89 / 95
九〇式を取説で読み解く。
日本の兵隊は取説から武器の取り扱いを学ぶのだ。
しおりを挟む
「そうだ。」「行軍中に新型の使い方は理解できてるか?」と、藤川軍曹が確認する。
なんせ、自身も九〇式での実戦は初めてだからだ。
「え、え、暗記するほどではありませんが・・・」
新型戦車の取説は、それなりの分厚さが・・・
「演習で新型を使う暇がなかったからな。」
「いきなり、実戦だ。」「大丈夫かな?」と、不安に思う軍曹なのだ。
「だから、行軍で宿泊する場所で模擬演習してますから。」と、伍長が加えるが・・・
なかなか不安が納まらない藤川君なのだ。
「そうは言っても、いままでの戦車と九〇式は別物だからな。」
「照準器ではなくて、丸いブラウン管の画面で判断するんだぞ。」と、いう軍曹だ。
「でも、敵が煙幕で見えなくても、砲撃ができますよ。」と、砲手がいう。
「えっ。」と、茫然の藤川軍曹だ。
「電波は煙幕は関係ないですから。」と、砲手だ。
「そうだったな。」「取説を、そこまで読みきれてなかったな・・・」
「しかし、敵か味方かの判断まではできないですからね。」
「そこは、無線で相手を確認しないと。」
「しかし、それでは奇襲作戦はできないぞ。」
「そこは、電波式と光学式と併用するしかないな。」
「まあ、八九式と計器盤などは同じだから。」「砲手が電波式照準機に慣れるしかないだろう。」
「敵と会敵するまでには、なんとか熟知するように。」と、砲手へ指示を出す軍曹である。
「軍曹殿。」「ん、どうした?」
「じつは、コーヒー豆が切れそうなんですが・・・」
「なんだって、それはイカンぞ。」と、マジ顔の藤川君だ。
行軍中は、どうしても・・・コーヒー休憩が多くなりがちなのだ。
「しまった、そこまで考えてなかったわい。」と、後悔の軍曹だ。
隊員らの食事などは専門の給食車が附随してるから、問題は無いんだが・・・
給食車にはご飯はあってもコーヒーは無いのだ。
コーヒーは戦闘中でも、戦闘の合間のヒトとしての自我を維持する大切なモノでもあるからだ。
それで、戦車内にコーヒー機器が装備されておりのである。
英国の戦車などには、お茶を淹れる装置があるのだ。(これは、本当なのだ。)
それほど、英国人にとりお茶の時間は大切なのだ。
それと同じで、我が皇軍にとりコーヒーの時間は大切なのである。
我が国の戦車には、豆を挽いてコーヒーをドリップする装置が必ず装備されているのだ。
1杯のコーヒーが戦場では、値千金なのである。
皇軍兵が強いのは、うまい食事も理由だが・・・香りが深いコーヒーが戦車内でも・・・が、大きいのである。
満州国には、欠点があったのだ。
それは、コーヒーの習慣が無かったことだ。
なんせ、女真族という遊牧民だ。
満州国では、コーヒーの栽培は気候的に無理でもあるのだ。
そして、首府の奉天市でも喫茶店は日本軍用が駐屯地にあるだけなのである。
つまり、行軍中では地域で豆は手に入んないのだ。
どうしても、量が多いから内地からのお取り寄せになりかねない。
「どうしよう。」と、落ち込む軍曹だ。
「とりあえず、奉天の駐屯地へ無線でお願いしてみるか?」と、無理を承知でマイクを取る・・・
「こちら、藤川だ。」「駐屯地、聞こえるか?」
「ガー、こちら、ガー。」「なにか、あったか、どうぞ。」
「コーヒー豆が無い、どうぞ。」「・・・・・」
「聞こえるか、どうぞ。」「コーヒーが無いと聞こえたが・・・」
「そうだ、どうぞ。」
「場所は、どこか、どうぞ。」「場所は長春だ。」
「あきつ丸から九七式で空輸するから、そこで待て、どうぞ。」
「すまない、どうぞ。」
「おい、あきつ丸へ無線でコーヒー豆を頼め。」
「えっ、量は?」「そうだな、隊員と整備兵やら入れると・・・」
「焙煎した豆を、そうだな・・・」「50キロでは、足りんかな。」
「ソ連軍は6両らしいから・・・負けることは無いだろう・・・」
「なら、倍は・・・」「うむ、では100キロの焙煎豆を注文してくれ。」
隊員は20名だが・・・整備技師が20名、工兵が20名の合計60名の対ソ連軍部隊なのだ。
戦場では、普段よりコーヒーの消費は増えるから・・・十分すぎるほどで、トントンなのである。
九七式戦闘機の補助席へ焙煎したコーヒー豆の袋を載せる。
さすが、100キロを載せると・・・九七式といえども、あきつ丸は風へ向かって最大戦速で合成風速を造る。
圧搾空気で射出する、飛行甲板用のカタパルトと30ノットの速度の合成風速で重くなった九七式が・・・
やっと、発艦速度を得ることができたのだ。
九七式は、満州の荒れた草原でも離着陸できる固定脚だ。
長春から行軍する前にコーヒー豆を届けることができたのである。
軍隊にとり兵站は重要である。
軍隊では、目立たない職種であるが・・・兵站が欠如すると、ガダルカナルの我が日本軍のごとく、じり貧になるのである。
敵兵と撃ちあって戦死するなら、まだ本望だが・・・兵站が欠乏して餓死するのは、あまりに悲惨なのだ・・・精神力だけでは、戦争には勝てないのである。(竹槍でBー29は墜ちない。)
戦う兵隊には、有り余るほどの兵站が必要なのだ。
新兵器ばかりへ、眼がいってしまいがちになるのだが・・・適材適所の兵站こそが、戦線を維持できる糧(かて)なのである。
1発の銃弾より、1杯のコーヒーなのだ。
