日本戦車を改造する。

ゆみすけ

文字の大きさ
上 下
23 / 393
大陸の嵐。

本土とは違う、まるで別世界だ。

しおりを挟む
 「そろそろ、いいか。」と隊長が腕時計を見る。 
「時間、あわせ、いいか。」 「いま、22時前5・4・・・いま・22時だ。」 
この当時の(昭和初期)腕時計はクオーツではない。 電波時計でもない。 そう、機械式である。 
それで、作戦の前には時計合わせが定番だ。 それでも、狂うんだが・・ 
無線セットをつける。 
夜襲にはライトなぞ点灯しない。 
夜襲は奇襲なのだ。 
相手に察知されては夜襲ではない。 
レーダーがない時代の作戦である。 
月は沈んで出ていない。 遠くに稲光と雷音だ。 
「そろそろ、嵐がやってきそうだ。」 「では、乗車だ。」「おう。」 
戦車内は壁が白い色で塗ってある。 機器類の目盛りは夜光塗料で、なんとなくわかる。 
「ガラガガラガラガラ。」と、デーゼルエンジンが始動する。 
「前進。」と隊長の指示が無線ではいる。 
いくら日本兵は夜眼が効いても、せいぜい20メートルがギリだ。 
それも、なんとなくである。 
まもなく、大粒の雨が・・ そして、「ゴロゴロ。」と雷音が・・ 
そして、ドバーと一瞬で嵐の中だ。 息ができないほどである。 
眼が・眼が・そうだ、風防メガネだ。 
あわてて車長らは風防メガネ(ゴーグル)を架ける。 
稲光が戦車を浮きだたせるが、こちらも地形を把握しやすい。 
しかし満州、いや大陸の嵐は日本本土とは別物だ。 やはり、日本の嵐の方が・・・ 
戦車は豪雨で水浸しだが、エンストすることもなかった。 
そこは、兵器だ。 雨で戦車がエンコなんてことはないのだ。 
そこが、日本製なのである。 なるべく雨が砲塔から入んないように気をつかう車長である。 
カンテラの光が見える。 ソ連軍の野営地点だ。 
ということは、まだソ連軍は当方には気が付いて無いのだ。 
テントで雨をしのいでいるようだ。 敵の歩哨は・・ 居るとはおもうが・・・ 
「突撃だ、弾がなくなるまで撃ち尽くせ。」と無線だ。 
もう、砲撃音と雷音と、雨の音だけが聞こえる。 
なんか、叫ぶ声が、あれはロシア語か・・ 
車長は短機関銃の銃弾を振り撒く。 狙いなんてない、ただ、水平射撃である。 
なんせ、味方は近くにはいないのだ。 まわり全部がソ連なのだ。 
稲光で、あたりの雰囲気がわかる。 そして、その方向へ砲撃だ。
 稲光が20から30の間隔であるから、丁度好都合である。
 戦闘型戦車の砲撃は20から30秒の間隔があるからだ。 
それで、稲光で、方向を定めて、「ドウウウンン。」である。 
「前方にソ連戦車だ。」と、隊長だ。 稲光で、即座に狙いを定めた。 
「てっー。」と号令と同時に、「ドウウウン。」と、「あれ、敵は反撃してこないぞ。」 
「まて、動いておらん。」 「あの、戦車に近づけ。」 ソ連戦車の隣へ・・ 
「うむ、これは破棄して逃げ出したんだな。」と、隊長が判断する。 
「終わったら、曳いて帰るぞ。」「ハア。」「燃料が・・」「ソ連戦車の鹵獲は土産になるからな。」本土から着た技師が喜ぶだろう。 
相手の力量がわかるからだ。 ・・・ 
気が付いたら、ソ連兵は逃げて、戦死したヤツしか残っていなかった。 
雷鳴は遠のいていく。 夜襲の終わりと同時に嵐はやんだのだった。 
まるで、神(アマテラス神)の加護でもあるかのようにである。 
そして、夜が明けた。 そこには、破壊された装甲車やトラックの残骸が・・ 
そして、戦車5両が残されていた。 
やがて、偵察戦車がやってきた。 
「さすが、今野少尉。」と賛辞である。 
「いいや、これは神の加護だ。」と、謙遜である。 
「いま、無線で連絡しました。」 「それは、ありがたい、このヤツを、どう運ぼうかと・・」と、5両のソ連戦車を示す。 「大漁ですな。」と、からかう偵察隊である。 
勝いくさは気分がハイになるものだ。 はじめは、相手が戦車5両と装甲車、歩兵まで・・ 
それで、なら夜襲しかない、との結論がでた。 もちろん、失敗の可能性もあるが、天候が味方したようだ。 
「そうだ、ここは満州領とソ連との境目だ。」 「うかうか、してると逆襲されかねん。」 
「では、そこは偵察戦車隊に、おまかせを。」と、偵察戦車が・・
「こちら、本部だ、そちらへ補給隊を向かわせた。」と、指示がくる。 
「よし、ソ連兵の死体を集めるぞ。」 そうだった、腐敗する前にやった方が楽である。 
日本軍は敵兵への礼儀は忘れないのだ。 
かんたんに穴を掘り、埋葬して、カブトや銃を立てておく。 墓標である。 
「おい、こちらは全員が無事だったんか。」 「おまえは、いまごろ気づきやがって。」 
そう、戦車隊は12名全員が生きているのだった。 
そして、ソ連軍は戦死者は150名だった。(その多くは闇夜の同士撃ちだ。) 
ちなみに、ソ連兵の捕虜は無い、ソ連兵は生きてるヤツは全員が嵐の中を逃げたようだ。 
 
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界日本軍と手を組んでアメリカ相手に奇跡の勝利❕

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:218

伊号式潜水艦。

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:47

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:210

大東亜戦争を有利に

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:267

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:493

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:136

天に掲げよ!懸かり乱れの龍旗を!〜もし上杉謙信が天才軍師を得ていたら〜

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:338

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:660pt お気に入り:162

処理中です...