満州国、戦車開発会社

ゆみすけ

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戦車はブルにも使えるんだ。

スコップも武器になる世の中だからな。

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 第一次世界大戦の塹壕戦で、一番使われた武器は何だろう?
その答えは、スコップだ。
 そう、穴を地面に掘る道具のスコップである。
当時の兵器は歩兵銃が主で・・・塹壕では使いずらいモノだった。
 なぜって・・・歩兵銃は銃身が長いからである。(塹壕内で殴り合いだ。)
塹壕は広くはないからね。
 そこで、塹壕を掘る道具であるスコップが活躍することとなったのだ。
スコップで殴れば・・・当たりどこが悪ければ・・・即タヒネだ。
 取っ手もあるし、殴る道具として・・・申し分ないからね。
「おい、急げよ。」「早くしないと、露スケが来るぞ。」
 「いや、なかなか地面が固くて・・・」
「九〇式のドーザならカンタンだろう・・・」
 「いや、言うのはカンタンなんだ。」
理由は、隊員がドーザー使用の訓練をやってなかったからなんだが・・・
 なんせ、取説で武器の使用方法を勉学して・・・行軍中に覚えるくらいだからね・・・
「まあ、いきなりだからな。」
 「しかし、穴を掘らねば・・・勝てないぞ。」
「露スケの新型戦車の実力は、わからんのだからな。」
 危機感を煽る矢田主任である。
「なんせ、八九式にはドーザーなんて無かったからね。」と、隊員らが弁解だ。
 「まあ、九〇式はエンジンが排気タービン付きの18気筒でトルクがあるからな。」
「八九式までは、とても無理だったんだが・・・」
 「このまま、ドーザーを付けたままでも戦えそうですね。」と、軍曹だ。
V型18気筒ターボジーゼルエンジンは1500馬力だ。
 八九式は500馬力だった・・・その3倍のトルクが九〇式はあるのだ!
「しかし、ドーザー装備だと戦闘速度が落ちるからな。」
 「予想では、70キロ巡行が60キロへ・・・」
「速度の10キロ差は大きいぞ。」と、矢田主任が苦言だ。
 「しかし、取り外すには・・・30分はかかりますよ。」
「九〇式の車台が隠れるほど掘らにゃならんし・・・」
 「ヤツらの速度から計算すると、そろそろ姿が見える頃合いだからな。」
「仕方がない、ドーザー装備で待ち伏せだ。」と、軍曹が指示をする。

  その頃、我が宿敵のソ連軍は?
モンモンハンからチチハルへの途中で戦車へ軽油を給油してる最中であった。
 「おい、もたもたするなよ。」と、イワン軍曹が工兵どもを急かせていた。
まあ、ソ連軍の下士官は部下へ文句しか言わないものだ。
 それは、お日様が東から昇ると同様に鉄板なのである。
ソ連軍の中間管理職というものは・・・我が皇国軍より・・・遥かにブラックだったのだ。
 それは、日露戦争当時からのロシア軍の伝統だった。
そして、共産革命でソ連邦になっても・・・同様なのだ。
 なんせ、中身は変わんないからである。
露スケは何万年たっても・・・露スケなのである。
 それで、プーチンチン司令からの厳命と、言うことを聞かない部下の間の軋轢が・・・イワン軍曹へ・・・
それで、なんも落ち度が無い軽油給油の工兵へ当たり散らしているのである。
 まあ、どこの軍隊も同じなのである。
「まだ、黄色い猿が攻めてこないといっても・・・油断するんじゃないぞ。」
 「ヤツら黄色い猿は、どこからくるかわからんからな。」
「卑怯な手で、地面の下から攻めて来るやもしれんぞ。」と、脅すのだ。
 「それにしても、新型T-34は軽油の減りが速いな。」と、苦言だ。
まあ、T-2型よりエンジンの排気量が増えたからだが・・・
 排気量はT-2型の3倍というエンジンだから・・・以前の3倍ほどの給油量になっただけなのだが・・・
T-34のジーゼル・エンジンはドイツ帝国のジーゼル・エンジンのパクリのエンジンだった。
 どうしても、ジーゼル・エンジンの燃料噴射ポンプが、ソ連軍の技師では無理だったのだ。
ジーゼル・エンジンはピストンで空気を圧縮して・・・そこへ軽油をポンプで噴射して引火させる仕組みである。
 つまり、かなりの圧力で軽油の霧を噴射させねばならないのだ。
それで、噴射ポンプが高圧縮に耐えねばならない。
 その、ポンプの精度がソ連の技師では、無理だったのだ。
ミクロン単位の金属加工の工作機械がソ連邦には無いからだ。
 それで、第三国経由でドイツ製の噴射ポンプを手に入れているとか無いとか・・・
現在でも、ジーゼル・エンジンが高額なのは・・・噴射ポンプが高いからである。
 ジーゼル・エンジンの半分ほどかかるらしい。
それほど、機械式の噴射ポンプは微妙なのだ。
 ところが、我が皇国の技師連中は真空管で電子式制御の噴射ポンプをつくってしまったのだ。
エボナイト合成樹脂の基盤の上に・・・繊細な金属加工で真空管の中身をプリントして・・・回路すべてを真空ポンプで空気を抜いて・・・弁当箱大の噴射ポンプ電子装置を完成させたのである。
 この電子技術は戦車の照準装置から超短波無線電話機まで・・・あらゆる兵器へ応用されている。
 最近では、内地のバスやタクシーなどのエンジンの燃料噴射装置へ・・・技術転用されているとか・・・
これは、ウワサなのだが・・・現在の計算機は算盤(そろばん)なのだが・・・計算速度が遅い(人力だから)欠点があるのだ。
 どうしても、戦車の照準装置の弾道計算も・・・遅くなってしまうのだ。
なんせ、機械で算盤を動かしてるからだ。(機械式計算機)
 それが、電子式になれば・・・瞬時に計算ができるのだ。
機械式計算機なら数秒かかるところが、瞬時なのだ。
 さすれば、100発・100中も夢ではない!
「くそっ、まだ出ないんかい。」と、砲手が画面を見ながら・・・苦言だ。
 ソ連軍へ会敵するまでの訓練で砲手が照準の演習を・・・
ところが、画面で狙っても・・・数秒ほど砲撃OKの赤丸が出るのが遅いのだ。
 つまり、機械式計算機の速度が遅いからだ。
敵との砲撃戦では、その数秒が命取りになりかねない・・・
 最悪、電子式照準装置を切れないことはないんだが・・・手動だと、まず命中しないのだ。

 「軍曹殿。」「なんだ。」
「やっと、ドーザーで隠れるほどの穴が掘れましたぞい。」
 「おお、ごくろうだった。」と、敬礼へ答礼する軍曹だ。
「よし、ここで露スケを迎え撃つぞ。」
 彼方を睨む藤川軍曹に、一片の曇りもなかった・・・

 
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