なんせ、自身も九〇式での実戦は初めてだからだ。
「え、え、暗記するほどではありませんが・・・」
新型戦車の取説は、それなりの分厚さが・・・
「演習で新型を使う暇がなかったからな。」
「いきなり、実戦だ。」「大丈夫かな?」と、不安に思う軍曹なのだ。
「だから、行軍で宿泊する場所で模擬演習してますから。」と、伍長が加えるが・・・
なかなか不安が納まらない藤川君なのだ。
「そうは言っても、いままでの戦車と九〇式は別物だからな。」
「照準器ではなくて、丸いブラウン管の画面で判断するんだぞ。」と、いう軍曹だ。
「でも、敵が煙幕で見えなくても、砲撃ができますよ。」と、砲手がいう。
「えっ。」と、茫然の藤川軍曹だ。
「電波は煙幕は関係ないですから。」と、砲手だ。
「そうだったな。」「取説を、そこまで読みきれてなかったな・・・」
「しかし、敵か味方かの判断まではできないですからね。」
「そこは、無線で相手を確認しないと。」
「しかし、それでは奇襲作戦はできないぞ。」
「そこは、電波式と光学式と併用するしかないな。」
「まあ、八九式と計器盤などは同じだから。」「砲手が電波式照準機に慣れるしかないだろう。」
「敵と会敵するまでには、なんとか熟知するように。」と、砲手へ指示を出す軍曹である。
「軍曹殿。」「ん、どうした?」
「じつは、コーヒー豆が切れそうなんですが・・・」
「なんだって、それはイカンぞ。」と、マジ顔の藤川君だ。
行軍中は、どうしても・・・コーヒー休憩が多くなりがちなのだ。
「しまった、そこまで考えてなかったわい。」と、後悔の軍曹だ。
隊員らの食事などは専門の給食車が附随してるから、問題は無いんだが・・・
給食車にはご飯はあってもコーヒーは無いのだ。
コーヒーは戦闘中でも、戦闘の合間のヒトとしての自我を維持する大切なモノでもあるからだ。
それで、戦車内にコーヒー機器が装備されておりのである。
英国の戦車などには、お茶を淹れる装置があるのだ。(これは、本当なのだ。)
それほど、英国人にとりお茶の時間は大切なのだ。
それと同じで、我が皇軍にとりコーヒーの時間は大切なのである。
我が国の戦車には、豆を挽いてコーヒーをドリップする装置が必ず装備されているのだ。
1杯のコーヒーが戦場では、値千金なのである。
皇軍兵が強いのは、うまい食事も理由だが・・・香りが深いコーヒーが戦車内でも・・・が、大きいのである。
満州国には、欠点があったのだ。
それは、コーヒーの習慣が無かったことだ。
なんせ、女真族という遊牧民だ。
満州国では、コーヒーの栽培は気候的に無理でもあるのだ。
そして、首府の奉天市でも喫茶店は日本軍用が駐屯地にあるだけなのである。
つまり、行軍中では地域で豆は手に入んないのだ。
どうしても、量が多いから内地からのお取り寄せになりかねない。
「どうしよう。」と、落ち込む軍曹だ。
「とりあえず、奉天の駐屯地へ無線でお願いしてみるか?」と、無理を承知でマイクを取る・・・
「こちら、藤川だ。」「駐屯地、聞こえるか?」
「ガー、こちら、ガー。」「なにか、あったか、どうぞ。」
「コーヒー豆が無い、どうぞ。」「・・・・・」
「聞こえるか、どうぞ。」「コーヒーが無いと聞こえたが・・・」
「そうだ、どうぞ。」
「場所は、どこか、どうぞ。」「場所は長春だ。」
「あきつ丸から九七式で空輸するから、そこで待て、どうぞ。」
「すまない、どうぞ。」
「おい、あきつ丸へ無線でコーヒー豆を頼め。」
「えっ、量は?」「そうだな、隊員と整備兵やら入れると・・・」
「焙煎した豆を、そうだな・・・」「50キロでは、足りんかな。」
「ソ連軍は6両らしいから・・・負けることは無いだろう・・・」
「なら、倍は・・・」「うむ、では100キロの焙煎豆を注文してくれ。」
隊員は20名だが・・・整備技師が20名、工兵が20名の合計60名の対ソ連軍部隊なのだ。
戦場では、普段よりコーヒーの消費は増えるから・・・十分すぎるほどで、トントンなのである。
九七式戦闘機の補助席へ焙煎したコーヒー豆の袋を載せる。
さすが、100キロを載せると・・・九七式といえども、あきつ丸は風へ向かって最大戦速で合成風速を造る。
圧搾空気で射出する、飛行甲板用のカタパルトと30ノットの速度の合成風速で重くなった九七式が・・・
やっと、発艦速度を得ることができたのだ。
九七式は、満州の荒れた草原でも離着陸できる固定脚だ。
長春から行軍する前にコーヒー豆を届けることができたのである。
軍隊にとり兵站は重要である。
軍隊では、目立たない職種であるが・・・兵站が欠如すると、ガダルカナルの我が日本軍のごとく、じり貧になるのである。
敵兵と撃ちあって戦死するなら、まだ本望だが・・・兵站が欠乏して餓死するのは、あまりに悲惨なのだ・・・精神力だけでは、戦争には勝てないのである。(竹槍でBー29は墜ちない。)
戦う兵隊には、有り余るほどの兵站が必要なのだ。
新兵器ばかりへ、眼がいってしまいがちになるのだが・・・適材適所の兵站こそが、戦線を維持できる糧(かて)なのである。
1発の銃弾より、1杯のコーヒーなのだ。
1
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を


クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる