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主任技師、戦車に乗る。
乗ったことはあるんだが・・
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「乗ったことはあるんですが。」と技師だ。「でも、それは戦場ではないでしょう。」「そうだが・・」あたりまえだ、技師は戦争へ行かない。 技師が駆り出される時点で負けだ。 「いえ、戦争に参加するのではなくて、実際の戦場を走行しないと。」「おお、そういう意味なのか。」「あたりまえですよ。」「試験走行の場所では不足なのかな。」「満州は原野が多いですからね。」「あまり、隠れるところもありませんし。」「まあ、満州は遊牧民の地ですからね。」 「そうだ、訓練がありますから同乗しては?」「そうだな。」と、答える主任だ。 鹵獲戦車には、技師が同乗することになった。 「おい、早田。」「はい。」「今日の訓練は外してくれ。」「いいんですか。」「あ、あ、替わりに笹野技師が同乗するから。」「わかりました。」「そうだな、隊舎の草刈りでも頼むよ。」「ハァ~。」 早田は装填手だ。 まあ、新兵である。 草刈りは新兵の仕事である。 さて、訓練前の点呼である。 今野隊長が、「今日は笹野主任が訓練へ参加である。」「皆、気合を入れた頼むぞ。」「おう。」と掛け声だ。 もちろん、笹野は隊長車へ乗り込む。 つまり、本日は鹵獲戦車が隊長車である。 これで、2回目だ。 ソ連の戦車といって、普通のデーゼルエンジンだし、日本の戦車と別物というほどの差はないのだ。 運転方法もレバーだし、見ればわかるのだ。 ただ、照準器が使えないだけだ。 目標がしっかり見えない。 レンズの精度が悪いのかプリズムの質が悪いのか・・・ 現在は日本製の光学照準器と取り換えたのだ。 (ソ連は敗戦したドイツからドイツ人技師を連れてくるまで、光学兵器はショボイのだ。) 「戦車、前進。」の掛け声とともに、動き出す戦車隊である。 兵舎の付近は荒野はすくない。 それでも、しばらく行くと原野が広がる。 笹野は、「これが原野ですか。」と、茫然と見る。 「なんも、無いですね。」「え、え、たまに露スケがうろつくだけですよ。」と、笑う今野だ。 笹野は思う、「これは、エンジンは差がないな。」と、確認したのだ。 まあ、同じデーゼルエンジンだ。 しかし、笹野はソ連、いやロシア人のエンジン技術に侮りがたいモノを感じたのだ。 ガソリンでは、欧米に負けても、デーゼルは負けない、との自負があったのだ。 それが、どうだ。 もう、自身の自負なんて吹っ飛んだ笹野主任であった。 戦車もオンナも乗らなければわからんものだ。 そう、実感した体験搭乗であったのだ。 べつに、性能いかんではないのだ。 使えるか、使えないかである。 数値だけでは、わからないのである。 「これは、大量にソ連が戦車を投入してきたら、もたないぞ。」と、実感したのである。 確実に勝てる戦車を造るのが技師の仕事だが。 「数では、勝てるとは思えない。」「結局は国力の差か・・・」と、限界を感じるのであった。
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