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九七式改の考察。
中島飛行機の技師が奉天へ・・・
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「ソ連軍、撃墜!」 「我が援軍が大勝利。」
派手な見出しの号外が奉天市の街頭に舞う。
吉林平原での空中戦は吉林の遊牧民らに目撃されて・・・はやくも奉天市まで、ウワサが飛んできたのである。
シナ人も、そうだが・・・満州国民である女真族も祭りが好きだ。
熊のソ連軍戦闘機隊を援軍である日本軍戦闘機隊が墜としたことは、大きな喜びとなり満州全土を覆ったのだった。
満州国には満州娘らのニャンニャン祭りが有名だが・・・撃墜祭りも・・・満州国での祭りとして・・・
伝えられることになりそうだ。(やたらと爆竹を鳴らす。)
奉天市が祭りで盛り上がっている頃・・・
ここ、奉天飛行場の格納庫建設現場横にある宿舎では、沈痛な面持ちの軍人らが集結していた。
ここは宿舎の1階にある食堂兼会議室である。
そう、日本陸軍の定番である反省会(カラオケ大会ではない。)である。
たとえ、作戦が圧勝であっても・・・反省会は開催しなければならない。
明治天皇陛下の五箇条の御誓文にもあるように。
日本は皇帝(現在、世界で皇帝の地位は、我が今上陛下のみ)である天皇陛下の国であるが・・・天皇陛下は統治はしないのだ。
統治は総理大臣と閣僚が行政を・・・立法は内閣が・・・善悪は司法が・・・
そして、陛下は国民をシラスことが、我が国の2600年以上続く歴史なのだ。(2600年以上の国の歴史は地球上で日本だけだ。)
それは、軍隊でも例外ではない。
それが、作戦終了後の反省会(カラオケ大会ではないのだ。)なのである。
この反省会で、各員は奢ることなく今後の作戦を遂行できるのである。
平家物語いわく、奢るもの久しからずなのである。
先任幹部の藤堂大佐が、「まずは、戦闘機隊の勝利を祝おうでは無いか。」
「伊佐美隊は、我が派遣軍の誉だ。」
「日本海海戦に続いて2番目の圧勝だ。」と、賛辞が飛び交う。
伊佐美隊長が、「ありがとう、みんな。」
「初陣で勝利を飾れたのは皆のおかげだ。」と、謙遜する。
「しかし、4機は逃がしてしまいました。」と、残念がる・・・
「いや、全機墜としてしまっては我が戦闘機隊の威力がソ連軍に伝わらないではないか。」
「まあ、そういう言い方もあるが・・・」と、伊佐美少佐だ。
「今回の戦闘は、一方的だったから敵のイー16の空戦能力がわからなかったのが残念だ。」と、反省の弁の伊佐美少佐だ。
現に、九七式改は1発の敵弾も喰らってはいないのだ。
「やはり、敵より発見が速かったのが大きいです。」と、伊佐美隊長が答える。
「そうだな、敵の上を盗れたのが勝因だと思うぞ。」と、伊佐美戦闘機隊々長だ。
「それで、発見の功労者へ金一封だな。」
皆から拍手喝采だ。
もちろん、サイトウ君へである。
可憐で清楚な満州娘の一晩のチケットだ。
夕方から翌朝までの時間のチケットである。
普通なら、隊員の半月分の金銭が・・・日本円で2円50銭だ。
現在の貨幣価値なら20万円相当だろう・・・
空戦は、それほど先に敵を発見したほうが有利なのだ。
上空からの急降下を生かした一撃離脱戦法が・・・いままでのドック・ファイト戦法にかわりつつあるのである。
1機対1機の戦いなら、いままでの戦いでもイイのだが・・・
空戦で勝利するためには・・・上空からの急降下を生かした一撃離脱こそが・・・これからの空戦だと確信する伊佐美少佐なのである。
