う音が近くなりゆっくり伺うように俺は林の中から覗き見る。
こっちは二人。丸腰だ。更に言えば丸裸も同然だ。

気付かれる距離では無いと思うが
死角からの圧倒的火力俺の新必殺技での殲滅を狙いたい。
落ちている手頃な武装を使う事も脳裏をよぎったが、俺は脳筋系バトルジャンキーじゃない。頭脳派マジックキャスターだ。


「見つけた。多分アレだ。」


息を殺し近づいて来たロドリゲスは木陰に身を隠しながらそれらを確認。
相手はゴブリンと言う多少厄介な魔物であると俺に説明してきた。

「数が多いね…リトルレディーの騎士達はかなりマズイ状況だね…」

ガキンチョには申し訳無いが素人目で見てもこの場から逃げ出した方が良いと思った。
たった二人が参戦しても覆せる戦況ではないのだ。
とてもじゃないがゴブリンの数が多すぎる。
俺達は勇者でもなければ英雄でもない。
無謀と勇気の意味の違いが分かる逃亡奴隷なのだ。


「ロドリゲス。ここまでイキっといてアレなんだが……
お腹が痛くなってきたから帰るとしよう。
これ、大腸菌のせいかも知んない。ちょっと水っぽい。」


クルリとUターンをかまし撤退の為の相談を開始しようとした刹那、
俺の視界に入ったガキンチョは涙目でフルフルと首を振って無言だったが「助けて」と俺に訴えかけてきた。


ふぅ……もう腹をくくるしかねぇか。


「ロドリゲス、そのガキンチョを守れ。
絶対に出て来るな。俺が目立たなくなるからな。いいな?
もし何かあったら絶対に逃げろ。俺はお前ら置いてでも逃げるからな?
ガキンチョが邪魔になったら捨ててでも逃げろ。いいな?」


ジッとロドリゲスは俺の目を見つめた。
何か言いたげだったがやがて諦めたように頷き「…わかった。」と小さく返事をした。



さて、圧倒的火力の魔法俺の新必殺技をゴブリン共に披露してやろうかね。
首をコキコキ鳴らして辺りを見渡す。

お目当ての物を発見した俺はそれにピョーンっと飛び付いた。


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