鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第31話 人と人

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「ぷはぁ~、それじゃ早速自己紹介するよ~? お姉さんの名前はヘレナ! 剣士だよ! …じゃあ次は~こっち回りから!」

酒を煽りつつ、女性はそう言って頭にバンダナを巻いた無精髭の男を指差す。

「お。俺からか。えー…ランドだ、戦士をやってる。一応このパーティのリーダーでもある。よろしくな」

次にその隣に座る、長髪を後ろで結んだ糸目の男が口を開く。

「ボクはロンって言います、弓術士をやってるよ。よろしくね」

続いて向かいに座る、白いローブの女性がおどおどとした様子で話す。

「わ、私はフーリと言います…あ!僧侶です、よろしくお願いします…」

状況が飲み込めないまま紹介が始まり、取り敢えずこちらも紹介を返しておく。

「…ロイ、ト言イマス。…ヨロシクオ願イシマス」

「うんうん、ロイ君だね? いや~ちょっと前からお姉さん、君のこと気になってて…あ!給仕さーん、お酒おかわり~!」

言い終えぬまま女性は、ジョッキ片手に席を離れていった。

「全く…悪いな、ウチの酔っ払いが無理言って連れてきたみたいで」

 「…イエ、丁度暇シテイタノデ」

「そうか? ならこれも何かの縁ってことで、一杯付き合っていけよ、新入り」

「…自分ハ遠慮…」

身体のことがバレる訳にはいかないため、断ろうとしたその時。

「おっまたせー! はい、ロイ君の分!」

タイミングの悪いことに、女性剣士…ヘレナが2人分のジョッキを持って戻ってきた。

「ヘレナさん…飲み過ぎですよぉ…」

「なぁ~にこれくらい、まだまだ酔ってないわよぉ!」

赤い顔で素面をアピールするヘレナだが、その足元は既に定まっていなかった。

おぼつかない足取りで自分の席へ戻った彼女はジョッキを掲げ、音頭をとる。

「よぉ~し! 皆準備はいい?…それじゃ、カンパーイ!」

4人とジョッキを合わせると、周りの机からも便乗したように、ワイワイと乾杯の音頭が聞こえる。

( 困ったな…流石に飲まないと怪しまれるか…? …そうだ! を使えば… )

ジョッキを口元へ運び、傾けながら技能スキル 収納インベントリをこっそりと発動させる。

目論見は成功し、何とかをすることが出来た。

しかし、ヘレナがすぐさま声を掛けてくる。

「スゴイねロイ君!? 今、どうやって飲んだの!?  兜したまま!」

飲んだフリが見透かされたのかと一瞬焦ったが、常識を考えればそもそも、兜をしたまま飲める筈が無かった。

「…ロイ、どうなってんだ?その兜?」

「穴が空いてる訳じゃあ…無いみたいだね?」

「不思議ですぅ…?」

男女4人にじっと見つめられ、何とか言い訳を考える。

「……特殊ナ魔法ノ兜、ナンデス」

( …流石にこれは苦しいか…? )

「そうなんだ? もしかして…遺物レリックだったりするの?」

 ヘレナの眼が鋭く光る。

「ハハハ、馬鹿言えヘレナ、仮にも遺物がそんな面白機能の付いた兜な訳あるか」

「そうですよぉ、そもそも遺物の兜なんて身に着けたら頭おかしくなっちゃうんですよ!」

「まーた、フーリの遺物嫌いが始まりましたか」

そのまま別の話題に移って談笑を始める4人。

( 何とか追求は免れたみたいだけど…遺物の話題は今後避けた方が良いかも知れんな… )

先程ヘレナが遺物の話題を口にしてから、食堂の何名かがずっとこちらをチラチラと見ている。

まかり間違って俺の兜が狙われても困るので、トラブルを避けるためにも話題にしない方が無難だろう。

「あ! そうそう、ロイ君に聞きたいことがあったんだ~」

談笑の最中、思い出したようにそう言い出すヘレナ。

「…何デショウ?」

「君が一緒に組んでる、シーラっちのことだよ~」
 
「あ、それ私も気になってました…! 一体お2人はどういう関係なんですか!?」

これまで奥手な感じだった僧侶…フーリが、鼻息荒くここ一番の食いつきを見せる。

「…タダノ、先輩ト後輩、デスネ」

「えぇー!?それだけですかぁ?」

残念そうな顔で、フーリはがっくり肩を落とす。

それだけも何も、浮ついた話を俺に期待していたのならお門違いだ。

いくらシーラが俺の事情を知っているからと言って、この身体で人と恋なんかが出来るとは到底思えない。

先に言ったように、俺はあくまで仲間の冒険者という立ち位置でしかないのだ。

「…でも、この前の食堂での一件は凄かったです!まるで物語の中の騎士様みたいでした!」

「俺たち2人はその場に居なくて見れなかったんだが…新入りにしちゃ大したもんだぜ、ロイ」

「聞いた話だと、なんでもあのグドーをまるで相手にせずに彼女を救い出したとか。 冒険者の間じゃちょっとした話題でしたよ」

4人が言っているのは、先日揉め事からシーラを庇った時の話だろう。

自分としては大したことをしたつもりでも無いのだが、随分と過大な評価をされているようだ。

少々、気恥ずかしい。

「…まあ、それはそれとしてここから本題に入るね、ロイ君」

先程まであっけらかんとしていた筈のヘレナが、いつの間にか真剣な表情を見せる。

「…ロイ君は、人神教って知ってる?」

ヘレナがその話題を口にしたことで、後の3人の表情も目に見えて変わった。

知らないことを告げると、彼女は続ける。

「人神教の源理は、人間主義。 自分達「ヒト」こそが神に選ばれた種であるとして、その他の種族を全て「亜人」と呼んで迫害を行っている連中よ…」

「この街にも、人神教の人間は少なからずいる。もしかすると、ギルド内にも…。 」

「ロイ君がそんな連中と一緒だとは思わない。けど…たった1人のパーティとして、どんな時でも君だけはあの子の味方でいてあげて欲しいの」

…街に来てからいままで、そんな風潮は感じられなかったが、実際にそんな差別があるのなら答えは決まっていた。

「…勿論…!」

「…あの子のパーティの相手が、ロイ君で良かったよ」

ヘレナがそのままグイっと酒を煽ると、ジョッキを置いた頃には先程までの真剣な表情は消え失せていた。

「はあぁ~、真面目な話したから酔いが冷めちゃったな~お酒おかわり~」

「おいおい、まだ飲む気か?」

「そろそろ辞めにしとかないと、明日の依頼に響きますよ」

「えぇ~あと1杯だけだから~」

そんな中、ふと視界の端に、手を振る人影が入り込む。

( ? …あれは…カリーナさん? )

どうやら、自分を呼んでいるようだ。

「…スミマセン、用ガ出来タノデ、コノ辺デ」

「そっか~またお話しようね~。あ、その一杯はお姉さんの奢りだから気にしないで良いよ~」

「…ドウモ、ゴ馳走様デシタ。デハマタ」

4人に見送られて、食堂を後にする。

「…オ待タセシマシタ」

「いいえ、大丈夫ですよ。ごめんなさいね、お話中に」

「イエ、大丈夫デス。ソレヨリ…モウ、済ンダノデスカ?」

「ふふふ…それがね? あの後2人ったら、また喧嘩になっちゃって」

「………」

「でも、お互いに言いたい事を言えたのか、前よりもスッキリした顔をしてたわ。…ありがとうね、2人のこと気に掛けてくれたみたいで」

「…イエ、ソンナ…」

「謙遜しないの。貴方はを想える、優しいよ」

そんなカリーナさんの言葉が、胸に沁みる。

「…アリガトウ、ゴザイマス…」

「…そうそう、シーラが今日はこのままギルドに泊まるから、先に帰っててって言ってたわ。大分喧嘩で疲れちゃったみたいね」

「…彼女ラシイデスネ、了解デス」

カリーナさんと別れ、ギルドを出て宿へ向かった。
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