「なんですと、内地から技師が・・・」と、驚く伊佐美少佐だ。
「うむ、なんでもソ連軍との空戦の詳細を直に聞きたいそうだ。」と、藤堂少佐が通信文を見せる。
それは、内地からの無線電信暗号文だ。
「サエキギシ ムカウ デムカエ ヨロシク、か・・・」と、伊佐美少佐が読む。
「このサエキ技師って?」
「たぶん、中島飛行機の技師で、戦闘機設計主任だそうだ。」
「主任さんですか。」「それは、また御大層な話ですね。」
「うむ、それだけ今回の戦果は内地でも注目に値するらしいぞ。」
「まあ、日本は戦争してるわけではないですからね。」
「うむ、この満州ではソ連軍との紛争があるが・・・互いに宣戦布告まではいってない。」
「ソ連はドイツ帝国との紛争中ですからね。」
「だから、シベリアには旧型戦闘機だし・・・戦車も旧型なのだ。」
「それで、この少ない規模の派遣軍で現状維持がやっとなんだが・・・」
「それに、ウワサだが・・・今、内地では新兵器の開発中らしい。」
「その新兵器を九七式改へ搭載できないかの調査も兼ねてるそうだ。」
「どんな、新兵器ですか。」
「ウワサだ、あくまでウワサだぞ。」「え、え。」
「20ミリ機関砲だそうだ。」
「えっ、現在7ミリの機関銃が20ミリの機関砲ですか。」
「重くて、とべないですよ。」
「20ミリなら、下手すると100発もないんじゃあ。」と、携行弾数を危惧する伊佐美少佐だ。
「欧州では、将来は20ミリとなると研究してるらしい。」
「今から、研究しておかないと欧州に遅れてしまうからな。」
「それは、わかりますが・・・20ミリなんて命中したら翼がモゲますよ。」
「そうだろうな。」と、藤堂少佐がのべる。
ピストルの銃弾でも、コルトガバメントの45口径だと・・・スズメを撃ったら・・・何も残らないそうだ。
つまり、45口径の銃弾の衝撃でスズメが飛散してしまうのだ。
ヒトでも、下手すると片腕がモゲるそうだ。
38口径のリボルバーでも、大黒柱に穴が開いて・・・向こうへ抜けるほどなのだ。
想像以上に弾丸の威力はあるのだ。
「じゃあ、プロペラ同調でペラの間を抜けて射撃してますが・・・20ミリなら、危険ですね。」
「うむ、ペラが破損しますからね。」
「じゃあ、機銃は機首には・・・」
「そうですね、それに20ミリはでかいですから・・・機首は無理でしょう。」と、戦闘機乗りの伊佐美少佐だ。
数日後に大連港へ投錨した陸軍徴用船でサエキ技師が・・・そして、迎えのトラックに同乗してやってきたのだ。
「はじめまして、中島飛行機のサエキです。」と、メガネを掛けた技師らしい40代のオタク野郎だ。
「私が、伊佐美です。」
「お、お、陸軍の英雄ですね・・・よろしくお願いします。」
「いえ、英雄と言う程の・・・ことは・・・」
「いえ、内地でもソ連軍を全滅させた英雄として・・・」
「4機、逃がしました。」
「16機のソ連軍で14機を撃滅すれば、全滅同等ですよ。」
そうなのだ、部隊が3割殺られれば、退避だし・・・半分ほど殺されれば全滅なのだ。
日本軍のように最後の1兵まで戦う軍隊なぞ、例外中の例外なのだ。
近代戦では、2割の損耗で撤退しなければ・・・部隊が崩壊する恐れがあるくらいだ。
「聞けば、初弾で7機撃墜と聞きましたが?」と、サエキ技師だ。
「そして、4機に損傷と・・・」
「まあ、当方は12機ですから・・・」
「では、全機がそれぞれ相手に損害を与えたということじゃないですか。」
「100発、100中なんて・・・空戦の歴史に残りますよ。」と、大袈裟に言う。
