満州国馬賊討伐飛行隊

守りきった。

老兵の・・・

　「あ、獲物が逃げやすぜ。」　「しまった、ヤツと撃ちあってるから・・・。」　寺門の下の道路に居るバスまで、逃げきった生娘らだ。　バスは、教師や案内婆、警備兵を置きざりにして・・・だ。　騒ぎを聞きつけて、寺の僧らが、杓杖をもって馬賊らに、「ヤバイ、逃げるぞ、もう娘はイネー。」　寺の坊さんの武器は杓杖だ。　長い堅い木の棒だ。　それに、金具に金属の輪廻だ。　それで、ドズかれれば即死だ。　あの世に行けるが、行きたくない馬賊らは逃げに逃げた。　女教師はサンパチ式を抱えたまま死んでいる老兵の眼を閉じてやった。　案内婆は腰を抜かして泡を吹いている。　「いそいで、手当てを。」と僧らが近づく。　女教師は顔を横に振る。　まあ、見ればわかるんだが。　「さぞや無念であろうに・・・。」　と僧侶が手を合わせる。　女教師は、満足して老兵が死んだことを知っていた。　生徒を馬賊の誘拐から防いだ、それが役目だ。　役目は果たした、なら思い残すことは無い。　老兵の死に場所として本人は文句ないであろう。　人間いつかは、死ぬのだ。　そのとき満足して死にたいものである。　馬賊どもは散りじりに逃げて、三人の馬賊の死骸が残った。　イクレイ寺の無縁墓地に葬ることとした。　まず、引き取りにこないからだ。　官憲の検分など一通りの手続きが終わり、寺と学校は普段の生活にもどる。　　ここは、討伐隊だ。　「例の事件は散々だったな。」　「あ、あ、笠田さんが、殉職したからな。」　「でも、満足でしょうに。」　「オレも、娘らを守って死にたい。」　「漢（オトコ）の死に場所としては文句ないからな。」　軍人は戦場で死ねるは本分だ。　それで、歴史に名を刻むのである。　満州国閣議で、警備員が少ないのでは、と問題が出る。　「しかし、警備兵は日本の退役軍人のボランテァだ。」　「無理はいえん。」　「しかし、現に犠牲が。」　「それで、後任は。」　「すでに、次の日に着任したそうだ。」　「え、なんとも、ありがたいが。」　それで、閣議の議題は持ち越しとなる。　どこも同じである。　新たな警備の老兵が着任した。　娘らが、校庭で並んで出迎えた。　もう、キャッ、キャッと騒ぎまくるが、まあ並んで、「兵隊さん、ありがとう。」　と合唱だ。　応募したが希望が多くて抽選で当てた警備の部署だ。　可憐で、清楚な満州娘らのキャアキャアを観てるだけで、感無量だ。　前任は馬賊との銃撃戦で殉職したと聞く、うらやましいわ。　オレも馬賊どもを銃撃して死にたい。　内心、そう思う新任の川上退役兵曹だった。