伊号式潜水艦。

ゆみすけ

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まずは、模型から。

縮尺は10分の1で。

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 「ほう、だいぶ完成に近づいたな。」と、仲間の技師が・・・
「うむ、縮尺は10分の1だ。」と、工作者だ。
 「まあ、その方が造りやすいからか。」「そうだ。」
彼らの目前には、半ば完成した潜水艦の模型が鎮座していた。
 もちろん、工作者は図面で職人らへ部品の製作を指示して・・・
その職人らから運ばれた部品を組み立てているだけである。
 それでなければ、いくら優秀な技師だといっても工作はできない。
鋼鉄を溶接して船体を造るなぞ、技師ひとりでは無理なのだ。
 「まだ、蓄電池は積んだないんだな。」
「あ、あ、希硫酸を使うから、さすがに完成してからだよ。」
 「この電線はなんなんだ?」
「あ、あ、操船する信号を送るケーブルだ。」
 「そうか、水中は電波が飛ばないからな。」
当時は無線電信は完成していた。
 日露戦争でバルチック艦隊発見の報は無線電信だ。
「ガソリンエンジンは自動車用なのか。」と、エンジンを見る。
 「うむ、小型の船舶用は無いからな。」と、2気筒のガソリンエンジンだ。
空冷のシリンダーに銅製のパイプが巻いてある。
 「水冷に加工するの大変だったよ。」
「実際はエンジンはどうするんだ。」
 「あ、あ、ジーゼルで出来ないか試行錯誤だ。」と、工作の技師がぼやく。
「それで、この鳥カゴは・・・」
 「それは、乗組員のカゴだ。」
「えっ、まさか鳥を乗せるのか。」
 「うん、空気が汚染されると死ぬから、空気の状態がわかるからな。」
「オレは鳥でなくて、よかったよ。」
 「仕方が無かろう、尊い犠牲鳥だ。」
「で、鳥は?」 「カナリアさ。」(炭鉱で空気が汚染される危険信号として、過去に使われていた。)

 「ところで、どこで実験するんだ。」と、仲間が聞いた。
「うむ、プールなんて無いからな。」と、工作技師だ。
 「川は流れがあるから、ダメだし。」
「海は潮の流れがあるから。」
 「じゃあ、どこだよ。」
「まあ、池だな。」
 「どこの、それなりに水深が無いと。」
「そこなんだよな・・・」
 まあ、池は水深が深くても2メートルがせいぜいだ。
「琵琶湖だな。」
 海軍の工廠から・・・かなり距離が・・・
馬車で、数日かけて運んだのだった。
 なんせ、長さが3メートルで重さが800キロくらいあるからだ。
かの、海軍の零戦も牛車で名古屋から各務ヶ原まで運んだのだ。
 もちろん、試作機の試験飛行でである。
戦前はドイツもそうだが、運搬は馬の馬車が多かったのだ。
 道路もアスフアルト舗装なんて・・・都市部だけなのだ。
地方は凸凹道なのである。
 
 「蓄電池は充電はしてあるな。」 「え、え。」
「うむ、では進水式からはじめようか。」
 「酒は持ってきたな。」 「だれだ、減ってるぞ。」 「・・・・・」
「では、工廠の補佐から・・・」と、司会者モドキが述べる。
 「うおっほん、補佐の草原(クサハラ)だ。」
「この潜水試験艇をイ号と命名する。」
 「パチ、パチ、パチ。」
いろはの文字からだな・・・
 では、ロ号もあるのか。
潜水艦の模型はスルスルと梯子型の坂道をすべり・・・
 琵琶湖へ浮かんだ。
そして、ボートに乗り込んだ模型操縦者とボート漕ぎの技師であった。
 「操縦のケーブルは繋いだな。」「あ、あ。」
「模型からの反応はあるか?」
 操縦装置のランプが点灯する。
「反応あります。」と、操縦者だ。
 「いいか、まずは水上走行だ。」
「では、エンジン始動だ。」
 模型船内でモーターが唸る、しばらくするとガソリンエンジンが始動して排気ガスがでる。
つまり、モータはエンジン始動のスタータと発電機と水中での推進力を兼ねてるのだ。
 まだ、自動車が手動クランクでエンジン始動してた頃だ。
「モーターでエンジン始動は、いいアイデアだな。」と、つぶやく補佐である。
 原理はあるのだが、自動車が高額になるから・・・手動クランクは廃れないだろう・・・
 
 やがて、模型潜水艇は波をかき分けて進みだした。
あわててボートを漕ぐ技師らである。
 あまり、模型船から離れるとケーブルが切れてしまいかねんからだ。
「おお、意外とイケそうだな。」と、操縦者だ。
 「おい、すこし潜航してみろ。」と、魅惑的なお言葉だ。
誰だか知らないが・・・
 「よし、潜るぞ。」と、エンジンを切って、動力をモーターへ・・・
そして、潜舵を潜航へ・・・
 「ベント開くぞ。」と、操縦者がレバーを切り替える。
あぶくを立てながら・・・模型潜航艇は・・・まるで、実物かと思われるように潜航していく。
 「おお、意外とイケそうだな。」と、補佐が微笑んだ。
「いかん、鳥の鳴き声が消えた。」と、操縦者が・・・
 カーボンマイクと増幅装置でカナリヤの鳴き声を聞いていた操縦者が・・・
「いかん、緊急浮上させろっ。」と、補佐が怒鳴る。
 やはり、生き物が心配なのだ・・・誰も、カナリアを殺したくはないのだ。

 
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