「待ってください、敵のソ連軍の怠慢も味方したと思いますよ。」
「じゃあ、全くの奇襲が成功したのですか。」
「そうだと思います。」「ソ連軍は、我が軍が射撃するまで、まったく気が付いて無いようでした。」
「そうですね、でないと初弾が全弾命中なんて考えられません。」と、納得するサエキ技師だ。
「でも、九七式改になり機銃の命中精度が格段にあがったのも理由のヒトツですよ。」と、伊佐美少佐がいう。
「長銃身で銃弾も直進性がバツグンですし。」
「照準器が見やすくて・・・銃弾が敵機に吸い込まれていくようでした。」と、感想を述べる少佐だ。
「あ、あ、照準器には機体の弾道補正装置がありますから。」
「えっ、何ですかそれは。」「本職は聞いてないですよ。」と、少佐だ。
しまった、という顔のサエキ技師だ。
「すいません、今のは聞かなかったということで。」と、言い訳だ。
照準器は各国の軍事技術のカタマリだ。
特に、爆弾投下するための照準器は軍事技術の最たるモノだ。
敵地へ不時着したら、最初に破壊するように厳命されているほどなのだ。(米軍、ノルデン爆撃照準器)
ところで、軍事機密だが・・・九七式改の照準器の秘密を開示しよう。
他言は無用だ!
エンジンが1基の戦闘機はエンジン回転により、微妙に横方向のモーメントが働くのだ。
それで、その回転の反対方向に銃身にライフリングを刻んである。
それで、回転力が相殺されて銃弾が直進するのだが、それでも空戦では互いに高速で移動している。
それで、現在見ている敵機の位置と銃弾が命中するときの位置に誤差が生じるのだ。(それで、なかなか命中しないのだ。)
それで、目視より少し先の時間へ想像して銃弾を撃ち込めば命中するんだが・・・
なかなか、できないものだ。(なんも無いことろへ射撃なんて、なかなかできはしない。)
それで、照準器の照星の赤い光が示す位置は、少し位置が時間的にコンマ、1000分の1秒ほど先なのだ。
この調整は、機体ごとに微妙に差があり・・・手作業で熟練工が調整しているのだ。
調整方法は九七式改整備書に描いてあるが・・・機構や原理は内密なのである。
「ところで、増槽は空戦時には投棄しましたか?」と、佐伯技師だ。
「それが、投棄するはずでしたが・・・」「実は、投棄しなかったんですよ。」
「敵を先に発見できたんで、このまま行けそうかなと・・・」と、伊佐美少佐がいう。
「もともと、九七式改は固定脚ですから空気抵抗はありますから。」
「そして、増槽を付けたままでも空戦能力は思ったより落ちませんでした。」
「ふむ、なるほど。」
「それに、先に増槽の燃料を使いますから、空戦時にはカラですから。」
「ふむ、まあ空気抵抗はありますがエンジン馬力があるので、あまり影響はなかったですよ。」
「ふむ、なるほど。」と、サエキ技師だ。
「では、取り急ぎ改良を要するところは無いですね。」と、結論付ける。
「え、え、欲を言えばキリがないですからね。」と、伊佐美隊長だ。
そうなのだ、追撃で4機をにがしてしまった・・・
まあ、逃げるソ連軍へ・・・すこしは武士の情けもあるのだが・・・
「では、引き込み脚は九七式改では・・・」
「現場としては、草原へ着陸できるほうがありがたいですね。」
「まあ、空気抵抗がある固定脚と重量がある引き込み脚とでは。」
「満州平原では固定を選びますよ。」と、伊佐美隊長の言だ。
やはり、固定脚の信頼性が勝るようである。
運用する地域の特性が現場に影響してくることを知ったサエキ技師だった。
中島飛行機では、内地用の防衛戦闘機は引き込み脚でと・・・そう、ハヤブサ型である。
