ノラ猫カメラ店

日本のカメラメーカー

ペトリカメラ

　「こんにちは。」　と良太はドアを開けた。　まいどの事ながら、誰もいない。　「こんにちはーっ。」と再度言った。　やっと、じいさんがでてきた。　「やあ、いらっしゃい。」　じいさんは、手にカメラを持っていた。　良太が、「見たことない、カメラですね。」　とお愛想をいう。　「まあ、とうの昔にカメラを作るのをやめた会社だからね。」　「なんていう、会社ですか。」　「ペトリカメラだよ。」　「ヘー、しんない。」　「そうだろうな、でも日本で２番目に古いカメラの会社だよ。」　「ヘー。」　「戦争前の明治の末期からだよ。」　「一番ふるいのは、コニカで、古くは江戸の末期に現像の薬品を取り扱いの小西六商店からだよ。」　「ペトリは最初は栗林写真機とかいっていたが、戦後カメラを輸出するのに、キリストの弟子の聖ペテロから名をつけたんだよ。」　「ファインダーが緑色で、変わってますね。」　「まあ、距離計を見やすく色わけのために緑色なんだよ。」　「わしが、若いときはカメラの値段が高くて、普通の家でもカメラを買うのに月賦といって、ローンを組んでやっと買えたんだ。」　「いくらくらい？」　「１万円から２万くらいか、それでも１月の給料が１万もないころだから、このカメラは安いんだが、現在の貨幣価値で、２０万以上かな。」　「とても、僕では買えないや。」　「それでも、このペトリは安いほうだったんだ。」　「それが、安かろう、悪かろうとのイメージで、とうとうカメラは、やめてしまったんだがね。」　「それに、あと、もろもろの原因もあったから。」　「いま、思うと惜しい会社だったと思うよ。」　「今は、どうしてるの。」　「あ、あ、双眼鏡などの下請けをやってるらしい。」　「日本で一番古いカメラ会社のコニカも、ミノルタと合併したが、今は、潰れてないね。」　「どうして。」　「デジカメがスマフォについてるからだよ。」　「以前なら、首からカメラを下げている日本人は定番だったが。」　「うん、そう？」　「今は、スマフォを構えるヤツばっかだから。」　「あ、それわかる。」　「でも、わしは、思うんだ、スマフォというカマボコ板で写真は撮れない。」　「やはり、カメラのファインダーから観た世界は違うのだ。」　「なんか、オタクな話だね。」　「まあ、わしは、日本最初のキモオタだと自負してるからね。」　そうか、ノラ猫屋はキモオタだったのか。　なぜか、納得の良太だった。