伊号式潜水艦。

ゆみすけ

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マツモト艦、到着する!

何かと、世話になるマツモト艦なのだ。

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 「艦長、見えましたよ。」「なにが?」
「マツモト艦ですよ。」と、見張り員が叫んだ。
 あわてて、西方を見る。
水平線に潜水艦らしき艦橋が見え隠れする。
 「やっと、着てくれたな。」と、アラン艦長だ。
「こちら、アランだ。」「マツモト艦、どうぞ。」
 「待たせたな、それで何があったのだ。」と、我らがマツモト艦長が無線を送る。
「うむ、魚雷が近接爆発して機関が動かなくなった。」と、アランが答える。
 「なんだって、攻撃されたのかっ?」「あ、あ。」
「被害は?」「機関が動かないのさ。」「ケガ人はいないぞ。」
 「それは、よかったな。」「あ、あ。」
「それで、不審艦は?」「いま、逃げてる最中だよ。」
 アランは、そう言って水平線へ消えゆく不審潜水艇を・・・
先ほどより、だいぶ遠くへ進んだように見える。
 それでも、まだ水平線上には・・・小さな艦橋が見えてるのである。
英仏海峡は海流の関係で流れが複雑だ。
 季節により、変化するのだ。(水深が、浅いからだ。)
ドーバー海峡なんて、防水したⅣ号戦車で渡ろうとドイツ陸軍は思っていたほどだ。
  
 やがて、マツモト艦がアラン艦へ、横付けする。
そして、マツモト艦長がアラン艦へ・・・
 「それで、レイの件は、どうするんだよ。」と、一番危惧していることを・・・
そうなのだ、マツモト艦長には不審潜水艇より、ポーツマス軍港でのロケット魚雷の件が・・・
 バレたら、更迭くらいでは済まないからだ。
カテリーナ(愛妻)に殺されなけないかも・・・
 マーガレツト王女様に弁解のしょうがないから・・・
「それなんだが・・・あいつへ押し付けるしかないぞ。」と、不審潜水艇を指すアラン君だ。
 「あいつも、偶然に狙っていたと思うんだ。」
「まさか、そんな都合がイイ話なんて、無いぞ。」と、疑うマツモト艦長だ。
 「しかし、必死になって逃げてるぞ。」「なるほど。」
「だから、ポーツマス軍港での騒動は不審潜水艇の仕業ということにしてだな・・・」
 つまり、ウソも方便ということを言うアランであるのだ。
「つまり、惜しい所で逃がすということなのか。」と、マツモト君だ。
 「うむ、そうなれば不審潜水艇の仕業でいけそうだと・・・」
「わかった、惜しいところで逃がすように・・・」と、内緒の作戦を・・・
 「それは、いいんだが。」と、マツモト君が言う。
「機関がうごかないのだろう。」「オレの艦で曳こうか。」
 「あ、あ、ありがたいが・・・」「まず、あいつを追跡するフリして逃がさねばならないぞ。」
と、水平線に見え隠れする不審潜水艇を示すアラン君である。

 双眼鏡で観るマツモト君が、「おい、あいつらオールで漕いでるぞ。」
「まだ、救助のフネは来てないようだな。」と、加えるマツモト艦長だ。
 「なら、君の艦を曳きながら追跡するフリをしょうじゃないか。」と、マツモト艦長が提案だ。
このまま、波間にただよっていても・・・なんもなんないからね。
 「そうだな、頼めるか。」「任されよ。」と、鉄板の返事のマツモト艦長だ。
潜水艦のスクリューは防潜網にスクリューを巻き込まないためにガードが付いてる。
 それで、ワイヤーを艦尾につけてもスクリューへ巻き込むことはないのだ。
「よし、では追跡開始だ。」と、マツモト艦長だ。
 ちょうど、不審潜水艇は視界から消えかけてることろだ・・・
「うむ、前進半速だ。」
 ワイヤーが切れないように、あまり速度は出せないのである。
なんせ、専門のタグ・ボートではないからね。
 タグ・ボートは、スクリューも径が大きくて牽引力があるように建造されてるのだ。
速度は出ないが、力はあるのである。
 ところが、潜水艦は他の船を牽引するのは・・・苦手なのである。
フネには、得て不得手があるのだ。
 それで、10ノット程度しか出せないのだ。
「まあ、オールで漕いでる潜水艇を追跡するんだ。」「ちょうどいいのだ。」
 なぜか、納得するマツモト艦長だ。

 「おい、がんばれ。」「捕まれば、どうなるかわからんぞ。」と、部下を脅すハイネマン艇長だ。
「くそっ、まだ応援はこないのかっ。」と、キール軍港方面を見るが・・・まだ、タグ・ボートは見えないようだ。
 「無線で、繰り返し要求しろ。」と、焦るハイネマン艇長だ。
そして、通信士がオールで漕げないから、ハイネマン艇長が交代で漕ぐのであった。
 6名で潜水艇を漕いでるのだが・・・「まだ、タグ・ボートは・・・」と、焦る艇長だ。
そして、ハイネマン艇長以下の7名が奮闘しているところへ・・・
 「ブォー。」と、汽笛の音が響くのだ。
「おう、やっと着てくれたぞ。」と、タグ・ボートへ手を振るのだ。
 もちろん、タグ・ボートは軍のフネではない。
武装も無いし、船員は軍人ではないのだ。
 ドイツ海軍が雇ってる民間のフネなのだ。
「ハイネマン艇長さんでげすか。」と、タグ・ボートの船長が・・・
 「そうだ、キール軍港の潜水艦桟橋まで頼む。」と、タクシーである。
「これに、サインを。」と、船長が書類を・・・
 書類が無いと、賃金がでないからだ。
民間のタグ・ボートは曳いてナンボなのである。
 「うむ、わかった。」と、艇長がサインだ。
「早くしてくれ、ぐずぐずしてると・・・」と、水平線の彼方を見る。
 水平線には、追跡している英国海軍の潜水艦の艦橋が見え隠れしてるのだ。
「では友綱を、もやい結びで。」「わかってる。」
 船乗りなら、もやい結びは常識なのだ。
やがて、タグ・ボートがポンポンと蒸気をあげて潜水艇を曳きはじめた。
 「ふう、これでオールとも、おさらばだ。」と、肩の力を抜くハイネマン艇長だ。
「おや、やっとタグ・ボートが着たようだぞ。」と、双眼鏡で観ていたマツモト艦長だ。
 「よし、しばらく追跡してから・・・ポーツマス軍港へ帰投するか。」と、アランと話し合うのであった。
まだ、ドイツ帝国と開戦まえの、おだやかな英国の雰囲気であるのだ。

 


 
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