試作機はできあがっていたのだ。
これは、九七式改と模擬空中戦が必要だな・・・そう、思ったサエキ技師である。
派手な見出しの号外が奉天市の街頭に舞う。
吉林平原での空中戦は吉林の遊牧民らに目撃されて・・・はやくも奉天市まで、ウワサが飛んできたのである。
シナ人も、そうだが・・・満州国民である女真族も祭りが好きだ。
熊のソ連軍戦闘機隊を援軍である日本軍戦闘機隊が墜としたことは、大きな喜びとなり満州全土を覆ったのだった。
満州国には満州娘らのニャンニャン祭りが有名だが・・・撃墜祭りも・・・満州国での祭りとして・・・
伝えられることになりそうだ。(やたらと爆竹を鳴らす。)
奉天市が祭りで盛り上がっている頃・・・
ここ、奉天飛行場の格納庫建設現場横にある宿舎では、沈痛な面持ちの軍人らが集結していた。
ここは宿舎の1階にある食堂兼会議室である。
そう、日本陸軍の定番である反省会(カラオケ大会ではない。)である。
たとえ、作戦が圧勝であっても・・・反省会は開催しなければならない。
明治天皇陛下の五箇条の御誓文にもあるように。
日本は皇帝(現在、世界で皇帝の地位は、我が今上陛下のみ)である天皇陛下の国であるが・・・天皇陛下は統治はしないのだ。
統治は総理大臣と閣僚が行政を・・・立法は内閣が・・・善悪は司法が・・・
そして、陛下は国民をシラスことが、我が国の2600年以上続く歴史なのだ。(2600年以上の国の歴史は地球上で日本だけだ。)
それは、軍隊でも例外ではない。
それが、作戦終了後の反省会(カラオケ大会ではないのだ。)なのである。
この反省会で、各員は奢ることなく今後の作戦を遂行できるのである。
平家物語いわく、奢るもの久しからずなのである。
先任幹部の藤堂大佐が、「まずは、戦闘機隊の勝利を祝おうでは無いか。」
「伊佐美隊は、我が派遣軍の誉だ。」
「日本海海戦に続いて2番目の圧勝だ。」と、賛辞が飛び交う。
伊佐美隊長が、「ありがとう、みんな。」
「初陣で勝利を飾れたのは皆のおかげだ。」と、謙遜する。
「しかし、4機は逃がしてしまいました。」と、残念がる・・・
「いや、全機墜としてしまっては我が戦闘機隊の威力がソ連軍に伝わらないではないか。」
「まあ、そういう言い方もあるが・・・」と、伊佐美少佐だ。
「今回の戦闘は、一方的だったから敵のイー16の空戦能力がわからなかったのが残念だ。」と、反省の弁の伊佐美少佐だ。
現に、九七式改は1発の敵弾も喰らってはいないのだ。
「やはり、敵より発見が速かったのが大きいです。」と、伊佐美隊長が答える。
「そうだな、敵の上を盗れたのが勝因だと思うぞ。」と、伊佐美戦闘機隊々長だ。
「それで、発見の功労者へ金一封だな。」
皆から拍手喝采だ。
もちろん、サイトウ君へである。
可憐で清楚な満州娘の一晩のチケットだ。
夕方から翌朝までの時間のチケットである。
普通なら、隊員の半月分の金銭が・・・日本円で2円50銭だ。
現在の貨幣価値なら20万円相当だろう・・・
空戦は、それほど先に敵を発見したほうが有利なのだ。
上空からの急降下を生かした一撃離脱戦法が・・・いままでのドック・ファイト戦法にかわりつつあるのである。
1機対1機の戦いなら、いままでの戦いでもイイのだが・・・
空戦で勝利するためには・・・上空からの急降下を生かした一撃離脱こそが・・・これからの空戦だと確信する伊佐美少佐なのである。
「なんですと、内地から技師が・・・」と、驚く伊佐美少佐だ。
「うむ、なんでもソ連軍との空戦の詳細を直に聞きたいそうだ。」と、藤堂少佐が通信文を見せる。
それは、内地からの無線電信暗号文だ。
「サエキギシ ムカウ デムカエ ヨロシク、か・・・」と、伊佐美少佐が読む。
「このサエキ技師って?」
「たぶん、中島飛行機の技師で、戦闘機設計主任だそうだ。」
「主任さんですか。」「それは、また御大層な話ですね。」
「うむ、それだけ今回の戦果は内地でも注目に値するらしいぞ。」
「まあ、日本は戦争してるわけではないですからね。」
「うむ、この満州ではソ連軍との紛争があるが・・・互いに宣戦布告まではいってない。」
「ソ連はドイツ帝国との紛争中ですからね。」
「だから、シベリアには旧型戦闘機だし・・・戦車も旧型なのだ。」
「それで、この少ない規模の派遣軍で現状維持がやっとなんだが・・・」
「それに、ウワサだが・・・今、内地では新兵器の開発中らしい。」
「その新兵器を九七式改へ搭載できないかの調査も兼ねてるそうだ。」
「どんな、新兵器ですか。」
「ウワサだ、あくまでウワサだぞ。」「え、え。」
「20ミリ機関砲だそうだ。」
「えっ、現在7ミリの機関銃が20ミリの機関砲ですか。」
「重くて、とべないですよ。」
「20ミリなら、下手すると100発もないんじゃあ。」と、携行弾数を危惧する伊佐美少佐だ。
「欧州では、将来は20ミリとなると研究してるらしい。」
「今から、研究しておかないと欧州に遅れてしまうからな。」
「それは、わかりますが・・・20ミリなんて命中したら翼がモゲますよ。」
「そうだろうな。」と、藤堂少佐がのべる。
ピストルの銃弾でも、コルトガバメントの45口径だと・・・スズメを撃ったら・・・何も残らないそうだ。
つまり、45口径の銃弾の衝撃でスズメが飛散してしまうのだ。
ヒトでも、下手すると片腕がモゲるそうだ。
38口径のリボルバーでも、大黒柱に穴が開いて・・・向こうへ抜けるほどなのだ。
想像以上に弾丸の威力はあるのだ。
「じゃあ、プロペラ同調でペラの間を抜けて射撃してますが・・・20ミリなら、危険ですね。」
「うむ、ペラが破損しますからね。」
「じゃあ、機銃は機首には・・・」
「そうですね、それに20ミリはでかいですから・・・機首は無理でしょう。」と、戦闘機乗りの伊佐美少佐だ。
数日後に大連港へ投錨した陸軍徴用船でサエキ技師が・・・そして、迎えのトラックに同乗してやってきたのだ。
「はじめまして、中島飛行機のサエキです。」と、メガネを掛けた技師らしい40代のオタク野郎だ。
「私が、伊佐美です。」
「お、お、陸軍の英雄ですね・・・よろしくお願いします。」
「いえ、英雄と言う程の・・・ことは・・・」
「いえ、内地でもソ連軍を全滅させた英雄として・・・」
「4機、逃がしました。」
「16機のソ連軍で14機を撃滅すれば、全滅同等ですよ。」
そうなのだ、部隊が3割殺られれば、退避だし・・・半分ほど殺されれば全滅なのだ。
日本軍のように最後の1兵まで戦う軍隊なぞ、例外中の例外なのだ。
近代戦では、2割の損耗で撤退しなければ・・・部隊が崩壊する恐れがあるくらいだ。
「聞けば、初弾で7機撃墜と聞きましたが?」と、サエキ技師だ。
「そして、4機に損傷と・・・」
「まあ、当方は12機ですから・・・」
「では、全機がそれぞれ相手に損害を与えたということじゃないですか。」
「100発、100中なんて・・・空戦の歴史に残りますよ。」と、大袈裟に言う。
「待ってください、敵のソ連軍の怠慢も味方したと思いますよ。」
「じゃあ、全くの奇襲が成功したのですか。」
「そうだと思います。」「ソ連軍は、我が軍が射撃するまで、まったく気が付いて無いようでした。」
