上 下
33 / 497
これが、イ号潜だ。

越えられない壁だ。

しおりを挟む
 独逸帝国のキール軍港に譲渡潜水艦のイ号が入港する。 旭日旗と日本国旗と独逸帝国旗を掲げての入港だ。 キール軍港の潜水艦桟橋は、潜水艦用に深く掘ってある。 それで、イ号も桟橋に横づけできた。 ハッチを開けてカバーをかける。 ハッチの厚さを知られないためだ。(ハッチの厚さで、最深潜航深度が想像できるからだ。) 桟橋には、独逸帝国軍楽隊が軍艦マーチで歓迎だ。 見物人も多かった。 なんせ、独逸海軍はUボートしか誇れるフネがない。 無双の独逸陸軍に対して肩身が狭い軍隊なのだ。 イ号が桟橋に取り付く、水兵がとも綱を投げる。 タラップが掛けられた。 おおきい。 「えらい大きな潜水艦だな。」 独逸海軍の幹部が感想を述べる。 長さが、ゆうに150メートル越えだ。 それに、前がフネの体型ではなくクジラみたいな球形だ。 それに、舵がX型で、前に潜航舵がない。 それに、商船攻撃用の砲塔がない。 まるで、クジラに艦橋をつけたようなフネだ。 ハッチから乗員が規律正しく並んで、中から艦長と思しき軍人が出てきた。 「日本海軍、イ号177の艦長の中川です。」 「独逸海軍のハインリッヒ准将だ。」 「歓迎、ありがとうございます。」と中川が敬礼だ。 答礼する准将だ。 「では、引渡しの用意を。」 「うむ、乗員を廻すから訓練を頼む。」 「わかりました、准将。」 敬礼で、答えた。 独逸帝国海軍は海軍トップを出迎えによこしたのか。 それほどまでに、海軍は疲弊しているのか。 艦長の中川は思った。 明日から独逸帝国海軍の訓練員に、イ号のなんたるか教えるのである。 ドイツ語堪能な乗員ばかりな訳は、そういうことだ。 もとより、日本海軍の教え方だ、生半可ではない、それは、独逸帝国側にも説明して了解を取ってある。 でないと、自殺者が出ては責任問題だからだ。 訓練員全員から念書を取る日本海軍だ。 内容は、訓練に耐えられない場合は正直に申し出ること。 そして、訓練で、怪我などで死亡しても、遺族は訴訟しないことだ。 殺されても文句は言うなということだ。 日本軍の鬼教官は、ここ独逸でもウワサが耐えないのだ。 潜水艦の訓練だが、最初はカッターというボートでの競争が訓練だった。 体力検査からチームはバランスを考えて作られた。 そして、毎日競争だ。 それが、延々と続いた。 教官いわく、根性をつけるためだとか。 イジメにしか見えない訓練だった。 そして、へ垂れると罵声が飛んでくる、悪くするとムチだ。 「そんなことで、独逸帝国海軍軍人か?」 だ。  オレはボートを漕ぐために軍隊に入ってのではない。 しかし、それをいうと、倍の訓練が待っていた。 とても、民主的な日本政府からは考えられない海軍魂だ。 米国に並ぶ日本海軍の真の恐ろしさが身に染みた訓練員らだった。 潜水艦は駆逐艦から攻撃されると、爆雷を避けるために潜航して駆逐艦が諦めて去るまで、じっと我慢なのだ。 その、精神的がんばりの訓練だ。 耐えられないと死だ。 海中だから確実にタヒネだ。 イ号を独逸帝国に譲渡する、不可侵条約締結まで、あと30日だった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。 霧深き北海で戦艦や空母が激突する! 「寒いのは苦手だよ」 「小説家になろう」と同時公開。 第四巻全23話

永艦の戦い

みたろ
歴史・時代
時に1936年。日本はロンドン海軍軍縮条約の失効を2年後を控え、対英米海軍が建造するであろう新型戦艦に対抗するために50cm砲の戦艦と45cm砲のW超巨大戦艦を作ろうとした。その設計を担当した話である。 (フィクションです。)

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...