「そうですね、でないと初弾が全弾命中なんて考えられません。」と、納得するサエキ技師だ。
「でも、九七式改になり機銃の命中精度が格段にあがったのも理由のヒトツですよ。」と、伊佐美少佐がいう。
「長銃身で銃弾も直進性がバツグンですし。」
「照準器が見やすくて・・・銃弾が敵機に吸い込まれていくようでした。」と、感想を述べる少佐だ。
「あ、あ、照準器には機体の弾道補正装置がありますから。」
「えっ、何ですかそれは。」「本職は聞いてないですよ。」と、少佐だ。
しまった、という顔のサエキ技師だ。
「すいません、今のは聞かなかったということで。」と、言い訳だ。
照準器は各国の軍事技術のカタマリだ。
特に、爆弾投下するための照準器は軍事技術の最たるモノだ。
敵地へ不時着したら、最初に破壊するように厳命されているほどなのだ。(米軍、ノルデン爆撃照準器)
ところで、軍事機密だが・・・九七式改の照準器の秘密を開示しよう。
他言は無用だ!
エンジンが1基の戦闘機はエンジン回転により、微妙に横方向のモーメントが働くのだ。
それで、その回転の反対方向に銃身にライフリングを刻んである。
それで、回転力が相殺されて銃弾が直進するのだが、それでも空戦では互いに高速で移動している。
それで、現在見ている敵機の位置と銃弾が命中するときの位置に誤差が生じるのだ。(それで、なかなか命中しないのだ。)
それで、目視より少し先の時間へ想像して銃弾を撃ち込めば命中するんだが・・・
なかなか、できないものだ。(なんも無いことろへ射撃なんて、なかなかできはしない。)
それで、照準器の照星の赤い光が示す位置は、少し位置が時間的にコンマ、1000分の1秒ほど先なのだ。
この調整は、機体ごとに微妙に差があり・・・手作業で熟練工が調整しているのだ。
調整方法は九七式改整備書に描いてあるが・・・機構や原理は内密なのである。
「ところで、増槽は空戦時には投棄しましたか?」と、佐伯技師だ。
「それが、投棄するはずでしたが・・・」「実は、投棄しなかったんですよ。」
「敵を先に発見できたんで、このまま行けそうかなと・・・」と、伊佐美少佐がいう。
「もともと、九七式改は固定脚ですから空気抵抗はありますから。」
「そして、増槽を付けたままでも空戦能力は思ったより落ちませんでした。」
「ふむ、なるほど。」
「それに、先に増槽の燃料を使いますから、空戦時にはカラですから。」
「ふむ、まあ空気抵抗はありますがエンジン馬力があるので、あまり影響はなかったですよ。」
「ふむ、なるほど。」と、サエキ技師だ。
「では、取り急ぎ改良を要するところは無いですね。」と、結論付ける。
「え、え、欲を言えばキリがないですからね。」と、伊佐美隊長だ。
そうなのだ、追撃で4機をにがしてしまった・・・
まあ、逃げるソ連軍へ・・・すこしは武士の情けもあるのだが・・・
「では、引き込み脚は九七式改では・・・」
「現場としては、草原へ着陸できるほうがありがたいですね。」
「まあ、空気抵抗がある固定脚と重量がある引き込み脚とでは。」
「満州平原では固定を選びますよ。」と、伊佐美隊長の言だ。
やはり、固定脚の信頼性が勝るようである。
運用する地域の特性が現場に影響してくることを知ったサエキ技師だった。
中島飛行機では、内地用の防衛戦闘機は引き込み脚でと・・・そう、ハヤブサ型である。
試作機はできあがっていたのだ。
これは、九七式改と模擬空中戦が必要だな・・・そう、思ったサエキ技師である。
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